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世界の先進事例に学ぶ「社会システム」を進化させる方法

2020.03.18 

「社会課題の解決」や「より良い社会の実現」という願いを持つ人、そして実際に行動を起こしている人が増えつつあります。特に近年は、SDGsやESG投資の広がりとともに、NPOや社会的企業、行政に加え、企業セクターの取り組みも広がっています。 

 

その一方で、「こうした前向きな変化が起き、多くの時間・労力・専門知識等のリソースが投入されているにもかかわらず、課題解決への道のりはまだまだ遠い」という企業の悩みを聞くことが増えてきました。

 

目標とする状態を定め、解決までの効果的な道筋を描くのが困難な、複雑な社会課題。世界の先進的な組織では、どのように本質的に解決する戦略を立案し、実践、そして進化させているのでしょうか? 

 

その実例を紐解きながら学ぶべく、人身取引や紛争という複雑な課題の解決に取り組む米ヒューマニティ・ユナイテッドのマネージングディレクター、フィリップ・サイオン氏をゲストに迎え、勉強会を開催しました。今回はその内容をダイジェストでご紹介します。

 

フィリップ氏

 

【講師】 フィリップ・サイオン氏(Humanity United マネージングディレクター)

国際的な人身売買の問題に、インパクト投資およびコーディネーションや調査、アドボカシーなどを組み合わせて取り組む、eBayの創業者が設立した組織Humanity United(ヒューマニティ・ユナイテッド)マネージングディレクター。東南アジアのシーフードビジネスにおける労働問題、カタールでのワールドカップ開催に向けたネパール等からの人身売買問題、シリアやソマリアの平和構築等に、セクターを越えた協働等を通じて、システム変革を行い、解決をリードしている。

昨年夏までは、社会変革のための戦略コンサルティングファーム米FSG社のマネージング・ディレクターとして、長年フォーチュン500 企業へのフィランソロピー、CSR、CSV の取り組みに対するアドバイザリーに従事。中東、南米やアジアなど、米国以外の地域におけるコレクティブ・インパクトを推進し、セクターを越えた協働をリードしてきた。それ以前は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)の事務局、およびマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)、ブリッジスパングループ(Bridgespan Group)でのコンサルタントとして勤務。

 

【ヒューマニティ・ユナイテッドのアプローチの一部ご紹介】

人身取引・強制労働の問題を解決するために、7000社のサプライチェーンの健全度合いをチェックするなど企業へのアプローチをする一方で、政策へのアプローチもとっている。また39万人の脆弱な環境にいる人を巻き込み活動し、16,047人を奴隷状態から救い、36,231人の子どもが学校に行けるようになるという直接的な成果も創出。

(平和構築領域では、これまでの国際NGOの活動に加えて、市民の力を活かすこと、地域に根ざしたローカルNGOの活動を重視。その一例として、テクノロジーの力を使い、スマートフォンで弾劾の場面を市民が撮影し、それを通告する仕組みをシリアで取り入れている。

課題の複雑性によって、アプローチを変える

ソーシャルインパクトを創出するための従来のアプローチは、社会的なニーズを把握し、課題の解決策を企画・実行する、論理的な思考に基づくものでした。これは原因と結果が一直線につながっている前提のもとに成り立っています。社会の変化は特定の原因から引き起こされるもので、予測ができ、特定の方法で解決ができるという考えがそこにはあります。しかし、実際の社会問題はそこまで単純ではありません。原因が複数あり、予測が難しく、特定の解決方法が毎回機能するものではありません。

 

「課題」は、その複雑性によって大きく3種類に分けることができます。①単純(Simple)な問題、②複雑だが決まった解決方法がある(Complicated)問題、そして③複雑で決まった解決方法がない(Complex)問題です。

 

図

出典:FSG, adapted from Brenda Zimmerman: “Getting to Maybe”, Vintage ed., 2007

日本語訳:NPO法人ETIC.

 

①単純(Simple)な問題の例:ケーキを作る

②複雑だが決まった解決方法がある(Complicated)問題の例:ロケットを月に飛ばす(難しいが、手順通りに行えば実現可能)

③複雑で決まった解決方法がない(Complex)問題の例:子どもを育てる(同じように2人の子を育てても、同じようには育たない)

 

多くの社会問題は、3つ目の複雑で決まった解決方法がない(Complex)問題に含まれます。つまり、社会問題を解決するためには、1つ目の単純な問題に対する解決方法や、2つ目の複雑だが決まった解決方法がある(Complicated)問題に対する解決方法とは異なるアプローチが必要なのです。

 

しかし実際には、社会課題を②の複雑だが決まった解決方法がある(Complicated)問題としてとらえていることが多くあります。それでは複雑性の高い現実のダイナミクスを見失い、問題の解決はできません。複雑で決まった解決方法がない(Complex)問題にふさわしい方法が必要で、そのためのアプローチが今回紹介する、システム・チェンジ・アプローチです。世界の全ての要素が互いに影響しあっていると捉え、揺れ動くシステムの中でより良いインパクトを出すための手法です。

 

ここで、複雑で決まった解決方法がない(Complex)課題の例として、アメリカのサンフランシスコで15年間増え続けているホームレスの問題を取り上げます。ある事業家が、これを解決しようと、大量のテントをホームレスに配りました。皆さんはこの話を聞いてどう思いますか?

 

ご想像の通り、テントに住むホームレスが増えるだけです。ホームレスの問題はなくなりません。ホームレス問題の背景には、健康、雇用、アルコール中毒、薬物さらには気候変動とも関連した要素があります。それゆえに、特定のセクターの特定のプレイヤーの取り組みだけで解決はできないのです。まずこの前提に立つことが重要です。

システムの構造を理解する:マッピング

ヒューマニティ・ユナイテッドでは、人身取引や紛争という複雑(Complex)な課題に対してシステム・チェンジ・アプローチを用いています。

 

結論だけを単純化してお話しますと、システム・チェンジ・アプローチでは、社会問題をよりよく理解するために、その問題について広く、深く探求し、全体像やつながりをマッピングします。その上で、私たちが力を入れるべきレバレッジポイント(てこの原理の支点)はどこかを探します。

 

下の図は、ヒューマニティ・ユナイテッドで使用している人身取引問題を解決するためのマッピングです。要素は、リスク、透明性、説明責任、気候変動、セキュリティ、移民の増加など様々です。そして各要素が複雑に絡み合っています。AがBを引き起こし、Cにつながる・・・・・・同時にAはDとEも引き起こすといったことを、このマッピングをすることで見える化します。これにより、システムの構造を見落とすことなく問題に取り組むことができます。

 

アプローチの図出典:https://humanityunited.org/performancereport2016/

 

こうしたアプローチは、①取り組む複雑(Complex)な課題のシステムを、複雑なまま関係者間で理解すること、②レバレッジポイント(介入点)を見つけて持続可能な社会変革に向けた戦略を練ること、そして、③継続的に関係者間で見直すことで変化に対応し続けることを手助けしてくれます。

システム・チェンジを起こすためには、本質的な変化が必要

マッピングによりシステムを理解したら、どのようにシステムを変革するか、「システム・チェンジ」を起こすアプローチを考えます。

 

システム・チェンジを考える時には、3つのレベルの変化を考えることが重要です。1つ目は構造の変化(Structural Change)、政策の変化、取り組みの変化、資源の流れの変化です。2つ目が関係の変化(Relational Change)で、関係性やつながりの変化と力学の変化です。最後が、本質的な変化(Transformative Change)で、思考の前提となる考え方や価値観(メンタルモデル)の変化です。

 

図3出典:Kania, Kramer, Senge “The Water of Systems Change”, FSG, 2018

 

一例として、ヒューマニティ・ユナイテッドで取り組んでいる、ネパール人労働者の搾取問題について取り上げます。2022年 にFIFAワールドカップ が開催されるカタールでは、スタジアムやホテルなどの建設が進んでいます。労働者の8割以上が外国人で、その内80万人のネパール人が働いています。移民労働者は、就労時に航空券、ビザ代などをリクルーター(雇用を斡旋する人)に払わなければならず、借金と共にカタールに来るため、借金に縛られ、何年も無償に近い状態で働くことが少なくありません。

 

さらに、カファラ制度という、雇用主の許可がないと国外に出ることができない仕組みがあり、移動の自由が制限されていました。中には、パスポートを取り上げられているケースもあります。また、カタール国外から政府を訴えることもできません。そもそもは、ネパールの貧困問題ともつながっています。単純に労働搾取の現場を取り締まっても解決しない、まさに複雑(Complex)な課題です。

 

こうした課題に対し、ヒューマニティ・ユナイテッドはどのような取り組みをしているのでしょうか。

 

ヒューマニティ・ユナイテッドは、これに対して、両国に働きかけ、現在、カファラ制度は非合法となりました。社会制度という大きな構造の変化です。

 

しかし、それだけでは問題は解決されません。カファラ制度が非合法となっても、現場ベースでは「外国人労働者に対して支配的な関係を築く」考え方(メンタルモデル)がまだまだ息づいています。労働者へのヒアリングによると、制度が廃止された今でも雇用主の許可がないと国外に出られない現実があるそうです。構造の変化で満足せず、メンタルモデルが変革するまで、私たちはアプローチを続けます。

 

たとえば、強制労働が発覚した際に、関連する企業や団体が負うブランド損害及び風評のリスクを拡大することにも取り組んでいます。FIFAに対して、スタジアムの建設現場でネパール人の労働搾取があり、亡くなる人も出ていることを伝え、改善を要求します。FIFAにさらなるプレッシャーをかけるため、スポンサー企業やファンクラブにも働きかけます。

 

また、こうした状況に関する調査や報道があまりなされていないのも問題です。ジャーナリストに対して、労働搾取の現場を調査し報道するための支援もしています。

 

企業が労働搾取をやめるためのインフラやツールを開発する社会的なベンチャーへの投資を行うこともあります。

 

このように、複数の手法を組み合わせて、様々なセクターの様々なプレイヤーたちとともに、システムに変化を起こしていきます。

私たちの現場でどう活かすのか

以上がフィリップ氏のレクチャーの概要です。

 

「システム・チェンジ・アプローチ」はアメリカからやって来たバズワードなのでしょうか。その一面もあるのかもしれません。しかし、そのエッセンスには、社会の持続的な変化に向けたアプローチのヒントが詰まっていると感じました。

 

様々なプレイヤーとともに複雑なシステムに向き合いながら、私たちの意識や行動を変えていくこと。その積み重ねが大きな変化につながると考えています。

この記事を書いたユーザー

kurumi.watanabe

kurumi.watanabe

1997年生まれ、早稲田大学国際教養学部4年生、社会学・国際関係学を学ぶ。2019年12月よりNPO法人ETIC.にインターン生として参画。2020年4月からは株式会社マザーハウスに就職予定。

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