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「おそなえ」で子どもの貧困を解決 お寺がつなぐ笑顔の輪―認定NPO法人おてらおやつクラブ

2021.02.01 

02_おそなえ2

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

 

お寺への「おそなえ」を仏さまからの「おさがり」として、経済的な困難を抱えるひとり親家庭に「おすそわけ」する。「認定NPO法人おてらおやつクラブ」は、昔から日本に伝わる習慣にのせて、子どもの貧困問題を解決するべく活動を拡げている団体です。「みてね基金」の第一期公募で採択されました。

 

子どもとその家族の幸せのために活動している団体を支援する「みてね基金」。2020年4月に公募を開始した第一期では、新型コロナウイルスの影響で困っている子どもや家庭を支援する52団体を選定。国外で行った活動を合わせると、これまで68団体を支援してきました。

 

「おてらおやつクラブ」は、「おそなえ」をする人の心がこもった食品や日用品を子どもたちに送る活動を2014年から続けています。今回、日本のお寺だからこそ生まれた支援の形を積極的に拡げる「おてらおやつクラブ」の姿勢に「みてね基金」は大きく惹かれ、さらにともに前進させたいという想いから、採択を決めました。

 

今回、「おてらおやつクラブ」の理事で広報担当の野田芳樹さん、事務局長である齋藤明秀さんにお話を伺いました。

お寺の「ある」と社会の「ない」を組み合わせる

 

地域に必ず一つはあるお寺。お寺には昔から地域の人や檀家さんたちがお菓子やお米、果物、野菜などを仏さまに「おそなえ」をする習わしがあり、日本では当たり前の文化として大切に受け継がれています。

 

奈良県の安養寺に事務局がある「おてらおやつクラブ」は、こうした「おそなえ」を、僧侶がおつとめをした後に、仏さまからの「おさがり」として子どもやひとり親家庭を支援する団体を通して家庭に「おすそわけ」する活動をしています。支援対象の地域は全国。各地のお寺と支援団体をつないで、毎月延べ22,000人の子どもたちに送っています(2020年12月時点)。2018年度には、デザインが優れた物事に贈られるグッドデザイン大賞を受賞しました。「子どもの貧困解決」を目指して、もともとあった習慣と組織、人、ものをつなげたその仕組みの美しさが高く評価されたものです。

 

02_おすそわけ梱包発送⑥

 

活動の始まりは、代表理事の松島靖朗さんが抱いていた二つの課題を何とかしたいという思いからでした。まずお寺側の課題として、「おそなえ」が多く寄せられることがありました。そのほとんどは住職が家族でいただいたり、また法要参拝者に「おさがり」として持ち帰ってもらったり、お客さまへのお茶菓子にしたりしていましたが、それでもたくさんの「おそなえ」があり、その活かし方に困っていたという現状がありました。

 

もう一つの課題が子どもの貧困問題でした。お寺では「おそなえ」があまっている一方で、その日食べるものもない家庭があるという事実。お寺の「ある」と社会の「ない」をパズルのように組み合わせることで、この二つの課題を解決できないか考えたと言います。

 

さらに大きなきっかけとなったのが、2013年5月24日、20代の母親と男児の遺体が発見された母子餓死事件でした。遺体のそばには「最後にたくさん食べさせてあげられなくてごめんね」と書かれたメモが残されていたと報道で伝えられました。

 

お寺の「もったいない」を社会のみんなの「ありがとう」に変えたい。そう思った松島さんが始めたのが「おてらおやつクラブ」の活動でした。当初は松島さん一人で支援団体に「おすそわけ」を届けていた活動ですが、広く長く続けていくためにまわりの僧侶たちに声をかけて活動を拡げていきました。それは次第に宗派を超えて、2020年12月時点では1,553の寺院が檀家さんたちからの「おそなえ」を、488の支援団体へ「おすそわけ」しています。活動の輪が広がるなかで、「おそなえ」は個人の方や企業から寄贈されることも増え、今では企業や行政との連携も進んでいます。

 

02_おすそわけ梱包発送⑦

 

ホームページに届く不安の声

 

「おてらおやつクラブ」では、主に二つの活動をおこなっています。一つはこの活動に参加する全国の寺院から各地域における支援団体を通じて、支援が必要と判断された家庭に「おすそわけ」を送る活動です。もう一つは、「おてらおやつクラブ」の事務局から直接その家庭に「おそすわけ」を送る活動です。

 

齋藤さんは言います。

 

「困っているご家庭と支援団体さんの橋渡しをすることを大事にしているのですが、すぐに必要な支援につながらない場合もあります。そんな時には『おてらおやつクラブ』から直接、『おすそわけ』をお送りしてご縁をつなぐようにしています。また、『おてらおやつクラブ』の活動を知っていただく機会が増えると、ホームページを入り口にご家庭の声が直接寄せられるようになりました。ご相談フォームに困っていることを書いていただき、ご対応しています。『おそすわけ』の内容は、安養寺の事務局から送る時には食事のベースとなるお米は必ずお入れするようにしています。また食用油、マスク、タオルなども。多いのはお菓子です。」

 

「おてらおやつクラブ」に寄せられる声はさまざまで、「とにかく食べものがほしい」という声のほか、「話を聞いてほしい」「進学のために塾に通わせたいけれど経済的に難しい、無料の学習教室を紹介してほしい」など不安な気持ちを伝えるような声も目立つそうです。「おてらおやつクラブ」では、一人ひとりの困りごとを解決するためにも、「おすそわけ」を送ると同時に、各家庭に支援団体や行政の支援情報を紹介することに力を注ぎます。

 

齋藤写真

 

コロナ禍でひとり親家庭からの「助けて」が増加

 

「おてらおやつクラブ」の事務局がひとり親家庭に直接「おすそわけ」を送る活動。2020年は3月末に350世帯、11月末に800世帯、12月には1,000世帯を超えました。

 

2020年、「おてらおやつクラブ」は行政との連携を積極的に進めていきました。そのなかで行政が困っている家庭に対して、「おてらおやつクラブ」を紹介することが増えたため、直接事務局に問い合わせをする家庭が増えたそうです。

 

また新型コロナウイルスの感染拡大も、特にひとり親家庭に大きな影響を与えたと齋藤さんは言います。

 

2020年の4月、5月は全国の学校が一斉休校になりました。ひとり親家庭の親御さんはお子さんが家にいることで働きに出られない、また給食がなくなり一つの大きな栄養源を失ってしまった、そんな困りごとで頭を悩ませる日が続きました。そのうえ、コロナ禍のなかで雇い止めにあう方も増え、メールの内容にも『解雇されました』というメッセージがたくさんありました。コロナ禍で支援を必要とする世帯が急増していると言えると思います。」

 

先の見えないコロナ禍のなかで「おてらおやつクラブ」が出会ったのが、「みてね基金」でした。「おそなえ」は個人の方や企業などによるものですが、「おすそわけ」を支援団体や家庭に送るその費用、また活動の運営費はおてらおやつクラブ事務局や全国の寺院が負担し、支援者の増加とともにその幅が大きくなっていました。活動をより長く続けるために基盤を強めることが必要でした。そんな時に知った「みてね基金」に「私たちの活動の内容や、日本の子どもの貧困をなくしたいという目的を理解し一緒に歩んでいただきたい」と応募したところ、採択。「おてらおやつクラブ」の活動を「みてね基金」が支援することが決まりました。

 

「『みてね基金』に支えていただくことになり、社会的な責任が増したと思っています。より全国に活動を拡げながら、一人でも多くの方をご支援につなげなければならないと思っています。」

 

野田さんが続けます。

 

「子どもの貧困についてはもともと日本では深刻な問題としてありました。しかし、このコロナ禍で経済的だけでなく、精神的に苦しい思いを抱えるひとり親家庭が増えてしまいました。このことは見過ごせない事実です。私たちはお一人おひとりの声を丁寧に聴いていき、必要に応じて『おすそわけ』と支援団体さんにつなげていくことを続ける。少なくともここに駆け込めば話を聴いてもらえると思っていただけるように。そのためにも、私たちの活動についてお母さんやお父さんに知っていただけるよう、情報を発信していくことが大事だと感じています。」

 

野田芳樹プロフィール写真

 

「おすそわけ」を送りながら、心を届ける

 

新型コロナウイルスの感染拡大によって、より深刻化した子どもの貧困問題。2014年から活動を通して向きあうなかで感じることとして、「大きな特徴が一つあります」と野田さんは言います。

 

「それは、見えづらいことです。『おてらおやつクラブ』では『助けて』の声も多くいただきますが、一方で寄付者の方からはこんな言葉もよくお聞きします。『日本に貧困があるなんて知らなかった』と。経済的な事情を抱えて困っている人が身近にいない、または出会ったことがないから、実感がわかないということです。こういった方は少なくありません。日本の貧困問題は、見えづらい、気づかれにくいのです。」

 

こうした状況のなかで、困りごとを抱えた人は「どうせ話しても誰も理解してくれない」と自分で抱え込んでしまうことが多い。そう野田さんは話します。

 

「子育てで悩みを持っていても、本当のことを誰にも打ち明けられない。どんなに困っていても話すことができない。大きな不安を抱えた自分を子どもに悟られると不憫な思いをさせてしまうからと、隠そうとする。それがつらい。そういった方もたくさんいます。」

 

「私たちが一番課題だと思っているのは、困りごとを抱えた方が孤立してしまうことです。社会との接点を失ってしまい、助けが必要な時に『助けて』と言えない状況になってしまうことです。」

 

そういった状況からひとり親家庭を守るために、「おてらおやつクラブ」が最も大事にしているのは、「おすそわけ」を送りながら、心を届けること。

 

「『おそすわけ』がご家庭の手元に届くことで、人のつながりを感じていただけるかもしれません。誰かが想いを寄せてくれているという温かな気持ち、また誰かに見守られているという安心感を持っていただけたら、気持ち穏やかに暮らせる生活につながっていくのではと思っています。」

 

困りごとを抱えた家庭の孤立感を解消したい。「おてらおやつクラブ」のこうした想いは確かに届いているようです。「おすそわけ」を受け取った家庭からは「一人じゃないとわかって、明日も頑張ろうと思えた」「『おすそわけ』が手元に届いて、子ども達がぱっと笑顔になって、自分も笑顔になれて、家庭が華やいだ」といった声が、「おてらおやつクラブ」に寄せられています。「心の支えになります」「応援してくださる方がいることが心強いです」という声も。野田さんは言います。

 

「『おてらおやつクラブ』の活動は、各ご家庭の根本的な問題の解決には直結はしないかもしれません。しかし、それでもお一人おひとりの困りごとに丁寧にお応えすることは、『助けて』と言える社会をつくっていくために欠かせないことなのだろうと思っています。」

 

01_おてらおやつクラブイメージ

 

子どもの貧困問題を解決するために私たちにできることとは?

 

野田さんによると、今、全国で経済的な事情を抱えているひとり親家庭は30万件といわれているそうです。そのなかで、「おてらおやつクラブ」の事務局が直接つながっているのは1,000世帯。支援数が増えているとはいえ、30万件分の1,000世帯は「氷山の一角にすぎない」と野田さんは言います。

 

「困っているご家庭の方に、頼ってもいい場所があることを知ってもらうためにも、これからも丁寧に声にお応えしていきたいです。同時に、日本の貧困の問題について多くの人に知っていただくことも『おてらおやつクラブ』の役割だと思っています。」

 

最後に、「おてらおやつクラブ」の活動に初めて触れた方に向けて、こんな言葉をかけてくれました。

 

「もし、お困りの方がいらっしゃったら、どうぞ遠慮なくご相談フォームまで声をお寄せください。子どもの貧困問題解決のために何かしたいと思われた方や、また『おてらおやつクラブ』の活動にご関心を持っていただけた方は、ご寄付やご寄贈でお力添えをいただければ幸いです。私たちにできることをそれぞれが考えながら、一緒に行動できたらとてもうれしいです。」

 

02_おつとめ風景②

 

取材して感じたこと

 

「困っている人を目の前にしたら、どうにか手助けをしたいと誰もが思うのではないでしょうか。その時に想像力を働かせて、自分にできることを精一杯する。その気持ちを常に持って活動を続けたいです。」という齋藤さんと野田さんのこの言葉が心に残りました。私たちに「貧困とは?」「自分にできることとは?」と問いかける活動でもある「おてらおやつクラブ」。もし、「おてらおやつクラブ」のことをもっと知りたいと思っていただけた方は、どうぞホームページを訪れてみてください。

 


 

団体名

認定NPO法人おてらおやつクラブ

申請事業名

困窮するひとり親家庭・貧困支援団体への物資配給事業の拡充

申請事業概要

全国の経済的に困窮するひとり親家庭、また連携する貧困支援団体等への緊急的な物資配給事業の拡充

 

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新型コロナみてね基金
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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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