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制度の狭間にいる難病者にも「働く」を。「難病者の社会参加を考える研究会」発起人・重光喬之さんの目指す社会とは

2021.08.17 

「不寛容で相互監視しあう社会から、ゆとりがあって『お互い様』と言いあえる社会にしたい」

 

そう語るのは、難病のある人が社会参加する機会をつくるための活動を続けている重光喬之さん。

自身も「脳脊髄液減少症」という難病に15年間も悩まされています。主な症状は、寝ても覚めても休みなく続く痛み。親知らずを抜いたときのようなズキズキする激痛が、脊髄にそって首・肩・腰に広がっている状態だといいます。

 

「盲腸の痛みを半年間我慢しているうちに破裂寸前になり、緊急手術になってしまったこともあります。痛くてもだえ苦しんでいるのが日常なので、盲腸の痛みも、我慢し続けて過ごしてしまって……」

 

そんな想像を絶する痛みに常に苦しんでいる重光さんが、難病者に必要なのは「役割や居場所」、特に「働く」ことだといいます。

難病のある人に接する中で、重光さんがそう考える様になった背景や、これから実現したいこと等を伺いました。

 

重光さん

重光喬之(しげみつたかゆき)/NPO法人両育わーるど 理事長

20代半ばに頸部~腰部が痛みに襲われ、脳脊髄液減少症と診断される。以来、24時間365日の痛みに絶望しながら“難病のある人の働くを作ることは、未来の働くを作ること”をスローガンに、難病者の就労機会の拡大に取り組む。多摩大学大学院医療・介護ソリューション研究所フェロー、難病者の社会参加を考える研究会発起人。

絶え間ない過酷な痛み……脳脊髄液減少症とは

 

「今回の治療で、だいぶ人間に戻れた感じですね」

 

そんな言葉からスタートした重光さんのインタビュー。常に様々な治療法を試している中で、最近相性のいい方法を見つけたそうです。

 

「脳脊髄液減少症」は、脳と脊髄を覆う硬膜に入っている髄液が漏れることで、頭痛やめまい、吐き気などの症状を引き起こす疾患です。患者は全国に数十万人いると言われていますが、治療法はまだ研究の途中。交通事故や運動による外傷が主な原因の場合もありますが、それ以外の原因はまだはっきりと解明されておらず、重光さんの場合もある日突然痛み出したとのこと。システムエンジニアをしていた25歳の時でした。

 

激しい痛みが常につきまとい、頭も働かず、イライラしてしまう。痛みのストレスが原因で円形脱毛症にもなりました。

円形脱毛症

円形脱毛症になった20代の頃(左)と一昨年の写真(右)

 

「インフルエンザで39度あるとしんどいじゃないですか。あのままずっと生活する感じですね。絶えず痛みを感じているので、自分の人生を生きている感じがしないんです。痛いのもつらいし、終わりが見えないのもつらい」

 

1年で体重が15キロ減ったことも。そんな過酷な状況も「『痛みダイエット』でした」と笑う重光さんの強さに心を打たれました。

日本に700万人。制度の狭間にいる難病者とは

 

そもそも「難病」と聞いて、皆さんはどんな病気や状態を思い浮かべるでしょうか。

 

厚労省によると「発病の機構が明らかでなく、治療法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなる」ものと定義されています。ただ、病名により医療福祉制度を利用できる場合とそうでない場合があることや、疾患によっては研究途上のため病名すら定まっていないこともあり、一言に難病と言ってもその状況は様々。国が定める「指定難病」は333疾患ですが、その他の希少疾患や研究途上の疾患を含めると数千種にも及びます。そういった場合も含めて、日本における難病者の数は推計700万人とも言われています。

 

「極端な言い方をすると、難病だからといって全てが命に関わる疾患というわけではありません。進行性の疾患、慢性化する疾患、中には症状が緩解傾向で安定する疾患も。同じ病名でも症状や状況は異なります。うまく折り合いをつけたり、病気を隠しながらなんとか働いている人もいます。共通することは、それぞれ症状により、物理的な制限や稼働時間、体調の波など何かしらの制約があり、働いたり、社会生活を営む上での障壁となることです」

zu2bのコピー

*1 平成30年度福祉行政報告例及び衛生行政報告例

*2 R元年7月特定医療費(指定難病)受給者証所持者数

*3 R元年度 衛生行政報告例

 

重光さんは難病者を、「制度の狭間にいる、社会から存在を認識されていない人たち」だといいます。

「難病者も、数としては障がい者やLGBTの方と同じくらい存在しているのですが、なかなか社会に認識されていません。難病という言葉を聞いたことはあっても、具体的にイメージできない人も多い。だから、働きたい難病者がいても『支援制度があるから働かなくても大丈夫ではないか』『治ってから働けばいい』と思われてしまったりするんですよね」

 

その背景には、日本社会に蔓延する、ある特徴が関係しているのではないかと重光さんは考えます。

 

『大変なことがあっても、黙って頑張るのがいい』という空気がある気がしています。たとえば芸能人やスポーツ選手の闘病も、黙っていて治ってから報告する、なんてことがよくありますよね。職場でも同じで、病気も含めて自分が困っていること、大変なことをまわりに伝えづらい雰囲気があるのではないでしょうか」

SNSでつながる難病者が感じる共感と孤独

 

目に見えずなかなか人に理解されづらい難病者の辛さ。しかし、同じ症状を抱える人や家族でつながる機会も増えてきているそうです。

 

重光さんが以前参加した脳脊髄液減少症患者の家族会では、ある患者のお母さんの話に衝撃を受けたといいます。そのお母さんは、痛みに苦しむ息子さんを見かねて無理心中をしようと思ったとのこと。息子さんの首に手をかけたところ、目を覚ました息子さんは一言、「ごめんね」と言ったそうです。胸が苦しくなるエピソードでした。

 

「SNSでも、患者のお母さんからの問い合わせが多いです。子どもが発症したんだけど、どうしたらいいんだろう……という。

なかなかに身近な人にも理解してもらいづらい難病でも、SNSだと同じ疾患の人を見つけられるので、それはSNSが普及してよかったことだと思っています。ただ、『わたしの方が大変だ』と不幸比べのようになったり、自暴自棄になっている人を助けてあげようとしすぎてトラブルになったり、といったこともあります。私自身も紆余曲折を経て今があり、むしろまだ症状に苦しみ、受け入れられていないので、ほかにどんな方法があるかと考えています」

 

こういった同病者や家族との交流がきっかけとなり、重光さんは、脳脊髄液減少症の患者同士が間接的に情報共有できるWebサイト「feese.jp」を提供してきました。

やがて、難病者はそれぞれ病名が違っても同じような課題で困っていることを知り、病名を超えた難病のある人と社会の接点を増やす活動に取り組んでいきます。

難病者にも「働く」を。企業・自治体それぞれの状況を調査

 

重光さんがいま取り組んでいるのは、難病がある人の社会参加、特に働く機会をつくるための活動です。2018年に当事者や支援者、企業や専門家と組んで「難病者の社会参加を考える研究会」を立ち上げました。

 

「難病者の人と接する中で感じたのは『役割がないのはしんどい』ということ。働くことは役割を得ることだと思っています。もちろん症状によって働けるかどうかは人それぞれですが、症状があって大変な中でも、役割や居場所があること、そして自立できることで、自己肯定感を得られて人生が豊かになる難病者も多いのではないでしょうか」

 

研究会では最近、難病の認知向上を目指して「難病者の社会参加白書」を作成しました。難病当事者、企業・自治体を対象に、就労に関してアンケートを実施し、その結果をもとに提言をまとめています。

 

「企業の経営者・人事担当者への調査を通して感じたのは、難病に関するイメージが偏っている方が多いことでした。『難病者は働けないんじゃないか』『働く必要がないんじゃないか』という誤解がある。あとは、障害者総合支援法や障害者雇用促進法の対象を誤解している人も少ならからずいました。一度難病者を採用して、一緒に働いてみると変わるんですけどね。ただ、今のところは雇用側に、優先的に難病者を採用する理由がないので、そこは社会全体に認知・啓発を進めて、病気がありながらも働きたいと思う全ての人を対象にした就労をサポートする仕組みができたらと考えています」

 

法律が変わるまでには時間もかかるので、現状は繋がりのある企業と就労事例を作ることに集中しているとのこと。仕事内容・勤務時間・雇用形態等に関して様々なバリエーションで先行事例を豊富に作り、それを他の企業に横展開し、ゆくゆくは法制度も変えていければ、と重光さんは語ります。

 

「難病者が自分にあった就労環境と出会えるかどうかが重要です。例えば週20時間程度の短時間勤務や、自分の症状に都合がつくタイミングの累積勤務や在宅勤務など、働き方がマッチすれば働ける難病者が大勢いるのではないでしょうか。社会制度が対応していくのには、客観的な判断基準が必要になり、時間がかかります。先行事例を示して、実態を把握できる調査をし、アドボカシー活動を進めていければと考えています」

 

一方、自治体に関しては、企業よりも認識が進んでいるといいます。

 

「『国が定める指定難病に該当しない難病』の認識が8割、社会保障制度の狭間に置かれている難病者がいることを知っている自治体が全体の7割。予想以上に多くて驚きました。そして、難病者を雇用していない自治体は、『マネジメントが難しいのではないか』『能力を発揮してもらえる仕事・部署が限られる』『ハード面で対応できない』といった先入観を持っていたのですが、すでに雇っている自治体は、難病者の就労を難しいことだと感じていなかったんですね。なので、雇ってみて双方で試行錯誤していけば解決していく、とも言えます。ただ、自治体も企業と同じように優先雇用する理由がないと言っているので、雇用を促進する法的根拠をつくることが大切なのかなと」

 

子育て支援策の手厚さで話題になる兵庫県明石市は、難病者の就労支援の面でも先を行っているようでした。

 

「いま、日本では唯一、明石市が難病者の就労機会をつくる取り組みをしています。具体的には、障害者雇用の対象である障害者手帳保持者のみならず、手帳のない発達障害や難病者向けに数年前から職員募集をしています。私たちの知る限り、他にはこういった取り組みはないようです。社会課題への率先した取り組みとして、制度を先取りした難病者の雇用窓口の拡大を複数の自治体へ提案中なのですが、まだ結果は出ていません。

なぜ明石市だけが先進的な取り組みをしているのか問い合わせたところ、担当者の方は『基礎自治体として当たり前のことをしているだけです』とおっしゃっていました。すごいですよね」

難病者もそうでない人も、肩肘張らずに生きられる社会に

 

「難病者の働くを考えることは、未来の働くを作ること」

 

白書で印象に残った重光さんの言葉です。

 

「今回進めている難病者の就労支援の取り組みが実現したら、子育て中・介護中の方や定年退職者、それ以外にも様々な状況に置かれている方、みんなが働きやすくなると思っています。多様な働き方の事例を増やして、難病以外の属性にも横展開していけると思います。何かと制約のある難病者の『働く』には、多くのヒントが詰まっている気がします」

 

実は今回、このインタビューを実施する予定の日に筆者の1歳の息子が熱を出し、当日のご連絡で取材を延期していただきました。「重光さんはきっと今日のために体調を整えて準備をしてくださっているはず……」と思い、心苦しかったのですが、快く受け入れていただき、ほっとしました。重光さんの実現したい社会のあり方を実感する出来事でした。

 

「いまは我慢比べをしながら相互監視をする、不寛容で息苦しい社会になっているのではないでしょうか。難病がある人もそうじゃない人も、もう少しみんな肩肘張らずに生きられる社会になったらいいですよね。壮大な夢ですけど」

 

 


 

「難病者の社会参加白書」は随時公開されていく予定とのこと。ご関心のある方はこちらからご確認ください。

>>「難病者の社会参加白書」

 

現在、この白書を全国の自治体に届けるための費用を集めるクラウドファンディングを実施中です(2021年9月5日午後11時まで)。ぜひご支援をよろしくお願いいたします。

>> 「社会制度の狭間」にいる難病者700万人。その実状を全国に届けたい

 

重光さんは当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)が運営する「社会起業塾」の卒業生です。社会を変革する事業に取り組む社会起業家の皆さんのご参加をお待ちしています。

>>社会起業塾イニシアティブ

 

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佐藤茜

佐藤茜

当メディア(DRIVEメディア)の編集長。男の子2人の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。 福島県生まれ。大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 Twitter:https://twitter.com/AkaneSato

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