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勤め先の企業に所属したまま、地域へ。新しい働き方「地域おこし企業人」になって北海道・厚真町で働くということ

2019.09.27 

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民間企業に所属したまま地域に入って活動できる制度「地域おこし企業人」を知っていますか?

 

地方の自治体が民間企業などに勤める社員を、半年以上3年以内の期間、継続して受け入れるプログラムで、総務省が地方圏への人の流れを創出することを目指して2014(平成26)年度からスタートしました。

 

この制度を2015(平成27)年から導入したのが、北海道・厚真町です。基本的に、厚真町が開催している「厚真町ローカルベンチャースクール」へ参加し、まちで実行する企画を立案して、審査後に採用されています。

 

「地域おこし企業人」へのエントリーは、年齢制限がなく、三大都市圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)に本社機能を有する企業に勤務していることだけが条件(ただし、入社後2年未満の人は除く)。

 

実際に今「地域おこし企業人」として厚真町で活動している人たちがいて、厚真町では、今も「地域おこし企業人」を募集中です。民間企業からこの制度にチャレンジしたお二人と、厚真町役場の大坪秀幸さんにお話をお聞きしました。

 

厚真町地域おこし企業人へのエントリーはこちら(2019年10月15日締切)

https://www.a-zero.co.jp/lvslll-atsuma-lvs

「あなたのやりたいことをやってください」という厚真町

「厚真町でなら、僕の“やりたいこと”ができるんじゃないか」。そう期待に胸を膨らませたのは、関東の住宅メーカーに勤める大久保芳洋さんです。大久保さんは、妻の祖母と親戚が北海道夕張市にいる地縁に加えて、“やりたいこと”を持っていました。

 

「マウンテンバイクが好きで、全国をあちこち回り、山梨県で愛好会の活動に参加していました。いつかは自分が主体となって活動したいと思い、フィールドを探していたんです。全国のなかでも北海道がとても好きで、いつかここで暮らしたいと思っていたほどでした」

 

地方創生にまつわる情報収集をしていたときに知ったのが、厚真町。「『地域おこし企業人』という制度をやっているのか。先進的なまちだな」と感じたそうです。ほかの自治体だと地域側が求める具体的なプロジェクトがあり、それを担う人材を募集する形ですが、厚真町の場合は「あなたのやりたいことをやってください」という自由なスタイルだったことに魅力を感じたといいます。

 

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大久保さん。ホームフィールドである山梨県・道志村にて

 

そこで2018年8月、東京で開催された説明会で厚真町役場の大坪さんたちに出会い、自分のアイデアの種を話すと、それを前向きに受け止めた具体的なアドバイスをもらえたそうです。

 

「自治体職員にこういう柔軟な方たちがいるんだ、と驚くとともに、私のアイデアが完成されていって、『厚真町でなら実現できるんじゃないか』と思えました。それに、『地域おこし企業人』の仕組みなら企業が持っているリソースを地域に提供できる可能性があります。一人以上の力を発揮でき、地域との橋渡し役ができると考えました」

 

大坪さんが「会社を説得するためなら、いつでもあなたの会社に行ってご説明しますよ」と話したことが、大久保さんの胸を打ちました。「厚真町に対して行動を起こそうとする私のような人に、信頼を寄せ、支援をしてくださる。懐の広さと行動力を感じました」と話します。

 

大久保さんは「厚真町ローカルベンチャースクール」に参加しましたが、残念ながら会社側との都合がつかず、『地域おこし企業人』になることはできませんでした。

 

それでも大久保さんは、「厚真町とのつながりができましたし、同期の仲間とやっていることを見守り合うような関係になれました。参加してよかったと思っています」と話します。自分のプロジェクトを発表したことで、同意してくれるマウンテンバイク仲間もできたそうです。

 

厚真町とのつながりは今も続いています。2019年5月の連休には、厚真町役場のサポートのもと、プライベートの活動としてマウンテンバイク仲間と厚真町の山へ行き、今後どんなことができるかを検討する視察をしました。

 

「地域おこし企業人」にチャレンジする人にアドバイスをもらいました。

 

「やるか・やらないかで迷っているのなら、企画の内容が不十分だとか未完成だとかは気にせずに、できる範囲のものを全力で仕上げて、まずは応募することですね。きっと道が開けると思います」

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厚真町で、マウンテンバイク仲間と走ったときの一枚

“人生の経営者”として生きようと、決意

実際に厚真町へ「地域おこし企業人」として入ったのは、通販で知られる『フェリシモ』に勤める三浦卓也さんです。

 

三浦さんは、2000年に同社へ入社しました。入社3年目の2002年に結婚し、奥様が厚真町の隣にあるむかわ町の出身だったことから、むかわ町へよく行くようになりました。

 

「妻の実家では、会社員の義父が『毎朝、通勤が楽しくて仕方ない』って言うんですよ。あるとき僕も一緒に行ってみたら、毎朝車で、馬と触れ合えるテーマパーク『ノーザンホースパーク』の農道を通っていくんです。牧場の間を抜けて通勤していて、しかも『夜は温泉に入って帰ってくるから遅いよ』と言う。『いいなぁ。いつかこういう暮らしがしたいな』と思っていたんですね」

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三浦さん。神戸にある『フェリシモ』本社にて

 

三浦さんは2016年、厚真町で初めて「厚真町ローカルベンチャースクール」が開催されるとFacebookで知ります。厚真町は、義父がよく連れて行ってくれていて「いいところだ」と思って見ていたそうです。

 

その厚真町で“地域をおこす仕事をつくる”という呼びかけに、三浦さんは衝動的にエントリーしてしまったそう。その背景には、入社時に当時の会長から言われた次の言葉がありました。「会社員であっても“人生の経営者”。会社に使われるのではなく、会社を使って社会に対して何を成したいのか。何ができるのか真摯に向き合い“人生の経営者”として生きなさい」。その言葉がずっと心に残っていたのです。

 

「地域社会に対して会社を使って何ができるのか。それに挑んでみたいと思い、迷わず参加しました。とはいえ、会社としてどんなことができるのか、スクールでは非常に悩みました。いっそ会社をやめて地域に入るか、それともここであきらめるか……という葛藤がずっとありました」

 

そんなとき厚真町役場の大坪さんから「『地域おこし企業人』という仕組みがある」と聞き、「そんな仕組みがあるんだ!」と驚いた三浦さん。その後、社長と話し合います。

 

三浦さんが「きちんと仕事をつくりに行きます。『公務員兼会社員』で、半分は公務員なんですよ」と伝えると、「おもしろそうやから、やってみたら。でも今の新規事業開発の仕事をそのまま続けること、そして会社の仕事につなげることが約束」と許可が出ました。こうして三浦さんは、2017年4月から厚真町に入り、神戸との2拠点生活を始めたのです。

企業でやっている仕事は、自治体や地域にとってとても貴重

どのようなことをするか、はじめは戸惑ったものの、厚真町の人と外の人を結びつける役目に気づいた三浦さんは、石けん「GOTOCHI SOAP 北海道厚真町産ハスカップのソープ」の商品化をしたり、神戸で期間限定のジンギスカン店をオープンしたり、活動を始めます。

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2018年9月、そんな矢先に起きたのが北海道胆振東部地震でした。三浦さんはちょうど厚真町にいたため、その被災経験から、今後どうやってまちの未来をつくっていくか深く考えました。

 

「産業の復興というか、地域の希望をつくることができないかなと思って、『ここでもう1回やる』と決めた人たちを支援したいと思ったんです」

 

三浦さんは、その想いを形にしました。もともと『フェリシモ』に、可能性のあるベンチャー企業に対して投資を行うCVC(Corporate Venture Capitalの略)をつくる計画があったことから、震災からちょうど3ヵ月後にあたる同年12月6日、『フェリシモ』の100%出資の子会社『hope for()』を厚真町に設立したのです。

 

震災から半年後の2019年3月、1社目に出資を行いました。現在その会社は、厚真町であるプロジェクトを進行しています。また、同年9月より北海道庁からの復興支援事業を受託し、近隣の3町の事業者や外部の事業者と連携して地域の商品開発支援などもしています。

 

「マーケティングの視点や商品開発の目線など、会社で当たり前のようにやっていることが、地域にとってはとても貴重なのだと知れました。また、震災を機に、『フェリシモ』のお客さまとともにまちの支援活動をすることもできました。お客さまから募った『北海道胆振東部地震支援基金』を活用し、町内にある厚真神社の復旧と、2019年9月15日に実施される親子イベント『森のひろば』を支援させていただきました」

“自分が会社を通して”何を提供できるのかを考えるようになった

厚真町に入ってから2年半ほど経った今、三浦さんは「地域おこし企業人」という制度を、どのように感じているのでしょうか。

 

「この制度で厚真町に入り、会社から与えられた仕事を行うのではなく、“自分が会社を通して”地域社会に何を提供できるのか? を考えるようになりました。さらに、地域の課題に向き合う自分に主体を置いて考えるようになったことで、これまで出会えなかったような仕事の仲間やパートナー企業と出会えました。彼らとは『地域課題の未来をつくる』という志でつながっています。その結果として、会社側にも数多くの新しい事業パートナーをつなぐことができましたし、新規事業として志を共にできる事業者への投資も始まって、新しいフィールドが拓けました」

 

三浦さんは、生き生きとした表情をしています。本人はもちろんのこと、地域や所属企業にも変化をもたらすことのできる「地域おこし企業人」。最後に、役場側の意見を聞いてみましょう。

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三浦さんや厚真町を訪れた『フェリシモ』の社員と、厚真町の人たちでバーベキュー

 

厚真町役場の大坪さんは、総務省のいろいろな制度の資料を読んでいてこの制度を知ったといいます。

 

「『地域おこし協力隊』は企業などを退社してフリーの立場で地域に飛び込む一方で、『地域おこし企業人』は企業に籍を置いたまま地域で活動できます。これは、特に子育て世代や家庭を持っている方にとってハードルが低く、良い制度だと感じました」

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厚真町役場にて写真中央が大坪理事。

 

「地域おこし企業人」は、地域おこし協力隊と同じように、国は特別交付税で受け入れに要する経費を措置してくれるため、市町村が多額の負担をするわけではありません。それが大坪さんの背中を押し、導入を決めました。

 

2015(平成27)年、一人目の「地域おこし企業人」の小松美香さんがまちへ入りました(参考記事はこちら)

 

大坪さんが、縁あって出会った企業の社長にこの制度を話し「まちに職員を派遣してくれませんか」とお願いしたところ、その意向を受け入れてくれ、社内募集で名乗り出たのが小松さんでした。小松さんは2018年3月までの3年間、「地域おこし企業人」としての任期を終えた後、勤めていた企業を円満退職し、なんと同年10月から厚真町役場の職員になりました。

 

「行政と企業は仕組みや仕事を進める手順が違いますから、企業の方が企業のノウハウを活かした仕事のしかたを見るだけでもまちにとって効果がありました。それにまちへ来ていただいて働くこと以外にも、企業とつながっていることで新たな企業との関わりが生まれたり、イベントや学生と交流する場にお誘いいただいたりして、予想以上に大きなメリットがあったんです」

 

その後、二人目としてまちへやって来たのが先述の三浦さん。現在、三人目の「地域おこし企業人」も決定しています。あなたも、厚真町で新しい働き方を始めませんか?

 

厚真町地域おこし企業人へのエントリーはこちら(2019年10月15日締切)

https://www.a-zero.co.jp/lvslll-atsuma-lvs

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小久保よしの

編集者・ライター。編集プロダクションを経て、 2003年よりフリーランス。 雑誌『ソトコト』での執筆や北海道・厚真町の情報発信業務など、ローカルやソーシャルジャンルでお仕事中。担当した書籍は『コミュニティナース』矢田明子(木楽舎)、『ローカルベンチャー』牧大介(木楽舎)、『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。2017年春より、奈良県へ移住。