ブラザー工業の創業100周年記念事業として始まった起業家サポートプログラム「東海若手起業塾」は2008年から始まり、今年で10周年を迎えます。2018年3月11日には、これまでの10年を振り返り、これからの10年を考えるイベント「Tokai Innovators Ecosystem Summit for 2027 ~若者のチャレンジが続々と生まれる生態系を育むために~」を開催予定!
出身生のみなさんは東海地方を中心に各地で活躍していますが、なかでも注目を集めるのは岐阜県郡上市。郡上市に、今、移住希望者やここでチャレンジしたい!と熱い想いを持つ起業家が増えているそうです。今回は、そんな郡上市を拠点に活動を進めるお二人にお話を伺いました。前編では、郡上市の自然を生かした子ども向け体験プログラム、猟師の人材育成などの「猪鹿庁」を展開している興膳さんにお話を伺いました。
今回は、夏の間、30日連続で開催される「郡上踊り」専用の下駄づくりを展開する、郡上木履代表の諸橋有斗さん(以下、諸橋さん)にお話を伺います。夏の間、30日連続で開催される「郡上踊り」は"見る"だけではなく"参加する"お祭りとして有名で、特に、お盆の四日間に開かれる「徹夜踊り」には、夜通し踊るために毎年20万人以上の人々が訪れるそう!このお祭りと連携した地産地消のものづくりを進める諸橋さんの熱い想いをご紹介します。
「郡上踊り」専用の、新しい下駄ブランド
ー前編に続いて、郡上木履を営む諸橋さんにお話を伺います。郡上木履での取り組みについて、まずはお話を伺えますか?
諸橋さん「郡上産ヒノキで、郡上踊りで使われる下駄をつくり、店舗での販売と、郡上市内外の呉服店や履物屋さんへの卸をしています。郡上踊りには、開催期間中30万人もの人が訪れると言われていて、そのうち8月13日から4日間行われる"徹夜踊り"だけで20万人くらい来るんです。30万人のうち8割〜9割くらいが郡上の外から来る人で、特にそういった方々に買っていっていただいています。」
ーもともと木工を学んでいたり、下駄作りに関わっていたんですか?
諸橋さん「木工に興味を持ったのは、20歳の時に沖縄で自給自足をしながら宿泊施設や農園で働くビーチロックビレッジにいて、建築を担当していたのがきっかけですね。ビーチロックビレッジを出た後、木工を仕事にしたいと思って岐阜県の森林文化アカデミーに通い始めました。森林文化アカデミーは、二年間林業について実践的に学ぶ場所で、ただ木を切って市場に出すだけではなく使う側の需要をあげないといけないという課題意識からつくられた学校です。僕は、家具とか形を作るだけではなく材料のことをちゃんと知ったり、この木はどのように育てられてどこからやって来てるんだろうとか、そこからちゃんと勉強したいと思い、木工ものづくりコースに入学しました。」
ー森林文化アカデミー在籍中に東海若手起業塾に入ったのですよね。そのきっかけはどんなことでしたか?
諸橋さん「卒業してどうしようかなと考えていた時、どこかに修行に行ったり就職したり、ではなく、自分で仕事をつくりたいと思ったんです。いろいろと考えているうちに、郡上踊りの存在を知り、踊りで使う下駄が地元で作られていないという話を聞いたんです。ただ良いものを作るのではなく、僕はものづくりの仕組みをつくることに興味があったので、森林文化アカデミーの二年生から取り組む課題研究のテーマを”郡上産ひのきの下駄作り”にしました。ただ、自分で事業を立ち上げるとしても経営のことは全然わからなかった。その頃に、森林文化アカデミーの講師に来ていた興膳さんと会いました。そういうことをやりたいんだったら、と東海起業塾を紹介してもらい応募をしました。」
ものづくりで生み出せる地域へのインパクトとは?
ー「ものづくりの仕組みをつくる」ということについてもう少し詳しく伺えますか?
諸橋さん「もともと郡上は全国でも有数の、日常履きとしての下駄の産地でした。ですが、靴が普及したことで職人がどんどん廃業して行ったんです。郡上踊り専用の下駄需要がたくさんあれば、下駄職人は廃業せずに続けられていましたが、当時はそもそも"郡上踊り専用"下駄の需要はなかった。ここ20年くらいでお祭りにも人がたくさん来て、郡上踊り用の下駄の需要が増えましたが、もう職人がいなかったので外から入荷するという状況になっていました。しかも今、郡上には木が有り余ってるんです。使われないのは勿体無いなと、地産地消のものづくりをやりたいなと思った。」
ー当初からテーマや目指したい方向性が決まっていたのですね。東海若手起業塾で前進できたことや印象的なエピソードはありますか?
諸橋さん「そうですね、僕の場合は、東海若手起業塾に入った段階で、郡上踊りの下駄作りというやりたいことが決まってました。それ自体は認めてもらっていましたが、東海若手起業塾のみなさんから、"それをやって結局何を解決するの?”と問われ続けました。そこで、いったんは森林の木をどんどん使っていくことで森林問題を解決することをテーマに置きました。
ですが、下駄ってすごく小さいので、仮に1万足つくっても森林が一気にどうにかなるものではない。例えば、郡上で林業をもっと盛り上げるために、下駄に限らず林業にまつわる事業を広げることも選択肢としてはありましたが、僕は経営者でありながらも、あくまでつくり続ける職人としての生き方を続けたかった。そうすると、直接的な森林問題の解決に結びつけることは難しくて。"じゃあどうするの?”と問われ続けました(笑)。」
ー職人として作っていきたいというご自身の気持ちと、森林問題の解決などの社会性をいかに両立させるか。その辺りはどのように整理していったのでしょうか?
諸橋さん「郡上や森林の問題を発信したり広げるサイクルをつくっていきたいなと思っています。今は、一年間で下駄4000足を販売しています。そのうち600足は市外の呉服店に卸しています。卸すときは、オリジナルパンフレットをつけて下駄をつくっている背景を知ってもらうようにしています。実際に、東京の人が僕のつくった下駄経由で郡上踊りを知って郡上に来てくれています。下駄を売ることで郡上踊りや郡上を広めるサイクルを作っていきたいと思っています。
あとは、市民講座で下駄づくり講座をやっています。講座でただつくるだけじゃなくて、参加者に郡上の森林面積などの状況をお話することで、下駄が消費されていくことで郡上の森がもっと良くなっていくことを伝えています。G-netの南田さんが担当だったのですが、マーケティングが得意な方で、かなり勉強させてもらいました。例えば下駄を1万足売ることを目標にした時、お客さんの割合は郡上踊りに来た人を多く想定するのか、それ以外の観光客なのか?それぞれのお客さんの層が求めることは何か?どうやって届けていくか?という細かい視点で分析していくことを勉強できたことがすごく役立ちました。」
移住者も、起業家も、地元の人も、一緒に。地産地消の下駄づくり
ー現在は、工場と販売店を持って安定的に事業が成り立っているということでしたが、どのような経緯があったのでしょうか。始めた当初、不安やハードルはありましたか?
諸橋さん「僕はすぐ起業したわけではなく、郡上割り箸という会社の1事業として2年半やらせていただいたんです。そこの社長も10年前大阪からやって来た移住者で、会社の工場の一部を使わせてくれたり、本当にたくさんの応援をしてくれました。
それに、いきなりきた移住者の僕が、歴史のある郡上おどりの下駄を作って受け入れられるのか?という怖さはすごいありました。そもそも郡上には、九州などから卸して下駄を売るお店が4店舗あるので、始めから自分で店舗を持つといきなり競合になってしまいます。まずはそれらのお店に販売してもらうことを考えていました。だけど、どうしても価格が高くなるし、突然買ってくれるわけもなくて。そこで考えたのが、そもそもの地産地消のものづくりの軸を追究するということです。郡上は古くから生地産業が盛んです。そういった方々とコラボレーションしてオリジナルの下駄ブランドをつくろうと思いました。」
ー諸橋さんの下駄は、派手というか現代的というか、特徴的な鼻緒ですよね。
諸橋さん「もともと、郡上踊り用の下駄は派手なんです(笑)。郡上木履の下駄の鼻緒は、郡上発祥であると言われているシルクスクリーンや、郡上本染という藍染職人さんとつくっています。僕が郡上に来る一年前に、シルクスクリーンの手ぬぐい屋さんができました。この手ぬぐい屋さんもUターン組で、移住者として近い感覚を共有できたのがありがたかったですね。"一緒にやろう!"とするコラボレーションすることが決まりました。せっかくある産業を活用しないのは勿体無いなあと思いました。
郡上本染は、地元の人たちからしても手軽に買える値段ではない、少しハードルの高いものだったんですがぜひ何か一緒にやれたらなと思って、始めは緊張しながら職人さんに訪問しました。でも、気軽に"やろうよ!"と言ってくれて。郡上には、先輩の起業家、移住者、が周りにたくさんいてやりやすかったのは大きいです。僕も含め、今もそういう人が増えている。だからこそチャレンジが生まれやすい環境になっているのではないかと思います。」
ーありがとうございます!地域の人や伝統を積極的に巻き込み新しい価値を生み出す動きが非常に面白いです。今後の取り組みについてもぜひお話を聞かせてください。
>2018年3月11日に開催される、東海若手起業塾のこれからの10年を考えるイベント「Tokai Innovators Ecosystem Summit for 2027 ~若者のチャレンジが続々と生まれる生態系を育むために~」詳細はこちら!
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