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災害支援のこれから。地域の中間支援の役割を仕組み化するために必要なこと

2022.06.06 

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全国各地で地震や集中豪雨が相次ぐ今、いつどこが被災地になるかわからない状況になっています。被災した地域が一秒でも早く支援活動に着手し、一日でも早く人々が安心して暮らせるよう環境を整えるために、地域と支援団体のパイプとなる中間支援の重要性が高まっています。

 

では、地域が内側から起動力をもって動くための中間支援機能を、災害支援の仕組みとして当たり前にすることは可能なのでしょうか。

 

こんな問いに対して、実際の支援やアイデアを共有する場が、2021年10月に開かれました。2021年7月に発生した静岡県熱海市での土石流災害後の中間支援機能の役割などを一つのケースに、地域の中間支援は何ができるか、災害が起きた時ではなく事前から災害支援に備えるにはどうすればいいかなど議論が交わされたセッションの一部をご紹介します。(文中敬称略)

 

※本セッションは、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)が開催した招待制イベント「ETIC.カンファレンス」で実施されました。詳細は文末をご確認ください。

<「災害支援のアップデートを。~地域内からの起動力を高める『中間支援機能」の強化~」スピーカー>

山内 幸治:NPO法人ETIC. シニア・コーディネーター / Co-Founder

逸見 諒太:NPO法人atamista

<ファシリテーター>

中川 玄洋:NPO法人学生人材バンク代表理事

瀬沼 希望:NPO法人ETIC.

団体の負担が重い支援活動の初動段階を改善したい

 

中川 : NPO法人学生人材バンク代表理事の中川です。鳥取県鳥取市で、主に鳥取県在住の大学生のボランティアスタッフを地域の活動に派遣する事業を行っています。

 

今回、まずNPO法人ETIC.(エティック)の山内さんから「災害時の右腕」というテーマで報告を。続いて、NPO法人atamista(アタミスタ)の逸見さんから熱海災害の支援について報告してもらいます。

 

中川さん5

NPO法人学生人材バンク 中川 玄洋さん

 

山内 : 私は、普段、地域の中間支援という機能が果たす役割を、もっと災害時において一つの当たり前にできないかという問題意識を持っています。

 

災害が起きた時、行政は、最初の緊急支援から始まり、その後のインフラ復旧などを大きな役割に、避難所や仮設住宅なども作っていきます。社会福祉協議会や国際NGOなどが、ボランティア派遣をどんどん進める流れも、一つの大きな仕組みとして成り立っています。また、NPO法人でも専門性を持ってその仕組みの中に入る団体が出てきています。

 

山内さん3

NPO法人ETIC. 山内 幸治

 

一方で、地域の中からしっかりと活動が立ち上がっていく仕組みがまだないと思っています。それは自治かもしれないし、NPOや事業者かもしれません。動きはありつつも、仕組みにはなっておらず、災害が起きた時に支援団体が何もない状態から苦労を重ねて取り組んでいる印象を強く持っています。この動きをなんとか仕組み化できないかと思っています。

 

山内さん災害支援のアップデート2

地域内の担い手×ソフト面での災害支援が必要 ※山内資料より

 

そう思った背景には、温泉地として知られる熱海市の伊豆山(いずさん)での土石流災害後、熱海市を中心に活動するatamistaの市来広一郎代表と話をしたことがあります。atamistaでは、チーム体制を強化しつつ、さまざまなプロジェクトが地域の中から立ち上がるように後方支援をしています。その動きを次のまちづくりへつなげていくために、エティックでも一緒に資金調達や人材の面で支援できないかと具体的に話を進めてきました。実際に、財団や企業から寄付を募ることができ、総額450万円ほどの予算で走り出すことができました。

 

災害の復興には数年かかるのですが、最初の3ヵ月ほどでボランティア派遣は落ち着きます。そこから先がとても大事で、いかにそのボランティアの部分の担い手を見つけるかを考える必要があります。東日本大震災の時には、東北地方でいろいろな中間支援が各自治体から立ち上がり、今では、市町村ごとに中間支援機能がある地域になっています。

 

一方で、災害は発生しなければ経験することがなく、毎回ゼロから試行錯誤している状況があったり、自身も被災者だったりという中で、慣れない取り組みに没入していくと、数年後にバーンアウト(燃え尽き症候群)になってしまうことが実際に起こっています。また、そもそも中間支援機能が存在していない地域もたくさんあります

 

しかし、活用できる資金や人材、知識、また制度などは増えているとも感じています。こうした機会や情報にアクセスできるかどうかでも地域に差が生まれるかもしれません。そのなかで、災害が起こった時に中間支援が地域の方々と一緒に、迅速にプロジェクトを支えていくような、人とお金の流れを作れないかと思っています。

市内外の団体と協働で進めた四つの支援

 

逸見 : NPO法人atamistaは、熱海市を中心にまちづくりの事業を進めている団体です。活動を始めてから10年ほど、商店街や空き家の再生などを行ってきました。

 

熱海市の土石流災害では、被災後すぐに「我々にできることはないか」と手探りで動き始め、今ようやく自分たちの役割が見えてきたところです。

 

逸見さん3

NPO法人atamista 逸見 諒太さん

 

熱海市の土石流災害は、7月3日に起きました。死者と行方不明者あわせて27名という大きな災害になりました。現在は、ホテル避難の方々の大半が仮設住宅に移り、最も被害が大きかった地域では道路の復旧作業が進むなど、徐々に復旧されている状況です。

 

逸見さん熱海災害特徴

熱海市の土石流災害支援の特徴 ※逸見さんの資料より

 

今回の復旧支援の特徴を挙げると、①ボランティアが多く集まり、②地域外からも手厚い支援が寄せられ、③ホテル避難での感染予防・プライバシー保護などが進みました。SNSで衝撃的な映像が流れたこと、コロナ禍の影響なども考えられると思います。

 

また、災害後は、市外からたくさんの支援団体が入り、活動してくれました。現在、支援団体側から見た全体像を整理するために白書を作成しています。そこから、中間支援の立場に絞って状況を説明します。

 

逸見さん熱海災害カタリバ支援

認定NPO法人カタリバによる子どもの居場所支援 ※逸見さんの資料より

 

まず今回、認定NPO法人カタリバによる教育支援が行われました。避難所にいる子どもたちを預かり、熱海市の中心市街地にあるコワーキングスペースでは中高生のための居場所支援をしてくれました。熱海市の特徴でもあるのですが、ホテルが避難場所になることが多かったため、遊べる場所が少なく、一室の区切られていない部屋の中に一世帯、または祖父母などを含めた二世帯が一緒に住むという状況が続き、子どもたちのストレスが溜まっていく様子が目立つようになりました。その状況を受けて、カタリバが動いてくれたのです。

 

atamistaでは、当初の運営体制形成までのニーズのヒアリングや、行政との橋渡しのようなことを行いました。ホテル避難では個室に入ることが多く、外部からの支援団体の方たちが直接被災者の方のニーズを調査できないという状況があったなかで、地元団体だからこそできた支援だったと思っています。

 

二つ目としては、お堂の再生プロジェクトを行いました。森林保全団体の熱海キコリーズというNPO法人と私たちatamistaが中心となり、もともと女性の居場所として機能していたお堂を再生していきました。この活動は今も地元の人たちと定期的に行っています。

 

三つ目は、個人的なつながりから始まったものですが、介護タクシーの支援事業を行う株式会社伊豆おはなの事業継続の支援を行いました。伊豆おはなの経営者は、今回の災害で一番被害が大きかったエリアに事務所を構えていたこと、また駐車場を必要としていたことなどから廃業を検討していました。たまたまatamistaの市来とつながったことで、相談の段階からサポートに入りました。伊豆おはなは、現在も事業を続けています。

 

四つ目は、障がい者の方の就労支援施設の事業継続の支援です。熱海市からワ―ケーション事業などを展開する株式会社未来創造部が中間支援的な役割を果たしました。被災地に隣接した地域で規制エリアとなり施設自体への立ち入りができなくなってしまい、事業が停止してしまったのを、未来創造部が中心になって、まず課題を地域の方々に共有しました。その後は、事業停止によって減少した売り上げの一部をクラウドファンディングで補うよう行動を起こすなど、事業継続のためにいろいろな働きかけをしました。

 

未来創造部、また熱海市の起業家などにワークスペースを提供するCLUB HUBlic、カタリバなど積極的に動いてくれた団体によって、地元の団体がいくつか中間支援的な役割を果たしていたように思います。

 

山内 : atamistaの場合は、最初から機動力をもって動いていましたが、いかに人が動く仕組みを作るかが大切です。中間支援機能について、災害直後から迅速にその役割を果たしていくためには、日常からの準備が何よりも大事だと思っています。災害があった時、自分たちはどういう動き方をするべきか、地域内外とどれだけ関係が作れているかを含めて、とても重要だと考えています。

 

初動をスムーズにするためには、資金と人材がキーワードになると思います。最初の3ヵ月や半年ほどの間、いかに支援を軌道にのせるか、その課題を超える仕組み化ができないでしょうか。

 

エティックでは、その一歩として、「右腕派遣基金」を立ち上げました。今回の熱海市の災害では、この基金からatamistaの活動にも寄付していますが、災害が起きてから動くのではなく、その前の段階から連携協定を結ぶなど、いろいろな形で資金集めを進められないかと思っています。

中間支援機能を仕組み化するために―参加者同士の意見交換から報告

 

中川 : 参加者のみなさんとディスカッションし、アイデアを共有しました。テーマは三つです。一つ目は、どんな工夫をしながら財源を作っていくのか、人材面ではどうやって早い段階で中間支援機能に対して支援を進めていけるか。二つ目は、地域で中間支援の仲間を増やすにはどうすればいいか。三つめは、新しい中間支援の動きや資源の提案です。

 

山内 : 私たちは、一つ目の財源と人材面について議論しました。「右腕派遣基金」に寄付してくれている企業をはじめ参加者の方からは、お金だけではなく、人が関われるほうが企業としては関与しやすいという意見が出ました。また、地域の中での財源作りについては、寄付つきの自動販売機というアイデアも出ました。災害が起こった時だけではなく、平時でも違う形で使えるのが特徴で、実際に始めようとしている自治体もあるそうです。災害時だけでなく、日常から少しずつ仕組み作りをしていくことが大事なので、そういう話が出てくると新しい可能性を感じます。

 

瀬沼 : 二つ目のテーマである、どうやって地域に仲間を増やし、中間支援を巻き込んでいくかについて意見交換しました。日常から中間支援的な立場の方のほかにも、弁護士やメディア関係者の方にも参加してもらえ、それぞれの立場で地域の中間支援的なつなぎ役を担えるのではないかという話が出て、職の域を超えた活動が広がる可能性を感じました。

 

瀬沼さん

NPO法人ETIC. 瀬沼 希望

 

また、現場だけで何とかしようとすると、中間支援の方も被災者になることを考えると負担がとても大きくなると思うのですが、そういった時に遠隔にいる人たちが普段からできることで接点を作ったり、地域のファンをもったりすることはとても大事になってくるという話が出ました

 

中川 : 三つ目のテーマとして、新しい中間支援の動きや資源について情報交換をしました。逸見さんも参加していたので、熱海市の災害で具体的にどんな資源を準備していればよりスムーズに動けたかについて話を聞きました。地元の人たちは、やはり何かしたいけれどどうすればいいかわからないという状態が具体的に見えて、それが光になったという話もしていました。外部の資源を記録し、のちに周囲と共有していく仕組みができていくと、何かあった時にも、早くアクションが起こせるのではないかという話もありました。

 

逸見 : 個人、または会社の資源が、熱海に関わることでもっと面白くなりそうだと思いました。一緒にできることが増えるように仕組み作りを進めたいと思います。

 

中川 : ありがとうございました。

 

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※本記事は、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)が開催した招待制イベント「ETIC.カンファレンス」で実施されたセッションのレポートです。今後、エティックからイベント等のお知らせをご希望の方は、以下のバナーからニュースレター「ETIC. Letter」にぜひご登録をお願いいたします。

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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