2015年9月、国連サミットで採択された17の持続可能な開発目標(SDGs)のゴールとして設定された2030年まであと7年。現在、世界各国で貧困や教育、エネルギーなど課題解決の取り組みが進んでいます。
2030年に創業100年周年を迎えるのは、長野県を拠点に商業施設や店舗の施工などを行う株式会社 山翠舎(さんすいしゃ)です。ビジョンは、「2030年までに、古民家・古木で循環型社会を実現する会社になる」。
日本では、少子高齢化、都市部への人口集中などで地方を中心に空き家が増え続け、いかに空き家を地域の創生につなげるかが急務となっています。その中で戦前に建てられた古民家は地域の資源として活用する動きも広がっていますが、築年数や高額な維持費用などが壁となり、活かしきれない古民家も少なくないようです。
そんな中、山翠舎では、古民家や古い木材ならではの付加価値に光を当て、主軸の事業として展開しています。代表取締役社長の山上浩明(やまかみ・ひろあき)さんは、「先はまだ険しい道のりですが、古民家を取り巻く悪循環に終止符を打つためにアクションを起こしています」と話します。今回、古民家の再利用への課題感、事業者に寄り添った新事業「オアシス」の可能性、つくりたい未来についてお聞きしました。
山上浩明さん/株式会社 山翠舎 代表取締役社長
1977年長野市生まれ。父は同社会長の山上建夫。2000年、東京理科大学理工学部卒業後、ソフトバンクに入社。ネットワーク機器の営業を担当し、社長賞を受賞する。04年、家業である施工会社の山翠舎に入社。下請けから脱するべく、古木を活用した店舗施工のジャンルを切り開く。12年、同社代表取締役に就任。古木をフックに、空間づくりから人の繋がりを生む仕組みづくりへと事業を展開している。
古木™(こぼく)は、古民家(戦前に建築された民家)から入手する古材の中でも、人々の思いや愛着のこもった上質で立派な古材、いわば“ストーリーのある古材”を「古木」と定義している山翠舎の登録商標です。
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解体費用を負担しながらも利益を生む
山翠舎が行っている古民家・古木事業では、特に古民家から取り出した古い木材「古木」を活用した建物や空間のプロデュース・施工などが高い評価を受けています。
ベースとなるのは、2006年に始めた「古民家・古木サーキュラーエコノミー」。古民家の解体から、今では入手困難な木材も含めた古木の設計・施工まで再利用を促すシステムです。古民家の空き家化で困っている所有者と、古民家を活用したい事業者をつなぎ、解体費用などを山翠舎がもちながらも利益を生むこの仕組みは、2020年度のグッドデザイン賞(審査委員 井上裕太氏の選んだ一品)を受賞しました。
2004年、大手IT企業から山翠舎に転職した山上さん。その2年後、山上さん自身が考えたアイデアを形にしたのが「古民家・古木サーキュラーエコノミー」でした。
「当時は下請けの施工会社だったので、何とか特色を出さなければ生き残っていけないという危機感から私の仕事は始まりました。古い材木を加工し商業施設に活かす点では山翠舎はパイオニア的存在だったので古木の事業開発にたどり着きました。常に、『山翠舎の強みをいかす領域はどこなのか』を考えながら実行に移しています。
山翠舎は祖父の代から続く会社で、私は3代目です。『古木をビジネスにしたい』と思った時には、古民家から古木を取り出すための工事に必要な高い技術力も人も、古木を保管できる倉庫もすでにありました。運が良かったんですね」
「古民家は壊したくない」。でも手を入れる矛盾との葛藤
「環境には恵まれていますが、課題はまだ乗り越えられていないんです」と話す山上さん。現在はアイデアと行動力で試行錯誤しているとのこと。古木の事業では、大手を中心に企業からの依頼が続いているそうですが、宝の山ともいえる山翠舎の倉庫に保管された約5000本の古木にも課題感を表します。
「合計5000本となると、1つの古民家が100本の木で建てられているとして、計50つの古民家を解体しているわけです。でも、本当は壊したくない。私としては、古民家の価値を伝えるためにやむを得ず古民家に手を入れています。少しでも高い価値を感じてもらうことで、古民家への理解が深まってほしいと思っています」
総務省統計局の調査では、国内の空き家は、2018年時点で848万9千戸と、2013 年と比べて29万3千戸増(3.6%増)となっていることがわかりました。また、調査年度は異なりますが、2013年の調査では、国内の古民家は156万6千軒あり、2008年の179万7千軒から5年間で13%にあたる23万1千軒が解体されたという結果もあります。
「私は、究極な話として、壊される古民家をゼロにする仕組みを作りたい。貪欲な計画かもしれませんが、壊す必要はないと思っています。家が余っている今の状態では、新しい建物を作るのではなく、古い建物をそのまま活用するべきだと思うんです」
古民家の取り壊しが続く現状について、山上さんはこう語ります。
「でも、活用するまでには問題点が多数あります。古民家の改装は、様々なリスクから請負工事が高額になりがちです。そのため敬遠される傾向があるのです。山翠舎では、そういった問題を解決させて、今あるすべての古民家が再利用できる世界を創っていきたい。」
良いものを長く使うことがサステナブルにつながる
古民家を壊すのではなく、まるごと活かす仕組みを実現したい。この山上さんの強い想いのもとには「先人へのリスペクト」がありました。
「だって、100年も前に作られたものが今も残っているんですよ。すごくないですか?解体なんてもったいないことはやめたい。良いものを作れば長く保てます。良いものを長く使うことが、今、社会で重視されているサステナブルになるとも思っています。
2009年に古木を内装に活かした東京・恵比寿のオフィスも13年使っていますが、途中で壁を塗り替えた程度です。ランニングコストを考えると、最初にしっかりと工事をした方が価格も安く抑えられるのです。このオフィスを見学された事業者さんたちから500件ほど受注がありました。また、古いものの価値は海外で高く評価される可能性も感じています。来年はフランスでの展示会から挑戦したいですね」
先人が生み出した知恵と工夫あふれる建物をただ壊すのは、「もったいない」。この気持ちは、入社時から感じていたとも話します。
「私は、小学生の頃から環境問題に胸を痛めていた子どもだったんです。油による海洋汚染、森林の伐採など『嫌だなあ』と思っていました。山翠舎に入社したばかりの頃には、古民家が壊されるのを目の当たりにしてすごく寂しい気持ちになりました。『立て替えたほうが安い』という声もありましたが、抵抗感の方が大きかったのです」
取材中、山上さんはお子さんと作ったという工作を見せてくれました。子どもの頃から身近にあった木が好きで、図工が得意だったそうです。今でも手先が器用で、竹トンボがすごく上手なのだとか。
「週末になると子どもと何か作っています。図工のアイデア集を見ながら、自分たちでアレンジしています。この前は、紙コップをつなげて魚を作りました。材料は、家に余っているもので十分できるんですよ」
飲食店などが古民家を店舗にできる仕組みを構築
山翠舎では、飲食店を対象に、開業時の資金調達、物件探しなど店舗運営の課題解決をサポートする事業「料理人応援システム™OASIS(オアシス)」を2021年春から展開しています。
「古民家を山翠舎が借りて、改装し、事業者を巻き込んで店舗にします。カフェ、パン屋、蕎麦屋など。家主さんは何もしないでそのままでいい。それまで灯りがともらず真っ暗だった古民家を蘇らせます。
今、長野市では小諸市や長野市を中心に複数店舗を展開しているのですが、この仕組みを全国へ広げたいと思っています。家主さんは固定資産税の負担も減って、事業者は質が高く集客力もある古民家を店舗にできるというメリットがあります。行政には事業所税が入り、地方の行政であれば移住者も増えるなど関わる人たちがみんなハッピーになれるこの商業施設の形を増やしたいんです」
「事業者さんたちには自分にとって便利だからという理由で始めてもらって、後にじわじわと古民家の良さを感じてもらえると嬉しいですよね。大きな手ごたえも感じているんですよ。
古民家で悩んでいる人はたくさんいます。解決策をアレンジし、コーディネートする存在が必要です。山翠舎の91年の信頼の実績と施工の実績53年、またデザインの実績13年とファイナンス8年の実績をフルに活かす総合力でチームを全国に作り、課題解決を実現したいと思っています。域を超えたアプローチでこの仕組みを広げていきたいですね」
表には出ないかもしれない人たちの名前を大切にしたい
「古民家の価値がまだよく理解されていない」ことに課題を感じると話す山上さん。では、山上さん自身、なぜ事業を通してその壁を越えようと行動を続けるのでしょうか。
「古民家って、100年もの間維持している中で、災害や台風などにも耐えてきたことを考えるとすごいと思うんです。それに、昔の家は職人さんの手仕事で無駄がなく、とても丁寧で美しいんです。
あと、昔の職人さんは、住宅を建てる時にも木の目立たないところに自分の名前を書くんですよ。大工さんたちの個性が表れる貴重な部分です。みなさんすごくいい仕事をしていて、その証が木に刻まれる。でも、木のどこに書いてあるか本人にしかわからないこともあります。その控えめな表現にかえって心惹かれるんです」
職人さんへの尊敬の思いは、普段、ともに仕事をする仲間たちにもつながっています。
山翠舎で働く人たちを描いたイラスト
作画:イラストレーター・漫画家 藤本たみこ( https://tamiko.work/ )
「山翠舎で働いている人たちも同じです。関わる人たちが共感し、長所を活かしあうことがものづくりでは大切なのです。
これから先向かう世界は、AIの発達やロボットで効率化された世界など現代とは逆行しているのかもしれません。でも、100年保ったものなら、200年維持させたい。その仕組みを広げ、古民家が循環する社会づくりを達成できたら、その時こそ『山翠舎が成功した』と堂々と言えるんだと思います」
※本記事は、求人サイト「DRIVEキャリア」に掲載された企業・団体様に、スタッフが取材して執筆しました。
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