「自然と人とが『共生』『共存』というと、それぞれが別の生き物で、お互いが一緒にならなければならないと言われているように感じるんです」
「でも、本来、一緒に存在していると僕は思っているんですよ。今は、自然との関係性が崩れてしまっているけれど、もともと人は自然の一部で、海の一部でもある。お互いが尊重しあえる社会を目指したくて、会社のビジョンを『ウミとヒトが豊かな社会の実現』としたんです」
そう語るのは、株式会社UMITO Partners(ウミトパートナーズ)代表の村上春二(むらかみ・しゅんじ)さんです。UMITO Partnersでは、持続可能な漁業に取り組みたい生産者さんや地域が抱える環境・経済・社会の課題を科学的かつクリエイティブに解決する事業を展開し、また水産エコラベル認証取得を含む持続可能な漁業を実現するためのコンサルティングや事業企画立案や流通マッチングなどの事業を行っています。
UMITO Partners設立一周年記念パーティでのパネルディスカッションにて
村上春二さん/株式会社UMITO Partners代表取締役
福岡県出身。高校卒業後、米国カリフォルニア州に留学。自然地理学とビジネスを専攻。帰国後、パタゴニア日本支社で勤務し、国際環境NGOのWild Salmon Centerの日本コーディネーターとして勤務。その後、オーシャン・アウトカムズ(O2)の設立メンバーとして日本支部長に従事し、株式会社シーフードレガシー取締役副社長/COOとして2018年に就任。日本初となる漁業・養殖漁業改善プロジェクト(FIP/AIP)を日本に導入し生産現場に寄り添う事業の創出と企業との連携に特化。国内外の水産業界やNGOおよびビジネスセクターに精通し、多くの国内外におけるシンポジウムや水産関連会議やフォーラムでの登壇や司会などを務めるなど、国内外で活動する。Asia Pacific FIP Community of Practice Council Member、養殖業成長産業化推進協議会委員。
取材当日、村上さんは博多弁で気さくに、「人生を通して自然を守りたい」と思うようになるまでの生き方、組織や事業を走らせ始めた頃のこと、そして今後のことを話してくれました。
「やりたくないことはやりたくないですよね」と実際には難しいと思えることもさらりと言葉にする村上さんは、なぜUMITO Partnersの事業を作り、どんなことを大切に、未来を開拓しようとしているでしょうか。
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「大学の卒業式を抜け出して釣りに行った」
「福岡でもわりと街中の方に住んでいたのですが、自然を守りたいと思った理由は、僕の生まれ育った環境が大きいかもしれませんね。
父親が、経営者でありながら釣りの日本チャンピオンで、イノシシ狩りもしていたんです。僕が物心ついた頃から釣りやイノシシ狩りが日常にあり、食育がとても身近でした。母親もよく自然の中に連れて行ってくれて、トンボを捕まえたりしていました」
福岡県出身の村上さんは、幼少期の頃をこう振り返ります。
小学生の頃はサッカーにも熱中していた。「サッカーで海外に行きたいとも思っていました」(村上さんは前列左から三番目)
高校を卒業すると、米国カリフォルニア州に留学。当時、抱いていた将来の夢は「お金持ち」だったそうです。
「何でもいいからお金を稼いでやろうと思っていました。なぜかというと、家族の間で話される成功指標は、お金か、その人が何をしているかだったんです。
海外への留学は、趣味だった自転車競技のBMX(バイシクルモトクロス)のカルチャーから受けた影響も大きいですね。日本の大学で行きたいところもないし、どうせなら海外の厳しい環境に身を置きたいと思って渡米しました。といってもお金がある家庭ではなかったので、渡米後も大変でしたけれど」
「将来はお金持ちになりたい」と思っていた村上さんは、なぜ自然を守る仕事に就くことを選んだのでしょうか。それは、幼い頃から常に自然とともにあった村上さんにとってごく自然な流れで、必然的なことだったようです。
「16歳、17歳の頃、先輩と一緒に高千穂峰の山奥に行ったんですよ。米と塩、釣り道具だけを持って3日間『サバイバルするぞ』と。そこで宇宙と一体になれた体験をしたのは強烈な思い出として残っています。
それに、26歳で大学を卒業したのですが、当時は『30歳まではやりたいことだけをやる』と決めていました。やりたくなかったのは、決まった時間に出社して帰る生活。とにかく釣りと旅をしていました。
ヒッチハイクでアメリカを横断したり、1か月5万円だけ握りしめて旅をしていろいろあったり(笑)、ヨーロッパ一周にペルー南米への旅、あと山の中に3週間こもったり、そういうことばかりしていました。自然を守りたいと思うには、どれだけ心を動かされる自然に出会えるかだと思うのですが、僕にはそういうガツンと影響を受けた風景や経験がたくさんあるんです。
大学の卒業式も、アメリカでは最後にみんなで四角い帽子のつばを持って空へ投げますよね。でも僕は、ちょうど釣りのいいタイミングと重なっていたから、帽子を投げる前に式を抜け出したんです。だから僕だけ卒業式の記念写真がないんですよ(笑)」
法律と実態のギャップを埋めるために起業
一見自由奔放な大学生生活ですが、村上さんはアルバイトの仕事でもしっかりと成果を出していました。
ビジネス学とあわせて専攻していた自然地理学の学び、さらに自身の自然との経験をかけあわせながら、フライフィッシングの専門店では雑用係からマネージャーへ昇格。卒業後は会社の引き留めにあいながらも帰国し、環境系ライターとして釣りの連載を持つなど活躍。
帰国後はライターとして活動後、アウトドア用品などの製造販売を手掛けるパタゴニア日本支社で働いた。
写真は、当時アラスカでヒッチハイクしながら釣りの旅をする村上さん
アラスカで釣りをする村上さん
国際環境NGOのWild Salmon Centerの日本コーディネーターとして勤務した後も、サステナブルな海、魚、人との関係を目指す組織の立ち上げや日本初の漁業・養殖漁業改善プロジェクト(FIP・AIP)の日本への導入など、海と現場に寄り添った事業を作り続けてきました。
そうして2021年、村上さんはUMITO Partnersを設立しました。その源にあるのは、子どもの頃から自身の中で育ってきた「自分は自然の一部」という思いからくる、現実への違和感でした。
「サステナブルな自然と人との関係性を追求するNGOが目指す方向性として、法律がしっかりとそのバックで人と自然を守る役割を果たすべきという認識があります。
僕がサステナブル推進の仕事を始めて10年くらいになりますが、実際は、法律と現場との乖離がとても大きいと感じています。利害を受けるのは現場の方なのだから、実態がともなわなければ効力も期待できません。法律と現場のギャップを埋めたかったんです」
地に足をつけて深めた信頼関係から“現場の声”が生まれる
最初の事業を生み出す時、村上さんが何よりも大事にしたのは、現場の声を活かすことでした。これは組織作りのカルチャーとしても意識されている揺るぎない軸です。
「中高生の時、反骨精神に燃えていたんです。社会の仕組みに怒りがあったし、父親の厳しさから抑制された家庭環境に『この野郎』と心の中で反抗していました。大学で自然について学んで、自然の中にも入るようになって、『真理は現場にある』と痛感したこともありました。トップダウンではなく現場の声をもとに動きたいと強く思うようになったんです。
今ではトップダウンとボトムアップ、両方とも大事で、お互いが目線を合わせていくことが必要だと思っています。僕はNGOでも現場目線の大切さを実感したので、現場目線を活かしながらうまくバランスを取っていきたいです」
現場目線での事業を通して自然を守るために欠かせなかったのが、「サステナブルな漁業を実現したい」と漁業現場に携わる人たちが自ら願うことでした。未来への挑戦に参画してもらうために、村上さんは時間をかけて漁師さんのもとへ通い続け、挨拶を交わすところから信頼関係を育てていきました。時に拒否されながら、「言うのは簡単。よそものが勝手なことを言わないでくれ」など怒鳴られながら。
当初は、一つのプロジェクトを立ち上げるのに2年かかったそうです。ただ、そうやって築いた漁業現場の人たちとの信頼の輪は、簡単には壊れないほど強いものとなりました。
北海道・苫前での水ダコ漁
すべては、村上さんの「海を、自然を守りたい」という思いから。目的を果たすためなら、どんな努力も苦に思わないのです。
「でもね、人と地道に会話をしていくことが一番効果があるんですよ。特に『自然を守る』という壮大な目的を達成するためには。もちろん、現場目線で仕事をしていくと、『海外の匂いをぷんぷんさせて』と言われることもあります。
そんな時も、膝をついて、相手の話を尊重して、タイミングを見ながら自分の意見も言うんです。地に足をつけて関係性を深めていくことで、重みのある現場の声を聞くことができます」
挑戦する漁師に光を当て、応援者を増やしたい
海と自然を守るために、水産現場である漁業を永続的なものにするために、村上さんたちは、今、事業でどんなことに注力しているのでしょうか。
「日本には、未来を見据えて自然や地域を守るために努力している人がたくさんいます。ただ一方で、そういった人たちの頑張りがまだ知られていないと感じています。それが質の高い漁業を永続的なものとするために見逃せない一つの課題です。
努力する人たちを知ることで、『こんなに頑張っている人がいる。自分のやり方も間違っていなかった』『自然を守りながら稼ぐ人がいるなんて。自分も頑張ろう』と鼓舞される人がいるかもしれません。一人ひとりの行動も変わるかもしれません。セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)の一つとして考えていることです」
現場で挑戦し続ける漁師に光を当てながら、その人たちをサポートすることで背中を押していく。村上さんたちは、今後、そのための事業を拡大していきたいと話します。同時に、「もう一つの課題」として挙げる、「漁師を応援する人が現状ではまだ不足していること」についても取り組みを本格化します。
「漁師さんたちの情報をどんどん世に発信していくことで応援者を増やしていきたいです。漁師さんと応援者のプラットフォームを作り、そこから有益な事業が生まれる仕掛けをしていきたい」
「一緒にやっていきましょう」メンバーからの一言に泣けた
創業したばかりの2021年夏。UMITO Partnersのメンバーと初めて合宿をした時、メンバーたちから村上さんはこう言葉をかけられたそうです。
「『これから一緒にやっていきましょう』と言ってくれたんです。創業した頃は、勝手に孤軍奮闘していたと思っていたけれど、実はメンバーたちが自分の姿を見てくれ、思いを固めていたことに気づけて。その時は嬉しくて泣けたし、メンバーに甘えていこうと思いましたね」
事業を始めてしばらく経つと、一人の漁師からはこう言われたそうです。
「『今の自分たちがあるのは村上さんのおかげだから。村上さんのためなら協力するから何でも言って』と。みんなで目指したい未来に向かえていると実感できたし、それまでの努力が報われたようでした。すごく嬉しかったです」
今後、「自然を守る」という目的を達成するまでには困難な壁がいくつも立ちはだかるかもしれません。ただ、同時にこれからも村上さんやメンバーを支えるような出来事が積み重なり、強靭な基盤のもととなるのは間違いないようです。
UMITO Partners設立一周年記念パーティで配布された手ぬぐい
「利他的な仕事をしていると途中で疲れてしまうこともあると思います。でも、時折かけてもらえる言葉の力が一つひとつ強く突き刺さるんです。
また、漁師さんに会いに行くのも楽しいですが、必然的に海や自然に触れられるのがたまらないですね。好きな自然とともに、漁業の最前線で、リアリティのある変化を実感できます」
取材中、わかりやすい言葉で話してくれた村上さん。相手の目線に合わせながら、目的を着実に果たそうとするその姿勢は、これからも多くの人の心を動かすのでしょう。
サステナブルな漁業を通して海と自然を守る仲間を募集!
村上さんが率いる株式会社UMITO Partnersでは、今後の事業展開をともにする仲間を募集しています。
現場目線の仕事を大切にしている事業同様、組織内でもメンバー一人ひとりの意見が尊重されています。そのため、自分の意見を持って、積極的に言葉にしながら自律的に動くことが求められます。主な役割は、漁師たちの挑戦にフォーカスし、応援の輪を広げていくこと。
「大事なのは、自分の人生の舵を自分で切ること。この仕事は正直、難しいです。だからこそ、失敗を恐れず、自分の考えや意見をどんどん出してほしい。海や自然に関わる人や生活の変化を一緒に楽しんでいきましょう」(村上さん)
※募集されていたポジションはいずれも採用が決まり、募集記事は掲載を終了いたしました。理想的な採用が実現できたとのことです。関心を寄せてくださったみなさま、ありがとうございました。
現在は以下ポジションにて募集しています。記事を読んで興味を持った方は是非こちらもご覧ください。
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