みなさんの地域に中間支援組織はありますか? 中間支援組織とは、地域内外の様々な関係者の間を取り持つ「ハブ」のような役割を担う組織で、法人形態は様々です。地域でこんな事業をやってみたい、ビジネスにはならないかもしれないけどこんなアイデアがある、そんなとき最初に力になってくれる場所をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
今回の記事では、このような中間支援組織を立ち上げる最初の一歩に迫ります。愛媛県久万高原町(くまこうげんちょう)役場の伊藤さん、一般社団法人ゆりラボの板垣さん、酒井さんにお話を伺いました。
伊藤 敦志(いとう あつし)さん
久万高原町役場 まちづくり戦略課課長補佐
愛媛県砥部町出身。愛媛県久万高原町在住。1996年久万高原町(旧久万町)入庁。入庁から林業部署に所属し育林・造林補助や林業土木を担当。その後企画部署に異動しETIC.やLV協議会に出会う。現在まちづくり戦略課課長補佐として、商工産業・移住定住・地域おこし協力隊・ふるさと納税を担当。
板垣 義男(いたがき よしお)さん
一般社団法人ゆりラボ 代表理事
神奈川県横浜市出身。2011年の東日本大震災をきっかけに妻の出身地である愛媛県松山市へ移住。2020年より一般社団法人えひめ暮らしネットワーク代表理事として、愛媛県全域の移住促進及び地域おこし協力隊支援に携わる。2022年、一般社団法人ゆりラボを設立し代表理事に就任。
酒井 大輔(さかい だいすけ)さん
ことばとつくる木造建築士事務所 代表
千葉県柏市出身。愛媛県伊予市在住。木造建築士。ことばとつくる木造建築士事務所代表。手刻み木組みの大工さんと共に、新築からリノベーションまで木造建築を手がける。その一方、愛媛県久万高原町でまちづくり事業(探究活動支援・コミュニティナース)に携わる。
※記事中敬称略。
ローカルベンチャー協議会への参画準備を契機に動き始めた、中間支援組織の立ち上げ
過疎化が進んでいることに危機感を抱いていたという、伊藤さんたち久万高原町役場職員のみなさん。NPO法人ETIC.(以下、エティック)が事務局を務めるローカルベンチャー協議会(以下LV協議会)の参画自治体である島根県雲南市(うんなんし)への視察などを通じて、以前から中間支援組織の必要性を感じていたと言います。久万高原町立病院の看護師の方がコミュニティナース(雲南市に活動拠点を置く株式会社CNCが提唱する、地域を軸とした新しい看護実践のあり方)に関心をもっていたことをきっかけに、株式会社CNC代表取締役の矢田明子さんの紹介でエティックとつながり、LV協議会参画に向けた動きが本格化していきました。
伊藤 : 当時はLV協議会の第1期がすでに発足していて、途中からの参画はハードルが高い状況でした。そこでまず役場主導で2018年に始めたのが、「ゆりラボアカデミー」という地域課題解決や地域資源を活用したビジネスなどを支援する起業塾です。
元々は役場の中堅・若手職員からの提案が発端となったプロジェクトで、2016年頃から動いていました。久万高原町をもっと元気に、ずっと幸せに暮らせる故郷にしていきたいという想いを議論する中で生まれたものです。
2018年にゆりラボアカデミーの第1期生を募集したところ、町内外から14組19名の参加があり、興味をもってくれる人が結構いるんだという手応えを感じました。行政と地域住民が協力して、いろいろなことにどんどんチャレンジしていけるような、「オール久万高原町の応援団組織」をつくりたいという思いが根本にあります。そこで中間支援組織の設立に向け、第1期生を含めて今後の相談をしたところ、1期生だった板垣さんが手を挙げてくれて、「ゆりラボ」が立ち上がっていくことになりました。
現在のゆりラボでの活動の様子
行政の熱量が民間のユニークな人材を惹きつける
立ち上げの当事者である板垣さん、酒井さんはどのような思いでゆりラボへの参画を決めたのでしょうか。
酒井 : Facebookを見てゆりラボアカデミーを知ったのですが、役場が熱量をもって発信しているのはめずらしいなと興味をもちました。「あにやん行こうよ」と僕が板垣さんを誘って参加したのが始まりです。
板垣 : 2人とも愛媛県内で移住関係の仕事をしていたので、よく顔を合わせて夢を語り合うような間柄でした。
酒井 : NPO法人(市民大学)の活動で久万高原町にも行ったことがあったので、「おとなしい印象だった町が何か仕掛けている!」というわくわく感があったんです。行ってみたら思った以上に熱気があって、伊藤さんの司会も最初はガチガチでしたけど、気持ちが入っているのが伝わってきたのを覚えています。
ちょっと変わった人が来て盛り上がっているというか、「ファーストアルバムならではの初期衝動」のような熱量を感じました。おっかなびっくりだけど、役場職員のみなさんもこの場に期待されていたんではないかと思います。僕は木造建築士だったので、古民家を改修したゲストハウスのようなプランを考えていたのですが、気付けば全く違う提案をしていました。
板垣 : 当時発表したのは、酒井くん発案の木造建築の展示も入れつつ、みんなで話し合える場や、町立病院の人とも一緒にコミュニティナースの拠点をつくろうという提案です。それと併せてゆりラボアカデミーを毎年実施していきたいと思い、ゆりラボの設立に至りました。
板垣さんは一般社団法人えひめ暮らしネットワークという移住推進と地域おこし協力隊支援を担う組織の代表も務めており、松山市から週に1~2回のペースで通いながらプロジェクトに関わるようになりました。翌年のゆりラボアカデミー第2期は、板垣さんが運営側事務局として開催し、同時期に商店街の空き店舗を改修しての拠点整備にも着手。設計は酒井さんが担当しました。
住民有志が運営する「ヨイラボ」。毎週金曜の夜にオープンする
2020年には地域おこし協力隊のメンバーが入り、コミュニティナース事業がスタート。このタイミングで「任意団体ゆりラボ」として組織化もされました。そして拠点の整備が完了した2021年、第2期からLV協議会への参画が決まります。
その後も、町内の愛媛県立上浮穴(かみうけな)高等学校における探究学習支援を行う「放課後ラボ」、毎週金曜日の夜に住民有志がゆりラボの一角をレンタルして営業する、久万高原町産の素材を使った料理やお酒が味わえるバル「ヨイラボ」など、ゆるやかに人が集まり、これまで町内になかったような場が生まれています。
「ゆりラボ」があることでゆるやかに人が集まり、これまでにない場が生まれている
ゆりラボのお二人に、ぜひ知ってほしい町内での新たな「兆し」となる事例を伺ってみました。
板垣 : まずは、第2・第4金曜日の月2回、ゆりラボ内でランチ営業している「タネマキ食堂」です。ベーグル屋さんなんですが、営業日にはすぐに満席となるような人気ぶりです。ヨイラボもそうですが、おもしろいことをやってみたいという町の人にとって、本業を別に持ちながらチャレンジする場、自己実現の場になっているというのが、ゆりラボのおもしろいところなんじゃないかと思っています。
それから、久万高原町初となるクラフトビールの開発プロジェクトですね。こちらは、以前ゆりラボでふるさと納税を担当していた協力隊員がプロジェクトリーダーとなり、農業担当の別の協力隊員と協力して開発を進めました。原料となるホップを町内で生産することでホップ農家が増えたという面からも、継続性があるプロジェクトになったと思います。ゆりラボではバックオフィス業務の他、酒販手続き、冷蔵庫置き場の提供といったサポートをしました。
タネマキ食堂で人気のベーグルランチ
酒井 : 僕自身が兆しの1つです(笑) 。4月からゆりラボを離れ、「ことばとつくる」としてまちづくり事業にチャレンジしていきます。ゆりラボで実施していた放課後ラボやコミュニティナース事業に取り組む予定です。ゆりラボから新たな事業体が飛び出すことで、町にどんなインパクトを生み出すのか知りたいんです。僕が動くことで隙間が生まれて、それなら自分はこう動いてみようか、というような動きが連鎖的に起きていきそうな気配を感じます。
一方行政という立場から関わっている伊藤さんも、この数年で変化を感じているそうです。
伊藤 : 久万高原町のゆりラボは、少額の予算から自発的につくり上げてきた中間支援組織です。衝突を繰り返しながらも前に向かって進んでいて、最近はゆりラボと関わる担当部署以外からも、「あそこにお願いしたらアイデアをくれるかも」という雰囲気が出てきたように思います。アイデアや熱量があるけど踏み出せないという人達の受け皿になっているのがゆりラボです。仲間ができて火を焚きつけ合うような場になっていると思います。
ゆりラボでの起業支援の様子
久万高原町ならではのゆるやかなチャレンジが形になっている背景には、想いを受け止めるという姿勢があるようです。
板垣 : ローカルベンチャーと聞くと戦士みたいな人をイメージされる方も多いかもしれませんが、この町にそんな人はいません(笑) 。それでも熱いものをもっていて、話している中でふくらんでいくのを目の当たりにしてきました。
酒井 : しっかり傾聴・観察して、ゆりラボに来てくれるみなさんの気持ちを受け止めようとした結果、熱い人が寄ってくるようになったと感じています。受け止める人がいるというのは大切なことかもしれません。
前に進んでいるからこそ見えてきた課題。官民連携で新たな構想の実現を目指す
ゆりラボが町内で徐々に影響力のある存在となっていく中で、組織としての課題も見えてきたと言います。代表である板垣さんが常駐していないからこそ、しがらみなく活動できるというメリットがある一方で、マネジメントの上では現場との密接なやり取りが必要な面もあり、組織体制を見直す時期にきています。
板垣 : 今後はサイドプロジェクト的な位置づけではなく、責任あるマネジメント体制に変えていく必要があると考えています。酒井さんが独立するということもありますし、ゆりラボは原点回帰して、町民のチャレンジを応援するという本来のミッションに立ち返り、丁寧にやっていきたいです。
酒井 : 僕にとってはスタートの年なので、まずはつぶれないよう引き受けた事業をしっかりやりきります。久万高原町に大きな事業体はありませんが、小さな可能性や小さな本気がたくさんあるんです。そこに気付けば、中間支援のあり方も変わるでしょうし、ゆりラボ以外の中間支援組織も出てくるかもしれません。今後もいい感じで地域をかき混ぜる役を担っていけたらと思います。
久万高原町役場の伊藤さんも、ゆりラボと連携した「ウッドバレー構想」の実現に期待を寄せています。「ウッドバレー構想」とは、久万高原町の伝統産業である林業を中心に置き、多様性と継続性のある循環型のまちづくりを目指すものです。すでにある程度形になっている、四角で囲まれた事業の間をつなぐことで、丸枠で囲んだ活動の担い手の掘り起こしや呼び込みに取り組んでいきたいと考えているそうです。
伊藤 : 木といえば久万高原が連想されるような町にしていきたいという夢があります。これまで先人が積み重ねてくれたものに付加価値をつけて販売できるような外部のプレイヤーを呼び込んだり、地域からそういった人材を育てたりしていきたいです。ゆりラボを中心に発信していますが、板垣さんや酒井さんを始め個人の力によるところが大きいので、今後は町のプロジェクトとしてしっかり打ち出していきたいと思います。
今回は、LV協議会の参画自治体である久万高原町のお三方に、中間支援組織の設立についてお話を伺いました。LV協議会や、中間支援組織の設立に関心がある方は、こちらのページよりお問い合わせください。
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