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起業家と原体験――人生をかけて社会変革に取り組む「インパクトヒーロー」たちの横顔

2019.11.26 

「原体験は必要か?」――この問いは、スタートアップ界隈では定期的に話題になるテーマではないでしょうか。

起業家ではなくても、多くの方がこの問いに向き合った経験があるはずです。例えば就職活動などの際には、「自己分析」を行い、自分の関心や情熱がどこから来ているのかについて、その原体験を振り返ることが一般的になっています。

筆者も、就活や転職などを何度か経験したこともあり、自分の今の仕事や生活スタイルについて、原体験と紐づけて語ることは難しくありません。

ただ最近、この原体験、特に起業と原体験について考えさせられる機会があったので、簡単にお伝えしたいと思います。

アジア太平洋のインパクトヒーロー(IMPACT HERO)たちの原体験と志

インパクトヒーロー

先月、一般社団法人アース・カンパニーとこのメディアを運営するNPO法人ETIC.の共催で、アジア太平洋の女性社会起業家を招いてお話を伺う会を開催しました。日本からの参加者は、社会起業家や国会議員などの女性リーダーたち。

アース・カンパニーは、アジア太平洋で活動する社会起業家を「インパクトヒーロー(IMPACT HERO)」として年に一人選出し、彼らの資金調達やマーケティングなどの支援を行っています。今回お話を伺ったのは歴代のインパクトヒーローたちでした。

 

共催のETIC.も20年以上、起業支援プログラムの提供などを通して、日本における社会起業の広がりを後押ししてきた団体です。今回は、ETIC.でいままで関わりのあった社会起業家を中心とする女性リーダーたちをお招きしました。また、起業家だけではなく、SDGsなどに関心の高い女性政治家も複数参加。

朝食会という形で、冒頭、インパクトヒーローたちの経歴やストーリーについて説明があり、その後、参加者が彼女たちを囲んで自由に意見交換をするというスタイルでした。ここで伺ったインパクトヒーローたちのストーリーには、圧倒されました。

 

ベラ・ガルヨスさん

ベラ・ガルヨスさん

2015年のインパクトヒーローであるベラ・ガルヨスさんは東ティモール生まれ。幼い頃、インドネシア軍支配下の東ティモールで、軍に兄弟を殺され父親は拉致・投獄されました。わずか5ドルで人身売買された後、16歳で唯一の少女兵として東ティモール解放運動に参加します。それから国外脱出のため、インドネシア賛成派に扮してインドネシア軍に入隊。カナダ派遣の任務中に無事亡命を果たします。国連開発機関への勤務、ハワイ大学への留学を経て39歳の時に大統領補佐官に任命されました。同時に、私財を投じて東ティモール初の環境学校を設立。2018年からはこちらの学校の運営に専念しているとのこと。

 

プライベートでは、同性のパートナーと一緒に、兄から引き取った子どもを育てているそうです。東ティモールで唯一、LGBTIであることを公表している女性として、LGBTIの子どもたちを支援するプロジェクトもスタート。また、ベラさんは2022年の大統領選への立候補を表明しています。

※LGBTIの「I」は、男性・女性の典型的な定義にあてはまらない生殖・性的構造を指す「Intersex」(インターセックス)の意

ベラ・ガルヨスさんの詳しい経歴はこちら

 

ロビン・リムさん

ロビン・リムさん

2016年のインパクトヒーローであるロビン・リムさんはフィリピン生まれ。アメリカ人の軍人だった父親がベトナム戦争の経験で重いPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったことから、愛や平和に対しての思いを強くします。

学校で詩を教えながら4人の子どもを育てるシングルマザーでしたが、34歳の時に妹を妊娠合併症で失い、助産師を志します。その後、アメリカとインドネシアで助産師の資格を取得し、39歳でインドネシアのバリ島にNGOブミセハット国際助産院を設立。ここでは24時間365日、貧しい母親たちに無償医療を提供しており、サービスを受けた人は30万人を超えるそうです。

ロビン・リムさんの詳しい経歴はこちら

 

キャシー・ジェトニル=キジナーさん

キャシー・ジェトニル=キジナーさん

2017年のインパクトヒーローはキャシー・ジェトニル=キジナーさん。マーシャル諸島生まれ、ハワイ育ちの気候変動活動家です。ハワイでは、肌の色の違いや発音の訛りから、人種差別を経験。大学卒業後、マーシャル諸島に戻った際に高潮を経験し、気候変動が私たちの生活に及ぼす影響を実感します。この経験を詩にしYoutubeに公開したところ、大きな反響を呼び、気候変動に関する国際的な会議等にも呼ばれるように。2014年、26歳の時には国連気候変動サミットで詩を朗読し、各国の首脳陣から称賛されました。

現在はNGO「ジョージクム」を立ち上げ、マーシャル諸島の若者たちを環境問題に取り組む次世代リーダーに育成する活動を行ってるそうです。また、キャシーさんの母は、マーシャル諸島の現大統領(女性初)とのこと。

キャシー・ジェトニル=キジナーさんの詳しい経歴はこちら

 

ウェイウェイ・ヌーさん

ウェイウェイ・ヌーさん

最後のインパクトヒーローは2019年選出のウェイウェイ・ヌーさん。ミャンマーでロヒンギャ民族として生まれました。大学生の時に、政治家だった父親が議会でアウンサン・スーチーと一緒にいたという理由だけで、家族全員が逮捕されてしまいます。7年間の刑務所生活の中で、社会的弱者である女性たちに出会い、「女性をエンパワーしたい」「誰もが教育を受ける権利がある社会を作りたい」という使命を感じるように。釈放後、ヤンゴンにユースセンターを設立し、様々な民族が民主主義やリーダーシップを学ぶプログラムを提供しています。

ウェイウェイ・ヌーさんの詳しい経歴はこちら

 

日本という平和で豊かな国に暮らしている私たちには想像もできないような困難を経験している起業家たちのお話に、日本の参加者の皆さんも驚きを感じているようでした。ひとつのエピソードだけでも原体験として重いものなのですが、それが一人の中に幾重にも重なっているのです。

「自分の情熱の源や好きなことを探そう」と言われて、なかなか見つからずに困っている人が多い中で、彼女たちの迷いのなさはとても新鮮に感じられました。逆に、その自分の使命や周囲の期待から逃れられない辛さもきっとあるのではないかと想像しました。

日本の女性リーダーたちとインパクトヒーローたちは、それぞれが取り組む社会課題に関して、2時間近く活発に意見を交わしていました。

インパクトヒーロー(IMPACT HERO)たちを支援することで、ともに変革を起こす仲間に

冒頭で、筆者は自分の原体験についてはある程度、認識できているという話をしました。しかし、原体験を持ってなくてもやりたいことに邁進している人はたくさんいますし、個人的には原体験を持ってなくてもいいと思っています。また私も含め、原体験が意識できている人でも、本当は別に理由があったり、なんとなくだったりするのに、人と違った経験を原体験として分かりやすいストーリーに仕立てている可能性もあるのではないでしょうか。

選択肢が増える中で、やりたいことが見つからなくて迷う人が増えています。そんな時は、自分の中に無理に原体験や情熱を探すのではなく、今回ご紹介したような強烈な使命を持って活動している方たちを、自分にできる方法で応援するという道を選んでもいいのではないかと思います。

 

例えば今回来日した起業家たちを支援するのには、アース・カンパニーが以下のような方法を用意しています。

アース・カンパニーを支援する5つの方法

 

「この地球は、先祖から継承したのではなく、私たちの子供たち、子孫から、借りているのです。」

“We do not inherit the Earth from our ancestors. we borrow it from our children.”

これは、アース・カンパニーが活動指針として掲げているネイティブ・アメリカンの格言です。壮大で、なかなか普段の生活にはなじまない言葉かもしれませんが、今回お話を伺ったインパクトヒーローたちを思い浮かべると、しっくりくるのではないでしょうか。

 

これからますます世界を変えていきそうな彼女たちを、私も引き続き応援しています。

 

参加した日本の女性リーダーたちとインパクトヒーローたち

参加した日本の女性リーダーたちとインパクトヒーローたち

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佐藤茜

当メディア(DRIVEメディア)の前編集長。男の子2人の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。 福島県生まれ。大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 Twitter:https://twitter.com/AkaneSato