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リーダーに必要な「ケアの時間」。地域活動家としての10年で見えてきた、案件の一歩手前で漂う時間

2024.10.01 

本記事は、ローカルベンチャー協議会(事務局NPO法人ETIC.<エティック>)が開催した「ローカルリーダーズミーティング2024in宮崎県日南市」のプレイベントとして2024年7月にオンライン開催した企画『地方の中心で「ケア」を叫ぶ 〜新ローカルベンチャー論〜』を振り返り、当日のゲストで、福島県いわき市小名浜(おなはま)で活動する小松理虔(こまつ りけん)さんに寄稿していただきました。

 

大学生にガイド

大学生に小名浜のまちをガイドする小松さん

地域活動家の生業

ぼくは地域活動家を名乗っている。地域活動家というのは、ぼくの勝手な解釈だが、ある地域に根ざし、さまざまな活動を通じてなんらかの課題に向き合うと同時に、自己を表現していく人のことを指す。

 

ちなみにこの解釈は毎年のように都合よく更新されているから注意が必要で、実際のところは地域に根ざした「何でも屋」といったところだ。写真を撮ってほしいと言われれば撮るし、SNSの使い方を教えてほしいと言われれば、知っていることはみんな話すし、ウェブサイトを作りたいとお願いされれば、知り合いのデザイナーと一緒に事務所に出かけていく。

 

そういう「小さなお役立ち」を積み重ねることで、なんとかここまでやってくることができた。起業したのは2015年だから、もう10年近くこの仕事をしていることになる。

 

そうそう、税務署に「起業届」を提出したときには、「これにしとけばどんな業務にも当てはまりやすい」という謎のアドバイスをネットで見かけ、「コンサルタント業」で書類を出した。

 

ということは、ぼくは脱サラしてコンサルタントとして起業し、約10年を迎えるということになる。なんのコンサルだよ、ますます謎だし怪しすぎるよな、と自分でも思うが、当時は、独立した後のことなんてほとんどなにも考えていなかったし、肩書や職種なんてなんでもよくて、とにかく一人で気楽に仕事がしたかっただけだったのだと思う。

 

なぜぼくが組織を離れたのかといえば、会社から指示される仕事と、自分がやってきたことのズレが大きかったからだ。当時のぼくは営業マンで、とにかく会社のものを売らなければならなかった。大した成果は出せなかった。

 

だが、お客の話を聞いていくなかで、会社の商品を通じてよりも、むしろ自分がこれまで(メディア企業などで)培ってきたスキルや知識を通じてお客と対峙したほうが成果が出せるのではないか、商品よりも自分のスキルを売ったほうがお客の役に立てるんじゃないかと考えるようになった。

 

大学生にガイド2

 

独立して間もなく丸10年。なんでも自分で企画して実行してきたわけではない。日々の仕事はあくまでクライアントワークであり、依頼主ありき。そのほとんどは、ウェブサイトをつくりたいとか、新商品をプロモーションしたいとか、新しいメディアをつくりたいといった具体的な依頼から始まる。

 

ただ、先方の事務所に伺って依頼の背景をじっくり聞いてみると、ここ何年も続けて新人が辞めてしまうとか、会社の一体感が弱くなってきたとか、息子の専務をなんとかしたいとか、案件の手前にある課題が見えてくることが少なくない。

 

案件としてある程度整っていないと依頼すらできないから、たまたま「ウェブサイトをつくりたい」という形式になっているだけで、ほんとうは、もっと説明の難しいグジャグジャっとしたものが経営者や担当者の頭のなかにあるのだと思う。

 

 

グジャグジャが、意外とすんなりと解ける場合もあるけれど、時間がかかることがほとんどだ。

 

ウェブサイトを作りたいという話が、もっと突っ込んで会社の経営ビジョンを変えるための伴走の仕事に広がったり、採用をテコ入れしたいという話が、採用以前に社員の満足度だという話になって社員研修制度を再考するプロジェクトになったり、思わぬ方向に進んでいくことも実際にあった。

 

そんな経験を重ねるうち、ぼくは、地域活動家の仕事には、案件の一歩手前で一緒に悩む、そんな役割も含まれているのではないかと考えるようになった。

 

小名浜のまち

いわき市小名浜のまち

リーダーの孤独に迫る「余剰」

ここで改めて考えたいのは、リーダーの孤独と悩みの深さについてである。

 

 

ぼくが相談を受けてきた方の多くが、リーダーたるもの常に強くあらなければならないと自分で自分を鼓舞し続けているように感じられた。リーダーは弱くはいられないのだ。

 

 

仕事ができるからリーダーなのだし、常に前向きでパワフルで、人間力に溢れている、というようなリーダー像を多くの人たちが持っていると思う。それを人一倍内面化し、実践してきたのが世のリーダーたちなのかもしれない。

 

 

弱さを見せられないのは経営者ばかりではない。独立したばかりの人たち、起業したばかりの人たちもきっとそうかもしれない。

 

新人経営者の依頼を受けると、開業直後だけにテンションは上がっているけれど、その背後で多額の借金をしていたり、家族のことが気になっていたり、移住したてで友人がまだ少なくて相談できる人がいない、というような悩みを人知れず抱えている人が少なくない。

 

飛ぶ鳥を落とす勢いの人たちだって、表には出していないだけで、やっぱりどこかに不安や心配事があるものだ。案件だけ見ていても「人」が見えてこない、ということかもしれない。

 

漁港

小名浜の漁港

 

起業にはまだ至らない、未起業の人たちの悩みを聞くことも、案外少なくない。何度か、若者が参加する起業塾やアントレプレナー講座のような場に参加することもあった。

 

秋田で行われたある起業塾では、起業について真剣に学び、議論する場をつくろうとするほど、参加者が減ってしまうという話を主催者から聞いた。どうも、若い参加者たちは、真剣に起業を考えるうちに「正しい起業」のようなものを内面化してしまい、自分で起業のハードルを上げてしまっているようだった。

 

 

正しくやろう、間違いたくない、失敗したくない、と考えることで、逆に自分の首を絞めてしまうのだろう。

 

経営者や起業家、起業を目指す若者たちに共通するのは悩みの吐き出せなさだ、といえるかもしれない。

 

「業」を掲げる以上、自分のやりたいことをポジティブに語らなければいけないし、具体的なプランを描き出さなければ生き残れない。狙うターゲットをはっきりとさせ、改善点を鋭く見抜き、PDCAを回していく必要もある。「強い自分」を、さらに確固たるものにする。それがリーダーの勤めだと思っている人が多いのではないだろうか。

 

 

おまけに、悩みは、外部にはなかなか話しにくい。会社の弱点や課題を外部に知られたくないと考える人は多いだろうし、誰かに問題点を指摘されれば、その批判の矛先は自分にも向いてくる。

 

それに加えて、「ただ、話をする/聞く」という時間は成果が見えにくいから、無駄な時間に見えてしまい、仕事に組み込みにくいという点もあるだろう。

 

ぼくたちにもクライアント側にも通常業務があり、成果の見えにくい対話の時間は早く切り上げねばと思っているし、話を聞いてもらいたいと感じていても、そもそも仕様書や見積書に書かれていない時間を新たに組むことにも抵抗感を抱く人は少なくないはずだ。

 

外部から組織に関わるぼくたちには、多少は聞き取りの時間はあるものの、それはあくまで何かの制作物をつくるための時間だ。ぼくたちは何らかのアウトプットをして報酬を受け取るわけだから、ダラダラと話をされては困ってしまう。

 

仕事は常に等価交換。お金をいただく、そしてそのお金に見合う成果物を出す。そのやりとりがまさにビジネスであるわけで、その外側にある時間はなかなか組み込みにくい。

 

 

だけれど、こんなことも思うのだ。その等価交換から外れたもの、いわば「贈与」の時間のなかに、言語化できなかった悩みが出てきたり、依頼や案件の手前にある課題に向き合ったりする余白が生まれるのではないか。

 

そしてそういう時間が、遠回りだけれどじつは課題解決や成果にもつながっているのではないか、と。

 

 

贈与の時間。それを「ケアの時間」と言い換えてもいいかもしれない。改めてぼくがここで明示せずとも、「ケアとは目の前の人に時間を差し出すことだ」というような文言を、本や論文のなかにいくらでも見つけることができるだろう。

 

ケアの時間とは、売上にも評価にもつながらないように見える謎の時間。だがじつは、目の前の人に近づくためのとても濃密な時間になる(だから結果としてそれは無駄にならない)とぼくは思うようになった。

 

秋刀魚水揚げ

小名浜漁港でのサンマの水揚げの様子

案件の一歩手前で漂う時間

業を起こす。その業を背負い、成長させる。簡単なことではない。だが、どんな業も、みな人間がつくるもの。無限増殖を続けるアメーバーでも、休みなく動き続けるロボットでもない。人生のままならなさにのたうちまわる人間の行いなのだ。

 

 

前向きな起業ばかりではないだろう。突拍子もないだれかの飛躍の裏に、なにかのコンプレックスや、失敗や、苦手意識があることだって少なくない。人知れず、語れない不安や心配、ややこしくなってしまったグジャグジャを抱えたリーダーもいることだろう。だからときどきでもいいから、強さではなく「弱さ」に向き合い、それを語り合う時間をつくれたらいい。

 

そんな、弱さでつながるコミュニティが、業を起こし、担う人たちの間にも生まれたほうがチャレンジも増えるはずだし、経営コンサルタントではないぼくたちにも、ただそこにいて話を聞くことならばできる。

 

 

先ほど少しだけ紹介した起業塾で、ぼくはできるだけ、参加者が感じている「起業」のハードルを下げたくて、こんな話をしてみた。

 

起業の前には、自分の業について考え想像する時間、つまり「想業」の時間があると思う。起業未満でいい。起業の手前でいい。どんな思いでも、不安でもいいから語ってもらいたい。そして、これからの時代に必要なのは、起業支援じゃなくて、その手前にある「想業支援」なんじゃないかと。

 

秋刀魚水揚げ2

小名浜漁港でのサンマの水揚げの様子

 

口から出まかせだったけれども、案外反応がよく、若者たちから堰を切ったように、いろいろなアイデアや夢が語られた。自分たちの地元にも、夢や希望や、あるいは自分の弱みも語る場所があったら、どんなに心強いことだろう。

 

「起業塾」としてはふさわしい取り組みとは言えなかったかもしれない。けれど、起業の手前のワン・アクションなら経験のない若者にもつくれるし、お店を開くことは難しくても、ポップアップならできるかもしれない。

 

そうしてチャレンジのハードルを下げ、支えをつくり、階段を1段ずつ登るようにして手応えを感じてもらうことも、ぼくは立派な起業支援だと思うのだ。ちなみに、そういう地域での小さなアクションのことを、ぼくは「地域活動」と呼んでいる。

 

 

理論を詰め、数字と睨めっこし、正しい視座で現実ばかり見ていたら、起業なんて危ない橋は渡れないだろう。若者たちが起業できないのは、支えがないから、弱さを語れる仲間がいないからではないだろうか。

 

オリンピックのスケボーみたいに、それぞれの技を褒め合って、応援し合って、失敗しても成功しても同じ強さの拍手を送り合う。そんなケアの時間を自分たちの現場/ローカルにつくっていけたらいい。

 

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小松 理虔

地域活動家、ライター。 1979年福島県いわき市生まれ。法政大学文学部卒業後、福島テレビ報道部記者、日本語教師、かまぼこメーカー広報などを経て2015年に独立。現在は、いわき市小名浜を拠点にさまざまな地域活動、文筆活動を行う。『新復興論』で第18回大佛次郎論壇賞、いわきの地域包括ケア「igoku」でグッドデザイン金賞を受賞。

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