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#ローカルベンチャー

持続可能な地域のための「ローカルベンチャー」の作り方 西粟倉・森の学校 牧大介さん講演録

2014.06.03 

先日、東京都内で「地域を支えるローカルベンチャー」をテーマとした起業家によるセッションが実施されました。今回のレポートでは、その中での、西粟倉・森の学校の代表取締役、牧大介さんによる「ローカルベンチャー」のお話のまとめをお送りします。 https://facebook.com/ayakomasuda0321https://facebook.com/ayakomasuda0321

「地域を支えるローカルベンチャー」セッションの様子

これからの地域の経済を担う「ローカルベンチャー」

おはようございます。西粟倉の牧です。これから日本中の地域で、多様なチャレンジが広がっていくことが増えていくといいなと思い、今日は「ローカルベンチャー」についてお話したいと思います。

 

ローカルベンチャーとは、地域に既にあるものを活かしていこう、という考え方がベースにあり、無限の可能性をもっていると私は思っています。

出張日本酒Barを楽しむ過疎の村

まずは、事例を紹介します。西粟倉で「出張日本酒Bar」をしていて、この4月に酒屋さんを開きました道前理緒さんです。彼女は、ただとにかく日本酒が大好きなのですが、地域おこし協力隊で西粟倉に来てくれたのがきっかけで事業をはじめました。 道前理緒さん

愛するお酒についてセッションで語る、道前理緒さん

人口1500人の過疎の村でバーをオープンするのは、まじめに計算すればするほどなりたちません。ふつうはそこで終了ですね。

 

彼女がしているのは、文字通り出張で、車に日本酒一升瓶10本担いで、地域で借りた場所にいく。そこでちょっとしたつまみをだしながら日本酒を飲んでもらう、それだけです。

 

地元の人も、案外にお金はないわけではなくて、日本酒をたのしく語る彼女のところに寄ってきて、たのしく飲んでくれたりします。地元の人にとっては月に1度。彼女は、日によって場所を変えて店を開くので、固定費ほぼゼロで利益が出ます。賃料払って、仕入れしてとやっていると到底回らないものが彼女のモデルだと成り立つんですね。

 

彼女は今、「西粟倉のお酒」をつくろうと燃えていて、田んぼをやっているおじいさんを口説いて酒米をつくってもらってます。彼女の事業は、一つで地域の雇用を支えるような大きな企業にはならないと思いますが、いろいろ足していくと十分1億程度の自立したビジネスになると、僕は見てます。

海を渡る蝶アサギマダラの生育キット

つぎに、これは西粟倉の話ではないんですが、道端慶太郎さんという蝶が大好きな男性がいます。彼はアサギマダラという、2,000キロを旅する蝶が特に好きで、この蝶の素晴らしさを共有したいということで、世界ではじめてアサギマダラを幼虫から成虫まで育てるキットを開発しました。

 

専用の餌まで開発しちゃって、業界内でもかなり難しいことを実現してしまったのですが、本当にものすごくニッチだし、徹底してプロダクト・アウトです。 アサギマダラ

海を渡る蝶、アサギマダラ(Wikimedia Commons)

いま、販売に向けて準備していて、僕もモニターとして飼育してます。これが意外と面白くて、蝶マニアのみならず、教育ツールとしても意外と広がっていくのではないかな、と思っているんです。

 

なんといっても、超ニッチなので競合もいない。これからの地域では、こういった「自分が好きで仕方ないもの」からオリジナルの仕事をつくる、ということが増えていくかもしれません。

こだわりの「プロダクトアウト」が、新たな市場を拓く

一般的な事業でもそうですが、事業を作ろうという時、顧客を想定してその気持ちになるということは重要なんですが、いくら顧客に「何がほしいですか?」と聞いてみても潜在的なニーズを言葉で説明してもらうことできないですよね。多くのものやサービスが一巡してそれなりにあって、みんな何か求めているけれどそれが何かはわからない。

 

そこで、何か大切なこだわりを持って事業する人がいると、その人の感覚や思いに共感してくれる人が顧客になるんです。爆発的な成長は望めないかもしれないけれど、今まで見落とされていたところに価値をつくり、確かなファンがうまれて、継続的に回る自立的な事業になります。特に地域の事業を考える時、これは一つの可能性あるモデルではないかと。ここがローカルベンチャーの可能性ですね。

大きい木のまわりには、色んな木や草が生えてくる

西粟倉村には、森の学校を含めて、色んな新しい事業がうまれつつあります。

 

例えば、2006年創業の木の里工房。保育園など含む、子ども向けの木製家具を作っています。社員15名の会社に成長しています。ほかにも、木工房ようび。ここには、社長も含めて移住者6名の会社になっています。

 

新しいご飯屋さんもできました。奥さんがご飯屋さんを運営されていて、旦那さんはスプーンやナイフを手作りしています。とてもいい食材を使っていて、自分の普段生活の一部を、外から来るお客さんにも提供しているという感じです。とても豊かな暮らしだと思います。

 

こういった感じで、林業の周辺分野に次々と新しい仕事がうまれつつあるのが西粟倉村です。 実はこれは、森がつくられる過程によく似ています。ブナとかトチノキなどの大きい木が森の骨格を形成して、その周りに色んな低木や草が生え、土壌が育ちます。

スイミー作戦と、結果としての「地域ブランド」

群れで育つことで、相互効果が生まれ、さらに新たな人を巻き込みやすくなっていきます。最近、この話って昔、教科書でよんだ話と一緒だなと気づいて、「スイミー作戦」なんて呼んだりしてます。(※『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』 オランダの作家レオ・レオニによる絵本。谷川俊太郎訳) 一匹一匹の魚はとても小さく弱いけれど、群れになることで大型の魚よりも大きく強くなるという話です。

 

100億の1社を創るのではなく、1億の100社を創る。こういった多様な担い手が束になることで、地域のファンが増えていって、さらにニッチな事業でも自立できるようになり、どんどんといわば豊かな生態系が育まれていきます。その結果として地域ブランドも形成されていく。 西粟倉・森の学校、牧大介さん

ローカルベンチャーについて語る牧大介さん

ローカルベンチャーによる地域の新たな経済循環づくり

ここで、日本の地域がおかれてきた状況をまとめてみたいと思います。

 

今、同じことがアジアで起こっていますが、日本の地域も、工場や公共事業で外貨を獲得する時期がありました。その過程で、「モノをお金で買う」貨幣経済が浸透していき、所得が上がった。結果、「必要なモノは外から買う」ことになり、地域は消費地となります。そうこうしているうちに、人件費が上がったり産業構造が変わったりして、工場は出ていき、公共事業は減る。「お金が必要なのに、稼げない」という状況になるから、人がいなくなる。その後で地域に残るのは、相対的な貧困や、過疎化・高齢化です。

 

ローカルベンチャーをつくっていくことで、この流れを変えることができないか、と思っています。まずは、地域にあるものを駆使して、地域外に向けて販売し、稼ぐ。そうして太い木が育つと、低木や草のように、内需型のビジネスが生まれてくる。ご飯屋さんなどの内需型のビジネスは、地域の生活の質を向上させます。

 

地域が魅力的になって、稼げるとなれば、そこで何かをしようという人たちが集まってきて、さらに移住・起業が増える。そうして地域に好循環が生まれます。 そうやって、日本全国に、ローカル・ベンチャーが次々にうまれていくことで、必ず地域の風景は変わっていきます。それぞれの地域が、そこに住む人達の「大好き」が詰まった多様で豊かな場所になるといいなと思っています。  

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