※『地域づくり 2016.8月号』に寄稿した記事を編集して掲載しています。
昨今「地域」をめぐる動きが活発です。各地にいる“ゆるキャラ”、B級グルメ、はたまたふるさと納税、地域でのビジネスプランコンテスト、地域おこし協力隊制度など、様々な角度から取り組みが行われています。
そんななか、都市部から地域への移住の流れをつくり、地域でのプレーヤー増加に貢献するために日々東京で奮闘しているのが、私たちETIC.ローカルイノベーション事業部です。
今回は私たちの取り組みのなかでも、「地域イノベーター留学」についてお話しできれば、と思います。
※前回の記事はコチラ
「地域は面白い」と知ってもらいたい
東京など都市部では、
「将来地元に帰って地域を盛り上げたいと思っているが、なかなか仕事がないので帰れない」
「親から『せっかく入った大企業なのだから、地元に帰ってきても仕事がないから辞めるなんてもったいない』と言われる」
という声をたくさん聞きます。
わたしたちETIC.が見てきた地域の様子はあまり伝わっておらず、東京から地域に転職して働くということは、未知なことだと考えている方が多いのだと感じました。「両親の後を継ぐために」という人はいても、キャリアアップや自分のやりたいことを実現するために“あえて”地域に転職する、という人は少ないのです。
そこで、「地域は面白い」ということを、まずは働きながら知ってもらえるようなプログラムを運営し始めたのが、「地域イノベーター留学」です。
移住前に、地域の課題解決スキルを身につける
「地域イノベーター留学」とは、”3年以内に地元や、ゆかりのある地域へのUIターンを考えている社会人を対象に、フィールドワークや研修を数回組み合わせて行う、4カ月間の短期実践プログラム”です。初回のフィールドワークで地域に訪れ、地域での仕事づくりやキャリアについて相談ができるコーディネーターの案内のもと、その地域の魅力や現状の課題を体感してきます。
そのあと東京で研修を行い、地域の課題はどのようなアプローチで解決できそうか仮説を立て、2回目のフィールドワークでその仮説を検証しに行きます。実際にミニイベントを行って地域の方の声を聴いたり、キーパーソンとじっくり語り合ったり。その結果をまた東京の研修でまとめ、最後に修了報告会で発表する、というのが一連の流れです。
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現地でのフィールドワークにて、まちを歩いて雰囲気をつかむ参加者
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東京での研修の様子
プログラム修了者の15%がUIターン
プログラム実施5年目から、フィールドワークで訪問する地域の企業からお題をもらい、そのお題解決のためのプランを考える、という内容にしてからは、参加者と地域の企業との接点も強くなりました。参加者からは、下記のような声を聞きます。
「今まで知ることのなかった地域を好きになり、会社とは違う場で自己表現することができた。」
「メンバーと仲良くできた。」
「地域に入り込んで、地域との人と一緒になってひとつのことに取り組めた。」
「自分のもっと強化したい点ややっていきたいこと、地域とのかかわり方について、実践したからこそ明確になった。」
「地域で生活している人の様子を客観的に見て、自分の移住について考えるヒントになった。」
「地域について課題を持っている、関心を持っている人たちがこれほど多いのかという印象を持った。」
「地域に入っていくには、なかなかハードルが高いところがあるが、プログラムを通じて、その地域のキーパーソンと会え、話ができ、関係ができたことは非常に有意義だった。」
このように、プログラムを通じて、地域で仕事をはじめるきっかけや、地域でのキャリアのサポートをするメンターや仲間づくりができ、その結果プログラム修了者の15%がUIターンを行うまでになりました。
この数字に至った背景は、社会的背景も大きいと感じています。例えば、2011年に起きた東日本大震災の影響があります。それ以前に漠然と「地域に移住して仕事をしたい」「地元に帰りたい」と思っていた人たちにとっては、震災は「あなたは、どこで暮らし、どんな仕事をしたいの?」ということを突きつけたのだと思います。
余談ですが、2012年からは、参加者の定員を上回る応募があり、移住のきっかけとなるプログラムが必要とされていることを肌で感じました。
移住するには、”想いを温めるコミュニティ”が大事
また、「地域で働きたい」という想いを仲間と共有できるということも、プログラムをきっかけにUIターンする参加者が多い要因になっています。交流会などの席で参加者の話を聞いていると、「会社で働いている時は、地域で働きたいという話をまわりとすることもないし、そう考えているのは自分だけだと思っていた」という声が意外と多く、驚きました。
一方地域イノベーター留学では、プログラム期間中の週末にメンバー同士で集まったり、夜な夜なスカイプをつないで、そのとき自分が思っている地域についての想いや考えを共有して、ディスカッションしたり。さらには合宿のような雰囲気のフィールドワークで、普通に旅行するだけではおそらく会わないであろう人たちと、濃密なコミュニケーションをとったり。そうしているうちに、少しずつコミュニティが生まれるのです。
そして、同じプログラムに参加したメンバーと年度もまたいで交流していくなかで、移住する人がひとり、ふたりと出てくる。おそらく、移住に踏み出すには、自分の想いをじっくり温められるつながり、時間が大事なのだと思います。その意味で地域イノベーター留学の参加者は、日々の生活の中で少しずつ地域や移住について思いを巡らせている時間が増え、それぞれのタイミングで行動に移していることを感じます。
移住後のキャリアはさまざま
修了後、地域にUIターンした参加者は、
①地域の企業に転職する
②フリーランスとして事業を小さくスタートさせる
③地域おこし協力隊を活用して地域に移り住む
というパターンで地域に移っています。
地域イノベーター留学OBのひとりは、東日本大震災を機に地域づくりに関心を持ち、プログラムに参加。フィールドワークでは三重県尾鷲市に訪問し、尾鷲のまちのことをどんどん知っていくようになります。プログラム修了後も、尾鷲のコーディネーターと連絡を取り合い、キャリアのことも相談する仲に。あるとき東京の仕事をやめようかと相談したところ、地域おこし協力隊での募集を教えてもらい、移住へとつながりました。
彼は尾鷲市のなかでも人口150人の小さな漁師町に住み、地域づくりに携わることに。「町を残していくためには、漁師はもちろん、若い人たちに定住してもらいたい。そのためには子育てをしながらでも女性が働けるような場が必要」という、地元で長らく地域づくり活動を行ってきた方の意見に共感し、会社を設立。現在は魚の会員制通信販売と、移動販売を行っています。
(つづく)
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