組織開発の一つのアプローチとして注目を集めている「コーチング」を知っていますか?
コーチングとは、親・先生・管理職が、子・生徒・部下などを知識や経験に基づき目標達成へと導く指導方法(ティーチング)とは異なり、クライアントの気づきから生まれる意識と行動の変化を促す手法です。
意識と行動の変化が起こった結果、クライアントはその人らしさと主体性を発揮することで目の前の課題や問題を解決することはもちろんのこと、様々な状況や環境の中でも自分で自分の道を切り拓く力を手に入れることができます(※CTIジャパンHPより引用作成)。
経営者や、組織開発のトップランナー企業においてその活用が進められてきたコーチングですが、現在非営利団体でもその可能性が注目されています。病児保育問題などに取り組む「NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)」でも、主にマネジメント層に向けてコーチング研修への参加の機会が提供されているのだとか。
今回は、非営利団体向けに企画されたコーチング研修に1年前に参加したフローレンスの3名に、その後どのような変化を体験されたのかを赤裸々に語っていただきました!
<研修を受けた3名のプロフィール>
赤坂 緑(あかさか みどり)
ディレクター
前職:通販関係の企業でマーケティング→キャリアカウンセラー・講師
病児保育事業部・みらいの保育園事業部の事業運営全般、スタッフの育成を担当。現場の保育スタッフを入れると約300名だが、園長19名との関わりが中心。事務局スタッフは約40名。
宇野澤ちはる(うのさわ ちはる)
働き方革命事業部(人事労務・採用育成)マネージャー
前職:キャリアコンサルタントとして障害者の転職支援
人事全般を担当。人事スタッフは25名ほど。
杉山 富美子(すぎやま ふみこ)
障害児保育事業部 ディレクター
前職:国内消費財メーカー、外資系消費財メーカーのブランドマネージャー
障害児保育園ヘレンの運営を主に担当。現場の保育スタッフを入れると約100名だが、直接的なマネージメントではなく園長6名との関わりが中心。事務局スタッフは約10名。
<インタビュアー>
平川徳好(ひらかわ のりよし)
株式会社ウエイクアップにて、ETIC.との協働で非営利組織向けのコーチング研修を企画。研修当日のトレーナーも担当。CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ®・コーチ、ICF国際コーチ連盟プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ。
CTIジャパン コーチング https://www.thecoaches.co.jp/coaching/index.html
メンバーとの1on1に、このままでいいのかモヤモヤを抱えて
ーー今日はよろしくお願いします。まず、皆さんは研修前どんな課題意識を持たれていたのかお聞かせください。
- 宇野澤さん
(以下、敬称略)
- 私はメンバーとの1on1での声かけに悩みがありました。最初は私が上司と始めた1on1だったのですが、その時間がすごくいいなと感じて他メンバーとの1on1も始めたんですね。ただ、どうしても業務報告になりがちで、理想とするのはそうした時間ではないのにどう声かけをすればいいのか悩んでいたんです。そうしたタイミングに今回のお話をいただいて、最初はコーチングに懐疑的だったのですが受けることにしました。
ーーコーチングには懐疑的だったのですね。
- 宇野澤
- そうなんです。ただ今回研修を企画しているCTIさんのホームページを拝見して、今まで自分が感じていたコーチングのイメージとは少し違ったアプローチをされるのかもしれないと感じたので、1on1でのメンバーとの関わり方を改善するヒントを得られればと参加を決めました。また、コーチングの存在意義に対しても多角的に知りたかったという気持ちもあります。
ーーありがとうございます。他のお二人はどうでしょうか。
- 赤坂さん
(以下、敬称略)
- 私も宇野澤さんと一緒で、メンバーとの1on1に対して本を読んで試行錯誤してきたのですが、これでいいのか疑問に思っていたんです。そうしたモヤモヤに対して何か解決のヒントを得られるのではないかと参加を決めました。あともう一つは、CTIのホームページを拝見して、前職のキャリアカウンセリングの領域では学べなかったことを学べるのではないかと感じたことがあります。とはいえ、一番はなんだか面白そうだなと思ったからですね。
- 杉山さん
(以下、敬称略)
- 私はそこまでロジカルに考えていなくて(笑)、研修の担当者がフローレンスをいい組織にしたいと真剣に思っていることは知っていたので、その彼が一生懸命に探して提案してくれたことだから意味があるだろうと興味が湧いたんです。それに、彼がせっかく提案してくれても周囲が動かないとチームは変わっていかないですから、まずは自分が乗ってみようと思いました。
課題ではなく人に焦点を当てるコミュニケーションを知った
ーー研修ではコミュニケーションの基本から関係性が行き詰まったときの具体的な声かけの方法までを学んだということですが、受講しての印象はどうでしたか?
- 杉山
研修で教わったコミュニケーションの方法が、これまで仕事上で経験してきたコミュニケーションとは大きく異なったことが印象的でした。
これまでは事業会社で事業計画を立て推進していく仕事をしてきたので、関係者の気持ちに焦点を当てるということをあまり意識せずにきたんです。でもフローレンスは「人」がすべての事業。自分の課題解決型の思考特性と相手の求める対応との間にギャップを感じてはいました。そうした中研修を受けて、「課題」でなく「人」に焦点を当てる考え方や方法があるのかと、目から鱗が落ちましたね。まだまだそのギャップを完全に埋められているとは思えませんが、そうしたことを知れただけでも価値があったと思っています。
- 宇野澤
- 私も似たような感想です。フローレンスに集まる現場のスタッフさんたちは社会課題解決よりも目の前の子どもに対して何かをしたいという想いを持たれている方がほとんどです。「To Be(こうありたい)」を大切にしたい人たちに課題解決のための「To Do」に偏ったコミュニケーションをしても響かないんですよね。皆それぞれに想いはある。それゆえに、価値観の掛け違いによる関係不和にも悩んでいて、現場の退職率もそれなりにある。そんな状況で、今回のコーチング研修では「私はどうしたい」「あなたはどうしたい」に向き合うことを体感でき、これまで悩んできた状況に働きかけるための学びを得ることができました。
ーーなるほど、「私はどうしたい」「あなたはどうしたい」を体感したという具体的なエピソードはありますか?
- 宇野澤
- 研修2日目の夜に「ここまでの2日間で学んだことを誰かに実践しましょう」という宿題があって、当時小6だった娘を相手に実践してみたんです。幼いのでまだ言語化は得意じゃない。でも思っていることはたくさんあるという彼女。普段はつい「なぜ●●しないの?」から入ってしまっていたのですが、「どうしたい?」「一緒に考えよう」という時間を意図的に持ってみました。すると、彼女から今まで聞いたことのなかった感情、想いが出てきたんです。たった1時間程度でしたけどこういう風に関係性を変えることができるんだと実感できて、これは言語化が決して得意じゃない現場のメンバーも幸せになれるアプローチだと感じました。
ーーこれまでのコミュニケーションとは明確な違いを感じたんですね。
- 宇野澤
- そうですね。前職ではキャリアコンサルタントをしていたので人の話を聞くのは得意な方だと思っていました。しかし、ある程度自分の中で答えや落とし所を持って相手の話を聞いていたことに気がつきました。答えを持たない状態で“本当に”相手の声を聞くのはこんなにしんどいのか・・・集中力がいるのかと驚きました。
ーーありがとうございます。赤坂さんはいかがですか?
- 赤坂
スキルだけを学びにいったわけではないんですけど、関係性がうまくいかないときにすぐに使える質問の仕方を知れたことはすごく助けになりました。あとは2人も言っているように、「どうありたいか」に焦点を当てることが意識できるようになったと思っています。
事務局のメンバーもそうですが、特に保育スタッフは強い想いを持ってフローレンスに入ってくれている方がとても多いです。が、そうした想いとビジネスとして成立させていくための数字との兼ね合いを保たせることは正直大変で。理解してもらえる言葉で数字について伝えようと努力しつつ、想いも受け止めつつとしていると、正直難しさを感じることもあるんです。そんな中、相手がどうありたいのかと、こちらが相手にどうあってほしいかを大切にしながら、コミュニケーションをしていく際にすごく助けになる学びを得ました。
ーーなるほど、具体的にはどんなスキルが特に役立つなと感じられましたか?
- 赤坂
- 問いを広げていく方法である「拡大質問」、聞くばかりでなくて自分からの提案を伝える「要望」、誤魔化したい気持ちから話が脇道にそれていってしまったときに使える「中断」ですかね。「要望」は今でも苦手なんですけど、ちゃんと意識してやることが大事だなと思っています。
研修当日の様子。実践しながらスキルを学んでいく体験学習方式。
1on1での「挑戦しようと思えたのはこの時間があったから」という言葉。相手の変化を実感した1年間
ーー研修から約1年経ってみて、皆さん自身や組織の変化はいかがでしょうか。
- 杉山
相手が課題解決を望んでいないケースがあると知れたので、自分がどう振る舞えばいいか立ち止まって考えられるようになりました。自分が見ていることだけがすべてではないですから、自分の視点から見えた課題や解決手段だけを信頼するのではなく、相手に委ねても物事は変化していく可能性があると思えるようになりました。紆余曲折してもその人なりの着地があって、それを経験したことでその人が変わったり、自分にとっては想定外でも素晴らしい結果が生まれたり、そうしたことにもっと期待してもいいんですよね。
とはいえ、もともと課題解決型思考が強いこともあり、いま常にそれらに取り組めているかと言われるとできていません。5%くらいの比率で変われたという感覚です(苦笑)。ただ、この5%をもっと広げていけたら、課題解決思考じゃない周囲の人が楽になるんだろうなと思っています。
- 宇野澤
- 私は2人より前にコーチングの研修を受けたのですが、その時に杉山さんから、担当する園の課題について相談を受けたことがありました。そのとき「もう少し相手が何を考え感じているか聞いた方がいいと思うよ」と伝えたのですが、杉山さんは全然腑に落ちませんという顔をしていた記憶があります(笑)。けれど最近は本当に変わって、その人なりの真実や想いがあると思って相手の話を聞こうとしている姿をよく目にします。
- 杉山
- これまでは相手に「お任せしますよ」と言いながら口を出してしまったりしていたのですが、相手の視点や考えを尊重できるように意識するようになりました。あとは「今回はまずこの人の話を聞く!!」って何度も自分に言い聞かせてたりします(笑)。
- 赤坂
「相手の気持ちが動かないと前に進まないので、丁寧に進める必要があります」とか、人数の多い会議の場でも言うようになったよね。
私は、1on1で相手がどうありたいのかを時間をかけて聞くようになったことと、要望も伝えられるようになりました。また、これまでより意識的に期日設定ができるようになりました。具体的なアクションや期日が流れがちなメンバーもいたのですが、こちらが意識するようになったことで変わってくれた方もいるように感じています。
- 宇野澤
- 杉山
- 赤坂
- 受け止める方よりも、自分を出す方の変化が大きかったのかもしれないです。研修を担当されたコーチのお一人が感情を上手に表現する方で、こうした在り方もOKなんだとすごく新鮮で、1on1をする側でも受ける側でも、役割があってももう少し自分を出してもいいのかなと思えるようになりました。
- 宇野澤
私は人事なので普段あまり関わらない現場の先生やリーダー層、スタッフと面談で話す機会が多いのですが、短時間での関係性構築がしやすくなったなと感じています。相手に興味関心を持っていると伝えること、最初に関係性を作るための導入を作ることで、以前と比較して相手と話がスムーズに進むようになりました。
相手の可能性を信じるという気持ちはそれまでも自分の中で持っていたのですが、コミュニケーションへの反映の仕方を学んで、少しづつ関係性が良くなったり相手が変わっていく経験ができているのは研修を受けたおかげだなと思っています。
ーーそうした変化の具体的なエピソードはあったりしますか?
- 宇野澤
- 最近嬉しかったのは、現場の先生でとても自己肯定感が低くて、ロジックで伝えてもなかなか行動を変えることが難しい方がいらっしゃったんですね。その方がある資格試験にチャレンジすると言ってきてくれたんです。これまでは「私なんて」とよく言われる方だったんですけど、「できない言いわけをするのがカッコ悪いと思うようになった」と話してくれました。「挑戦してみようと思えたのは1on1の時間があったからで、やってみてできなかったらそのとき考えればいいんだと思えるようになった」と言ってくれたんです。
- 杉山
- 宇野澤さんは人事として相談を受けることが多い立場なんですけど、相談するといつも「一緒に考えたい」って言ってくれるんです。答えがないことに迷ったり悩んだりするとき、一緒に考えてくれるその関わり方にとても助けられています。
- 赤坂
- この1年、特に現場リーダーの1on1をやっていて、明らかに相手がいい変化をしたなと感じられる例が本当にいろんなシーンでありました。この研修で受けたことが影響しているんだろうなと私も感じています。
ーー最後に、これからこうしたコーチング研修を受ける人たちに向けて一言お願いします!
- 赤坂
- 宇野澤
- 杉山
- 今日は改めて振り返る時間を持ててよかったです。同じ経験をした人と振り返り続けられる機会があるといいなと感じたので、ぜひ研修を終えたら一緒に語りたいです!
ーーありがとうございました!
「自分も学んでみたい!」と思った方へのご案内・お誘い
ETIC.では、株式会社ウエイクアップ/CTIジャパンの協賛・協力により、今回インタビューを受けた3名も参加したCTIのプログラム(基礎コース)を、非営利組織で働く方々を対象に特別価格で実施しています。
より大きな変化の実現に向けて、「自分とまわりや社会の想いを大切にしながら、現実を前に進めるためのコーチングのスキルとスタンス」を多くの人に学んでほしいという意図とともに、これまで2回実施し、多くの団体の方にご参加いただきました。
今後も年に1~2回実施していく予定で、次回は2020年冬ごろの開催を考えています。ご関心のある方・詳しい話を聞いてみたいという方は、ETIC.までお問い合わせください。
【お問い合わせフォーム】
https://forms.gle/c6jz9QanSwKDW4qp8
2020年2月に6団体合同で開催された第2回の集合写真
もちろん、そこまで待てないという方は、ぜひCTIジャパンの公開コースへのご参加をご検討ください。
https://www.thecoaches.co.jp/coaching/index.html
※新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、2020年4月~6月までの公開コースが7月以降に延期になっております。詳細はウェブサイトをご確認ください。
あわせて読みたいオススメの記事
#経営・組織論
#経営・組織論
マネジメントはパンク寸前?!フラストレーションから始まった改革~ETIC.のあるチームが組織開発プログラムを受けてみた~
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論
社会が変わるサービスが生まれるヒントは、「ダイバーシティ」にある〜マネックス証券「パートナー口座」のチャレンジ