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「高校生の主体性が成長する」とは?10代の活動支援から見えてきた居場所の意味―NPO法人WeD

2024.07.26 

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「高校生がやりたいことを追いかけられる地域」をビジョンに、高校生たちに「きっかけとなる機会」「地域や先駆者とのつながり」「活動のための場所」を提供し、活動を支援する団体があります。佐賀県唐津市のNPO法人WeD(うぇど)です。

 

各自治体や教育機関からも、高校生との関わり方や運営方法を「学びたい」と問い合わせが続く、WeD。最近は中学生の参画も増えてきたと言います。では、多くが求める「WeDならではの成長」とは何なのでしょうか。事務局の原雄一郎(はら ゆういちろう)さんと、大学生メンバーとして団体の運営に携わる小野芽衣(おの めい)さんにお聞きしました。

「何のために高校生を成長させたいのか?」

地域の課題解決の一環として、「高校生の成長に携わりたい」と、養護教諭、市役所職員、市議会議員ら4人を中心に、2019年に前身の団体を設立。約5年を経た今、原さんは、「自分たちの思いが10倍速、20倍速のスピードで叶っている」と振り返ります。そんなWeDの始まりは、こんな問いからでした。

 

「『高校生を成長させたい』って、自分たちのエゴではないだろうか」

 

高校生の活動支援を前提にどんな事業を作るか、原さんが約10人のメンバーで話し合いを重ねたとき、いろいろな意見が出たそうです。「自分たちが本当にやりたいことは何だろう」と問い続けた原さんたち。出た言葉が、「究極、僕たちの仲間をつくりたい」でした。原さんは言います。

 

「10年後、20年後、一緒に笑いあえる仲間ができるといいよね。だから、『自分たちのために高校生を育てる』でもいいよね。そのためには、まず、彼らが『なんでもできる』と思える選択肢を示したい。『自ら選択肢を広げられる、主体性をもった高校生を育てたい』とみんなの意見が一致しました」

やりたいことの有無に関係ない2つの入り口

WeDとして初めての活動は、代表理事の吉森旭希(よしもり あき)さんが勤務していた高校の保健室から始まりました。

 

「いくら僕たちが、『何でもやらせてあげたい』と言っても、そんな言葉に素直に反応する高校生ってまずいないんです。チラシを配ってもまったく効果なしで。

 

模索する中で、吉森がたまたま保健室にいる子どもたちに、『何か面白いことやりたくない?』って聞いたそうなんです。そこで、吉森が趣味のSUP(※)の話をしたときに、子どもたちが『やりたい!』となって。

 

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SUPを楽しむ代表理事の吉森旭希さん。右側では海を臨む城として知られる「唐津城」が町を見守っている

 

でも、SUPをやるためにはお金が必要になりますよね?どうやってお金を集めようかとみんなで考えていくうちに補助金にたどり着いて、でも、補助金はまちづくりのためのお金だから、まちづくりに貢献する活動にしないと…となって。そこから、SUPで無人島に渡ってごみ拾いをする「ReAct(海岸清掃ボランティア)」が生まれたんです」

 

(※)ハワイ発祥のウォーターアクティビティ。サーフボードに似たロングボードに立った状態で、パドルを漕ぎながら水面を移動させる。SUPは「スタンドアップパドルボード」の略。

 

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高校生たちがSUPに乗って海へ。目指す先は?

 

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最近、参加が増えてきた中学生(前列中央)たちと

 

こうしてスタートしたWeDの活動は、大きなきっかけとなる入口が2つ作られました。「ReAct」のように子どもたちの「やりたい」を軸にした活動と、やりたいことがなくても気軽に参加できるボランティア活動です。

「やりたいことができる」関わり方とは?

では、高校生たちが「やりたいことができる」と思えるために、WeDではどんな工夫、関わり方をしているのでしょうか。

 

大きな特徴は、「高校生が自分で選択すること」。彼らの選択を、大人や大学生が伴走しながら、見守ることです。

 

現在、高校生たちが考え、創り出したチームは4つ。SUPの「ReAct」ほか、「高校生カフェ」の運営を通した居場所作り「Share」、商店街でまちの文化祭を開催する「まちなかカンパニー」、波戸岬で開かれる9,000人規模のフェスで当日100人のボランティアをまとめる「放課後make」。

 

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フェスの準備を進めるWeDの高校生たち

 

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9,000人規模で開催されるフェスの様子。「放課後make」チームは、100人ほどのボランティアをマネージメントする

 

各プロジェクトのチームにはそれぞれ伴走者が1人つき、高校生たちの活動は動いていきます。テーマへの興味関心、運営方法や伴走者の方針との相性、予想されるリスクへの判断を含めて、高校生たちは、最初に自分で「やるかやらないか」を選択し、活動の運営を担います。活動費は自分たちで稼ぐのが基本。赤字など失敗の責任も取ります。

 

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文化祭には全国から集まった高校生も参加。それぞれ自分の仕事に集中している

 

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まちの文化祭では、資金調達にクラウドファンディングにも挑戦

 

実際、原さんが伴走する商店街の文化祭プロジェクトでは、早い段階で資金調達が難しくなったことがあったそう。そのとき、原さんは彼らに、企画を縮小させるか、大人の力を借りるかの二択を提案したと言います。ただし、大人に助けてもらった場合は、後日、WeDで働いて完済するのがルールです。

 

「もちろん、途中で『できない』と言ってもいいんです」と原さん。

 

「僕たちの目的は、立派な成果を出すことではなく、高校生たちを成長させることですから。一人ひとり選択の先にある過程や経験は違っていて当たり前なんです」

 

社会には、学校の先生のように自分の代わりに動いてくれる人もいない、自分はどう考え、どう行動するか、が当たり前のように問われる日々です。社会人一歩手前の彼らに、原さんは、そういった社会で必要な思考力や行動力が、ゼロから1へと成長するよう、最小限の支えとともに見守っています。

 

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高校生たちは、みんなで意見を出し合い、時に疑問を投げかけ、悩みながら目的に向かって進んでいる

 

「彼らの判断に任せる分、高校生リーダーの悩みは多いです(苦笑)。まず、来たり来なかったりする仲間もいる中で、大半の高校生たちは、部活のように『来るのが当たり前』という考えから始まっているため、仲間との衝突も起こりやすいのです。

 

僕たちができる支えは、リーダーたちに組織論をもとにアドバイスをすること。例えば、『組織は、コアになる人、たまに来る人、来ない人の3段階に分かれるから、目の前の人の特性を見極めなければお互いストレスになるだけだよ』などと伝えています。その先は高校生たちにゆだねますが、そこから大きく成長する学生も多いです」

お客さんに来てもらうために、まちへ出て行く

WeDには、現在、高校卒業後に伴走メンバーとなった大学生が4人いるそうです。その一人が、大学3年の小野芽衣さんです。

 

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小野芽衣さん。高校生の伴走を担当

 

小野さんは、高校2年だった2020年秋、同級生3人とWeDに参画し、古民家を活かした高校生のためのコミュニティカフェを立ち上げました。これが、「高校生カフェ」を運営するチーム「Share」の始まりです。

 

「ちょうどコロナ禍で何もすることがなかったから、『高校生が集まれる居場所があるといいよね』とカフェを始めました。大学生に伴走してもらいながら、私たち高校生は企画に力を入れ、お客さんたちが足を運んでくれるための議論を重ね、思いをぶつけあったりもしました」

 

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「高校生カフェ」の受付でのワンシーン

 

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「高校生カフェ」で提供されるメニュー。高校生たちの手作りだ

 

まちの高校生に来てもらうために、小野さんたちは脱出ゲームなどイベント企画を充実化、地域のマルシェやイベントに参加するなど、人の目に触れる機会を増やしていきました。

 

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まちのイベントにも積極的に出店し、地域の人たちと接している

 

そうするうちに知名度が上がり、唐津焼の作家とのコラボや地域との共同イベントといった企画提案も舞い込むように。営業日が月1回限定のそのカフェは、リピーターが増え、高校生を中心に唐津で有名な場所になったと言います。

 

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地域の経営者から飲食店運営の基礎を学ぶ機会も作っている。

写真は、「お客様の導線から考えた店舗づくり」のレクチャーを受けている様子

食品衛生管理責任者の資格取得も。「大変だったけれどやってよかった」

現在、コミュニティカフェ運営の伴走と事業の運営に携わっている小野さん。自身の大学生活もある中で、「なぜ、WeDに関わっているのか」を聞くと、こう答えてくれました。

 

「文化祭やカフェなど、高校の行事とは違って、自分たちで最初から決めて、挑戦することができて、そこに自分がすっかりハマるというか、楽しくなっちゃって。いろいろなことに前向きに動けるようになったんです。『WeDの運営スタッフにならない?』って声をかけてもらったときは、『またカフェやりたい』『楽しそう』と思って参画することを決めました」

 

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「高校生カフェ」では訪れた学生たちが思い思いに過ごしている

 

進学や就職を控えた高校生や大学生が中心の活動だからこそ、「勉強や生徒会活動などシフト調整が今の悩ましい課題」と話す小野さん。「でも、参加することを強要したくない。私も高校生たちも一緒に楽しめるような活動にしたいです」と続けます。

 

「なぜなら、私もWeDでの活動はすべてやってよかったと思っているんです。大学生になった今は、高校生たちと話すことも普段なかなか持てない大切な時間だし、高校生に対するヒアリングや話し方なども学べました。カフェの営業許可証や食品衛生管理責任者の資格取得もすごく大変だったけれど(笑)、いい経験になっています」

「唐津の高校生がすごい」と高評価が増える理由

「最近、市内外の方からよく褒めてもらえるんです。『唐津の高校生ってすごいね』って」と、原さんは話します。では、その「すごい」とは一体何を指しているのでしょうか。多くの大人たちは、WeDの高校生たちに何を期待しているのでしょうか。

 

「主体性だと思うんです。WeDには、自分で課題感を持って、どうにかしたいと考えて動く子、やろうとしている子が多い。社会人で一番肝心じゃないですか。そこを分かってくれて、『すごい』と言ってもらえているんだと思います。

 

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地域の様々な仕事を体験する機会も。写真は米の収穫体験

 

それに、高校生と一緒にやっていると楽しい。大人たちが、『彼らのためだったら頑張れる』と思える力が高校生にはあります。僕も言語化できていないのですが、人を動かす、地域を動かす力が高校生たちにはあるんだろうなって。すごいと思います。可能性しか感じない」

大人と大学生と高校生が出会える場所

最後に、WeDが高校生たちに提供する場所のことを。原さんたちは、「高校生の活動を支援するためには場所が必要」だと、2021年、古民家を活かしたユースカフェ「KARATSU YOUTH CAFÉ」をオープンさせました。「高校生カフェ」もここで開店しています。

 

「自分たちの活動を進めるために、安心してずっと荷物を置ける場所、いつでも打ち合わせで集まれる場所があるといいですよね。そのための場所を作りたかったんです」と原さん。

 

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「KARATSU YOUTH CAFÉ」の入り口。WeDの高校生たちの活動場所となっている

 

原さんと小野さんの取材もこの場所から。ふすまがオープンに開かれた押し入れの上の部分は「お菓子スペース」で、ここにはとにかくお菓子が集まるそう。押し入れの下の部分には、大学生スタッフが「自分のスペースにしたいから」と、布団と枕を用意して、自由にこもれる空間に。そんな話を、取材では、原さんが空間のあちこちを指さしながら伝えてくれました。

 

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「お菓子コーナー」。高校生だけでなくいろいろな大人たちがお菓子を持って訪れるのでいつもラインナップが豊か。

食べたい人が自由に食べているそう

 

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大学生スタッフが押し入れに「隠れるスペース」を作っていたときの1枚

 

また、原さんは、もともと活動を加速させる目的もあったこのユースカフェを、「居場所」と表現します。では、「居場所って何だと思いますか?」。2人にそう質問をしてみると、まず小野さんが、こう一言。

 

「大人、大学生、高校生といろんな人がいて、大人と高校生が会えるし、大学生も高校生と大人と会える。人と人とが関わり、化学反応が生まれる、その源になる場所なのかなと思います」

 

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まちの文化祭運営メンバーと大人たち

 

原さんはこんな答えをくれました。

 

「最近、卒業した子たちが『帰る場所があるのがすごくうれしい』とよく言ってくれるんです。『ここがあるから、みんなつながることができる』と。居場所って、場所として物理的に使ってもらうだけじゃない、もっと進んだ意味があるんだろうなと最近よく感じています」

高校生たちがまちに新しい文化をつくった証

「『WeDで人生が大きく変わった』と話してくれる子たちもいるんです」と原さんは、うれしそうに高校生たちの将来への選択についても語ってくれました。

 

「WeDの文化を受け継ぐまちづくりの会社を卒業生6~7人で起こしたいと言ってくれた大学生、もっと自分を高めたいと進路を決めた子もいて。芽衣のように、高校生だった子たちが事業の運営側に携わってくれることも、当初、『こうなるといいなあ』と自分が思い描いていたことでした。あのときの願いが今すごい勢いで叶っています。

 

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「高校生の本音」を発信する場も、WeDだからこそ可能になった?左からWeD事務局の原雄一郎さん、高校生と一緒に子ども食堂や探究できる場を作る横道亨さん、高校生たちと農地開拓や災害支援など行っている野田早百理さん

 

僕の人生で『こういう場所を残せた』と誇れる場所が、WeDです。高校生たちがまちに新しい文化をつくった。その証を残せる場所になりそうだと最近よく思います」

 

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つながっていた福岡県の高校生たちの活動参加が実現したときの1枚。流しそうめんからまた新しい何かが始まった

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。