なんで女性のショーツはエロくなきゃいけないの? ショーツの形についた固定概念を覆したいー。
いつの間にか、女性達がショーツに合わせて脱毛することが常識のように認識されています。しかし、自分の体毛をショーツの形に合わせることは、果たして、女性全員にとって「心地よいこと」なのでしょうか?
株式会社Essay(エッセー) 代表取締役の江連 千佳さんは、大学の在学中にこの違和感に気づき、解消するために起業。ショーツなしではけるリラックスウェア “おかえり”ショーツの開発・販売を試みました。そして闘病生活を経て、 “おかえり”ショーツを世に残し続けるためにM&Aを選択。更なる挑戦のため、今春からは大学院でフェムテック研究に取り組んでいます。 社会の常識を疑いながら、新しい挑戦を続ける江連さんに、これまでの軌跡や根底にある想いについて伺いました。
江連 千佳(えづれ・ちか)さん/株式会社Essay 代表取締役
TOKYO STARTUP GATEWAY2020ファイナリスト
2000年東京に生まれる。津田塾大学 総合政策学部を卒業。2024年4月より東京大学大学院 学際情報学府で引き続きフェムテックについて研究中。 2021年、ショーツをはかないリラックスウェア、”おかえり”ショーツの販売会社として株式会社Essayを起業、代表取締役に就任し、現在に至る。HPVワクチンフォローアップ接種の署名活動など、女性のウェルビーイングにまつわるアドボカシー活動にも従事。また、起業の経験を踏まえ、フェムテックの社会的影響についてアカデミックにも取り組み、研究は情報処理学会 学生奨励賞、計算社会学会 構造計画研究所賞/学生優秀賞を受賞するなど評価を受けている。
<I_for ME公式SNS>
X:https://twitter.com/I_forme_
Instagram:https://www.instagram.com/i_forme_
事業譲渡に関するプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000081516.html
<江連さん個人SNS> X:https://twitter.com/ellen_wellness
聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)
脱毛会社の動画広告への「違和感」から、ショーツなしではけるリラックスウェアを着想!
ー大学2年生のときに立ち上げた事業について教えてください。
2021年5月、「違和感をカタチに、幸せを多様に」をミッションに掲げて、株式会社Essayを設立しました。「I _ for ME」というブランドを展開し、従来の女性下着のデザインによるデリケートゾーンの締め付けを解決するフェムテック商品「“おかえり”ショーツ」を開発・販売していました。
ショーツなしではけるリラックスウェア “おかえり”ショーツ
ー“おかえり”ショーツを思いついたきっかけとは?
何気なく見ていたYouTubeの広告から、着想のヒントを得ました。「ショーツから毛がはみ出して、彼氏に嫌われた」という脱毛会社の広告を見て、違和感を覚えたのです。既製品のショーツの形に合わせて「身体の形を変える」よりも、ショーツそのものを大きくした方が自然なのではないか?楽なのではないか?と思い、そこから新しいショーツのアイデアを考え始めました。
“おかえり”ショーツをもつ江連さん
ー最初にアイデアを話したのは誰ですか?
アイデアを思い付いた時、母に最初に話をしました。
その際、妊娠中にデリケートゾーンの悩みを抱え、炎症があっても妊娠中は薬が飲めないので大変だったということを聞きました。母が妊娠当時を振り返って、欲しかったと言ってくれたのは大きかったですね。
その後も、ニーズを拾い上げるためにヒアリングやアンケートを行ったところ、「旦那さんのトランクスを借りています」「はき古したパンツのほうが、締め付けがなくテロっとしていて気持ちがいい」などの声があり、大きいショーツは女性たちに需要があると感じました。そして、今世の中に存在しないのであれば、自分自身で作ってみようと思うようになりました。
アイデアから決勝大会までの約5か月で大躍進!仲間と共に壁を乗り越え、生産工場を見つけ、クラウドファンディングの目標を達成!
ーアイデア段階から起業を決心するまでの流れを教えてください。
大きいショーツを構想していたタイミングで、山手線の車内で「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)2020」 のポスターに出会い、400文字で応募できるスタートアップコンテストがあることを知りました。
ビジネスアイデアを400文字にまとめ、気軽な気持ちで応募してみたところ、ファイナルまで通過。「一次選考を通過しました」などとメールが届くたびに自信がつき、アイデアを「妄想」のままで終わらせなくて良いのだと、気持ちを後押しされました。
2020年当時はコロナ禍で、11月のファイナルステージまでオンライン上でのコミュニケ―ションのみでしたので、正直、「起業する実感」は湧いてませんでした。しかしファイナルステージの前日に、ファイナリストの方たちと初めて対面して話をしたり、リハーサルの空間で自分の想いを言葉にしたりする中で、「やっぱり起業したい」と気持ちが固まりました。
TSG2020ファイナルステージでの江連さんのプレゼン
実は、両親には「起業しない」と約束をした上でTSGに応募していたので、TSGの前日になって「やっぱり起業したい」と話したときには、かなり怒られました。ただ、やると決めた後は、全力で応援してくれました。
ーTSGの後、商品化して販売に至るまでの流れの中で、どのような壁がありましたか?またどのように乗り越えたのかも教えてください。
美大生の友人達が「一緒に作ろう」とデザイナーとしてプロダクト作りに参加してくれたので、私のイメージを形にすることができました。ともに取り組んでくれる仲間の存在は、困難の中で前に進む力になりました。
仲間と共に“おかえり”ショーツを手に取る様子
しかしそこから、実際の製品を作るための工場探しはとても大変でした。ひたすら何件もアプローチし続け、その度に断られ続けましたが、そのうちに「社会にとって良い服作りがしたいから」と引き受けてくださる先が見つかり、量販体制が整いました。
工房千駄ヶ谷さんとの“おかえり”ショーツ開発中の様子
その後、2020年10月にクラウドファンディングで支援を受けて商品化し、TSGのサポートも受けながら、2021年の国際女性デー(3月8日)に自社ECサイトで販売を開始。妊娠中の方やそのパートナー、車椅子をお使いの方など、当初の想定を超えて多様なお客様の元にお届けすることができました。
初めてのPOPUP
体調不良により事業継続が困難に。おかえり”ショーツを世に残し続けるための手段として、M&Aを選択。
ーそこから、今回、事業売却に至った経緯について教えていただけますか?
経営して1年くらい経った頃に体調を崩し、入院・手術・リハビリが必要になるなど、体調の安定しない時期が続きました。
1年間は大学を休学しながら会社を経営していたのですが、両立が難しい状況になり「今ある在庫がなくなったら、事業は終わりにしよう」と意思決定をしました。体力が戻らなかったので会社を廃業する気力も起きず、会社をそのまま放置していたような状況です
1年くらい販売を停止していたところ、お客様から「替えのショーツが欲しいです」という声が届くようになりました。そのときに「欲しい」と望まれているプロダクトなのだということを、改めて実感しました。私自身が生産を継続することは難しくても、他に“おかえり” ショーツを作ってくださる方がいれば「事業を譲渡する」という形でプロダクトの販売を続けられるのではないかと思い、譲渡先を探し始めました。
ー休んでいた事業を売却するにあたっては、色々なご苦労があったと思います。M&Aを経験した今、思うことはありますか?
工場探しと同様に、売却先を見つけるのは非常に難しかったです。事業譲渡に向けて動く中で、周りの人に相談しても「1年間も休んでいた事業は売れない、値段がつかないよ。会社を清算したら?」と言われることがほとんどでした。
一般的に、M&Aというと「何億で売却する」というマネーゲーム的なイメージが強いかと思います。でも私の場合は、事業を続け、“おかえり”ショーツというプロダクトを残すことが最優先で、金銭的価値は求めていませんでした。
私は、お金稼ぎ目的ではなく、次にバトンを渡すことも、M&Aだと思っています。今回「世の中にあったほうが良いもの」を残す手段としてM&Aを選択し、気持ちが良い終わり方だと感じました。無事に譲渡が完了した今、“おかえり”ショーツを求めている人にもう一度届けられることや、自分が作ったものを世の中に残し続けられることはとてもありがたいです。
「誰かが心地よくないもの・こと」を見つけ、誰もが心地よいと思える社会へとアップデートし続けたい。
ー次に目指している未来の方向性は?
2024年3月、大学在学中の最終月に事業譲渡が完了しました。今後は、起業家というキャリアを土台にしながら「真に女性のための技術」とは何かという新たな問いに挑んでいきたいと考えています。
そして、その問いを探究するため、2024年4月からは東京大学大学院 学際情報学府に進学しました。女性の身体を扱う技術であるフェムテックについて、批判的研究を続けていきます。フェムテックについての批判的な考察を通じて、どうしたら健やかにフェムテックという市場を発展させられるのか、考えることができると思っています。
株式会社Essayという箱はそのまま残しており、いずれまた新たな事業も展開できればと思っています。従来は、‟今”存在しているジェンダーの格差に対して「こうするべき」と声をあげて、社会を変革していく流れが多かったと思いますが、私はこの先起きるであろう‟未来”の格差・差別に対して「予防」する観点から事業を展開できればと考えています。研究での考察や立証を、社会実装するところまで完遂したいです。
研究と経営、越境して融合させていきたい
研究でも事業においても、私の追求したいことは「心地よい」の拡張です。批判的な目線を持ち続けて「誰かが心地よくないもの・こと」を見つけ、誰もが心地よいと思えるようアップデートすることを、これからも繰り返していけたらと思います。どれくらいまで「心地よい」の範囲を拡張できるかを、私自身も楽しみにしています。
ー次々と新しい挑戦を続ける江連さん。その根底には、どのような想いがあるのでしょうか?
私の座右の銘は「Aroha mai. Aroha atu.」。これはマオリ語(ニュージーランドの先住民族であるマオリ族が使う言葉)で、私の日本語での解釈は「愛は巡る」。自ら届けた愛が、廻っていく、循環するイメージです。また自分自身へのリマインダーとして、スマホの待ち受け画面やホームページのTOPにも入れています。この言葉を目にすると「愛をもって、行動できているか?」「自分の私利私欲に意思決定が偏っていないか?」と自然に問いかけることができます。
ホームぺージのTOPにも「Aroha mai. Aroha atu.」の言葉を入れている
私の意思決定は「合理的ではない」と言われることが多いのですが、行動原理にはこの言葉があります。今回の事業売却も、私利私欲だけを考えたら、お金にならないのに労力をかけてまで売る必要はないと思いますが、これまで自分の商品を愛してくれた人に対して、愛を返せているか?と自問自答するとNOだった。だから歯を食いしばってでも、頑張りたいと思えました。
ーこれから起業を目指す学生へのメッセージをお願いします。
これから起業しようと考えている方にとって「事業の終わり」は遠い未来に感じるかもしれませんが、私のように「スモールなM&A」という選択肢もあると知っていただけたらと思います。
起業をしたら一生の覚悟を決めないといけないと気負いがちですが、起業はステップの一つに過ぎません。学生はめまぐるしく進路に悩む時期。「一生これに取り組む」と絞り込んで決めるのは難しいのではないでしょうか。
次の道を探すことは悪いことではなく、事業をやめることすらもひとつのアップデート。既存の枠に捉われず、自分にマッチするやり方を模索してみてください。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
様々な起業家たちのチャレンジをぜひご覧ください。
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