震災から10年。NPO法人ETIC.(エティック)と、ジャパン・ソサエティー(NY)は、震災直後から東北の復興を担うリーダー支援を行ってきました。
今回は、ジャパン・ソサエティーの震災支援基金および同基金の助成を受けたETIC.の「右腕プログラム」の支援先の中から、節目となるタイミングだからこそ知っていただきたい、東北復興の担い手10人を取材しました。彼らが語る被災地の「今」と「これから」を、リレー形式でお伝えします。文末の映像も合わせてご覧ください。
これからの10年は、ハード面の復興から人づくりへとシフト
認定NPO法人カタリバ 菅野祐太さん
岩手県大槌町で活動。中高生の学習指導と心のケアを行う、 被災地の放課後学校「コラボ・スクール」大槌臨学舎の責任者。現在は、コラボ・スクールの継続的な活動のほか、大槌町教育専門官として高校の教育をサポートしている。
菅野さん:多くの人が「この町をなんとかしなきゃ」と感じるきっかけとなったのが、やはり震災だったのではないでしょうか。これからのまちづくりを考えたとき、建物が元に戻ること以上に、そこにどんな人がいるかが大切だと思います。ハード面から教育や人づくりへとシフトしていくのが、被災から10年経った今というタイミングではないかと感じています。
一度はゼロ店舗となった商店街から、新しい人の動きが生まれている
株式会社パソナ東北創生 代表取締役社長 戸塚絵梨子さん
岩手県釜石市で活動。2012年に休職し、ETIC.の「右腕プログラム」を通じて、一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校に参画。2013年にパソナに復職後、継続した地域との関わり方を模索するなかで社内起業制度を活用し、2015年にパソナ東北創生を岩手県釜石市に設立。現在は、地域資源を軸としたなりわいの創出支援や、釜石大観音仲見世通りの復興に尽力。
戸塚さん:仲見世通りは、一度ゼロ店舗になってしまった商店街なんです。その状態から人を呼び込んで、今はカフェやゲストハウス、コワーキングスペースができました。Iターン者だけでなく、被災当時は小中学生だった子が釜石に戻ってきて、プレイヤーとして活躍するということも起きています。インターン生だった大学生が釜石で就職して、新しい事業を立ち上げて、地元の雇用を増やすというような動きも生まれていますし、この10年で培ってきた繋がりや経験を活かして、もっとインパクトを大きくしていきたいと思っています。
人や自然と出会える場をじっくりと育みたい
箱根山テラス 溝渕康三郎さん
岩手県陸前高田市で活動。ETIC.の「右腕プログラム」を通じて、株式会社長谷川建設でエネルギーの地産地消・地域経済循環を目指す木質バイオマス普及事業に参画。現在は、「木と人をいかす」をテーマとした宿泊・滞在施設「箱根山テラス」スタッフとしてコミュニティづくりに尽力。
溝渕さん:箱根山テラスに出会って、自然の魅力や、人と出会う場所の大切さに改めて気付きました。この場所が自然に触れられるスポットとして盛り上がっていくよう、自分自身が感じたことを大切にしながら、長い時間をかけてやっていきたいと思っています。
1人じゃない。楽しく過ごせる居場所を地域に
NPO法人りくカフェ 吉田和子さん
岩手県陸前高田市で活動。アメリカ・ニューヨークの日米交流団体ジャパン・ソサエティーの震災支援基金(以下、JERF)より建設費用の一部を支援してもらい、「りくカフェ」を立ち上げる。まちのリビンクを目指すコミュニティカフェとして、健康づくり・コミュニティ支援・文化活動を推進。
吉田さん:厨房やもう少し広いスペースがあれば、もっといろいろなことができそうだね、ということでりくカフェを作りました。ここに来てもらえれば、1人だとなかなかできない運動やおしゃべりもできるので、元々のコミュニティが広がってきているように感じます。楽しく過ごせる人が増えたんじゃないでしょうか。
「循環する暮らし」の体験。自然の循環だけでなく、地域の人の循環も生まれている
公益社団法人MORIUMIUS 代表理事 立花貴さん
宮城県石巻市雄勝町で活動。被災地のこどもたちを対象としたアフタースクール等の教育支援活動を、開始当初からJERFがサポート。現在は、子ども達がたくましく生きる力を育むため、持続可能性・地域性・多様性をテーマに、「循環する暮らし」の体験できるMORIUMIUS(モリウミアス 森と海と明日へ。)を運営。
立花さん:こども達がより海に親しみ、森と海のつながりを漁師との交流から体感する、漁業体験施設の設立にもご支援をいただきました。当時アフタースクールで学んだこども達は、無事高校に進学することができました。卒業後、雄勝町に戻り、MORIUMIUSで働き始めた若者もいます。
地元のこども達だけでなく、首都圏や海外からもこども達を受入れて「循環する暮らし」を体験できるプログラムを提供してきました。しかし、2020年はコロナ禍の影響で、これまで積み上げてきたものが一度リセットされた感じです。それでも歩みを止めず、自分達が今できることをチャレンジし続けていきたいと考えています。次の10年も進化し続けていきたいと思っています。
たくさんのリーダー達が新たなまちづくりに取り組む石巻
一般社団法人イシノマキ・ファーム 代表理事 高橋由佳さん
宮城県石巻市北上町で活動。農業を通じて多様な人々の「はたらく」「くらす」をサポートしている。農業やクラフトビールづくりを通じた共生と雇用の創出、ファームステイを通した農業の担い手育成等に取り組む。
高橋さん:石巻は甚大な被害を受けた地域の1つですが、多くのボランティアの方々が移住して活動を展開しているところがこの地域の特徴かなと思っています。例えば蛤浜で「はまぐり堂」という古民家カフェを運営している亀山さんや、宅食サービスや有料老人ホームを運営している「愛さんさんビレッジ」の小尾さん……。
一緒にディスカッションしたり、何か連携できることがないかと集まる場を作ったり、そういったことを一緒にできるリーダー達が石巻には大勢います。移住者や若い方々を受け入れながら、一緒に新しい町を作っていこうという雰囲気があって、すごくおもしろい町だなと感じています。
データ化することで、課題解決の道筋が見える
特定非営利活動法人アスヘノキボウ 代表理事 小松洋介さん
宮城県女川町で活動。JERFの支援を受け、地域課題を数値化した「女川の未来を考えるためのデータブック」を作成。現在は、女川フューチャーセンターCamass(カマス)を拠点に、活動人口創出、創業・経営支援、人材紹介等に取り組む。
小松さん:ハリケーン・カトリーナから復興した、アメリカのニューオリンズを視察したときに、社会課題をデータで表して、それを分析しながら解決していったと聞いたんです。日本の被災地としても同様の取組をしたいとお伝えしたところ、ジャパン・ソサエティーさんからご支援をいただきました。
被災地でいろいろな話が出る中で、それがどのくらい深刻なのかわからないということがたくさんあったんです。そこで私達のプロジェクトでは、課題をデータとして見える化していったんですが、データブックを作成したことで解決の道筋が見えた課題もあります。
例えば田舎に若者がいないのは仕事がないからだと言われていたんですが、職種の幅が広がれば若い人達が残る余地がありそうだという見通しが立ち、創業支援に力を入れるという方向性を決めることができました。私達の団体に限らずこういったアクションが起きたのは、このデータブックの成果だと思います。
コロナ禍においても、ここからどう元に戻すかではなく、どう発展させるかという話をいろいろな国の人としています。世界中でがんばっている人達の知恵をどう活かすか。それを考えていくことが、被災地での僕自身の使命の1つなんだろうなと思っています。
ゼロからの復興経験を世界で活かす
農業生産法人GRA 代表取締役CEO 岩佐大輝さん
宮城県山元町で活動。津波で被災したイチゴ産地で、JERFの支援を受け、伝統的農業技術とITを掛け合わせた先端施設園芸に取り組む。ブランドイチゴの生産・技術開発・栽培商品開発・販売のほか、国内外での就農者支援も展開。
岩佐さん:被災前は129軒あったイチゴ農家のうち、95%が津波で流されてしまいました。そこで地域の基幹産業であるイチゴを復活させようと、2011年に会社をスタートさせました。当時は農業に対して研究開発のような中長期的・投資的な支出が難しい状況でしたが、そんな中でジャパン・ソサエティーさんにご支援いただき、イチゴワールドを復活させることができました。
日本だけではなく海外の農村でも苦労があります。この10年で、被災してほぼ何もないところからイチゴや園芸で町が豊かになっていくという経験をしたので、今度は我々が今弱っている人達のところに行って、技術を広めていくような活動をしていきたいと考えています。
様々な化学反応が生まれる、全世代に向けた学びの場
一般社団法人あすびと福島 代表理事 半谷永寿さん
福島県南相馬市で活動。JERFの支援を受け、こども達が自ら考え行動する力を育む場である、センターハウスを設立。小学生から社会人まで同じ環境で学び、憧れの連鎖により次世代のアントレプレナーを育む機会を創出している。
半谷さん:センターハウスは、小学生にとっては再生可能エネルギーの体験学習の場であり、中高生は地域の課題解決の拠点として活用しています。大学生には、将来のありたい社会や自分を内省する場となっています。そして社会人にとっても、自らの仕事を通して将来の日本や世界を考える研修の場として役立っています。
センターハウスができたことで、それぞれの世代、それぞれのテーマを複合する学びの場が生まれました。社会人研修で得たことを大学生や高校生に伝えることもできますし、単なる横断的な学びの場ではなく、それぞれを掛け合わせることができる学びの場となっています。
10年では終わらない。復興に向けた挑戦は続く
一般社団法人まちづくりなみえ 事務局次長 菅野孝明さん
福島県浪江町で活動。ETIC.の「右腕プログラム」を通じて、全町避難となった浪江町役場に参画し、津波被災地の復興や中心市街地のまちづくり計画、住民の合意形成支援に尽力。現在はまちづくり会社を立ち上げ、震災を広く知ってもらうホープツーリズム、コミュニティ再生支援、道の駅運営などを推進中。
菅野さん:原発事故が本当にショックで、自分に何ができるか考えていたとき「右腕プログラム」に出会いました。いざ避難指示が解除されたとき、役場でも民間でもなかなかできないことがたくさんあるので、それを実現していくための会社として「まちづくりなみえ」を立ち上げました。
ここにしかないものを考えると、やはり原発事故とその影響なんですよね。実際に来て、見て、感じてもらって、共に考えて、福島だけではなく日本社会をどうするか考える。そのためのツーリズムを今はやっています。それが交流人口拡大にもつながっていると思います。
忘れてはいけないのは、県内でも4万人が自分の家に帰ることすらできず、避難を継続しているという事実です。浪江町も、面積の8割は帰還困難区域となっています。10年一区切りと言われるかもしれませんが、まだまだこれからなんだ、自分の力のある限り、仲間と共にこのまちを繋いでいくためにチャレンジし続けたいという思いでいます。
*****
未曾有の災害を経て、これまでの10年間で東北では様々な事業やプロジェクトが生まれました。最後の菅野さんの言葉にもあった通り、現地では10年で区切りがつくわけではなく、復興に向けた取組はこれからも続いていきます。10人のメッセージを通じて、読者のみなさんにも東北の「今」と「これから」を感じていただければ幸いです。
動画も合わせてご覧ください。
Report from Tohoku 2021
※本企画は、ジャパン・ソサエティーが震災翌日に設立した震災基金の支援を受けて実施しています。
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