SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では、年齢・居住地・性別等に関係なく、あらゆる人が健康で豊かな暮らしを送ることを目的に、妊婦の死亡率の削減、エイズなどの伝染病の根絶、保健サービスの普及や人材育成等、様々なターゲットが設定されています。
NPO法人ETIC.(エティック)が運営する「Vision Hacker Awards 2021 for SDG 3」は、そんな国際保健・グローバルヘルス分野へ挑む、次世代リーダーを発掘・育成するアワードです。この特集では、ファイナリスト8名の方々にインタビューを行いました。
今回ご紹介するのは、東アフリカのタンザニアで新しいエネルギー源「バイオマスブリケット 」の開発を目指す株式会社Darajapan(ダラジャパン)の角田弥央(つのだみお)さん。角田さんは、大学時代に訪れたインドネシアでの経験をきっかけに、医療アクセスの不平等や公衆衛生の問題に関心を持ち始めたそうです。角田さんの原体験から、タンザニアで事業を始めるきっかけ、事業の展望までたくさんのお話を伺いました。
角田 弥央 (つのだ・みお)/株式会社Darajapan(ダラジャパン) 代表取締役
エジプト内資系製薬会社にて製造・品質保証部門における後発医薬品開発に従事。英国ハートフォードシャー大学にて英国薬剤師免許取得コースを受講後、製薬会社治験部門医薬品開発の現場に携わる。その後、タンザニア国営貿易会社にて衛生環境調査員として従事。薬剤師免許取得後は、大手人材会社の海外事業部にて採用支援に従事。その後、アフリカと日本を繋ぐため、株式会社DarajapanとTANZHON Ltd.を立ち上げる。
新しいエネルギー源「バイオマスブリケット」とは?
――まずは、従来の化石燃料に変わるエネルギー源として注目されている「バイオマスブリケット」について教えていただけますか?
「バイオマスブリケット」は、動植物等の有機物資源を原料としてつくる新しいエネルギー燃料です。燃焼時の二酸化炭素など有害物質の排出量も抑えることができます。バイオマスというと、従来は木材原料を使うのが主流でした。私たちは食料残渣(ざんさ)と呼ばれる家庭やレストランから出る食物の有機廃棄物や動物や人の糞尿を原料にすることを計画しています。
――なぜタンザニアでそのような事業を行おうと考えたのですか?
タンザニアでは街中にゴミが溢れていて、人々の生活動線上にゴミの山があるのが普通の光景です。周囲にはハエなどの害虫もたくさんいます。大量の廃棄物は、住民の健康を害する悪臭や水質汚濁を招いたり、マラリア蚊の発生原因となったり、水はけの悪い土壌形成につながったりと、様々な問題を抱えています。
タンザニアの光景(角田さん作成資料より)
また、タンザニアでは薪を燃やすときに出る煙を吸って亡くなる方も多いのです。そんな状況を目の当たりにして、ゴミや糞尿等の有機固形廃棄物を活用したバイオマスブリケットを開発しようと考えました。単にゴミを減らすだけでなく、行政などと連携しながら、公衆衛生システムの改善や社会インフラの整備につなげることも目指しています。
とはいえ、有機固形廃棄物を原料にしたバイオマスブリケットの開発技術はまだまだ発達段階です。今は、タンザニアの主食でもあるキャッサバを結合剤として活用したり、現地で発生する身近な原料を組み合わせて試作をしています。
角田さん作成資料より
ゴミ問題・公衆衛生・貧困・雇用を解決する糸口としてのバイオマスブリケット
――「バイオマスブリケット」を通じた社会課題解決を意識されているとのことですが、どんなアプローチで進めようと考えていますか?
タンザニア政府は脱炭素やバイオマスエネルギーの活用を政策として掲げていますが、国全体として技術やオペレーションがまだまだ追いついていない状態です。その分、私たちの取り組みにも関心を寄せていただいています。
例えば、街のゴミ問題は国としても大きな課題の一つです。行政と一緒にゴミ回収の仕組みを構築したり、土地を活用してゴミ処理工場をつくるなども考えていきたいです。
また、私たちはこれから「ものづくり」事業を進めていくことになります。その工程では、エンジニアや運搬ドライバーなどいろいろな役割が必要になります。タンザニアは失業率が高く、働き盛りの2-30代の仕事さえ少ないことも大きな問題です。そんな雇用の課題を解決するためにも、ものづくり産業を生み出す価値があると考えています。ゆくゆくは様々な地域に拠点を設けることで、雇用の創出をしていきたいです。
――タンザニアで、バイオマスブリケットをどんな方に使ってほしいと考えていますか?
今のところ、タンザニアの飲食店、家事労働に追われている女性や若者などを想定しています。バイオマスブリケットは従来の薪よりも長時間使うことが可能で、家庭での生活コストにおける負担も減らすことができます。
まだ市場として大きくはありませんが、タンザニアではバイオマスブリケットを生産するNGOなどが増えています。タンザニアのレストランでもバイオマスブリケットの存在は知られている場合が多いので、テストマーケティングを重ねて、徐々に広めていければと考えています。
角田さん作成資料より
薬学部から途上国支援の道へ
――角田さんの原体験となった、大学時代の海外での経験について教えていただけますか?
大学は薬学部に所属していました。途上国の医療や衛生環境に関心を持ち、東南アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカなど、いろいろな国の薬局や医療施設の現地調査を行いました。
はじめて訪問したのはインドネシアの小さな島で、大学1年生の時でした。その島の、何もない場所にぽつんとひとつだけ薬局がありました。日本で暮らしているとすぐに薬も手に入るし、ちょっとした風邪でも病院にかかれることが当たり前ですよね。ですが、そんなことがまったく当たり前ではない環境が現実にあったのです。そこから目の前の患者を救う医療活動だけでなく、根本的な衛生環境の改善を通じた医療アクセスの整備に関心を持つようになりました。
大学5年生時に、エジプトの製薬会社でインターンシップを始めました。その中で、ハーバルメディスン(植物療法)等地域の伝統医療と組み合わせたアプローチや、伝統医療に詳しい薬剤師が服薬指導を行う取り組みのことを知りました。知れば知るほど、やっぱり自分でも途上国の現場に入りたいという気持ちが強くなりました。
――大学卒業後はどんな進路を選択されたのですか?
新卒で人材サービスのベンチャーに入社しました。在日外国人の雇用創出を掲げる会社で、一般企業で働く外国人向けのサポートや企業の外国人採用支援などをしていました。一見、大学時代の活動とは全く異なるようにも見えますが、雇用創出という途上国ともつながる課題に関わることで、ますますアフリカや中東への想いは強まりました。そのため、働きながらも、途上国の医療環境や感染症対策の調査は続けていました。
アフリカと日本の架け橋として、アフリカの今を伝える
――そこからどのような流れでタンザニアに行くことになったのでしょうか?
大学時代に出席したある国際会議で、土木環境エンジニアとして働くタンザニアの女性と出会いました。ある時、彼女と途上国の衛生環境やハーバルメディスンについて話す機会があり、彼女がタンザニアの道路や港などの設計を通して自国の公衆衛生に課題意識を持っていることを知ったのです。
そこで意気投合したことをきっかけに、彼女が働く貿易会社で環境調査員としてインターンシップを行うことになりました。バイオマスブリケットの事業は、彼女をはじめとする現地のパートナーとともに構想を進めています。
角田さんとタンザニアの人々
――学生時代と比べて、角田さんご自身の意識に変化はありますか?
日本で働いた後にタンザニアにやってくると、改めて様々な課題に目が向くようになりました。日本には、アルバイトを含めればたくさんの仕事があります。こどもたちにも当たり前のように勉強する権利と環境があります。
しかしタンザニアの若者たちには他国と比較すると雇用先がありません。農村地域に住む女性は家事に追われ、こどもは家庭の影響で学校にも通えません。医療だけでなく、働き先や学習、様々な面でのアクセシビリティが不充分なのです。私たちの事業を通じて、ゆくゆくは低所得者層でも利用できる保健システムの導入を政府機関に促したり、経済的自立支援など様々な課題にアプローチしたいと考えています。
――日本に向けて伝えたいこと、架け橋としてやりたいことはありますか?
日本におけるアフリカのイメージは、おそらく2-30年前からほとんど変わっていないように思います。治安が悪いとか、貧しいとか、まだまだ多くの人がそういう印象を持っているのではないでしょうか。もちろん衛生環境が不十分な地域も多いですが、都市部は見違えるように発展しています。
また、インドや中国の企業がアフリカでビジネスを始めることもとても増えましたね。日本企業の進出はまだまだ少ない状況です。様々な要因はありますが、日本にアフリカの情報があまり入ってこないことが原因のひとつだと思っています。アフリカに進出したい日本の企業の相談に乗ったり、事業提携をしたり、これから私たちの事業がアフリカと日本の架け橋のようになれたらいいなと考えています。
――たくさんのお話を伺うことができてとても勉強になりました。ありがとうございました!これからの角田さんのご活動、とても楽しみにしています。
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