地域の魅力に気づき、地域でチャレンジしたい人、生き方を変えるために移住を考えている人が増えています。でもいきなりの移住はもちろんハードルが高い。自分の生き方と合う土地なのか、役に立ててやりがいのある仕事があるのか、そして心を通わせることができる人たちと出会えるのか、わからないことがたくさんあるからです。
受け入れる地域の側も、もちろん移住者は来て欲しい。仕事を作っていける、いっしょに仕掛けていける人も求めている。とはいえそんな人に出会えるチャンスはなかなか多くありません。
そんな両者のニーズに応えるために、「日本全国!地域仕掛け人市」は、本当に自分に合う地域や仕事・チャレンジの機会を探している都市部在住の方と、地域で新たな事業・チャレンジを仕掛けている人=『仕掛け人』を繋ぐマッチングイベントとして開催され、これまで108団体、約2400人の出会いを創出、 多くの移住・起業・転職の事例を生んできました。
「気が付くと、きっかけはいつも人だった」
今年の「日本全国!地域仕掛け人市」(以下”仕掛け人市”)のキャッチフレーズです。
地域に移ろうとする人にとっても、そして来て欲しい地域の側にとっても、アタリマエのことですがきっかけは人。ではどうしたらよいきっかけをつくり、地域と都市の人材のよいマッチングをつくることができるのか。9/30に開かれる仕掛け人市は、そんな場を目指して設計されています。
それに先立つ6/28日、地域の仕掛け人と市への出展候補者が集まり、自分たちのプロジェクトや求人、つまり「わが地域のこんなプロジェクトを一緒にやる人募集! 」をどう発信し、幸せなマッチングを実現するかをブラッシュアップする、事前セミナーが開かれました。地域に新しい人が来てもらいたい仕掛け人たちが、先輩仕掛け人たちからノウハウや心構えを分けてもらうという貴重な場。こうした仕掛け人同士の繋がりも、仕掛け人市の魅力であり強さです。たしかに、「気が付くと、きっかけはいつも人」なのです。
いけす網のようにだんだんと 〜夢古道おわせ 伊東将志さん
実行委員会のメンバーである伊東将志さんは、三重県尾鷲市の夢古道おわせ(夢古道の湯)で働く仕掛け人です。伊東さんは、地域に人が来てもらいたい出展者候補の皆さんを前に、”大敷網漁”を例にして話してくれました。
「"人材のいけす網づくりをはじめましょう"と言っています。回遊しているサカナを人だとしましょう。そこにサカナが寄ってくるような仕掛けをつくります。網にぶつかるとサカナは網に沿ってだんだん中に入ってきます。途中は出たり入ったりもできるように作ります。出たり入ったりできるほうがいいんです。だんだん中に入ってきてもらって、気が付くともう出られない。あとは銛で仕留めたり(笑)網ですくったり。初めから一本釣りをするといったことはあまりしません。たとえば、3年前に仕掛け人市に来てくれた人がいらっしゃったとすると、だんだん距離と関わりを深くしていって、また今年も来てもらう、そこでマッチングに至る、といったイメージです。」
関係をつくり、関わり続けること 〜いなかパイプ 佐々倉玲於さん
同じく実行委員会メンバーの佐々倉玲於さん。いなかパイプという都市と田舎をつなぐためのサイトを運営しています。拠点は高知県の四万十ですが、伊東さんの尾鷲をはじめたくさんの地域といっしょに、いなかとのパイプをつなぐ仕掛けをしています。
また、”人の話をきいて、自分の話をして、人間と人間とがしっかり出会えるような『いなか』のお仕事求人のマッチングイベント”である、いなか求人フェスというイベントなども主催していらっしゃいます。
佐々倉さんは、地域に人が来てもらうための”関係のつくりかた”を5つのstepで説明してくださいました。
step0は、”日常の関係をつくる”。まずどこかで出会って、Facebookなどで繋がるくらいの関係をつくります。step1では”情報発信”。Webやソーシャルメディアで地域のこと、仕事のこと、イベントなどについて情報発信をします。
面白いのはstep2の”窓口を開けておく”。とくに積極的にアプローチをするわけでもなく、気になることや関心があった人がアクセスできるように、わかりやすく窓口を開いておくということ。そしてstep3-5では、”関係をつくる”、”関わり続ける”。アクセスしてきてくれた人が滞在できたり、インターンとしてライトに関われるようにしたり、採用をしたり、様々な関わり方を用意して関わり続けるというstepです。
たとえば、佐々倉さんが仕掛けている「いなかビジネス教えちゃるインターン」では、地域のビジネスに興味のある参加者から参加料をもらって一ヶ月働いてもらっています。お金を取るということで学生さんは来ないと思っていたら、年間30名程度は来るのだそう。こうした何重もの丁寧な網の目で、地域への人のアクセスや定住を実現しているというお話でした。
スイッチを入れるコツは熱量 〜Yahoo! JAPAN / フィッシャーマン・ジャパン 長谷川琢也さん
Yahoo JAPANに所属しながら一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンの運営メンバーとしても活躍している長谷川琢也さん。震災を契機に石巻に赴任し、現地でたくさんの起業家たちと出会い触発され、フィッシャーマン・ジャパン起ち上げに参画。最近では、「漁師がモーニングコールをかける」という驚き(と笑い)のサービスの仕掛け人の1人です。長谷川さんも、この仕掛け人市の運営メンバーのひとりですが、自分は普通の移住者とは思っていないのだそうです。
長谷川:家族には「あんたは移住者じゃなくて転勤者でしょ」とツッコまれるんですが、東京と石巻をほぼ半々で往復していて、IT企業のサラリーマンをやりながら漁業団体の経営をして、東京と田舎、ネットとリアル、という極端な二つの真ん中にいます。その間を繋ぐ役かなと自分では思っています。
ー”漁師がモーニングコール”はとても話題になりましたが、地域の面白がり方が独特だなと思いました。自分の地域にあるリソースを魅力あるかたちでどう面白く伝えるか、どう考えていますか?
長谷川:田舎のあたりまえが都会のビックリ、ということはよくあります。知らないことばかりで、漁師にとっては「あたりまえじゃん」ということが自分には面白かった。空気が綺麗とか空が広い、というのはどこも田舎ではあたりまえ。その中で、自分の心が動いたことを絞って抽出して尖らせて、それをどう都会の人の前に置くか、そういうことを考えていますね。
あとは、モーニングコールも考えついたのは僕じゃないんですが、自分の思いを、周りのいろいろなプロの人、友人知人たちに伝えて共感してもらって、「漁師さんてめっちゃ早起きだよ」というところから考えてもらった。1人でできないことはみんなでやればいい、というのがフィッシャーマン・ジャパンのコンセプトの一つで、漁師や水産業者だけじゃなく、面白がってくれる人や周りの人に助けてもらうことを心がけています。ふだんあんまり近くない人を呼んでみたりして、多様なチームをつくる。すると面白いことが起こりやすいと思います。
ー都会側の人たちの傾向や、スイッチを入れるコツみたいなものはありますか?
長谷川:都会ではやっぱり情報が飽和していると思います。心理学の知見で、すごいお金持ちになると、コントロールできないことへの興味が湧く、というのがあるらしいんですが、それと同じで、都会で暮らし慣れちゃった人は、飽和してるんだと思います。そういう人にスイッチが入るとぽーんと地域への興味が深まって来てくれたり、すごいプロボノになってくれたりする。
スイッチ入れるコツは熱量ですかね。暑苦しさ(笑)。昨日もフィッシャーマンジャパンがやっている居酒屋に行って、お客さんのテーブルを回ってお魚とか貝のことを、相手がもういいっていうまで語ってきたんですが(笑)。聞いているほうにとっては、「これだけアツく魚や貝のことを語っているんだから、よくわからないけどたぶんなんかすごいんだろうな」とスイッチが入るんだと思います。
地域に来るのはどんな人?
三人の視点で共通しているのは、距離のとり方と詰め方というポイントでしょう。伊東さんは、広めに網を構えてだんだんと距離を縮めていくいけす網作戦。佐々倉さんは、ていねいに段階を設計して関係性をつくっていくやりかた。長谷川さんは、中間的なポジショニングと熱量による詰め。さらに詳しく、伊東さんと佐々倉さんに、地域に人が来るとはどういうことなのかを、お聞きしてみました。
ーーーたくさんの人を地域に受け入れて来られたと思いますが、最近の傾向としては、どんな人たちが、どんな思いで来ているんでしょうか?
伊東:一時期は「移住は第二の人生」みたいな世界観があったんですが、それからだいぶ変わってきましたね。都市部からバリバリ働く若者が地域に来る、という感じに変わってきて、その流れから今は、都市部でふつうに働いているんだけど、もう少し自分の仕事や暮らしを見直したい、と思っている人たちが来ています。なんか違う、でも何が違うのかはわからない。問いを持っている人たち。
そういう人たちが仕掛け人市に来ると、もちろんすぐに答えが見つかるわけではないんですが、四万十みたいなだいぶ遠いところから来て(笑)、ものすごく楽しそうにキラキラしている人たちを見て(笑)、なんかいいなと思う人たちがいる。それが今っぽいなあと思いますね。
ーーーなにかしら問いを持っている人たちが居て、そういう人が”仕掛け人市”に来ても、すぐに答えが見つかる、というわけでもないですよね。だんだん関係性ができていって、地域に少し行くようになって、ヒントを見つけたりしながら、移住に至る人もいる、といったプロセスですよね。
伊東:”仕掛け人”の市場だということですね。ふつうだったらこういうイベントの軸は、求人の案件の市場なんですが、我々がやっているのは”仕掛け人”の集まる場所なんですよね。待遇や環境ではなく、決め手は人なんです。
その地域に誰が居て、入り口には仕掛け人という人が居て、その人と仕掛け人市で出会って、話をする。そうすると、こういう場所やプロジェクトがあるよ、あなたはウチじゃなくてあっちだね、ということを提供できる。
ーーー仕掛け人に会って、それから地域に入っていった若者たちは、どんなふうに腹落ちするんでしょうか? 自分が受け入れられたというような感覚なんでしょうか?
佐々倉玲於さん:その人と地域の人たちとの関係性がだんだんできていって、「やっぱりここ」となっていくんですが、そのきっかけは、こっちから見るとぜんぜん大したことないことだったりもします。
隣りのおばちゃんと一緒にご飯を食べたとか、毎朝声をかけてくれるとか。そういうやりとりができたからここに居たい、という感じでしょうかね。都会ではここまで私を気にかけてくれないし、見てくれてないけれど、この地域では、自分が一人の人間として扱ってもらえるとか。
大阪から四万十に移住して、結婚をして集落で式をやって、そして集落から出ていった人がいるんですが、彼女はスピーチで、「能力とかじゃなく、あなたがいるだけでいいよと言ってもらえたのが一番うれしかった」と言ってました。地域としての受け入れというのはそういうことなのかなと。田舎だとそういうことが起こる。
伊東さん:田舎は人との距離がちかいので、ひとりじゃない、ひとりになれない、というのがありますね。入り口は旅やツアーのようなものだったとして、そこから期間限定ミッションみたいなものでもう少し入っていって、1年くらいいっしょにやっていて、気がついたら定住、みたいな流れの中で、そうなっていく。
佐々倉さん:わたしがやらなきゃだれがやる、みたいな気持ちになっていくんですよね。登場人物が少ないので(笑)。
伊東さん:そう、地域ではキャスティングされちゃうんです。舞台があって、物語もある、でもキャストが決まってない事例がたくさんある。そこに「あ、ヒロインが来た!」みたいな感じで役があてられる(笑)。しかも何役もあったりして。
ーーーキャストを与える工夫みたいなのはあるんでしょうか?
伊東さん:今回のブラッシュアップセミナーでも何度も伝えたことですが、人に来てもらうときにプロジェクトが大事なんです。とんな目的で、何の役をやってもらうか、ということ。どういう物語で、どれくらい重要な登場人物なのかをちゃんと説明できるようにしてください、ということを伝えているんです。
ーーー物語と登場人物の設計が大事だと。
伊東さん:出来上がった台本をいったん破ってやりなおしたりということも何度もします。あとよく言うのは、地域のコーディネーターの人たちが、自分でもやりたいと思うようなものになっていたほうがよりいい。誰もやらないんだったら自分がやリますよ!というくらいのものになっていないと自信をもって発信できないから。
ーーー地域に若者が入ってからもいろいろな問題が起こると思うんですが、どういう原因が多いのでしょうか?
佐々倉さん:そうですね。せっかく入ってきた、優秀でやる気のある人が辞めてしまうことも見てきましたが、話を聞いてあげさえすればいいんだな、というのがわかってきました。
伊東さん:関わりすぎちゃうとダメだったりもしますよね。
佐々倉さん:その距離感はけっこう気をつけてますね。いろいろなコミュニケーションのギャップはあるんですが、「人間ひとりひとり違うんだ」ということを言うようにしています。若者の側も、地域の受け入れ側も、話をちゃんとしていないで、思い込みで問題が発生しているというパターンもけっこうあります。「話した?」と聞くと話していなかったり。
伊東さん:そういうのは台本がちゃんとできていないことが多いですね。東京だとエキストラかもしれないけど、地域に来たら主役。地域には、田舎にはそういう舞台がたくさんあります、ということを知らせたいですね。仕掛け人市にはいい台本がいっぱいある。地域では「まるで映画のような人生」ができるということですね(笑)。
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