10月中旬、東京・渋谷のNHKで、『木工房 ようび』の大島正幸さんと半年ぶりにお会いした。目的は日曜朝の番組「さきドリ↑」の収録。テーマは「”奇跡のイス”がムラを変える!?」で、主人公は大島さんだ。僕は地域の活動を知るコメンテーターとしてご一緒させていただいた。
背中にちゃぶ台をくくりつけて、真顔で登場
実は大島さんと僕の関係は古い。2007年のETIC.さんによる「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」にメンター・審査員としてお声がけをいただき、僕が担当させていただいたグループの中に大島さんがいた。
ほかの大半のみなさんが、プレゼン用にパワーポイントの資料や画像、データなどを揃えて、やや緊張した面持ちで説明をしてくれたのに対し、大島さんは異彩を放っていた。なぜなら、背中にちゃぶ台をくくりつけて、真顔で登場したからだ。
「私はこのような家具をつくって、日本の森をきれいにしたいんです!」 そう言った大島さんのまっすぐな眼差しを見て、第一印象からその姿勢のとりこになった。もともと、森と川が大好きで、日本の自然の豊かさを広く伝えたいと思って、まずはアウトドア雑誌の編集者になった僕にとって、たくさんの共通言語がありそうだったのだ。
「おもしろい人がいるな!」と、自分のことのようにうれしくなった。
ローカルベンチャー発祥の聖地・西粟倉
その翌年から、西粟倉村に移住した大島さんの挑戦と活躍の日々は、みなさんも知るところだと思う。『木工房ようび』が西粟倉にできたことで、西粟倉のファンになられた方も、この記事を読んでくれているかもしれない。彼は、「ローカルベンチャー」というムーブメントの先駆者であり、牽引者だ。
「ローカルベンチャー」は、西粟倉村にあるエーゼロ株式会社の代表取締役・牧大介さんがこの言葉とそのコンセプトを初めて発した。牧さんこそ、大島さんたちのよき理解者で、最大の伴走者だろう。 ローカルベンチャーとは、その土地の宝物を自分なりの視点で見つけ、ビジネスをおこし、お互いに関連を持ちながらその地域の経済を成り立たせていくこと。
ローカルベンチャー発祥の聖地といわれる西粟倉では、「ablabo」の大林由佳さんや「村楽エナジー」の井筒耕平さん、「酒うらら」の道前理緒さんなど、すでに20組の魅力的な人たちがそれぞれのローカルベンチャーを立ち上げたという。
「なければつくればいい」という時代
この取り組みに共感した日本の地域が、北海道や徳島など、ひと地域、またひと地域と名乗りを上げて、西粟倉とともにローカルベンチャーの手法を使って、地域の未来をつくっていく。なんともわくわくする話だ。 移住という行為が選択肢のひとつとなりつつあるいま、暮らしをつくるうえで必要なのは仕事。
これまでは、行政から斡旋・紹介される職種がメインだったけれど、「ないものばかり」と言われがちな地方だからこそ、「なければつくればいい」という時代観になってきた。そう、つくれば需要は生まれるのだ。
地栗のおいしいモンブランを出すケーキ屋さん、バイオマスを使ったエネルギー会社、ウナギとナマズの養殖、県まるごとをプロモーションする会社、音楽療法の社団法人、東京からでも足を運びたくなるパン屋さん、クラフトビールのブルワリー、1階はシカゴピザのお店のゲストハウス。どれもみな、中山間地域で起業したほんとうに実例ばかりだ。いまこうやって書いているだけで僕自身、おもしろく、心が躍る職種ばかり。
そう、地方の仕事はもっと開放されていい。 ほんのちょっと前を考えたら、明らかにローカルの仕事が多様化してきた。とくに20代や30代のみなさんが、「自分の暮らしを自分でつくる楽しさ」に気づいたことが、この軽やかなチャレンジに拍車をかけたのだと、40代の僕はつねづね思っている。
生身で等身大の「ローカルヒーロー」
いま僕は、若者と地方の未来図である「ローカルヒーロー」をテーマにした本を12月の発売に向けて書いている最中。
「ローカルヒーロー」とは、たったひとりで誰もが望む奇跡を日本の地方に圧倒的に起こすような唯一無二の存在ではない。生身で等身大だけれど、その人物が作用することで、仲間を巻き込み、普段のまちに熱波が静かに広がり、地方が未来へと前向きに動く。そんな愛すべきキャラクター。
ローカルベンチャーの分野は、このローカルヒーローのみなさんがかならず存在している。 地方であたらしい仕事をつくる楽しさのひとつに、「自分ごととしての楽しさ」、「未来をつくっている手応え」もあるだろう。
東京のような大きなまちでは、なかなか味わえない、自分のつくった仕事が、誰かを幸せにしたり、誰かの役に立っていることがありありとわかるダイレクト感、つまり、自分が地域や社会にしっかりと関わっている満足感。こういった、西粟倉をはじめとした「関わりしろ」のある地域に、クリエイティブな若い人が一気に集まっている流れも感じている。
「あしたの地方の仕事」が、未来をつくる手応えをくれる
最近、地方の仕事づくりで、おもしろいことが起きていると思うのが、奈良県・東吉野村を中心とした奥大和エリア。その拠点となるのが、プロダクトデザイナーの坂本大祐さんと菅野大門さんが中心となって運営されているリノベーションされたかっこいい施設『オフィスキャンプ東吉野』だ。
ここには奥大和の木工作家や家具職人、陶芸家やウェブデザイナーやフォトグラファーはもちろんのこと、村長や、内外からクリエイティブな仕事を持った人たちがやってくる。夜、肩書を超えて鍋を囲んだり、外でバーベキューをしたりしながら、「あしたの地方の仕事」の構想が生まれ、実行される。そのスピード感たるや、東京の何倍も速いだろう。まさに、未来をつくっている手応えだ。
大島さんと久しぶりに直接会って、楽しい会話の時間を過ごした僕は、その夜、自宅でお気に入りの青色の「ホタルスツール」に座り、大島さんや『木工房 ようび』のみなさんの、家族のような仲のよさと、ていねいな仕事ぶりを思い出す。ローカルベンチャーが、日本の地域はもちろんのこと、僕のことも幸せにしてくれている。
地域での起業を目指す人のための学びの場、ローカルベンチャーラボという取り組みもスタートしています。指出さんや文中に登場する西粟倉村の牧さんも関わってくださっています。ぜひご参照ください!
月刊ソトコト編集長/指出 一正
1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師。広島県「ひろしま里山ウェーブ拡大プロジェクト」全体統括メンター。高知県文化広報誌『とさぶし』編集委員。ソーシャルスタートアップ・アクセラレータープログラム「SUSANOO」メンター。沖縄県・久米島町アドバイザー。静岡県「地域のお店デザイン大賞」審査委員長。広島県「ひろしま さとやま未来博2017」総合監修。
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