働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──
その兆しが横浜市にあります。
同市は、2019年1月に「イノベーション都市・横浜」を宣言し、その象徴となるロゴマーク・ステートメントとして「YOXO(よくぞ)」を決定しました。そして、2019年10月には、関内(かんない)にベンチャー企業成長支援拠点として、「YOXO BOX(よくぞボックス)」を設置しました。
YOXO(よくぞ)《WEBより抜粋》
この「イノベーション都市・横浜」の理念の下、「横浜市イノベーション人材交流促進事業」が昨年度に続き、2020年度もスタートします。これは、副業・兼業を活用した人材交流によりスキルを持った人材が関わりあうことで、自社の経営課題の解決や組織の垣根を超えた人材の交流・成長機会の獲得を支援するための事業です。
本記事では、この事業を担当している、横浜市経済局イノベーション都市推進部新産業創造課の石塚さんと上野さんにお話をお伺いしました(以下敬称略)。横浜市のみなさんのみならず、全国のみなさんにお楽しみいただければ幸いです。
横浜市経済局イノベーション都市推進部 新産業創造課 ICT専任職/石塚 清香さん
平成3年横浜市入庁。教育委員会における教育用PC/ネットワークインフラ整備担当、総務局情報システム課で横浜市国民健康保険システムの運用管理、金沢区地域力推進担当におけるICT担当を経験した後、2017年より現職。
横浜市経済局イノベーション都市推進部 新産業創造課 担当係長/上野 千織さん
横浜市出身。大学卒業後、横浜市役所に入庁。2019年より経済局にて勤務し、横浜市人材交流促進事業に携わる。
160年前の開港から、物語は始まっている──
──本日はよろしくお願いします。はじめに、「イノベーション都市・横浜」宣言についてお話をお聞かせください。
石塚 : 横浜市は日本最大の政令指定都市で、375万人(*)の方々が暮らしています。歴史的には160年前の開港から始まっています。1859年の開港以降、「人とものとが行き交う港」になったという経緯があり、海外から日本に初めてやってくるものは横浜を「入り口」に入ってくる、そのような場所でした。
(*)令和2年9月1日現在
そこから爆発的に色々な事業が生まれ、人も流れ込んできました。約160年の間に、関東大震災や横浜大空襲などの被害を受けながらも発展してきた都市、それが横浜です。
最近は少子高齢化の流れの中で、2019年をピークに人口減少の局面に入り、65歳以上の高齢者が100万人を超える人口推計も出てきており、「都市全体をどのように維持・発展させていくのか」という課題が出てきました。そんな中で、中期4か年計画の戦略に「力強い経済成長と文化芸術創造都市の実現」を打ち出し、「イノベーション創出」を推進しています。
「オープンイノベーション」という言葉がささやかれるようになって、その源──大事な要素が何かというと、「色々なものをオープンに取り入れていく土壌」だと思っています。横浜もその環境づくりに注力しています。みなとみらいには大企業のR&Dが集積し、すぐ隣にある関内エリアにはスタートアップが集まり始めています。それらを両輪で発展させ、オープンイノベーションを推進していこうと、私たちが在籍している「新産業創造課」が2018年にできました。
その象徴として2019年1月に、「イノベーション都市・横浜」を市長が宣言しました。「みなさんと一緒に、ここから始めていきましょう」という想いが込められています。
「イノベーション都市・横浜」宣言の様子(最前列中央:横浜市長 林文子氏)
──続いて、「YOXO BOX(よくぞボックス)」(ベンチャー企業成長支援拠点)についてもお伺いしてもよろしいでしょうか?
石塚 : YOXO BOXは、「イノベーション都市・横浜」宣言の後に、「スタートアップ支援」のために立ち上がった拠点です。横浜スタジアムのすぐ近くにあります。
三菱地所と他3社の共同企業体で運営し、アクセラレータープログラムを実施したり、ビジネスイベントを開催したりしています。起業家の卵のみなさん(プレシードからシードぐらいまで)が、イベントに参加し、ご自身の事業を磨いていく、学校のような場所です。
上野 : 昨年までは週1回のイベントをYOXO BOXで開催していたのですが、コロナの影響で現在はオンラインを活用しています。メインとなるアクセラレータープログラムでは、with/Afterコロナ時代の社会・経済の変革に挑戦する有望なスタートアップを支援しています。
「YOXO BOX(よくぞボックス)」(ベンチャー企業成長支援拠点)の外観《WEBより抜粋》
「YOXO BOX(よくぞボックス)」(ベンチャー企業成長支援拠点)の内観《WEBより抜粋》
人々の想いから、オープンイノベーションは生まれていく。
──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」の立ち上げについてお話をお聞かせください。
石塚 : 「イノベーション都市・横浜」「スタートアップ支援」「オープンイノベーション」などのキーワードを聞いた時に、一番やらなきゃいけないのは「人材の交流」だと考えていました。色々な人の「想いの摩擦」の中からイノベーションは生まれるからです。外から新しいものが入り、作用することで、新しいものがまた生まれ、色々なものに発展していきます。
もちろん「今の会社を辞めてから、別の会社に行く」という方法でも良いのですが、今の時代を考えると、「果たしてそれが新しい方法なのだろうか?」と思う人も増えていると感じています。
「副業・兼業の仕組み」で人の交流を促進させることは、スタートアップ支援との親和性も高いと思います。スタートアップ側も、欲しいスキルや人材──例えばマーケティングができる人材、マネジメントができる人材など──は、その時々の発展のレベルで変わっていくものです。またスタートアップやクリエイターの方々は流動性が元々高く、ITの人材はプロジェクトごとに会社が変わったりもします。そこで、スポットで「人材が交流する仕組み」があると有効なのではと考えました。
そして、国家戦略特区のメニューの一つ「人材流動化センター」に手を挙げて事業認定を受け、その中で「副業・兼業の仕組みを活用し、企業間の人材交流を促進させるため」に、「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を立ち上げました。
具体的には、「啓発」「支援」「発信」の3つの柱を立てて実施しています。私たち行政が真ん中に入り、空気づくりを担っています。副業・兼業をビジネスにしている企業も増えているため、そうした企業と公式パートナー(*)として連携し、事業を進めています。2019年10月にスタートし、マッチング事例も生まれてきました。
(*)この事業では、副業・兼業制度の啓発や人材マッチング事例創出等を共に推進する「横浜市イノベーション人材交流促進公式パートナー」も公募。
横浜市イノベーション人材交流促進事業 スキーム図《WEBより抜粋》
横浜市イノベーション人材交流促進事業 マッチングの流れ《WEBより抜粋》
事例をつくりながら、着実に広げていく。
──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を昨年度実施してみて、感想や手応えをお伺いしてもよろしいでしょうか?
石塚 : 「副業・兼業をやりたい」という人がたくさんいることを実感しました。一方で、副業・兼業を許可している企業が諸手を挙げて、横浜市内の中小企業やスタートアップに社員を送り出すという仮説は、あまり成り立たなかったのが正直なところでした。
受け入れ側でいうと、「副業・兼業の人材を活用しませんか」と声を掛けた時に、「ぜひやります」といっていただける前向きな企業が少しずつ出てきています。引き続き、マッチング事例を生み出しながら、着実に広げていこうと思います。
上野 : 本事業について、公式パートナーのみなさんからも「ぜひ一緒にやりましょう」と賛同いただけて、とてもありがたかったです。副業・兼業を業としてやっていらっしゃる企業が多いことも、私自身、事業をやりながら勉強させていただきました。
「副業・兼業人材に来てもらいたい」と考えた企業の方に、横浜市内で生まれたマッチング事例をお伝えできればと思います。
石塚 : 本事業の一環で、副業・兼業人材の活用セミナーを実施してみて、企業からいただく質問が2つに集約されることもわかりました。「労務管理や契約形態はどうするの?」「秘密保持の契約はどうするの?」の2点です。これらについてもしっかりと案内しながら後押しできたらと考えています。
昨年度のセミナーの様子。今年はオンラインで開催予定。
副業・兼業の流れが、「当たり前」の時代へ──
──今年度これから始まる「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について、そして今後の展望についてもお聞かせください。
石塚 : 横浜市は2020年7月に、自治体・企業・団体等が連携した、“スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム”の一員として、国の「グローバル拠点都市」に選定されました。今後は国の後押しもいただきながら、人や企業の集積を引き続き進めていきます。
最終的にはこの取り組みを通じて、横浜市内の中小企業やスタートアップの方々に価値を届けていくことが一番大事ですので、今年度も本事業でマッチング事例を積み重ねていきながら、企業が発展していく流れを生み出していければと思います。
副業・兼業は、「行政がいつまでも後押しをしていかなきゃいけないというわけではない」と考えています。公式パートナーのみなさんにご協力いただいているのも、そういう考えが背景にあるためです。いつかどこかのタイミングで組織を越えた人材の交流が「当たり前」の時代がやってくるだろうなと感じています。
上野 : 今年は、コロナの影響でリモートワークが急速に広がるなどワークスタイルの変化により改めて副業・兼業への考え方も変わってきていると感じます。また、企業側もそういった意識変化を取り入れながらビジネスのやり方を変えていくのではないかと想像しています。そうした社会の変革を意識しながら「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を進めていきたいと思います。
──石塚さん、上野さん、本日はお話ありがとうございました!
連載として続きます!
以上、石塚さんと上野さんのお話はいかがでしたでしょうか?
◆
さて今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施します。
副業・兼業に関する相談窓口(企業・人材向け)がWEBに設置されています。ぜひ詳細をご覧ください。
◆
※本記事の掲載情報は、2020年11月現在のものです。
【連載・第1回】
本記事
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