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「もし、わたしの変化に、組織や社会の変化を生み出していく可能性があるとしたら?」―3ヶ月間の社会起業家ラーニングジャーニーレポート(前編)

2024.11.15 

2001年から社会起業家支援を続けてきた、WEBメディアDRIVEを運営するNPO法人ETIC.(以下、エティック)。昨年に引き続き、これまで出会ってきた社会起業家が向き合う現実の変化に呼応するように、社会課題解決という長い旅路に組織と個人が持続可能に関わり続けるためのラーニングジャーニーを開催しました。

 

「自分たちが向き合う複雑な社会課題の構造は?」

「私は『なぜ』『何のために』この仕事をするのか」

「作り出したい未来は?どのように自分の活動を更新できるのか」

 

本記事では、こうした問いと深く向き合った3ヶ月間のラーニングジャーニーのレポートをお届けします。

 

2022年の初回開催の様子はこちらの記事より。本ラーニングジャーニーが始まった経緯もより詳細にまとめられています。

「わたし」と「わたしたち」と「社会システム」は、相互に影響を及ぼし合っている

2024年のラーニングジャーニーは、6〜8月の3ヶ月間、各月に1回(7月は1泊2日の合宿)実施されました。参加者が活動する領域は、子どもや若者、産前産後、教育、LGBTQ、自然・歴史保全、難病など多岐に渡ります。

 

初回から一貫して、ラーニングジャーニーの学びの中心には「I-We-It(アイ・ウィー・イット)」と呼ばれるフレームワークが置かれました。「I-We-It」は、米国発のNPOの中から12の「偉大なNPO」を抽出し、それらに共通する「六つの原則」を発見した『世界を変える偉大なNPOの条件』共著者であるヘザー・マクラウド・グラント氏からエティックが学んだ、社会システム変容のために用いられるフレームワークです。

 

「I-We-It」が意味する「 I(わたし) 」とは、リーダー個人のことであり、その内面的な状態、体現している価値観、マインドセット、持ちあわせているスキルのこと。

 

「We(わたしたち)」とは、広く集団のことであり、組織だけでなくネットワークなど、リーダーが触媒となり生まれた同じビジョンへ向かう集団なども含みます。

 

最後に、「It (社会システム)」は、社会起業家たちが影響を与えたいと願っている、わたしたちの社会に多大な影響を及ぼしているシステムのことで、例えば教育などの各分野における課題のこと、私たちが暮らす地域社会などの場所を指します。

 

このフレームワークにおいては、「I(わたし)」「We(わたしたち)」「It(社会システム)」は別々のものではなく、相互に影響を及ぼし合っていると考えます。例えば、非営利組織の理事会で頻繁にみられるコンフリクト(対立)の型があります。事業担当理事は、ほとんどの時間をボランティアや当事者と向き合っていて、経営担当理事は、外部理事からアドバイスをもらったり、財団の担当者との交流がほとんどというケースがあります。そうなると、それぞれ違う価値観とマインドセットを持ち寄るだけでなく、それぞれが眼差す社会システムが異なるため、理事会で一同に会したとき組織にコンフリクトが起こるのです。

 

このように、「I-We-It」から活動や自分自身を振り返ることは、個々のリーダー、組織やネットワーク、社会システムのそれぞれが相互にどのように関係し合い、影響を及ぼしたい社会システムにどうインパクトを与えるのかを理解する確かな助けになります。

 

また、「I-We-It」では、社会の課題解決のための活動であっても、組織や自分自身が疎かにされた状態は持続可能ではないと考えます。

 

本ラーニングジャーニーでも、「もし、わたしの変化に、組織・ネットワークや社会システムの変化を生み出していく可能性があるとしたら?」という問いを中心に持って、社会的事業に携わる人々が日々向き合う複雑な課題の本質と、より自分らしいリーダーシップや組織のあり方を探求していく場となるよう、「I-We-It」のフレームワークを導入することに決めました。

わたしを起点に組織が変わった組織変革のストーリーを知る

初回、6月のラーニングジャーニーは、池袋の自由学園明日館で開催されました。雲ひとつない暑い一日でしたが、遠くは沖縄から、13団体、24名が集まりました。

 

 

ホームのような安心安全な場、つながりを築くために、研修はいまの気持ちを「色」だけで表現するチェックインから緩やかにスタート。午前中は「I-We-It」の理解を深めるワークをして、午後は「I-We-It」のフレームワークを助けに、組織やリーダーの変容のストーリーに耳を傾け合う時間になりました。

 

まずは本ラーニングジャーニーを運営するエティックの番野 智行(ばんの ともゆき)から、エティックに集う個人(I)の思いを大切にしながら、社会システム(It)によりよく向き合うためのティール組織(We)への変革の道のりと、番野とチームを共にする2020年参画のスタッフから見たエティックの現在について、率直な声を共有していきました(エティックの組織変革の詳細はこちらの記事にまとめられています)。

 

トークは参加者からの質疑応答も交えながら進みました

 

続いてNPO法人Learning for All代表理事の李 炯植(り ひょんしぎ)さんから、「I」を起点に「I」と「We」のウェルビーイングを選択することで組織が変わった体験談をお話しいただき、スタッフ2名を交えて、変化の過程と組織に与えたインパクトについて語り合っていただきました(李さんのストーリー詳細はこちらの記事からご覧いただけます)。

 

 

2団体の話を聞き終え、参加者それぞれに浮かんだ思いを「I-We-It」の視点を取り入れながら言葉にしていくと、下記のような声が生まれました。

 

「組織が拡大して、自由な社風からヒエラルキー構造にならないといけないのではと悩みながら議論していたタイミングだったので、エティックの話は印象的だった。また、組織内で新しく仕事を受け取ったり渡したりすることが必要だが、それぞれの仕事量が透けて見え、遠慮から仕事を手放せず抱え込みがちになってしまっているなとも思った」

 

「アイデアは続々と出てくるが、既存のものを維持しながらどう新しいことができるのかが課題。業務が増えていく一方、NPOなので新事業に見合った人数を採用できるほどの利益を生むことが難しい中で、経営メンバーが朝から晩まで多忙な状態が続いている。そうすると他のスタッフが気軽に経営メンバーに相談できなくなってしまい、それは望むあり方ではないので悩んでいる」

 

「代表は口ぐせのように『今こうしているうちにも当事者の人たちは苦しんでいる』と言う。その思いも深刻さも共有しているが、『やらなければ』という焦燥感で身を粉にして働くスタッフはつらいだろうなと感じる。一方で、スタッフのウェルビーイングを大事にしようとしたら『同じくらい当事者のウェルビーイングも大事にしているか?』と問われたとして、自分はどう答えるのか……。罪悪感を持ちすぎずに両者をどう大事にできるのか改めて考えたい」

 

他団体のストーリーから触発され浮かび上がってきたのは、「I-We-It」が相互に影響を及ぼし合っていることを改めて確認するような、出来事の「複雑性」、そしてその人自身が感じている「痛み」でした。

いま何が起こっているのか? わたしに影響を及ぼしている構造を捉える

研修の最後には、この1日で語られた出来事の「複雑性」や「痛み」がなぜ起こっているのかを考え、「わたしが変化の触媒になる可能性がある」という希望を持ちながら、それぞれの「I-We-It」のストーリーを振り返り、紐解いていく時間をとりました。

 

「わたしの存在は、組織にどのような影響を与えているのか」

「人が変わっても毎回起こることがあったとして、背景にわたしの何が関係している可能性があるのか」

「自団体が起こしているシステムチェンジとは何なのだろうか」

「問題解決モデルではなく、システムに起こしている波紋は何だろうか」

「団体の活動や価値観は、その中にいる人や周りにどのような影響を与えているだろうか」

 

このような問いに一人ひとりが向き合い、解決はいったん傍に置き、いま自分の行動に影響を及ぼしている構造を捉え、何が起こっているのかを理解していくための時間となりました。

 

 

ワークを終えた参加者からは、下記のような発見の声があがりました。

 

「いかに自分がI-Weの狭いところで思考を巡らしていたかがよく分かった。Itの視点からも考えることで、組織内でもっとダイナミックな話し合いもできそうだと思った」

 

「Iから書き出すと個人的で小さな体験に留まってItに達せず、視座の低さに気づいた。逆にItから書き出していくと、WeとIは何ができるか?の課題探しになってしまった」

 

「Weがいまどんな状態かに意識がいってしまい、Iがいまどんな状態かを意識することができていないと感じた。Iの状態が組織にどのような影響を与えているのか、それがItにどのようにつながっているのか、理屈ではわかっていても自分の状態が組織の状態に影響されていて、自分が起点になり『良い状態』でいることがとても難しいと感じた」

 

また、一緒に参加した同じ団体のスタッフ同士でワークを見せ合ったという参加者からは、「わたしが外の世界にも目が向く俯瞰タイプだった一方で、彼女はぎゅっと団体内部に目線が向かっていて、その発見にすごく盛り上がった。違うからこその良さを感じたのと、こうした違いを理解し合っておくことで日頃のコミュニケーションもうまくいくのだろうと痛感したので、早速、団体内でも同様のワークをしてみようという話を進めている」という声が共有されました。

 


 

それぞれの宿題を持ち帰り、次回は7月の合宿で再会します。合宿、そして8月の最終研修のレポートは、【後編】に続きます

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。