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副業から、地方で起業を目指す。長野に生活拠点を移して経営者と分散型ホテルを立ち上げたその先──笹川亮さん【NAGA KNOCK! (1)】

2025.07.09 

副業から地方の仕事をスタートさせ、自分の仕事をつくった人たちがいます。本業をそのままに、地方の経営者と一緒に新規事業の立ち上げ・推進を行い、その経験を先の生業につなげていく。今回は、新潟県上越市から長野市に移住し、「自分がつくる仕事」を形にしている合同会社GoandDo(ゴーアンドドゥー)の笹川亮(ささがわ りょう)さんにお話を伺いました。

 

本記事は、首都圏等で働く人が、副業として半年間、長野市の経営者と一緒に、社会課題解決に向けた新規事業を起こすプログラム「NAGA KNOCK! (ナガノック)」を紹介する連載記事(全4回)です。長野市での挑戦をきっかけに、地方で次のキャリアや人生のトビラを開いた人や、副業人材の活用で新たなビジネスの可能性を感じている経営者へのインタビューをお届けします。

 

笹川 亮(ささがわ りょう)さん

合同会社GoandDo 代表COO、sasa sauna(個人事業)代表

新潟県上越市出身。高校の建築科を卒業後、地元の建設会社でリフォーム事業に約20年従事。独立を機に「sasaサウナ」を開業し、同時期に参加した「ナガノック」の仲間と合同会社GoandDoを設立。長野市に「宿屋GONDO aioi」をオープンしました。趣味はサウナと車。リノベーションも宿もサウナも、全てが「ライフスタイル」であり「サービス業」と捉え、公私共に充実した毎日を送っています。

聞き手 : 湯川卓海(NPO法人エティック「NAGA KNOCK! (ナガノック)」プロジェクトマネジャー)

※インタビューは2025年5月に実施しました

 

商店街の空き店舗をリノベーションして宿泊施設にするプロジェクトに参画

──長野県に生活拠点を移すまでの経緯と、現在の仕事内容を教えてください。

 

2023年頃、新潟県上越市から長野市内に拠点を移しました。前職では、リノベーションを主とした建設会社で20年ほど営業を担い、以前から関心があった起業の準備を進めていました。

 

前職を退職するタイミングで20年前から趣味だったサウナを仕事にしたいと考えて、全国の各施設を訪れる旅をしていました。起業をするなら、前職で培った建築の経験とサウナを混ぜ合わせた仕事ができないかリサーチしていた時に、偶然、長野県にたどり着いて。

 

その後は、山間部の白馬村でグランピングサウナ施設の運営とサウナの販売を手掛けるメーカーの代理店で外部委託(個人事業主)として白馬村で住み込みで働いていました。また、もっと可能性を広げたり、色々な環境に身を置きたいと思い起業の情報収集も変わらず続けていて、そこで「ナガノック」の募集を知って申し込んだんです。

 

「ナガノック」では、2023年10月から、長野市内の空き店舗をリノベーションして宿泊施設にする「商店街ホテルプロジェクト」(運営 : 一般社団法人デザインファーム信州)に参画しました。昨年3月に半年間の任期を終えましたが、その後も受け入れ企業である一般社団法人デザインファーム信州とのプロジェクトは継続して、実働に向けて少しずつですが着々と進めていきました。

 

2024年5月には、プロジェクトメンバーだった柘植崇志(つげ たかし)くんと合同会社GoandDoを創業し、「権堂商店街ホテルプロジェクト」の実際の運営をする会社を立ち上げました。

 

「商店街に、再び賑わいを」分散型ホテルを立ち上げ

──「商店街ホテルプロジェクト」では、どんな活動をされましたか?

 

長野市の繁華街・権堂町(ごんどうちょう)にあるアーケード付き商店街に、分散型ホテル(※)「宿屋 GONDO aioi(ごんどうあいおい)」を立ち上げました。空き家問題の解消や、古き良き街並みを活かした観光客のための宿泊場所づくりに取り組んでいます。

 

(※)分散型ホテル : 町を複合的なホテルのように捉えて、古民家や歴史ある建物などを改修し、レセプション、客室、レストランとなど機能を分散化させて、観光客に町ごと楽しんでもらおうと工夫を凝らしたホテルのこと。

 

背景には、かつて多くの人でにぎわっていた長野市内の商店街が抱える課題があります。時代の移り変わりや店主の高齢化にともなって閉店を余儀なくされる店舗が増えているのが現状で、僕たちは「再び、賑わいを生み出したい」と、プロジェクトを推進してきました。

 

打ち合わせをするプロジェクトメンバーたち

 

今回、自分が携わったのは、商店街の空き店舗を活用して、「働く人」、「泊まる人」、「お金を町で使う人」が循環する仕組み作りを目的とした分散型ホテル第1号の立ち上げでした。主に、僕たちの想いに賛同してくれた大家さんや町の人たちの力を借りながら、オープン前の準備期間に、リノベーション工事のとりまとめ、旅館業許認可の手続きを行いました。旅館業は初めてだったので分からないことが多くて、何度も消防署や保健所に足を運びましたが、前職のリノベーション関連の経験を活かせることができて良かったと思っています。

 

ひとつひとつ行動しながら町に馴染み、自分たちを認めてもらう

──「商店街ホテルプロジェクト」に携わっていた半年間で印象に残っていることはありますか?

 

活動をする中で、一つの発見がありました。というのは、地元の人は、自分たちの想いに賛同してくれながらも、実はそんなに強く「町を変えたい」とは思っていないのではないかということです。

 

地域に根付いた人付き合いで、地元の人たちのお互いの生活が成り立ってきたとも考えると、「町に大きな変化を起こす事業を推進することが果たして良いことなのか」と考える場面もしばしばありました。昔から住んでいる人たちと関わる中で、僕たちも、古くからの人間関係を守ることの大切さを深く理解するようになったのです。

 

そのため、プロジェクトでは、昔から大切にされてきたことと、今回の新しい価値が、バランスよく重なり合っていくように、地域の人の声を聴きながら、商店街組合様や実際にお貸しくださる大家さんへの相談を重ね、丁寧に進めていきました。

 

──古くからの人付き合いの大切さに気付いたことで、新しい流れをどう自然に起こしていくのか、熟慮のうえ行動されたのですね。

 

はい。とはいえ、最初は地域の方たちにとって僕たちの存在は、「突然、何者だ!?」と違和感が大きかったかもしれません。だからこそ、県外からきた自分たちが作る宿泊場所によって、地元の人たちの日々の営みを邪魔することだけは絶対にあってはならないと考えていました。何度もみんなで議論したことでもありますが、「商店街は、地域の人たちのもの」だからです。地域の人が日常的に買い物をしたり、店を経営したりする生活の場だということを忘れてはいけない。

 

宿内のキッチンで

 

そのため、成果の形として目指したのは、「地元の人、観光客、事業者の三者にとってより良い状態になること」でした。行動を通して少しずつ町の中に馴染み、地元の人たちに受け入れてもらう、そんな段階を踏んできました。その結果が、我々移住者を受け入れてくださった長野市にも良い形で還元できるとも考えたからです。

 

──町の人たちに自分たちを認めてもらうためにも、ひとつひとつの行動を大切に続けていったのですね。

 

僕たちの存在が、地元の人たちが営むお店にとって、ほんの少しでも良くなるきっかけになれれば良いと思っています。例えば、宿泊者の方に、「ご飯はぜひ商店街のお店で食べてくださいね」とお勧めするように、そんな連携を図っていけたらと。

 

サウナ事業を本格的に始める自信がついた

──町の人たちとの関わりを大切にしながら、商店街に宿を作るプロジェクトを推進する中で、笹川さん自身の変化は感じましたか?

 

「給与を得る仕事のやり方から一歩先へ歩み出せそう」と、自分に自信を持たせてくれたと思っています。

 

20年間の会社員時代を含めて、ずっと自分自身が新しく何かを始めることに恐怖心を抱いたり、躊躇していましたが、今回、多くの人に支えられながら宿の経営を1年間経験したことで大きく変化できたと思っています。複数のまとまった事業を活かしながら基盤を整えていくことが、自分事として現実味を帯びるようになったからです。だから、いま、個人事業主でやっているサウナ事業も少しずつ広げていき、また来年には自前のサウナ施設の運営も計画しながら動いているところです。

 

20年以上、好きが高じて仕事になった笹川さんのサウナ事業には、サウナ通もうなる工夫が充実

 

──自信を持てたことが、サウナ事業の拡大や法人化へのステップに切り替える計画につながったのですね。

 

はい。分散型ホテルのオープン初期は何もかもが手探り状態でしたが、いまでは毎月の売り上げも多少ですが目途が立つようになって、一緒に働いてくれるパートスタッフさん達も沢山います。「これから、さらにより良い状態をつくりたい」と思えるのは、宿の経営に携わった経験があったからこそだと思っています。

 

単独で事業や経営を担おうとすると、「うまくいくのかな」と大きな不安を抱くと思いますが、すでに稼働している宿と連携した事業を行うことで、大きなリスクを避けながらお互いがメリットを出し合える関係性が成り立つのかなと思っています。

 

理想通りには進まなくても、自分が行動した通りになる

──長野市内での起業にチャレンジしたい人へアドバイスをお願いします。

 

何かにチャレンジしたとき、たとえ思い通りにならないことが続いても、動いた通りにはなると思っています。今回の僕がそうだったように。

 

新しいことに挑戦した時点で動いたことになります。そこから先、もう一歩を踏み込んでいくためには、終わらせないことが大事なのかなと思います。どんな形であれ、継続させていく。

 

共同代表の柘植さんと笑顔で

 

また、巡り合わせも大事な財産になるのかなと。今回、僕にとっては、長野市さんのサポートであったり、受け入れ企業のデザインファーム信州さんとの出会い、そして特に、共同代表の柘植くんの存在はとても大きいと実感しています。一緒に起業することに賛同してくれ、お互いの長所や得意分野も明確に分かれていて。柘植君は僕にはない良さを本当にたくさん持っていて、年下にも関わらずすごくリードしてくれています。僕が苦手なシステム面はもちろん、マーケティングから宿の経営企画まで、ほぼ彼の能力があったからこそ成り立っています。

 

それに対して私は現地にて直接の運営であったり、宿のオペレーション業務を中心に、実務を行っています。これも今までの営業経験・接客業が非常に活きています。それを踏まえて考えると、チャレンジした先で「誰」と「何」をしたいかがすごく大切なのかも知れません。

 

経営をしていく上で効率や合理性はとても大事な要素ではありますが、あくまでも行動するのは「人間」なので、信頼できる仲間との巡り合わせを意識して動いてみてもいいのかも。私は自分の直感をすべてあてにはしていませんが、違和感は間違いないと思っています。個人事業主でのサウナ事業も、この旅館経営でも、違和感を一つの指針にして判断した部分が多くあります。

 

「サウナ事業は今後、長野市と上越市により貢献できる形で発展させたい」と笹川さん

 

──今後、思い描く未来があれば教えてください。

 

これから1、2年で、今回話したことがより実現に向けて大きく動くと思っていますが、最終的には地元の新潟県にも還元したいです。

 

前職の会社と地元の会社とのパイプ役になって、事業や町に貢献できるといいですね。これはまだまだ遠い先の未来の話になるかもしれませんが、前職の長野支社を長野市内に置くことができたらすごくいいと思っています。それは自分のベースを作ってくれたのが地元上越の会社だったからで、やはり気持ちの部分ですごく支えられていたと感じています。将来的には、分散型ホテルのビジネスとサウナ事業との協働でさらに安定性の高い事業を形にできそうだと考えています。もし実現すれば、長野市にも上越市にもより貢献できるビジネスモデルになれるかもしれません。

 


 

>> NAGA KNOCK! 公式サイト

受け入れ企業・経営者の募集は例年4月頃に、参加者(副業人材)の募集は例年8月頃に行っています(2025年は8月上旬から募集開始予定です)。

 

>> その他の NAGA KNOCK! に関する記事はこちらからご覧ください

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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