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世界と日本で生まれている新しいお金の潮流とは?常識にとらわれない「財団」のチャレンジ

2021.12.21 

表紙トリミング後

 

2021年は、コロナ禍や自然災害などを背景にさまざまな社会課題が深刻化した一年でした。貧困、虐待、雇用問題などこれまで知られなかった課題が多くの人の目に触れることにもなり、「何とか力になりたい」と思った人も多いのではないでしょうか。

 

そんな中、新しいお金の流れやチャレンジが「財団」「基金」という枠組みの周辺に生まれています。それらの取り組みを掘り下げ、これからの財団・基金に求められる役割や可能性について考え、議論していくセッションが開催されました。

 

本記事では、その内容の一部をご紹介します。(文中敬称略)

 

※本セッションは、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)が開催した招待制イベント「ETIC.カンファレンス」で実施されました。詳細は文末をご確認ください。

<「2020年代に生まれた新しいお金の潮流~財団や基金の役割・機能を考える~」>

<スピーカー>

鵜尾 雅隆 : 認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会 代表理事

田中 多恵 : 一般財団法人山田進太郎D&I財団 事務局長

日向 昭人 : 公益財団法人PwC財団 事務局長

小俣 健三郎 : NPO法人おっちラボ 代表理事/公益財団法人うんなんコミュニティ財団 理事

 

<モデレーター>

山元 圭太 : 合同会社喜代七 代表/株式会社Seventh Generation Project 取締役/日本ファンドレイジング協会 理事&認定ファンドレイザー/雲南市 総合戦略推進アドバイザー

世界で見られる二つのお金の潮流

 

山元 : まず、このセッションの発案者である田中多恵さんに、このテーマを選んだ理由をお聞きします。

 

田中 : 今年8月より、エティックからの出向という形で、一般財団法人 山田進太郎D&I財団の立ち上げと運営に携わってきました。最近、感じるのは、今、社会のために多くの人が当たり前のようにアクションを起こし始めていることです。これまでは社会起業家など限られた人だけだった兆候が、「コレクティブ」をキーワードに多く見られるようになったと感じます。その中で、財団が一つの重要な機能を果たしていくのではないかと思っています。

 

山元 : 次に、日本ファンドレイジング協会の鵜尾さんから、資金の世界的・時代的な潮流について、今一体何が起こっているのかをお話いただきます。

 

鵜尾さん小2

日本ファンドレイジング協会 鵜尾 雅隆さん

 

鵜尾 : 私は、これまで13年ほど、認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会の代表理事として、お金の流れをつくる取り組みをしてきました。同時に、2020年4月、富裕層や経営者の社会貢献を支援するプラットフォームを、公益財団法人日本フィランソロピック財団などを中心に立ち上げました。

 

この1年、上場企業のオーナー経営者や主要な金融機関の方々と対話をする中で感じたことがあります。世界と同時に、日本でも起こっていることです。

 

まず、世界では二つの変化が起きています。一つは、特に富裕層や経営者が、社会貢献をライフワークとして、理想に向けた変革を起こしたいという「インパクト思考」の行動をどんどん生みだしているように感じます。

 

二つ目は、世界的に気候変動への関心が高まっている中で、資本主義の限界論のような動きがとても大きくなっていること。今、ESG投資やインパクト投資など、世界のお金の流れを変えていこうという、資本主義のバージョンアップを仕掛ける動きが必要だという議論が出ています。背景には、先進国で高齢化が進み、高度成長が難しいなどいろいろな要因がある中で、多くの人が「人生とは何だろう」と考え始めていることがあるのではないでしょうか。

 

私が関わっているインパクト投資のグローバルネットワーク GSG国内諮問委員会では、「Impact Investment:The Invisible Heart of Markets」をうたっているのですが、これは「市場の見えざる心を動かそう」という合言葉になります。この言葉を、今、世界中の金融関係者が言い始めています。

日本のお金の流れで起きている三つの変化

 

鵜尾 : 次に、日本で起こっていることは三つあります。まず一つ目として、世界では稀有ですが、日本は災害が起きる度に社会貢献が進んでいるということ。1995年の阪神・淡路大震災では、6,000人以上の人が亡くなりました。私は神戸出身ですが、この震災が起こった年はボランティア元年ともいわれ、その後、ボランティア文化が日本で定着しました。

 

2011年の東日本大震災後は、それまで1年間に1回以上寄付する人が3人に1人(約30%)といわれていたなか、68.6%の人が寄付をし、それ以降は、何度調査をしても、約45%の人が1年に1回寄付をしています。

 

鵜尾さん2

鵜尾さんの資料より

 

つまり、災害を経験して、日本社会はいままでより10%多く寄付する社会になったということです。これは、日本が災害を実体験すると変わることを表しています。大規模な災害ごとに寄付が進むとした場合、では、コロナ禍で私たちの社会はどう変わるのだろうか、ということです。

 

コロナ禍で困っている人とそうでない人との差が広範囲に現れています。なかなか見られなかったこの状況で、経営者たちの間では、「何かやらなければ」という連帯感が生まれています。これが日本で起きている二つ目の変化です。

 

また、若い層の社会貢献がコロナ禍でとても伸びています。これまでなかった動きが見え始めているなかで、私も、上場企業のオーナー経営者が集まる場でお話しましたが、みなさん、財団の話に関心をもっていました

 

日本で起きている三つ目の変化は、遺贈寄付が増えていることです。日本では、今、大きな変化点にあり、「相続の一部を寄付したい」という人がどんどん増えています。私は、経済の効率性の面で資本主義はこれからも続くと思うのですが、資本主義社会で交換されるものは、お金だけではなく、共感やつながり、一人ひとりが実現したい社会のあり方、自己実現などが流通していく社会ではないのだろうかと感じています。

 

私は寄付というテーマに関わっていますが、寄付は「無限電池」だと思っています。一つのお金で100円のペットボトルを買えばそれは交換なのですが、共感がのったお金は、受け取った側を元気にすることが可能だと思いませんか?ペットボトルを一つ買っただけではない、二つ目の効果も生まれ、そのお金で喜んでくれたと聞くとうれしくなります。お金を出した側も元気になると思いませんか?

 

こうした一部のお金が動いて、幸せの総量が増えていくところが、無限電池だと思うのです。人生の幸福と社会貢献がつながり始めた世の中になっているのではないかと感じています。また、社会貢献をすることが、誰かのためだけではなく、自分たちのやりたいこと、つながりや感謝になっていくのではないでしょうか。こうした動きのなかで、新しい資本主義の形をつくれるのではないかと思っています。

抽選制、所得制限なし。理系に進学したい女子を支える―山田進太郎D&I財団

 

山元 : 2020年から今年にかけて生まれた三つの財団の方々に、概要と普通じゃないポイントをご紹介いただきます。まずは、山田進太郎D&I財団の田中さん、お願いします。

 

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山田進太郎D&I財団 田中 多恵さん

 

田中 : 山田進太郎D&I財団は、株式会社メルカリ創業者の山田進太郎氏が個人資産を投じて、2021年7月、設立されました。

 

 D&Iとは、ダイバーシティ&インクルージョン、つまり「誰もが活躍できる社会」を意味します。そのためにはまだ国籍、宗教、性別など多様な課題がありますが、山田さんはジェンダー問題に着目しました。この課題は日本ではまだ遅れていて、解決へ導くことでインパクトが出せる点も大きいですが、メルカリ社自体がダイバーシティ経営を目指す中で、女性のエンジニアが思うように採用できないという課題に直面したことが着想のきっかけだったそうです。山田さんは、コロナ禍で、この課題解決に本腰を入れて取り組むことを決め、2021年の7月に「山田進太郎D&I財団」が立ち上がり、 STEM(理系)高校生女子奨学金が始まりました。

 

今、STEM(ステム)分野といわれる理系の分野に、大学で進学する女性が日本では約18%だといわれています。経済協力開発機構(OECD)諸国でも最下位の数値なのだそうです。山田進太郎D&I財団では、2035年までには、OECD諸国の平均である28%まで改善させたいという目標を掲げ、いろいろな大学や企業、学校と連携して運動を起こしていこうとしています。

 

「誰にでも可能性はある。チャンスを自らつかみ取ってほしい」という思いから、抽選制で、所得制限はありません。これが普通じゃないポイントになります。5分でWEB応募可能など、「STEM分野に進みたい」という中学3年生の女子たちが気軽に応募しやすい設計にし、結果的には、全国から800件弱のエントリーがありました。これらのデータが集まったことで、理系選択を選びにくい実情について生の声を集めることができ、それを今後の施策に生かしていくことができることも、抽選制のメリットとして大きかったと振り返っています。

 

関連記事

>> 抽選で決まる理系女子のための奨学金がスタート。メルカリ共同創業者・山田進太郎さんと富島寛さんが再びタッグを組む理由

「この課題を解決したい」と手を挙げれば動きをつくれる―PwC財団

 

日向 : 公益財団法人PwC財団は、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことをPurpose(存在意義)に、コンサルティング、監査、税務などの事業を行うPwC Japanグループが、2020年5月に立ち上げ、2021年5月に公益財団法人化した団体です。

 

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公益財団法人PwC財団 日向 昭人さん

 

財団を立ち上げた背景には、これまでお客さまの課題を解決することを事業として行ってきたなかで、「我々は、自分たちで課題を設定しているのか?課題を解いているのか?」という疑問に直面したことがきっかけの一つでもあります。PwC Japanグループが財団を設立するのは、必然の流れだったのだろうと思っています。

 

自分たちで課題を設定し、それを解くことについては、今、一歩を踏み出しているところです。PwC Japanグループとしては、デジタルやテクノロジーというものを駆使した価値提供をしていることから、PwC財団においてもデジタルやテクノロジーというものをポイントに活動しています。具体的には、人間拡張技術で農業と福祉の課題を解決しようという農福連携のテーマ設定をし、公募・助成を行い、実際にプログラムを実行しています。また、地方の医療資源不足を解決するためにAIを活用し、地方の医師のスキル獲得に貢献できるような取り組みもしています。お金と人の両面で、財団として社会に貢献できるテーマ設定を進めているところです。

 

さらにユニークな点としては、テーマを社員から募集しています。社員全員が、「誰もがそういう課題を持っていて、それを解きたいと思っている。手を挙げれば動きをつくれる」と思えるようになればと思っています。

市民の100人に1人以上が寄付―うんなんコミュニティ財団

 

小俣 : 公益財団法人うんなんコミュニティ財団は、2020年4月、寄付をもとに設立した市民コミュニティ財団です。活動拠点の島根県雲南市(うんなんし)は、東京23区ほどの広さに4万人が住む超過疎の町です。合併以来、20年ほど地域自治を進めてきました。その自治をさらに進化させていく意味で、うんなんコミュニティ財団をつくったともいえます。

 

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うんなんコミュニティ財団 小俣 健三郎さん

 

活動内容は、まず、超地域密着型のクラウドファンディングをしています。二つ目に大きな資金を集めて、地域に循環することをしています。三つ目は、地域の中の課題を可視化し、市民の間で共有しています。

 

普通じゃないポイントは、「ここがヘンだよ!!うんなんコミュニティ財団」にまとめました。一つ目は、「小っさすぎ ! 」。二つ目は、「つながりすぎ ! 」。三つめは、「すばやすぎ ! 」です

 

「小っさすぎ !」は、規模の小ささを表しています。コミュニティ財団は全国にありますが、大半が京都府や岡山県のような県域単位になっています。市町村単位のコミュニティ財団はまだ3~4つほどしかありません。

 

小さいために財源も多くはなく、人員も限られています。その中でできることを実践していこうと動いていますが、小さいがゆえの良さもあります。それは、三つ目のポイントの「すばやすぎ !」です。市役所では不可能な素早さで意思決定されています。

 

例えば、7月に島根県東部が豪雨災害に遭い、土砂崩れなどが起こりました。しかし、その翌日には、災害支援金を立ち上げることを理事の間で決めてすぐに実行しました。100万円くらいの寄付を集めることができ、避難所の開設費の助成などが可能になりました。

 

「つながりすぎ !」については、一番大事だと思っているのですが、小さいエリアだからこそ、4万人の市民の顔と名前を思い浮かべることができます。クラウドファンディングでも、「面白い案件があるから、コミュニティ内で応援してくれませんか?」という声がどんどん入る関係性が築けています。

 

そういったつながりを強化するために、この財団を立ち上げる時には、基本財産を市民から集めることに挑戦しました。結果的に643人から300万円を募り、うんなんコミュニティ財団が設立されました。643人のうち400人は雲南市在住の方です。雲南市の100人に1人以上は、うんなんコミュニティ財団に寄付してくれていることになります。

 

私たちは、大きくないことがメリットだと思っています。虫の目で地域を見て、小さな声を拾って、例えば面白そうなことを考えている人がいたら応援することもできます。もともと自治を進化させたいという思いがありますが、自治とは、DIYで町をつくることだと思うのです。うんなんコミュニティ財団の立ち上げの時に、コミュニティ財団の先輩から助言されたのは、「うんなんコミュニティ財団は、町にある多様な声がそのまま入ってくるプラットフォーム」だということです。

 

クラウドファンディングがまさにそうなのですが、いろいろな声が挙がって、何か問題が起こった時には、「何とかしたい」という人が手を挙げ、その人をみんなで応援することが起こると、町の自然治癒力が高まると教わりました。

 

「こういうことをしたら誰かが喜ぶかもしれない」といった共感の力が起きるのは、2万人くらいの範囲でなければ成立しないのではといわれています。うんなんコミュニティ財団では、4万人ぎりぎりのところでクラウドランディングを行うことで、「困っているあの人を助けたい」と手が挙がります。それを見た人たちが、「あの人、実は困っているんだ」と状況を理解し、前向きな動きが町の中にどんどん広がることで共感力が強まっていく。そういう町になっていくのではないだろうかと思っています。

これから1~2年、財団が特に面白い

 

山元 : うんなんコミュニティ財団のようなコミュニティ財団は、これまでは基本的に県域で作られていました。でも、現在は、県域だと規模的に大きいということから、最近は市町村域でのコミュニティ財団をつくる動きが増えています。一般社団法人 全国コミュニティ財団協会では、相談のほかにも設立の支援もしています。関心ある方はぜひ利用してみてください。

 

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モデレーター 山元 圭太さん

 

鵜尾 : 今、財団がとても面白いです。クリエイティブな発想と行動力で、寄付に関する新しい見方やものの捉え方とつながり、またインパクトを生み出す素材にもなれると思っています。

 

そういう意味では、小俣さんが話したように、共感性のハブになる財団がどんどん生まれてきていると思います。新たなリーダーシップをもつフィランソロピー(社会貢献・慈善活動)としての可能性が見えてきていて、今後、こうした新しい動きは大きな注目ポイントです。経営者のみなさんが財団の立ち上げに前向きな声をあげていることからも、これから1~2年は、面白い動きが見られると思います。それをまたソーシャルセクター側でしっかりファシリテートしながら、良い流れにつなげられるように働きかけていきたいです。

 

山元 : ありがとうございました。

 


 

 

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※本記事は、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)が開催した招待制イベント「ETIC.カンファレンス」で実施されたセッションのレポートです。今後、エティックからイベント等のお知らせをご希望の方は、以下のバナーからニュースレター「ETIC. Letter」にぜひご登録をお願いいたします。

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。