人口減少に伴って、国内で増え続ける空き家。野村総合研究所の調査では、2033年には国内のすべての住宅のうち30.2%が空き家になると試算されています。(参考:「2030年の既存住宅流通量は34万戸に増加」 野村総合研究所」)
しかし今全国で、空き家のような遊休不動産を有効活用した事業が生まれてきてもいるのです。
ETIC.は日経ビジネススクールと共同で、「ローカルベンチャーラボ開校記念 事業構想オープンセミナー第1講 不動産活用・エリアブランディング」を2月17日(金)に開催しました。
ゲストは、90年代当時閑散としていた原宿キャットストリートに、カフェブームの先駆けとなる「WIRED CAFE」をオープンし、東急電鉄沿線の街づくりや赤坂アークヒルズの活性化に携わるなど、カフェを通したエリアブランディングの第一線で活躍している入川秀人さん。
さらに、株式会社まちづクリエイティブ代表取締役として、千葉県松戸駅前の極小エリアをクリエイティブな自治区にする「MAD Cityプロジェクト」に取り組む寺井元一さんをナビゲーターにお招きし、空き家が増え続ける今求められている「不動産活用・エリアブランディング」のポイントや、その可能性を伺いました。
今回は、見過ごされがちな「廃墟」の可能性など、イベントで語られた内容の一部をご紹介します。
ブランディングの重要性
寺井:僕はまちづくりで重要になってきているのは、クリエイティブな人を呼び込むブランディングだと思っています。
高度経済成長期には、まちづくりは何をしたらいいのかが明確でした。しかし現在では当時の成功体験が通用しなくなり、イノベーションが必要になっています。でも、アートイベントをやればイノベーティブなのかといえば、そうではない。他の地域と差別化できないですから。だから、他地域と差別化した新しいことができるクリエイティブな人を、いかに地域に集めるかが重要になっているのです。
僕が取り組んでいる「MAD Cityプロジェクト」では、松戸市の面積の1%ほどの区域にある空き家や廃墟を、仲介なしで借り上げています。なぜなら、僕らが「誰が住むか」に関わりたいから。4年で延べ220人くらい、クリエイティブクラスが移ってきていて、住むだけでなくまちづくりのパートナーとなり、新しい取り組みを仕掛けています。
こうしたまちづくりの取り組みを始めるときには、先行事例に学ぶことが重要です。その意味で、今日はカフェを通じたエリアブランディングに数多く取り組んできた入川さんに、これまでの取り組みを伺えればと思います。
入川:はい。僕はカフェを、地域の活性化に大きく寄与している存在だと思っています。そもそも、19世紀のパリのカフェは、「ドゥマゴ」や「ラロトンド」、「カフェ・ゲルボア」など、コーヒーを飲むだけの場所でなく、文化発信の場所でした。
現代でもカフェは、誰もが気軽にコミュニティにアクセスできる場所になる可能性を秘めています。人と人がつながるハブになったり、自分らしさを取り戻せるサードプレイスになったり、スクールや朝市、地域清掃などといった地域の取り組みの拠点になったり。カフェは、地域の課題を解決するための場所になっているのです。
立地×ターゲット=機能
入川:僕がエリアマネジメントに関わるときにポイントにしているのが、「立地×ターゲット=機能」という方程式です。その地域の特性を知り、その地域にいるターゲットを知れば、その地域に求められている機能が導き出されるということです。
たとえば、僕がエリアマネジメントに携わったキャットストリート。1998年当時は、1日5人の通行量と、人通りのない遊歩道でした。僕はこの道を歩いてみて、可能性があると感じた。キャットストリートは立地上、生活動線と商業動線が交わらないため、住宅と商業が共存した開発が可能だったのです。しかも、キャットストリートは別々の商圏だった渋谷と原宿をつなぐ位置にありました。
さらに、その界隈にはアパレルのデザイナーやアーティストが集まっていた。だから、そうした人たちをサポートする場として、もともとゴミ置場だった場所に「WIRED CAFE」をオープンし、発表の場として提供しました。2階をアパレルショップに、1階の店内にはアパレルブランドのポスターを掲示したりして、情報発信の拠点となる機能を持たせたのです。
あと、地域をオープンイノベーションの拠点にする「殿町国際戦略拠点 キングスカイフロント」を進行中の川崎市殿町で、多摩川沿いにリバーサイドアクティビティの拠点となるホテルを建てるプロジェクトなどに関わっています。
東京の大田区から橋を渡って川崎に入ると、家賃が3分2くらいになります。さらに、自然豊かな河川敷もあって、お金をかけずに遊ぶことができる。この地域は、住む場所、遊ぶ場所、働く場所を近くに持てるというポテンシャルがあるのです。僕はこの地域を、リバーサイドアクティビティの拠点をつくるなどして、年収200万円でも豊かな生活を送ることができる街にしようとしています。
また赤坂では、1986年に開業したアークヒルズを活性化するカフェを2009年にオープンさせました。アークヒルズは、立地としては六本木と赤坂の接点にあり、当時から所得が高く、豊かな見識と文化経験を持つ人たちが住んでいました。一方、アークヒルズの飲食店はそういった人々のニーズ満せてなかった。そこで、「カルチャーオブリビング」というコンセプトを打ち出し、ターゲットのニーズを踏まえた「アークヒルズカフェ」をオープンしました。それがターゲットに受け入れられ、マルシェの開催や、フードコート、成城石井のオープンにつながり、結果的に地域に賑わいが生まれました。
これらの事例がそうであるように、どの地域にしてもエリアブランディングをするときに、僕は「立地×ターゲット=機能」という方程式に当てはめて考えているのです。
“見て、調べる”がクリエイティブにつながる
寺井:入川さんの取り組みは派手に見えるけれど、泥臭いこともしています。たとえばキャトストリートが生活動線と商業動線が交わらないということは、ほとんどの人が気付かなかった。それに入川さんが気付くことができたのは、地域を歩いてつぶさに観察したことが背景にあったのではないでしょうか。
入川:ええ、会社員の時に徹底的に叩き込まれた観察眼が活きたのだと思います。僕はもともとダイエーで新規出店業務に携わっていたのですが、当時「まちを歩いて、観察する」ことを少なくとも5年以上、徹底的にやりました。すると、観察眼が身に付いてくる。
たとえば、スーパーのお客さんが何を履いているかで、商圏がわかります。サンダルを履いている方が多ければ商圏は小さいとか。あとは店内に並べられたキュウリのパックに、キュウリが何本入っているかで家族構成がわかったり、道を走っている車の種類で地域の所得層がわかったり。とにかく“見て、調べる”んです。それをやらないと、地域の課題は見えてこない。
寺井:実際にまちを歩いてみることで、「身体性を持った気づき」があるんですね。そういう観察眼を持った人が昔はたくさんいたと思いますが、今はビッグデータが話題になるなかで、相対的に注目されることが減ったように思います。ただ、データではわからない部分もある。アナログでしか見られない部分に、クリエイティブな取り組みにつながる可能性がたくさんあるのではないかと思っています。
廃墟って最高だぜ
入川:僕は今、廃墟に注目しています。廃墟はかっこいいんです。ヨーロッパでは、廃墟が有効活用されている。日本でも今後廃墟がどんどん出てくるなかで、有効に活かすことができるんじゃないかと。
寺井:もともと僕のベースにあったのも、「廃墟はかっこいい」ということです。ヨーロッパでは、廃墟を不法占拠して市民がアートをやっていたりします。日本だとすぐ行政に排除されてしまいそうですが、ヨーロッパではそれを行政が後追いで追認して、廃墟がアートセンターになっているような事例もあります。
日本でこうしたことが起こらないのは、根本的に「一人ひとりが弱い存在である」という公平性の概念を、地域が持っているからではないでしょうか。本当は、一人ひとりの個人はすごく力を持っている。だから、個人の力を積み上げていって、行政はそれを後追いするのでいい。今後日本も、一人ひとりがやることを自治体が追いかけ、それを国が追いかけ、という風になっていくのではないかと思っています。だから僕は今、地域でクリエイティブなことを仕掛ける「共犯者」を集め、新しい事業を作っていくということをやっているのです。
そう考えると、「新しいことを仕掛けることができる可能性を秘めた廃墟って、最高だぜ!」と思う。海外のデベロッパーはスラム街のようなエリアでこそまちづくりに取り組み、開発に挑戦しているのに、日本ではそういう事例はまだまだ少ないんです。だから、日本で不動産ビジネスをやろうと思ったら、不動産屋に行くのではなく廃墟に足を運んでみるのがいいですよ。
今日の入川さんのお話からもわかるとおり、不動産活用・エリアブランディングを始めるときには実際に現場に足を運んで、観察することがとても大事。5月に開講する「ローカルベンチャーラボ」のテーマラボ「不動産活用・エリアブランディング」では、実際に入川さんがエリアブランディングに関わる川崎などでもフィールドワークを行います。どのような視点で地域を観察し、課題やニーズを見つけるのかを学ぶ貴重な機会になるので、これからこの分野に関わりたいと思う方はぜひ参加して欲しいですね。
お知らせ
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