認定NPO法人夢職人
・「認定NPO法人夢職人」では、異年齢での自然体験や科学・文化・芸術活動などの体験を通じて、家庭や学校だけではなかなかできない、多様な関わりの中で成長する機会を提供している。
・体験活動には多くのボランティアスタッフが参加。事前事後の研修や振り返りも多く、求められるものが大きい分、支える側も成長できるコミュニティが育っている。
・地域という場を活用することで、家庭や学校の負担も減り、子ども達の育ちもより豊かなものになっていく。
「みてね基金」は2020年4月から、すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。
「認定NPO法人夢職人(以下、夢職人)」は、首都圏の小中学生を対象に自然体験や科学・文化・芸術活動などの体験活動を行っている他、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年からは、経済的な事情を抱えた子育て家庭(ひとり親家庭・低所得家庭等)に対する支援活動も実施しています。「みてね基金」第三期ステップアップ助成で採択され、体験活動や支援をより推進していくために組織基盤の強化に務めてきた、理事長の岩切準さんにお話を伺いました。
※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。
理事長の岩切準さん
子どもの頃に当たり前だった「地域での体験」を、現代の子ども達にも
夢職人は、岩切さんが育った東京都江東区を活動拠点としています。下町の風情が残るエリアで、子ども会活動も盛んな地域です。夢職人が主催する会員登録制の「キッズクラブ」では、料理や科学などをテーマとした日帰りプログラムと、連休や長期休暇を利用した2泊3日程度のキャンプを、それぞれ年10回ほど開催しています。岩切さんが実体験を重視しているのは、いろいろな体験をさせてもらう機会が当たり前のように存在していた、自身の子ども時代がベースにあるそうです。
「春休み子どもキャンプ」では野外料理に挑戦
薪割り、火起こし、野菜の下準備、調理にもチャレンジ!
「夢職人は、僕が大学3年生だった2004年に学生団体として立ち上げました。この頃ちょうど自治体の社会教育事業の打ち切りが相次ぎ、僕たちが子どもの頃に楽しみにしていたイベントやキャンプが次々と廃止されていったんです。
自治体に掛け合ってはみたものの決定は変わらず、だったら自分たちで独立して体験の機会を作っていこうと考えたことが夢職人の設立につながりました。そのときに集まってくれたのが、同じ地区で子ども会のリーダーをやっていた仲間たちです。幼馴染のような関係性のメンバーと運営しているというのは、NPO法人としてはめずらしいかもしれませんね」
子ども会活動のような異年齢での自然体験やレクリレーションには、学校や家庭ではなかなかできない経験が凝縮されています。夢職人が行っているプログラムでも、同学年だけで何かをすることはほとんどなく、異年齢でグループを組んで活動するスタイルが基本です。
「参加者は小学1年生から中学3年生までと幅広く、そこに大学生や若手社会人など20代を中心としたボランティアスタッフも加わります。お兄さん・お姉さん的な存在や大人と多様な関わりをする機会は、子どもたちの学びや育ちにとって必要不可欠です。地域社会の中でこそ育まれる、重要なものだと考えています。
活動で大切にしているのは、スタッフが決めたことをやってもらうのではなく、『何をしたい?』と子どもたちの意見をしっかりと聞くことです。『川遊びがしたい!』、『ハンモックで寝てみたい!マンガで見たけどどうやったらできるの?』といった子どもたちの声からプログラム内容を検討しています」
「春休み子どもキャンプ」で積極的に意見する子どもたち
支える側も成長できるコミュニティが、多くのボランティアを惹きつける
夢職人の活動は、多くのボランティアスタッフが関わっている点が特徴的です。現在登録されているボランティアは130名に上り、キャンプや日帰りプログラムの運営を支えています。
「学生団体としてスタートしたので、始めは言わば全員がボランティアでした。団体の存続のために、僕自身は大学院卒業後、夢職人の運営に専念することを決めましたが、立ち上げ時のコアメンバーは社会人になってからもボランティアとして関わり続けてくれています。こういった成り立ちもあって、ボランティアも含め関わる人みんなが成長できる、楽しいコミュニティにしようという想いをもって活動に参加している人が多いと感じています」
夢職人では、子どもたちを守るためにも、いくつかのステップを踏んでしっかりとボランティアを選考しています。入会後も年に4回程の定期研修の機会を設け、体験活動に対するリスクマネジメントや発達障害への理解など、ボランティアスタッフのスキルや知識の向上に務めています。
「活動数が多く、全部に出ると週末が埋まってしまうので、それぞれのスケジュールに合わせて参加してもらっています。1つの活動には、実際の活動への参加以外にも、事前の打ち合わせや事後会があります。事後会では、活動を振り返り、ある出来事に対してどういった対応が正しかったか、どんな改善ができるかなどを協議して、切磋琢磨しています。
事前から事後まで、他のボランティアよりも時間や労力がかかると思いますが、実践を繰り返すことでレベルアップできます。主体的に学ぶ意思がある人には活動しがいがあると思いますが、受け身だと難しい団体です。そのため、説明会など入口の時点で『こういう団体です』としっかり伝えておくことを大切にしています」
団体発足から20年以上が経ち、当時小学生だった参加者は社会人になり、支える側として関わっている事例も出てきているそうです。さまざまな体験活動を通じて、学校とも家庭とも違うコミュニティが育っているため、親睦会や進路相談なども日々自然と行われています。夢職人のボランティアスタッフの様子からは、充実感や楽しさ、成長など、お金ではない価値を感じていることが伺えました。
「もしかすると、世間一般に言う『ボランティア』という感覚はあまりないのかもしれません。自身の成長や仲間づくりに意義を感じて参加している印象です。多世代で活動しているので、高校生が大学生に大学の様子や受験勉強について聞いたり、就職活動に向けて大学生が社会人に相談したりといった交流が生まれています。そういったつながりの1つ1つに、夢職人そのものが表れているように思います」
仲間や子どもたちとの交流を通じて、自身も成長するボランティアスタッフ
コロナ禍での苦境。資金不足と人材不足を解消するための体制強化へ
そういったコミュニティづくりを含めた活動も、約3年続いたコロナ禍の影響により非常に深刻な影響を受けました。
「ものに触れる、人が集う活動なので、コロナ禍との相性は最悪でした。コロナ禍によってこれまで積み上げてきたものが突然絶たれ、団体が終わるのではと思う時期もありました」
危機的状況の中で、2020年12月から新たに始めたのが、デジタルクーポンを使った子どもの食の支援事業『Table for Kids』です。スマートフォンアプリを使って必要な家庭にデジタルクーポンを提供し、デジタルクーポンでまちの協力店で食料品を購入したり、おいしい食事を食べたりすることができます。
「お店にとっては通常の営業と同様に対応できるので負担が少なく、利用者にとっても他のお客さんと変わりなく、周りの目を気にせず使える点が特徴です」
「Table for Kids」の支援の流れ
コロナ禍以降も食の支援に対するニーズは高いものの、必要な家庭に届けていくためには多額の資金が必要でした。また、コロナ禍によって様々な体験を子どもたちに届ける活動をしていた団体が減っていく中で、夢職人として改めて子どもたちのために体験の機会を確保していく必要性も感じていました。
そこで夢職人では、2023年度から「みてね基金」を活用して、食の支援における寄付不足の解消と、体験活動における人材不足の解消に取り組んできました。資金調達の面では、日本ファンドレイジング協会による「ファンドレイジング実践プログラム」なども活用。有資格のファンドレイザーによる半年あまりの伴走支援を受け、法人向けの寄付金募集の仕組み作りにも取り組みました。
一方の体験活動においては、コロナ禍収束後、体験活動に参加したいという家庭が増えたものの、ボランティアの募集がストップしていたため、圧倒的に人手が足りない状況でした。参加希望者を受け入れられない状況が1年程続きましたが、「みてね基金」の助成でインターネットを活用したボランティア募集を強化した他、「みてね基金」のネットワークを通じて他の団体にヒアリングし知見を得ることで、募集や育成を強化できたといいます。
「『みてね基金』の採択前は、新しいボランティアはほとんど入って来ておらず、コロナ禍前の半分以下にまで落ち込んでいましたが、インターネット上での募集を強化したところ、前年の2倍近い応募がありました。とは言え、人数がいればいいわけではありません。
コアメンバーとも、ただ以前のように戻るのではなく、より成長した形で事業を拡充していきたいと話をしていました。コロナ禍からの再スタートとして打ち出したのが、多様な背景をもつ子どもたちが一緒に体験できる場をつくることです。それには新しいボランティアを迎えるだけでなく、スキルアップも必要でした。
コロナ禍以降は、自治体や他の団体とも連携し、不登校や困窮家庭等の子どもたちが体験活動に参加することが以前よりも増えました。意見の食い違いがある中で、お互い助け合ったり、尊重したりする姿勢はますます重要になっています。子どもたちのロールモデルとなるスタッフが自らそういった姿勢を見せてくれることで、子どもたちの活動を何倍も魅力的にしてくれるんです。受け入れ体制が整うにはもっと時間がかかると思っていましたが、約2年でここまでくることができました」
多数の子どもたちと向き合うボランティアスタッフ
ときには子どもと1対1で話すことも
コロナ禍以降進んだ二極化。大変な家庭にまず必要な支援とは?
夢職人の事業にも多くの影を落としたコロナ禍ですが、岩切さんは学校以外の場に目を向ける生徒が増えたと感じているそうです。また、2022年度からは高等学校で「総合的な探究の時間」の授業が導入され、教科横断的な学びやSDGs(持続可能な開発目標)といった社会的なトピックへの関心も高まりました。
「自分で関心のあることを見つけたり、チャレンジしたりできる子にとっては、以前より取り組みやすい環境になってきている一方で、自分では選べない子や、日々の生活で精一杯という若者もたくさんいます。コロナ禍以降こういった二極化が進む中で、学校や家庭で苦しんでいる若者が多いことも事実です。そんな子どもたちが安心して外に出てこられるような社会になっていくといいなと思っています。
そのためには、まずつながることが大切です。子どもの支援は、子どもだけではなく家庭を含めた支援が求められています。経済的に大変な家庭では支援制度を調べる時間もなく、使える支援があっても存在を知らない場合が多いんです。『Table for Kids』では、食の支援を入口として、他団体の支援プログラムや奨学金など、様々な支援情報をお知らせすることで、支援制度の活発な利用につなげています。福祉的な支援が教育的な支援になっていくことも、この数年間で得た学びです」
「ご家庭では『あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ』と焦ってしまうことが多いんじゃないでしょうか」と、「抱え込む子育て」を心配する岩切さん。
「『〇〇格差』という言葉が出るたびに不安な気持ちになってしまいますよね。学校でも先生方の多忙な状況が問題視されています。家庭も学校も大変だからこそ、地域も子どもたちの学びと育ちに有益な場なんだと知ってもらいたいです。
地域にはまだまだ余白があり、たくさんの可能性があります。うまく連携できればご家庭の負担も減りますし、学校と役割分担できることもあると思います。引き続き地域の担い手としてがんばっていきたいので、ぜひ頼ってもらえたらうれしいです」
地域の余白と可能性を信じて
取材後記
地方に住んでいると川などで遊ぶ機会は多いものの、都市部と比べて日常的にできるスポーツの種類や、芸術鑑賞、キャリア教育などの機会は限られていると感じています。岩切さんへの取材の中で、「これまでは自然体験を受け入れてくれる地方のパートナー団体に子どもたちを送り出すことが中心だったけど、逆に地方の子どもたちが首都圏を訪ねてくるような、双方向性のある活動にできたら」といったアイデアも出てきました。親の経済事情や住んでいる地域によらず、子どもたちに豊かな成長の機会が開かれている社会にしていきたいですね。
フォトグラファー : 荒田 駿介
学生時代の趣味から始まり、ラブグラフには創業初期からカメラマンとして所属 ウェディングやファミリーフォトの撮影から経験を積み、現在では法人向け撮影でのライティングを使った作り込んだ撮影や映像制作にも取り組んでいる
団体名
助成事業名
子どもの食と体験を支える事業拡大のための組織基盤強化
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