企業にとって、「これまでの維持」ではなく「これからの革新」が求められる時代。先端を走る企業は社会が変わるサービスを生み出し続けている。
「過去から見た未来ではなく、これからの時代にあった未来の金融を作っていこう」という視座をブランドスローガンに込めたマネックス証券株式会社は、2017年に当時入社6年目だった社員のアイディアを形にした新サービス、性的マイノリティのカップルを対象とした「パートナー口座」の提供をスタートした。
経験問わず社員のアイディアを発掘し、これまでになかった“社会を変える”サービスを生み出したマネックス証券。そんな未来を見据えた企業のあり方とサービスの今を、「パートナー口座」の提案者である葉 智慧子(よう ちえこ)さんに伺った。
社長でも役員でもない、上司にも部下にも囲まれて日々働く“普通”の社員の言葉から見えてきた、これから社会を変えていく企業の姿とは――。
気軽に参加した社内コンペでまさかの優勝、半年後にはサービス化
「パートナー口座」は、LGBTをはじめとした性的マイノリティの法律婚ではないカップルが対象となる口座サービスとして、2人が同じ口座で貯蓄を行え、2人が利用するクレジットカードの引落先口座に同一口座を指定できる主要オンライン証券では初めてのサービスになる。
このサービスのアイディアが生まれたのは、2017年からマネックス証券が新たに始めた社内コンペ「エジソン」がきっかけだった。
「新たなチャレンジをしなければ、変革していかなければという空気が社内で強くなっていたんです。そんな中、社員のアイディアを活用したいという意向もあったと思うのですが、希望者は誰でも参加できる社内コンペが始まって。その記念すべき1回目のテーマが『LGBT の方へ向けたサービス』だったんです」
友人にLGBTのカップルがいる葉さんにとって、そのテーマはとても身近でイメージが浮かぶものだった。ずっと課題だと感じていたこともあり、まさかすぐにサービスとしてリリースすることになるとは夢にも思わず、気軽な気持ちで降ってきたアイディアを提案した。
チームメンバーは4名。当時6年目の葉さんに、5年目、8年目、10年目のメンバーという、若手が集まった新卒入社のチームだった。書類選考を通過したチームは、同じく選考を通過した5チームとのプレゼンテーションで優勝。葉さんのアイディアはそこから予想以上のスピードで実現することになる。
「他社がまだ展開していないサービスということ、自分たちが今持っているインフラを使ってすぐに始められるサービスであるということ、社会貢献としての意義もあるということが採択の決め手になったようです。実際、8月の決勝から約4か月後の12月にはサービスをリリースできました」
会社が変わり始めたきっかけは、事実婚の社員の存在
形だけに終わらず、スピードをもってアイディア実現まで走り切った社内コンペ「エジソン」。その誕生のきっかけは、意外にも「事実婚の社員の存在が知られたこと」だった。
マネックス証券のそれまでの就業規則では、事実婚では配偶者がいると認められず、結婚休暇や結婚祝い金を手渡すことができなかった。そこで、「規定に縛られて会社が従業員に対して公平な姿勢を持てないのはおかしい」と、2016年4月に就業規則を改定。“配偶者”の概念を拡張した。
その後、就業規則は改定したものの、LGBTの理解を促す機会がなかったとして社内でLGBT研修も開催。さらに社のLGBTフレンドリーを進めていくなかで、全員が身近なテーマとしてLGBTについて考え、コミュニティ内でも、社会に向けても、LGBTフレンドリーな空気をつくっていくことが重要だと考えたマネックス証券は、LGBTというテーマで何か価値のあるサービスを生み出していきたいと考えるようになった。
そこで生まれたのが、「エジソン」だ。多くの社員にLGBTというテーマについて学んだり考えてもらい、社内のLGBTフレンドリーが進むきっかけにもなるのではと、初回テーマをLGBTに設定した社内での新規事業コンテストが誕生した。
徹底した顧客目線が新たなチャレンジを生み、ダイバーシティーを育む
一度気づいてしまった社内の歪みを確実に変革していこうという姿勢が印象的なエピソードだが、もともとマネックス証券では日々オープンな雰囲気で社員間の対話が生まれているのだという。
「手を挙げる人を温かく見守ってくれるというか、何かやりたいという人を頭ごなしに絶対に否定はしない空気なので、今の業務の改善、あるいは新しいアイディアをやりたいと言えばやらせてもらえる環境だなというのは、入社してからずっと感じています」
発言者の職位関係なく意見が尊重され、純粋にアイディアに対して意見が飛び交う環境。そして、手を上げた社員を自然に手伝う雰囲気。「一緒に頑張ってみよう」という言葉がけ、ハードル高く設定されたアイディアでも、最初から否定されない風潮。働く誰もが夢に見るような環境が、マネックス証券では育まれている。一体それはなぜなのだろう。
「マネックス証券では、新しいものは様子を見て後から参入していくというよりも、一番初めにチャレンジして実際に体験して考えてみようという方法をとる傾向があると感じています。
例えば最近では『Voicy』※ というボイスメディアで、マーケティング部長とマーケット・アナリストの2人が投資経験のない方にもわかりやすく面白く情報を届ける音声配信を始めていたりしますし、先日の仮想通貨の交換業者コインチェックの子会社化や、新サービスを生み出すことに特化した部署があることもその表れだと言えるのかなと思っています。
どちらかと言うと安定志向のイメージがある金融業界ですが、新しいことには意欲的に参入していこうという姿勢が常にあるかもしれません」
常に自らを刷新していこうとする姿勢に加えて、「顧客思想の徹底がある」と葉さんは続ける。そもそものマネックス証券の始まりは、不便があった対面証券からそれらを改善する新サービスとして初めてネット証券というサービスを生み出したというもの。実際に利用者の立場に立ったら何が最も便利なのかということが、社長の松本大氏が一番大事にしていることなのだ。
顧客の目線に立って、新しいサービスを貪欲に生み出す。だからこそチャレンジは背中を押され、アイディアを提案する声に応援と共感の気持ちが自然と集まる好循環が生まれているのかもしれない。そして、そんな多様なアイディアを持つ個が尊重される場だからこそ、ダイバーシティが育まれていくのだろう。
2020年、「マイノリティー」という言葉すらない社会を目指して
「パートナー口座」も、利用者数はまだまだこれから、と語る葉さんだが、そのサービスは確実に成長している。
「最近、定期的にお客様の銀行口座から一定金額を証券口座に入金するというサービスが始まり、パートナー口座もより便利にご利用いただけるようになりました。スタート当初は、手動でパートナー口座へのご入金をお願いしていたのですが、この自動入金サービスによって、銀行口座から定期的に2人のパートナー口座に自動入金することが可能になったんです」
5月に開催された東京レインボープライドでは、葉さん自ら資料を配りながら広報活動を行った。まだまだこのサービスが知られていないということを体感した一方で、これまでとはまったく違う顧客層に出会えている感覚、証券口座への抵抗感すらクリアできればサービス自体へのニーズがあるという実感を得た。
「会社としてはこのサービスには今までに出会っていなかった顧客と出会っていくチャンスがあると感じている」と語る葉さんは、その社会的意義についてもこう続ける。
「まだまだ貢献は限定的ですが、当社のような安定志向で堅いイメージの企業がこういった取り組みをすることで、他の企業に少しでも刺激になっていけたらと思っています。たとえ一つひとつは小さな取り組みだったとしても、刺激し合って変わっていけたら、社会にとっては大きな前進になるのかなと思っていて。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックで海外から日本を訪れる方が急激に増えると思うのですが、その頃までにもっともっと多様性を認められるような世の中になっていくため、『パートナー』と言えば男女しか思い浮かべない状態から『マイノリティ』という言葉自体がなくなっているようなきっかけになるサービスとなればいいなと思っています」
今はない新しい価値を常に提供し続けられる会社でありたいと思う、と続ける葉さん。
「この口座は自治体が発行するパートナーシップ証明がなくてもお申し込みいただけ、お申し込みいただいたお二人にはマネックス証券が「パートナーシップ認定書」を発行いたします。口座を作ることが、お二人がパートナーであることの一つの証しだと感じてもらえたら嬉しいです」
社会を変えていく企業には、新しいサービスへの貪欲さ、職歴に関係なく社員がアイディアを提案できる環境、チャレンジに共感し盛り上げていく社員たちのマインドセットがある。
そして何より、そこにはそれぞれの感性でアイディアを生み出す“個”を尊重する、ダイバーシティへの意識が根付いているのかもしれない。
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※『Voicy』とは: IoT時代の音声配信インフラを構築する株式会社Voicyが運営する次世代音声メディアサービス。ニュースや天気予報のような情報を提供するだけでなく、ビジネスの専門家やミュージシャン、インフルエンサーなどが「声のブログ」としても利用し、声の温かみと個性を活かしたコンテンツを200チャンネル以上配信している。
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