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「地域づくりはBeとDoの両輪を」各地の実践者たちの対話から見えてきた【居場所づくりは地域づくり(6)後編】

2025.03.24 

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと、NPO法人ETIC.(以下、エティック)は、オンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」を開催しました(全7回)。

 

前編では、地域づくりの実践者がそれぞれ、活動に込める思いや居場所に対する考えを共有しました。後編では、神戸の認定NPO法人コミュニティ・サポートセンターで居場所づくりを実践する飛田さんを交えて、「地域」と「居場所」の新たな関係性について議論を深めます。

 

 

<パネリスト>

丑田 俊輔(うしだ しゅんすけ)さん ハバタク株式会社 代表取締役

森山 奈美(もりやま なみ)さん 株式会社御祓川 代表取締役

豊田 庄吾(とよた しょうご)さん 島根県海士町役場

 

<モデレーター>

飛田 敦子(ひだ あつこ)さん 認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸 事務局長 

湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

番野 智行(ばんの ともゆき) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。

※イベントは、2023年12月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。

 

若者と地域をつなぐ役割を担う「イネーブラー」とは

湯浅 : みなさんが話してくれた地域づくりについて、「居場所づくり」の立場である飛田さんはどのように感じていますか?

 

飛田 : 居場所づくりと共通する部分が多かったです。ただ、私自身、場づくりに注力しすぎて、地域まで考えが及んでいなかった経験があります。

 

以前、認定NPO法人コミュニティ・サポートセンターの利用者約500名にとったアンケートで「居場所を利用することにより生活にどのような変化があったか」の質問に対し、週1回利用する人の2割が「新たな社会活動を始めた」と回答しました。そのときに、私たちの居場所が地域とつながり、利用者の社会活動を支援できると、居場所と地域のいい循環を生んでいくのではないかと思いました。地域と居場所のつながり方について、みなさんはどう捉えていますか?

 

認定NPO法人コミュニティ・サポートセンターは「自立と共生」を理念とした地域社会をめざし、活動する人々を応援するサポートセンター。団体の立ち上げや運営を支援する中間支援団体として、6ヶ所に事業所拠点を展開している

 

森山 : 地域の外から来た人と地域をつなぐ役割を果たす「イネーブラー(※)」と呼ばれる人たちが、地域には必要です。能登では、私たちがその役割を担っています。いろいろな取り組みを続けてきた地域に、新たな取り組みを始めたいニューカマー(新参者)がやってきたとき、地域といかにうまく接続できるか。イネーブラーのコーディネートによって、地域への定着の度合いが違ってくるのではないでしょうか。

※他者の成長や成功を支援し、促進する役割を持つ人や要素のこと。

 

豊田 : ニューカマーが挑戦したいテーマと、島の構想や取り組みが重複する場合もあります。伴走しながらニューカマーに島の様子を伝え、地域との接続をうまく調整する人や仕組みが必要だと思います。

 

ニューカマーを受け入れた後の、入口となる団体や組織をつくりたいですね。イメージは、チャレンジしたいテーマに対して、地域の情報を提供したり具体的なアドバイスを行ったりするプロが集う、伴走センターのような所です。

 

湯浅 : 地域で新たな取り組みを始めるとき、初めから根回しすると調整コストがかかり大変になる一方、調整に力を抜くと、地域住民からは「聞いてない」と反対を受けることが多いです。こういう場面で、イネーブラーの活躍が大きいと思います。

 

新たな取り組みを始めたい人たちには「いいじゃん、いいじゃん」と応援し、地域の住民と団体には「まあまあ」となだめ、盾になることで、地域全体の寛容度が高まると思います。ハバタク株式会社の丑田さんは、「シェアビレッジ」や「ただのあそび場」など地域を巻き込んだ活動をしていますが、イネーブラーはどんな存在でしょうか?

 

丑田 : 「シェアビレッジ」のプロジェクトでは、Uターンして「家守」という役割で参加してくれた半田理人くんが、町内会の役員として活動しながら集落との関係性を築いたり、地域外の人と丁寧につないだりすることで、次第にいい湯加減になっていきました。他のプロジェクトにもいろいろなイネーブラーがいて、役場の職員だったり、酒蔵の蔵元だったり、地元のお母さんだったり、高校生だったり、様々な主体が地域づくりを支えてくれています。

 

各プロジェクトに共通する視点があるとすれば、最初から地域の人を巻き込みすぎないことです。例えば「ごじょうめ朝市plus+」では、朝市を開いていない日曜日に臨時朝市というスタイルを取り、小さな動きから始まりました。次第に出店数や来場者数が増えていき、2年目からは通常の朝市のおばあちゃんたちと一緒に活動を始め、既存のコミュニティと新しいコミュニティがゆるやかに和えられていく流れになりました。

 

大切にしているのは、必ずしも各プロジェクトが「共存」する必要はなく、同じところにいくつかが存在する「並存」でもいいということ。しかし、イネーブラーが欠けると、この「並存」が「分断」になる可能性があるため、彼らの存在は大きいと思っています。

 

おばあちゃん達の日常の出店の間に、住民によるお菓子屋やコーヒー豆のお店、地域医療のために移住してきた医師が開く健康相談コーナーなど、小さなお店が多く並ぶ

Beの居場所がDoのチャレンジを生む

飛田 : 居場所づくりの一つのテーマに「インクルーシブ(※)」があります。これは、生きづらさを抱える人たちとも共生できる1つの居場所をつくっていこうというものです。地域づくりにおいて「インクルーシブ」をどのように捉えていますか?

※日本語で「包括的な」「すべてを包み込む」という意味

 

豊田 : 居場所には、居心地の良さが必要です。居心地の良さには2種類あって、「自分が何者かである」すなわち、自分が役に立っているという要素と、「自分が何者でなくてもいい」すなわち、そこにいるだけでOKという要素が存在します。

 

居場所には、その両方の要素が必要だと思っています。例えば、国内のユースセンター事業を行っているところでは、意思を持って子どもの創造性を育むプログラムを実施しているところと、ここに来るだけでいいという場所の両方があります。

 

先ほど飛田さんから「居場所の利用者が社会活動を始めた」というお話がありましたが、「挑戦して失敗しても戻れる場所」の存在が根底にあるからだと思うんです。目的に向かって挑戦する活動は継続しづらいです。時には、いるだけでいい、ゆったりした場所も必要だと思っています。

 

大人の島留学」では100人の若者が島にやってくる。「100人の内、5人でも移住してくれるとうれしい。帰っていく95人は、その後も濃厚な関係人口として関わりが続くことを目指している」と豊田さんは話す

 

湯浅 : それを私はDoとBeと言っています。Doの居場所とは、何かをすることで認められてもっと頑張ろうという場所。学校や職場が当てはまります。Beの居場所は、認められることが始発点となる場所。認められることで頑張ろうという気持ちが芽生えて、行動につながります。私たちの考える居場所は、Beと親和性の高い居場所です。

 

川島 : 居場所は全体的に、不登校やホームレスといった都市型の問題に対して取り組む団体が多い印象です。都市の生み出す問題に対して、課題を抱える人たちを「認める」というBeを提供しています。一方、小さい地域ほどDoのパワーから始まり盛り上がったところで、Beが発露し始める。そんな段階もあるように思いますが、みなさんはどう考えていますか?

 

森山 : 中間支援組織として若者がチャレンジできる土壌づくりを行っていると、プロジェクトの「ゴールを目指すインターン」だけでなく、「(何も)目指さないインターン」というジャンルが出てくるわけです。彼らはここにいるだけで、自分の存在価値を見出すことができます。これが地方の集落でインターンをするメリットだと思っています。

 

若者が来るだけで、集落の未来って明るくなるんです。たとえ若者に目指すものがなくても「野菜持って行け」と声をかけてくれるような、居られる場所が集落にはあります。若者はここで受け入れられた経験から力を得て、Doの世界へ行くことができる。私たちはその底の部分をつくっているとも思います。

 

いるだけでいい。そんなBeの居場所での経験がチャレンジのDoを生んでいる感覚です。どちらか一方だと偏ったり壊れたりすると感じています。

 

丑田 : 人々は意味を求めすぎている側面があると思います。大前提として意味や目的を持ち、届けるべき人に届ける取り組みは大切です。そのうえで、意味や目的がない取り組みの必要性も感じていて、両方を自分の脳内に持っておくのがいいと思いました。

 

例えば、支援という目的を手放し、地域のみんなでただ美味しい朝ごはんを食べる活動をしてみる。それぞれが食材を持ち寄って羽釜でご飯を炊いていたら、匂いにつられてやって来た子どもたちが、多世代のつながりの中で結果的にケアされていくこともあります。また「ただのあそび場」に、学校帰りの子どもたちも、学校での生活が合わない子たちも分け隔てなくやって来るのも、場の目的や意味を手放したからこそだと思います。

地域づくりの先に、それぞれが見据える未来とは?

番野 : みなさんは地域づくりの先に、どのようなビジョンを掲げていますか?

 

豊田 : 私自身を含め、50代のための居場所や役割をつくっていきたいです。50代は若い世代へ挑戦の機会を与え、受け渡していかないといけません。例えるなら、陸上トラックで走っている50代が、トラックを若い世代に譲った後、「自分はどこを走ればいいのか」と模索するような人がいると思います。そういう思いを抱えている人たちの居場所をつくりたいと考えています。

 

森山 : まちづくりや地域づくりは人間の寿命より長いものを扱います。連綿と続く地域のどの部分を自分が担ったのかを感じられるのがお祭りです。

 

七尾で1000年以上続く青柏祭では「でか山」と呼ばれる約20tの山車(だし)を、子どもから大人まで一緒になって曳っ張り、動かしている

 

ミクロで見た一人の人生と、持続する地域との関わりを実感できたとき、幸せ感が得られます。関わってよかったと思えることを自分自身につくりたいし、こうした関わり方ができる仕組みをつくっていきたいですね。

 

湯浅さんや飛田さんが「地方にはお祭りがある一方、都市にはお祭りのような象徴するシンボルがない」と話していましたが、足元を見ると実はあるのかもしれないなと思っています。これまでの都市化の方向性は、お祭りなどシンボリックなものから切り離して仕組み化することだったと思うので、都市の中で拠り所となるものを再発見する、もしくは新たにつくっていく必要があるかもしれません。

 

丑田 : 暮らしの中にコモンな領域が増えることで、拠り所が増えて生きやすくなります。日本中にある空き家や耕作放棄地、山など、先人が残してくれた資源を活かし、コストを抑えつつ楽しみながらコミュニティで自治すると、衣食住のベースをつくれると考えています。

 

テクノロジーも活用して取り組めば、今より自由な時間が増えて、遊んだり、学んだり、助け合ったりできるんじゃないでしょうか。スクール(学校)の語源は、ギリシャ語で暇つぶし。暇で星を眺めているうちに探究心が湧いて、それが学びの原動力につながると捉えるなら、「皆さん、もっとおいしいものを食べて、よく寝て、遊んで、暇に生きましょう」と投げかけたいと思います。

 

湯浅 : 今回は、居場所づくりと地域づくりにおける価値観や考え方などで共通点が多かったと感じています。今後も継続して、みなさんと意見交換し「居場所づくりは地域づくり」についての考えを深めていきたいです。

 

 

<登壇者プロフィール詳細>

丑田 俊輔(うしだ しゅんすけ)さん

ハバタク株式会社 代表取締役2004年、千代田区のまちづくり拠点「ちよだプラットフォームスクウェア」の創業に参画。日本IBMを経て、2010年、新しい学びのクリエイティブ集団「ハバタク」を創業。2014年より秋田県五城目町在住。商店街の遊休不動産を活用した遊び場「ただのあそび場」、住民参加型の小学校建設「越える学校」、住民出資による温泉再生「湯の越温泉」、コミュニティ支援プラットフォーム「Share Village」、地域の森林とデジタル技術でつくる集合住宅「森山ビレッジ」など、地域資源とコミュニティの共助を活かした様々なプロジェクトを手掛けている。

 

森山 奈美(もりやま なみ)さん

株式会社御祓川 代表取締役

石川県七尾市生まれ。横浜国立大学工学部建設学科建築学コース卒業。平成7年 ㈱計画情報研究所入社。都市計画コンサルタントとして、地域振興計画、道路計画等を担当。民間まちづくり会社㈱御祓川(みそぎがわ)の設立に携わり、平成19年より現職。川を中心としたまちづくりに取り組み、日本水大賞国土交通大臣賞、第7回「川の日」ワークショップグランプリ、ふるさとづくり大賞総務大臣個人表彰などを受賞。2010年より「能登留学」で地域の課題解決に挑戦する若者を能登に誘致している。

 

豊田 庄吾(とよた しょうご)さん

島根県海士町役場

1996年に広島大学総合科学部を卒業し、株式会社リクルートコンピュータプリントに就職。その後、人材育成会社で研修講師/出前授業講師を経て、2009年11月に島根県隠岐諸島の海士町に移住。県立隠岐島前高校魅力化プロジェクトの立ち上げに参画し、高校/地域連携型公立塾、隠岐國学習センターを立ち上げ初代センター長を務める。2022年4月より海士町役場で若者の還流おこしプロジェクトに従事。大人の島留学プロジェクトの主に研修の企画・運営にも携わっている。2024年4月より広島県三次市教育委員会にて、市内の小学校の学びのアップデートに関わる。

 


 

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藤野 あずさ

高知生まれ、茨城在住のフリーライター。企業のCSR・環境報告書の編集・制作や環境マネジメントシステムの運営に携わり、2013年からフリーランスの編集・ライターとして活動を始める。サステナビリティやソーシャルビジネスをテーマに、地域の取り組みやその担い手の方々のことを執筆しています。海も川も山もある茨城で、人と自然とつながりながら暮らしています。