TOP > スタートアップ > 50年先のバリアフリーの社会をつくる。歩ける人も歩けない人も一緒に、世界中の人たちの手でつくるユーザー投稿型バリアフリーマップアプリ「WheeLog!」

#スタートアップ

50年先のバリアフリーの社会をつくる。歩ける人も歩けない人も一緒に、世界中の人たちの手でつくるユーザー投稿型バリアフリーマップアプリ「WheeLog!」

2018.07.26 

 

突然ですが、「バリアフリー」という言葉を知っていますか?おそらく「はい」と答えてくださる方がほとんどだと思います。

 

では、「日本では、あなたの住んでいる地域では、バリアフリーがどのくらい進んでいるか知っていますか?」と問いを変えたらどうでしょうか。おそらく、自信を持って答えてくれる方はほんの一握りになってしまうのではないかと思います。

 

まだまだその“実際のところ”が共有されていない、日本の、世界のバリアフリー情報。今回は、このバリアフリー情報をみんなで共有して、みんなが使えるバリアフリーマップをつくろうという「WheeLog!(ウィーログ)」のチャレンジをお届けします。

「WheeLog!」みんなでつくるバリアフリーマップCEO 織田友理子さん

「WheeLog!」みんなでつくるバリアフリーマップCEO 織田友理子さん

「Googleインパクトチャレンジ」日本でのグランプリ賞を受賞

 

Googleインパクトチャレンジ授賞式

Googleインパクトチャレンジ授賞式

 

物語の始まりは、2015年3月26日。Googleが「世界をよくするスピードをあげよう」を合言葉に行った、テクノロジーを活用して社会課題解決を目指す非営利団体を支援するプログラム「Googleインパクトチャレンジ」からでした。

 

インド、ブラジル、英国、米国、オーストラリア、そして日本で開催されたこのプログラムにおいて、「WheeLog!」のアイディアは日本でのグランプリ賞を受賞。2年の開発期間を経て、2017年5月“みんなでつくるバリアフリーマップ”アプリ「WheeLog!」がリリースされました。

 

 

投稿総数1万件以上。ユーザの7割は歩ける人

 

「WheeLog!」では、スマートフォンで得られたデータ(画像・GPSなど)をバリアフリー情報としてアプリ内に投稿できます。例えば、実際に車いすで通った道のりを地図上に描くことができたり、施設や設備のバリアフリー情報を写真つきで投稿できたりします。

このように、実際に車いすで通った道のりを地図上に描くことができる

このように、実際に車いすで通った道のりを地図上に描くことができる

 

リリースから1年、投稿総数は1万件を超え、最も投稿数が多いユーザーからの投稿はすでに900件以上になるのだとか。また意外にも、ユーザーの全体の6〜7割は車いすではなく歩ける方々なのだそう。

 

「WheeLog!」発起人でもあり、難病・遠位型ミオパチー患者として車いすユーザーでもある織田友理子さんは、リリースから1年を振り返ってこう語ります。

 

 

「実はこの1年、『WheeLog!』を運営する上でとても大切にしていたのは、車いすユーザーから車いすユーザーに向けた情報を集めるだけではなくて、歩ける方もこのプロジェクトに参画していただいくということだったんです。

 

 

WheeLog!の目的は、第一に車いすユーザーの方がもっと街に出かけやすくなれることですが、その先に、ダイバーシティや『心のバリアフリー』の発展があるのではないかと思っています。

 

すでに900件以上投稿してくださっているヘビーユーザーは歩ける方なのですが、多目的トイレやエレベーターなどのスポットを中心にバリアフリー情報を写真つきでわかりやすく投稿してくださっています。投稿を続ける中で車いすのマークや段差がすぐ目に入るようになったとか、障がい者用の多目的トイレは全部が同じ設備ではないとか、アプリを使ってのご自身の視点の変化をコメントに残してくださっています。

 

こうやって、歩ける方もバリアフリーを体感できる機会を増やし、さらに街中で車椅子ユーザーの姿をもっと見かけるようになれば、自然にダイバーシティや『心のバリアフリー』が進んでいくのではないかと思っています。当事者や専門家だけではなくて、みんながバリアフリーをもっと自分のことのように語って欲しいです」

 

 

「心のバリアフリー」とは、“人生を捉える視点”が変わること

 

 

 

 

そう語る織田さんですが、織田さんご自身、中途障がい者ということもあり、「バリアフリーや障がい者に関する活動は当事者がやるものだ」というイメージを持っていたのだそう。

 

けれど、本当に世の中を変えていくためには、属性に限らずみんなに参画してもらうことが大事なのだと今では痛感している、と織田さんは続けます。

 

 

「誰かが誰かの人生の良し悪しを判断できるものではないし、他人からの見え方であの人はこういう人だって決めつけられないものなんですよね。でも、そう理解していたはずだったのに、いざ自分自身が障がい者になったときに葛藤が生まれたんです。周りの人からかわいそうだとか、大変そうだとか思われたくないと。

 

自分が実際に車いすに乗るタイミングになったとき、そうやって『嫌だ』って、『乗りたくない』っていう感情を抱いたということは、おそらく頭で理解していたつもりでも心のどこかでは“そう”思っていたんだろうなと思います。

 

そういった自分自身の経験もあり、『心のバリアフリー』を実現するためには、障がい者に優しくなってくださいねとお願いや強制をするものではなくて、心の軸にある人生の捉え方・視点を変化させることが必要なのだと感じています。他人ごとから自分ごとにシフトチェンジするということですね。

 

そうすれば、何かをできる/できないで相手の価値を推し量るのではなくて、今とその先の未来に目を向けて人と向き合えるようになれるかなと思っているんです。

 

そして、もしそんな『心のバリアフリー』が広まっていったら、捉え方の変革が起こり、いざその人自身の人生につらい出来事が降りかかってきたとしても、乗り越えていけるようになるのではないでしょうか。

 

そんな“人生を捉える視点”を変えられるような取り組みを、自分自身どこまでできるかわからないですが、WheeLog!でできたら嬉しいです」

 

2020年パラリンピックへ向けて、さらなる多言語化と投稿数100万件を目指す

 

 

世界中の車いすユーザーが日本を訪れる2020年バラリンピック。この2年後へ向けて「WheeLog!」には大きな期待が寄せられています。

 

そして、織田さんご自身「世界からいらっしゃる車いすユーザーに、日本はバリアフリーだから大丈夫だよって伝えてたい」と考えながら、そのために現在のアプリの言語表示に課題を感じていると語ります。

 

IDB

 

「先日ワシントンDCに本部を構える米州開発銀行(IDB)で初開催となった、障がい者の社会参画を促す革新的な取り組みを紹介し、知見を共有するイベントに登壇してきたのですが、英語圏以外の参加者の方がたくさんいらっしゃいました。

 

その方たちにとって『WheeLog!』は、“日本語メインで英語も使えるけれど、国際展開にはまだまだ不十分なアプリ”だと感じました。そう実感してから、2020年に向けてもっと世界中の方に価値を感じていただけるものにしていきたいと、より強く願うようになりました。これから開発費を獲得して、さらなる多言語化を目指していきたい、と」

 

 

「車いすは日本だけの話ではない、海外に向けて日本は何ができるのだろう?」と考えるようになったと語る織田さん。日本ならではの細やかな配慮がある多目的トイレが、台湾でも上手に取り入れられていることを知ったことも、一つの大きなきっかけになったと語ります。

 

 

「日本も海外に対してできることはたくさんあります。特に既存のバリアフリー情報をどう共有していくかが鍵ですね。2020年に向けて、投稿数100万件を目指して、しっかり日本の情報をためていきたいと思っています。100万件はちょっとオーバーですが(笑)。

 

現実的には無謀ですが、それほど車いすユーザーにとっては情報が重要であり、あればあるほど助かります。情報があるということは行動の選択肢が増えます。

 

実際、海外の友人と話していると『日本はバリアフリーが全然進んでいないんでしょう?』と言われたりもするんですよ。でも、必ずしもそんなことはなくて、日本はトイレがとても使いやすいんです。まったくの持論ですが日本の多目的トイレは世界一だと思っています。

 

ただ一方で、ホテルなどの宿泊施設においては数も情報提供も、日本は不十分であるのも事実で。

 

すべてがすべて、日本が悪い/海外が良いではなく、良いところ悪いところ、それぞれを評価して今後に活かしていけるような目を養いたいなと思っています」

 

 

 

「ここに行けなかったよ」が集まれば、行政に働きかけられるアプリになる

 

日本中のバリアフリーのデータを集めている「WheeLog!」では、先日も東京都からバリアフリーのオープンデータ(都が所有しているトイレとエレベーターの情報)300件の提供を受けたり、他のバリアフリーマップとの連携なども進んでいます。

アプリ2

そうして様々な情報がアプリに集積されるなか、“予想もしていなかった”投稿をもらうことも多いのだと織田さんは語ります。

 

 

「新しいスポットは当然バリアフリーだろうと思っていても、新しくできたビルのレストランの入り口に段差が2段あって車いすが入れないなど、実はそうではないことをアプリを通して気づかされることがあります。

 

行政が所有している公園の多目的トイレの入り口に、車停めがあって車いすが通れないという情報もそうです。何のための多目的トイレなのでしょうか。また、スロープを進んでいくと突如段差が出現して引き返さなければいけないことなどもあります。

 

そうした投稿を通して、スロープの入り口で『この先段差あり』と看板で教えてくれたらいいなということなど、行政に取り組んでいただきたいことがどんどん溜まってきています」

 

 

これらの気づきから、「ここに行けたよ」という投稿だけではなく、「ここに行けなかったよ」という投稿を集めていくことの大切さを感じていると織田さんは続けます。

 

 

「そうすることによって、きちんと行政に提案できるような組織になっていけたらいいですね。今まさに困っている車いすユーザーのためだけではなくて、将来的に足腰が弱くなるほとんどすべての方にも役立っていけるんじゃないかなと思っています。

 

歩ける方も歩けない方も、みんなで未来をより良くしていきたいという夢に繋がっていると感じます。そんな夢が実現できるWheeLog!になりたいなとも思っています。単に不平不満を集めるのではなく、未来志向です。それがWheeLog!に投稿し続けていただいているユーザー皆さんのモチベーションなのかもしれません」

 

50年先までの社会のためになれる活動でありたい

 

「2020年だけ良ければいい」という一過性のものではなく、10年先、20年先、50年先の社会のための活動でありたいと、織田さんは語ります。

 

「“アプリなんて3年で死ぬ”とかよく言われるんですけど(苦笑)、未来を少しでも良くしたいと思っていて。だから、すべてが挑戦です。腰を据えてやっていきたいです。

 

世界中いろんな場所に散らばっているバリアフリー情報をまとめる役を、日本の中で、世界の中で担っていきたいと思っています。だから、車いすユーザーに限らず、歩ける方にもぜひアプリをダウンロードしていただいて、ご自身の街の状況を知って、そして投稿していただけたら嬉しく思います」

 

 

つい先日、織田さんご夫妻は群馬の高校に招かれて、学生たちと車いすで街歩きをして、アプリに投稿してもらう3時間の授業をされてきたのだそう。

162977.LINE

 

「今後は、未来を担う学生たちを対象に、この授業を教育プログラムにしていけたらと思っています。教育の現場で活用していただきたいです。実際にバリアフリー情報を投稿することで人の役に立てることが可視化できます。バリアフリー情報が必要とされていることを知ること、そして、さりげない配慮ができるようになることが狙いです」

 

 

「バリアフリー」という切り口から、世界中に生きる人々のためのアプリとして進化を続ける「WheeLog!」。その未来に、これからも注目です!

*

*

Web :http://www.wheelog.com/iOS :https://itunes.apple.com/us/app/wheelog/id1183054985?l=ja&ls=1&mt=8Android :https://play.google.com/store/apps/details?id=com.wheelog.app.rc

この記事を書いたユーザー
アバター画像

DRIVE by ETIC.

DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )