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2017年9月13日、2024年夏季五輪の開催都市がパリに決定した。東京の4年後となるパリは、オリンピックをどのような機会として捉えているのか?パリのオリンピック組織委員会とソーシャルビジネスや中小企業をつなぐプラットフォームである「ESS 2024」を率いるリーダー、LES CANAUXのElisa Yavchitz氏と、YUNUS SPORTS HUBのYoan Noguier氏にインタビューを行った。
※ESS: フランス語でEconomie Sociale et Solidaireの頭文字をとったもの
オリンピックはソーシャルビジネスの市場を拡大する契機になる
ーLES CANAUXやYUNUS SPORTS HUBが設立された背景を聞かせてください。
LES CANAUXは、2017年にパリ市によって設立された民間の組織です。パリ、そしてフランスのソーシャルビジネスや中小企業、サーキュラーエコノミー、その他社会や環境によいインパクトをもたらすことを第一の目的として活動するあらゆるセクターを支援しています。
YUNUS SPORTS HUBは、スポーツの世界でソーシャルビジネスのコンセプトを広げ、実装していくことをミッションとした取り組みです。ノーベル平和賞受賞者であるMuhammad Yunus(ムハマド・ユヌス)氏のリーダーシップのもと、ESS 2024の国際展開をリードしています。
私たちは、2024年のパリオリンピックが、パリ、そしてフランスのソーシャルビジネスや中小企業がその市場を拡大していく大きな契機になると考えています。彼らがこの契機を最大限に活用し、オリンピック競技大会の調達やその周辺で生まれるあらゆる市場機会に参画できるように支援することが、私たちESS 2024の役割です。これは、新しい時代のオリンピック・レガシーとして、大会後にも引き継がれていくものです。
ーソーシャルビジネスの市場を創る機会としてオリンピックを活用する。その発想はどこから来ているのですか?
Muhammad Yunus氏は、2016年にリオ・デ・ジャネイロで行われた第129次IOC(国際オリンピック委員会)総会で、我々はスポーツを通じて人々のソーシャルアントレプレナーシップを喚起することができる、と発言しました。このメッセージを受けて、パリは招致段階から「史上最もサステナブルでインクルージブなオリンピック」というビジョンを掲げています。オリンピックのような大きなイベントを通して、環境問題や社会問題への取り組み方そのものを進化させていくことを、世界に先駆けてリードしようとしているのです。
オリンピック調達総額70億ユーロの25%をソーシャルビジネスや中小企業が獲得するという野心的な目標設定
ー「史上最もサステナブルでインクルージブなオリンピック」というビジョンに向けて、ESS 2024はどのような活動をしているのですか?
最初の仕事は、総額70億ユーロと言われるパリオリンピック調達全体の25%をソーシャルビジネスやローカルな中小企業が獲得する、という野心的な目標を打ち出すこと。そして、それを組織委員会や大統領をはじめとする政治家、また市民に広く啓蒙していくことでした。
この活動が実り、「25%調達方針」は2018年にパリ組織委員会から社会憲章という形で宣言され、ビジョンを推進する大きな原動力となっています。
ーオリンピックの調達とは、具体的にどのようなものですか?
競技施設などの建築物をはじめとして、ユニフォームや機器、食事、大会の運営を担う人材に至るまで、さまざまな領域のものがあります。
私たちの役割のひとつは、環境や社会によりよいインパクトを生み出すことのできるソーシャルビジネスや中小企業を見極め、公募入札を通して調達契約を勝ち取れるように支援することです。
実際には、彼らは入札に参加する要件を満たしていない場合もあるため、私たちは
・要件を満たすことそのものを支援する
・すでに要件を満たしている大企業とマッチングして、コンソーシアムを形成する
ことも行っています。
ソーシャルビジネスと大企業のコーディネイトは、市場創造の起爆剤になる
ー目指しているソーシャルセクターと大企業のマッチングの例を教えてください。
例えば、オリンピック選手村や大会関連プログラムにおける食事の提供(ケータリングサービス)について考えてみましょう。
フランスでは、難民や長期の失業に陥っている低所得の人々に食事を提供するソーシャルビジネスがたくさん活動しています。また、パリの小規模なレストランには世界のあらゆる地域からシェフが集まっており、彼らの腕を活かすことで、地域の食材を生かした多様な食事や食文化を楽しむことができます。
一方で、オリンピックのケータリングサービスに参画するためには、複雑な食材の品質管理体制や大規模スポーツイベントでの提供経験などの調達要件を満たしている必要がある。それらを満たしているのは、Sodexo Franceなどの限られた大企業だけです。
しかし、だからと言ってソーシャルビジネスや中小企業が調達に参加できないわけではない。ここで問うべきは、どうしたら彼らが要件を満たせるのか?ということです。単独で難しいなら、他のソーシャルビジネスと協働すればいい。あるいは、要件を満たすSodexoのような企業とコンソーシアムを組むことによって、大会期間中だけでなく、その後も協働が続くかもしれない。このように、ケータリングサービスを含めたあらゆる調達領域にマッチングの可能性があると思っています。
ー日本では、オリンピックはそのような市場機会であると、多くのソーシャルビジネスが捉えられていないように感じています。
それは、適切な情報提供や教育がなされていないからだと考えています。パリでも、私たちがソーシャルビジネスや中小企業の経営者に会うと、「オリンピックの調達契約は複雑すぎる」「大企業とのパートナーシップなど現実的ではない」という声が聞こえてきます。しかし、一度契約に至ることができれば、学ぶことは非常に多いですし、大会後もパートナーシップが継続する可能性があるのです。
ー大企業にとってはどのようなインセンティブがあるのでしょうか?
サステナビリティ投資の市場が急拡大する一方で、企業は常にイノベーションを生みだすアイデアや人材を求めています。特に優秀な若い人たちが、大企業ではなくソーシャルアントレプレナーなどの道を選択するケースも増えています。これらは世界中で加速しているトレンドであり、企業が彼らと協働する理由でもあります。
どうしたらソーシャルビジネスと大企業がオリンピック後も続くWIN-WINのパートナーシップを築くことができるか?この視点を持って、両者をコーディネイトしていくことが私たちの役割です。その際、比較的弱い立場に置かれがちなソーシャルビジネスの強みを引き出し、お互いをフラットな関係でつないでいくことが、中長期のシナジーを生むために大切だと考えています。
これは、大企業が彼らに競争優位のあるソーシャルビジネスを立ち上げることを長年支援してきたMuhammad Yunus氏(ユヌス・センター)の手法から学んでいることです。
東京2020のレガシーを創るのは、民間セクターの仕事だ
ー今回のインタビューを通して、オリンピックを手段として社会のあり方を変えていくことを、非常に戦略的に進めている印象を受けました。
パリは、新しい時代のオリンピック・レガシーを残していくためのこうした準備を、開催7年前から始めています。もちろん、市や組織委員会の強力なリーダーシップもありますが、彼らの第一の役割は大会を安定的に運営すること。オリンピック・レガシーの取り組みを実質的に進めるのは、むしろアントレプレナーや企業など民間セクターの仕事なのです。
ーパリに先立って、2020年には東京でオリンピックが開催されます。東京へのメッセージや、期待していることをお聞かせください。
東京は、残り1年を切っていますよね。「これが東京のレガシーだ」と世界に誇れるものを、世界にコミュニケーションしていくべきではないでしょうか?例えば、今回のオリンピックは、被災地の復興がレガシーのテーマのひとつですよね。もし民間セクターからも復興に向けたよい取り組みを発信することができれば、国際メディアや組織委員会はきっとそれを引用することでしょう。
また、東京とパリで学び合いの機会を持ちたいです。例えば、フランスでは海洋プラスチックごみの問題への関心が近年非常に高まっています。日本でも、海の汚染による漁獲量の減少は問題になっていますよね?日本のアントレプレナーや企業は、どうやってこの問題に取り組んでいるのでしょうか?お互いのレガシーの取り組みについて、ぜひ意見交換をしましょう。
オリンピックはより良い社会に向けて戦略的に活用するもの。レガシーは民間がつくるもの。今回のパリ訪問では、そのような強烈なメッセージを受け取った。世界の注目が東京、日本に集まる2020年。私たちは、新しい時代のオリンピック・レガシーとして、何を世界にコミュニケーションしていくことができるだろうか?
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