
8月からスタートした、和歌山県田辺市(たなべし)の関係人口創出プログラム「TANABEES」。先日は、田辺市にUターンして「TANABEES」を立ち上げた山田かな子さんのインタビューをご紹介しました。
今回からは、「TANABEES」の参加者がチームを組む「地域プレイヤー」と呼ばれる、田辺市で事業を行う人たちをご紹介します。
「地域プレイヤー」紹介の第1回は、「TANABEES」を支える4人の地域プレイヤーの中でも、シニアの生活サポートなどを主に行う「合同会社志成」社員の花村あゆみさんと、梅と柑橘を栽培する「尖農園(とんがりのうえん)」代表の小谷大藏さんにインタビュー。
田辺市と外部の才能をつなぐ新たな取り組み「TANABEES」への参画理由から、未来の可能性まで、2人の情熱と考えを掘り下げました。既存の枠組みや価値観を壊し、より良い地域社会や産業の未来を切り拓く熱い思いをお届けします。

花村 あゆみ(はなむら あゆみ)さん
合同会社志成(しせい)社員
田辺市鮎川出身。田辺商業高校卒業(普通科)。卒業後は進学せず地元スーパーなどでパート勤務の後、障害児のデイサービスに勤務し、子どもと関わる仕事に魅了される。働きながら勉強し、3年かけて保育士資格取得。福祉現場ではなく、教育現場で困っている子の代弁者になろうと、特別支援教育支援員として稲成小学校に勤務する。その後、もっと子どもたちの人生の選択肢に関わりたいと思い、相談支援専門員になり、夫が立ち上げた会社に所属し現在に至る。まごころサポートのコミュニティマネージャーとして、シニアの「ちょっと困った」に耳を傾けるサポートもしている。

小谷 大藏(こたに だいぞう)さん
尖農園(とんがりのうえん)代表
和歌山県田辺市の下万呂地区で100年以上前から梅と柑橘の栽培に取り組む農家の5代目。次代に残していける新しい農業を目指すべく、小谷さんの代から新しく尖農園という屋号を付け、日々の農作業に取り組む。地域開催の現代アート芸術祭に関わったことをきっかけに、農業以外の分野との交流に大きな可能性と魅力を感じる。現在は田辺市の実施する地域課題解決型のビジネススクールや、農業を発展させるための経営感覚を身に付ける経営塾などに積極的に参加している。
※記事中敬称略。
地域に根ざした事業に挑戦。浮かび上がった課題とは?
──田辺市を拠点に活動を始めたきっかけを教えてください。
花村 : 私は県外に出た経験がなく、県内で特別支援教育支援員や相談支援専門員などに従事してきました。そのなかで、福祉の仕事が好きになり、これからも続けたいと思うようになったんです。そんなとき、「合同会社志成」を夫が立ち上げ、ここで自分らしく働くことを選びました。
合同会社志成では、障がいのある方の相談支援事業、シニア対象の生活サポート、こども食堂の運営などに携わり、地元のシニアが手作り料理を届ける「街仲食堂 by ジーバーFOOD@田辺」(以下、街仲食堂)も立ち上げました。
子どもと関わることも大好きですし、私自身がおじいちゃんやおばあちゃんに育てられた子どもで、今でも何かあったら手伝いたい気持ちが大きいんです。どちらの世代も、地域で孤立してほしくないと思う私には、この仕事は、天職だと感じています。

「街仲食堂byジーバーFOOD」で活躍中の皆さん
小谷 : 実家が農家で長男だから、いつか後を継ぐという意識が常にありました。継がないともったいないと感じていたんです。だから、30歳頃までコンビニ、ガソリンスタンド、飲食業、解体業などさまざまなアルバイトを経験し、子どもができた頃に家業にいそしみ始めました。
現在は、梅と柑橘を育てる農家の5代目です。私の代になってから、尖農園という屋号を新たに付け、次の世代に残していける新しい農業を目指して取り組んでいます。

尖農園が栽培するみかん
──お二人は、田辺市が主催の地域課題をビジネスで解決する「たなべ未来創造塾」の卒業生ですね。そこで得た気づきや学び、今の事業に活かされている点を教えてください。
花村 : 講師の「50cm先のやりたいことからやってみたら」との言葉が、地域づくりを始める強烈なターニングポイントとなりました。
どんなことにもやらない理由はないなと、前向きなマインドに変わりました。失敗を恐れず、スキルやレベルを上げる通過点と捉えられるようになり、以前は苦手だった、人への説得や協力依頼の壁を乗り越えられたと感じます。
小谷 : 「何も変えなければ来年も同じことの繰り返し」との教えは、既存のやり方を変える必要性を感じたきっかけです。従来の農協出荷だけにとらわれない多様な販売方法や、東京などへの直接販売の可能性を知りました。
──いろいろな挑戦をしてきたなかで、今、感じている一番大きなハードルは何ですか? それをどうやって乗り越えようとしていますか?
花村 : 2つあります。1つは地域内での理解者や仲間探し、もう1つは年配の方々への伝え方の壁の高さです。ブレない思いで地域に居続けて、人々と共同で行動する機会を探し話してもらうことを、地域課題解決の糸口に位置付けています。
小谷 : 一番の困りごとは、お年寄りが畑を手放すことで放棄地が増え続けていることです。だからとことん行動し、土地が余っていれば積極的に買ったり借りたりして手に入れて、みかんを植えまくっています。しかし現状では、これ以上自分の畑を増やしても手が回りません。直面するのは人手不足ですが、むしろ渋らず人を雇えばいいんですよね。

尖農園で育てられたみかんの収穫に参加した方々
関係人口創出プログラム「TANABEES」の第一印象は「前向きな巡り合わせ」
──初めて「TANABEES」の話を聞いたときは、どんな印象を持ちましたか?
花村 : お話を聞いたとき、「マジでめっちゃやりたい! 絶対に何かしらの化学反応が起こる!」と直感しました。参加者と私たちは、最初は互いに受け入れがたいかもしれませんが、私はその先にワクワクする未来を想像できるんです。「TANABEES」での新しい出会いに、前向きな気持ちを抱いています。
今年は拠点が増えることと、新規事業である街仲食堂の立ち上げ、空き家対策といった複数の課題や目標があります。自分たちだけで達成することは難しいと感じていたため、ありがたい話だと捉えました。ゼロからのスタートで関わってもらえる状況に運命を感じています。

田辺市の空き家
小谷 : 花村さんと同じで、「何かを変えたい」「尖農園を傲慢にアップデートしたい」と大きく成長を掲げる時期に、ドンピシャなお誘いをいただいたんです。「TANABEES」の仕掛け人である山田かな子さんとは、これまでの収穫体験などを通じておもしろいことをやってきた経験があるので、誘われて断る理由がありませんでした。
今年は来るもの拒まず何でもやってやろう、という挑戦の時期だと考えているため、良いタイミングです。みかんジュースなど当農園の柑橘や梅を使った新商品開発も検討しており、「TANABEES」の参加者の皆さんからの新しいアイデアやきっかけを期待しています。これまで億劫だったことに着手するにはちょうど良い機会ですよね。

──「地域プレイヤー」という役割を、自分なりにどう捉えていますか?
花村 : 地域プレイヤーはチームの一員だと思っています。動き回ってなんぼの立場だし、自分の得意なことで、自分らしく地域で暴れるイメージです。私は町の価値観を変えたいんですよね。それが新しい地域づくりにつながると信じています。
人は、こうあるべきという固定観念を持ちがちですが、私たちは共生を受け入れる環境や価値観をつくり出していきたいです。いろいろな世代を巻き込み、来訪者が「また来たい」と思うような場所をつくりたいと模索しています。
小谷 : 地域プレイヤーとして目指すのは「田辺の一次産業を引っ張る、尖農園」です。将来的には和歌山で名を知られる存在となり、県外の人から見ても田辺の農家といえば「尖農園の小谷」と言われるような、パイオニアになりたいですね。
「TANABEES」の参加者と一緒に、農家の印象をぶっ壊したい思いを強く持っています。農業の「3K(きつい、汚い、金にならない)」というイメージを「かっこいい」「農家っておもしろい」に変え、ほかの農家にも「こんなことやってもいいんだ」と思ってもらいたいです。
かつて僕も、農家は嫌だと刷り込まれていました。だからこそ余計に、多くの人に農業を好きになってもらい、日本の食料自給率向上にも貢献したいです。
──「TANABEES」で、プロジェクトを共に進めていく「コーディネーター」にどんなことを期待していますか?
花村 : 自分が苦手な思いをうまく伝えることや言葉にすることを、コーディネーターに期待しています。映像化など、わかりやすく表現してくれることにとても感動しました。背景を汲み取って言語化してくれる存在は非常に心強く、信頼しています。

コーディネーターの問山美海さん(花村さんを担当)
小谷 : 今回のコーディネーターである下田さんは、地域で開催される現代アートの芸術祭「紀南アートウィーク」から深い縁のある方。同級生でもある彼は、これまでの農家としての活動や思いをすべて知っていて、互いを理解しているため、特別な期待を持つというより、安定した信頼の元に進められます。普段通りに接するだけでOKだと思います。

コーディネーターの下田学さん(小谷さんを担当)
参加者との出会いが世界を広げ、殻を破るきっかけに
──今回の取り組みがうまくいったら、ご自身や地域はどんな姿になると思いますか?
花村 : 世代を超えて集まれる場所が、田辺市内に増えると思います。それによって田辺市が住みたい町ナンバーワンになっていてほしいですね。
こども食堂や街仲食堂の取り組みは、単に食事を提供する場というだけではありません。来た人が、世代の垣根を超えて交流したり、家や学校、職場以外の居場所を感じたりできる場と考えています。一緒に作ったり食べたりすると、一緒に達成する仲間のような意識で、人同士がつながっていきますよね。
特に、高齢者は自分の意思で食堂運営に関わることで、家で何もしないでいるよりも、日々に潤いができるでしょう。そうすると、その場にいる人が相互的に、「次もあの人に会いたいから行きたい」という気持ちが生まれるんです。
こうして生まれたつながりから、団結力が生まれ、防災にもつながるでしょう。裏テーマとしては、このようにして地域で顔見知りが増え、こども食堂や街仲食堂を通じて、地域に「居住する人が増える」ことを狙っています。
私は、居場所づくりは地域づくりだと考えてるので、最終的には私が活動から身を引いても、地域の子どもたちに受け継がれていくことを夢見ています。
小谷 : 農家にネガティブなイメージがなくなって、憧れる人が増えてほしいですね。多くの人に「農業はおもしろい」「やってみたい」と思ってもらいたいです。将来的に農家をする人が増えたら僕は畑仕事はしていない気がします。農家をする人を育てるオーナーとして活動したいと考えているからですね。

インタビュー時の様子
──このプログラムに関心を持っている方々に、どんな言葉を伝えたいですか?
花村 : 「TANABEES」には新しい可能性が詰まっているので、一歩踏み出して田辺に来てください。街仲食堂は、高齢者が輝ける運営体制を構築するところからのスタートです。高齢者や運営スタッフ、ボランティアを集めることや、この取り組み自体の広報活動、メニューの開発など、煮詰めたいものがたくさんあります。
だからこそ、地域にないものを持っている人や、逆に全く興味ない人が来てもおもしろいし、少しでも気になったら、直感を信じて気軽に来てほしいです。田辺の外の世界を知らないので、いろいろな人と関わると世界が広がるし、今のままではもったいないと思います。
小谷 : 尖農園を大儲けさせて永久就職しませんか? 一緒に登り詰めましょう。商売したい人や上昇志向のある人、既存のやり方にとらわれず一緒に尖って攻めるオフェンスの人に来てもらえれば非常におもしろい展開になると思います。
私自身が田辺の外に出ず変化がないまま来たからこそ、今回の「TANABEES」は、これまでの尖農園をちょっと壊したくなる新鮮な機会です。世界はこんなに広いのに、今のままではもったいない気持ちが強いので、ぜひ見届けてください。
お二人の共通点は、地元で働く中でたなべ未来創造塾などの学びをきっかけに、大きく意識が転換した点でした。
TANABEESの取り組みで、どのように状況が変わっていくのか、今後も追いかけていきます。
<関連リンク>
>> TANABEES 公式LINE (※プログラム情報や説明会申込フォームをご案内します)
<関連記事>
>> 関係人口が地域プレイヤーを輝かせる。和歌山県田辺市にUターンして始める「TANABEES」の挑戦──株式会社TODAY 山田かな子さん
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