10年前にクルマが人を乗せて空を飛ぶ未来が想像できたでしょうか。一人の会社員が立ち上げた有志団体と、団体からスピンオフした会社によって、その未来は2025年に実現する予定です。
そして、この有志団体は名前を「Dream On」と変えて、空飛ぶクルマの次の未来にむけて走り出します。代表を務める中村翼さんに実現までのストーリーと次のアクションについて聞きました。
この記事は、現在エントリー受付中の東京都主催・400字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。エティックは、TOKYO STARTUP GATEWAYの運営事務局をしています。
中村翼(なかむら・つばさ)さん
有志団体Dream On(ドリームオン)代表 / TOKYO STARTUP GATEWAY2014ファイナリスト
'09年、トヨタ自動車に入社し、量産車設計に従事。'12年に業務外で有志団体CARTIVATORを設立し、'14年より「空飛ぶクルマ」の開発を始動。'17年のトヨタグループ15社からの協賛を皮切りに、計100社超のスポンサー企業からの支援を受ける。'18年にはトヨタを退職し、起業家 兼 慶應大・空飛ぶクルマラボ特任助教に。スピンオフした(株)SkyDriveと共に、'20年に日本初の空飛ぶクルマの有人デモフライトを達成。'21年からは有志団体をDream Onと改名し、次なる「空飛ぶクルマ」を生み出す人材の輩出を目指して、代表を務める。
Dream On:https://dream-on.or.jp/
株式会社SkyDrive:https://skydrive2020.com/
聞き手:小倉康暉(NPO法人ETIC.)
夢を与える存在から夢を育む存在へ!経験を活かした人材育成に挑戦する。
ー今取り組んでいる事業について教えてください。
現在(2024年)は、”空飛ぶクルマの先の未来”の構築に向け、新しい事業を始めようとしています。ここ数年模索を続けていましたが、「次なる人材育成」の実現に向けた新たなプロジェクトを始動しています。
2014年に、Dream On(旧CARTIVATOR)は、有志メンバーで「空飛ぶ」を作り始めました。活動では、「次世代の子ども達への夢や憧れの提供」「次の日本の新しい産業の創出」を目的にしていました。そして、2014年に1/5スケール試作機を自費で開発。有志団体からスピンアウトしたSkyDrive社と共に2020年には有人デモフライトを実施するまでにいたりました。なお、デモフライト以降、開発自体はSkyDrive社に引き継いでいます。
Skydrive zenmonoのプロモーション動画
空飛ぶクルマSD-03・有人デモフライト
デモフライトの実施以降、各メンバーは引き続き複業しながらも、有志団体としての活動を継続しています。たとえば、空飛ぶクルマのVRシミュレータを開発し、社会受容性向上の取り組みを行っています。そして、2023年から、学生さん向けの教育プログラム開発に挑戦しています。
-機体の開発から人材育成へと事業が展開したのはなぜでしょうか。
もともと、有志団体を設立したときのビジョンは、「空飛ぶクルマ」をロールモデルとして次世代に「夢」を与えることでした。空飛ぶクルマを子どもたちが見て「こんなことができるんだ」と感じ、何かに挑戦してもらうためのきっかけになればと思いました。
一方で、空飛ぶクルマの開発をきっかけに、講演やインタビューを受ける機会を頂戴し感じたのは、新しいことに挑戦する人の希少さです。「夢に向かってチャレンジする」人を創出する継続的な仕組みの必要性を感じました。私たちが生み出したものをさらに超え、新しい何かを創造する人が次々に出てくる姿を目指したく、人材育成へ取り組むことに決めました。
空飛ぶクルマという夢(チャレンジ)は、たくさんのサポートを得て実現しました。そして今度はその恩返しとして、次の世代が継続的にチャレンジできる仕組みをつくる。これは、私たちにとって目指すべき次なるステップだと思います。
空飛ぶクルマを実現するまでの道のり。壁に当たっても、動き続ければ突破口が見える。
-空飛ぶクルマのアイデアを思いついたきっかけは?
小学生の頃からクルマが好きでエンジニアになりたいと思いトヨタに入社しました。会社員として働きながらも「何か新しいことをしたい」と感じ、次世代のモビリティを意識したアイデアを温めていました。
MBAも検討したのですが、MBA予備校の進路相談でむしろ起業を勧められ、ビジネスコンテストに参加したところ優勝。コンテストに出したときのアイデアは、「空飛ぶクルマ」ではありませんでしたが、具体的なアクションを起こしたことで「実現」するには次はどうしたらよいか、解像度があがりました。
次世代のモビリティを検討する上で、過密化が進む都市での渋滞問題や、砂漠のような道がない場所での移動の不自由さといった課題が見え、地上に依存しない新たな交通として空飛ぶクルマを思い立ちました。
ーアイデアをどのように事業化させていったのか教えていただけますか。
「空飛ぶクルマ」の実現には、機体の開発だけではなく、離発着場や交通ルールなどの社会システムの構築も同時に必要です。制度がないと新しい技術の社会実装はできません。 そこで、SkyDrive社が機体開発に専念すると共に、私自身はインフラ整備を進めるために、トヨタと慶応義塾大学との共同研究として、空飛ぶクルマラボを設立。
その後トヨタからは独立をしましたが、2024年の現在でも、私自身は慶応大学にて研究を継続中です。現状、関係各所を巻き込んだコンソーシアムを設置し、経産省や国交省とルール作りを進めています。
ー事業化を進めていく上で課題を感じたことは何ですか。
チームづくりや資金面で、それぞれ「集める」ことについて課題を感じました。
事業化をするまでにアイディエーションフェーズとして、勉強会やアイデアソンなどを開催しました。次世代のモビリティを考えて、100個以上のアイデアを出すなど、試行錯誤をした時期。
内容が定まらない状況なので、離れていく人もいました。一方で、明確なビジョンや具体的な取り組みが定まると、ボランティアでもよいから参加したいという人がどんどんと集まりました。
資金集めも開発の初期段階では、クラウドファンディングを実施したり、社内での支援を得られないかと奔走しました。機体を1分の1スケールで試作するとなると、何千万円単位での費用が必要です。自分たちの持ち出し費用ではまかなえません。最終的には、トヨタグループを始めとする複数の企業からの資金援助を受けることができたのですが、事業化において資金の問題は大きな壁と感じました。
ー課題を乗り越えるにはどのようにされたのでしょうか。
事業を進めるには、壁は必ずあるものだと思います。しかし、壁にあたっても動き続けることで「次どうしたらよいか」が見えてきますし、解決方法が見出しやすくなるはずです。たとえば、チーム作りも「ビジョンを明確にする」ことが重要だと動いてわかりました。
空飛ぶクルマの開発は、最初から「実現できる」とは思っていませんでした。自信はなかったです。ただ、様々なイベントやコンテストに参加したり、仲間たちとの活動を続けていったりする中で、徐々にできるかもしれない、と思うようになりました。
自信があれば最初から一人で始めていたでしょうが、そうではなかったからこそ、周りの力を得る必要がありました。結果として、多くの仲間を巻き込むことができたので、空飛ぶクルマが実現したと思います。
仲間とともに課題を乗り越えてきた
行動に起こしたことで起業のタイミングが見えた。2050年の未来を創る手伝いをしていきたい。
ー起業のタイミングなどはありましたか。
空飛ぶクルマの開発を始めた当時は、起業を想定していませんでした。ただ、実現するために具体的な「アクション」を起こしたことが、起業への「準備(レディ)」になったと、振り返ってみて思います。
ハードウエアの開発は、お金も時間もかかります。いきなり身軽に取り組むわけにもいきませんでした。Dream On(旧CARTIVATOR)のメンバーでピッチコンテストに出て資金調達に奔走をするなど、自分の仕事をする傍ら、起業家のような取り組みにチャレンジしました。
また、投資家との話の中で「会社員に投資はできない」など、率直な意見を聞くこともありました。2017年にトヨタグループからの数千万円のご支援をいただきましたが、時間の問題や資金調達の面も含め、これ以上業務外での取り組みとしての行うことの限界を感じ、2018年に起業を決意しました。
ただ、この起業家予備軍としてのリハーサル期間があったからこそ、スムースに起業に踏み切ることができました。動いてみたからこそ、タイミングが見えたのだと思っています。もし、会社の中でチャンスが出来ていたのならば社内起業家として動いていたかもしれませんが、その余地が見えなかったので結果として起業になりました。
ー今後のDream Onはどのような発展があるのでしょうか。
これまでは、空飛ぶクルマをテーマにしてきましたが、これからはそれだけに留まらず次なる未来を次世代の人たちと創造していきたいです。2050年を目線としたとき、何を目指すべきなのか、次世代の人たちと一緒に創っていくために、空飛ぶクルマの開発の経験を活かし、「次なる人材育成」の取り組みをしていきたいです。
次世代の方が自分たちのやりたいことをなんでも挑戦出来るようなプラットフォームの提供も想定しています。次の時代に「新しいビジョンを作っていく人たち」そのものを生み出すような仕組みや機関を目指しています。
新しいプログラムの実現に向けたイメージ
TSG2014では優秀賞を受賞
ーTSGに参加されて良かったと思う点はなんでしょうか(TSGは中村さんにとってどんな価値がありましたか)。
私が参加したのは10年前になります。400字に書いた内容は、東京オリンピックでの実装はかないませんでしたが、それ以外は「実現」したと思います。
空飛ぶクルマが実現できた要因のひとつに、TSGの参加の影響は大きいと思います。他の参加者との関係性を築いたり、受賞により知名度があがったりと、活動の輪が広がりました。特に、WEBメディアや紙媒体、テレビなどで取り上げていただく機会につながったのは嬉しかったです。
また、TSGへの参加が思考を深めるきっかけになりました。自分ひとりでは、期限を定めずになんとなく進めてしまいがちでしたが、TSGでは、いつまでに提出してフィードバックを受けるなどの進捗確認があります。外からの力を借りることによって、プランをブラッシュアップでき、貴重な時間でした。
昨日と違う何かをし続けると起業が見えてくる。自分の意思で前に進み続ける。
ー駆け出しの時の自分に言い聞かせたいことはありますか?
振り返って「こうしておけばよかった」と深く思うところはあまりなく、むしろ「そのまま突き進め」と言いたいです。TSGに参加したころから10年ほど経って心境やスキルなど成長している点はいくつもあります。
しかし、当時の自分がぶち当たる壁や失敗があるからこそ、今の自分があるとも思っています。やってきたことの全てが糧になっているので、その時々の「チャレンジ」を迷いながらもアクションしつづけろと言いたいです。
たしかにアクションという言葉だけですと、抽象的でわかりにくいかもしれない。しかし、最初から明確なアイデアがなくてもイベントに応募するなど、昨日と違うことに踏み出してみると良いと思います。
―これからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
エントリーを検討されている場合には、迷わず突き進んでほしいと思います。TSGなどの機会では、自身のアイデアに対して意見をもらえますし、進め方のアドバイスを受けることもあります。
しかし、起業するのであれば最後は悔いのないように、「自分」の意思で踏み出していくとよいでしょう。そして、迷ったら自分の心との対話を大事にしていただきたいです。 実は、これまでにアメリカや日本において3社くらい起業してきました。その中で失敗も、もちろんありました。
しかし、自分の意思で決めたことなので失敗してもポジティブに捉えられる。むしろ、自分の蓄積になると感じました。自分の意思で決めることを大事にしていただきチャレンジし続けてほしいです。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
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