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未来意志を持つための「希望学」入門 ーみちのく復興事業パートナーズレポートー

2018.03.27 

 

「みちのく復興事業パートナーズ」は2012年6月にスタートした、東北で活躍する起業家やNPO・団体などを企業が協働で支えるプラットフォームです。先日は今年で6回目となる、これまでの活動やこれからについて考えるシンポジウムを開催。今回は、今後の地域のあり方について考えるべく「未来意志」をキーワードに設定しました。「未来意志」はどのように育まれ、どうしたら維持していけるのか?

 

今回は、第一部で開催したNPO法人ETIC.代表宮城治男(以下、宮城)によるオープニングトーク、東京大学社会科学研究所で「希望学」の研究を行う玄田有史先生(以下、玄田)による基調講演「創造的社会はローカルから」の模様をご紹介します!

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新たな希望を見出すために今できることとは?みちのく復興パートナーズへの想い

 

ー東北のリーダーを支援する、みちのく復興パートナーズ

宮城「震災から7年が経つこの時期。この取り組みに関心を持って集まっていただき、ありがとうございます。みちのく復興パートナーズとは東北が自律的な復興を目指すために、復興に資するハブ的なリーダーの活動を支え、彼らの影響力を拡大していくためのプラットフォームです。いすゞ自動車株式会社、花王株式会社、株式会社ジェーシービー、株式会社電通、株式会社ベネッセホールディングスという5つの企業がつながりながら、活動を展開しています。

 

 

図1

 

 

5つの参画企業の皆さんは、教育やものづくり、福祉などそれぞれの強みをお持ちです。プラットフォームとして横のつながりを持ちながらも、各企業ならではの資源を生かした個別の活動も東北で展開しています。東北の復興に対して、どんな思いを込めて向き合っていくか考えることがパートナーズの目標です。みちのく復興パートナーズは、常に向かう先や目的を共に進化させながら向かってきました。」

図2

 

ー「復興とは何か?」という問い 

宮城「東北に向き合うことに携わる者として考えさせられるのは、”復興とは何か”という問いです。東北の復興に携わることは、私たち自身が成長する学びの機会になっています。復興に携わる側が進化していく気づきが、これまでにたくさんあったのです。復興に向けて、人口減少の問題やインフラ整備の問題、資金不足などのさまざまな具体的な課題もあります。その解決のためにKPIを定めて進む復興も大切です。しかし同時に、その先にある、本当の意味での”地域の人たちにとっての復興”についても考えたい。そのとき、僕らのあいだで”未来意志”という言葉がでてきたのです。僕らは、東北での活動を通して、”新しい未来をつくる”というクリエイティブな取り組みに関わっていると考えています。未来への意志や、希望の育まれる土壌をいかにつくるか?ここからさらに未来を考えていく上で、しっかりと”共につくりあげる未来”について考える機会を持つべきなのではないかと考えます。」

 

昨年末ETIC.では、新しい社会をつくる力"未来意志"を持ち、実践するイノベーターたちの活動を促進するプラットフォーム"社会課題解決中マップ "をオープン。社会課題をチャンスと捉え、ポジティブに次の社会をつくろうとするアクションをたくさん紹介しています。そんな"未来意志"を持ち、新たなイノベーションを生み出していくためのエネルギーはどのように育まれるのか?あらためて"未来意志"や"希望"について考える、玄田先生による基調講演の模様をお伝えします。

 

今あらためて、「希望」とは? ”幸福”や”夢”との対比から

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ー2011年の被災地への訪問、支援物資は大量の”卓上カレンダー”

玄田「私は10年ほど前から希望学の研究をしています。2000年に村上龍さんが『希望の国のエクソダス』という本を出しました。そこに「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」というフレーズがあり、当時非常に話題になりました。こんな社会だからこそ、どうしたら希望が生まれるのか?ということを考えたい。そんな思いから、希望学を研究してきました。

 

今日のテーマは、新しい社会をつくる力としての”未来意志”です。私自身はどういう時に”未来意志”を感じたかと考えてみると、やはり東北のことが浮かびます。私は希望学の研究を通じて、2006年から岩手県釜石市とかかわってきました。震災が起きてから、やはり、すぐにでも行きたいと思いました。3月末くらいから、羽田空港から花巻便への臨時便がでて、幸いなことに、4月1日に行けることになりました。せっかく行けるなら何か少しでも支援になるようなものを持っていきたいと思ました。けれど食料や衣料はかえって迷惑になる可能性もあるし、何がいいかと困っていたところ、たまたま知り合いから”これ持っていくといいよ”とたくさんの卓上カレンダーを渡されました。」

 

 

ー希望とは、意志を持って自分でつくるもの

玄田「紙袋いっぱいのカレンダーを手に、釜石に到着するといろんな知り合いに会いました。”希望を持ちましょう”、なんて言えませんでした。会う人会う人に、ただ握手をしていました。もう、そのときは、言葉ではありませんでした。ある避難所に着くと知り合いの市役所の方に会えて、少しだけお話しすることができました。そこで紙袋いっぱいのカレンダーを渡したのです。その後東京に戻ると、釜石の方から“あのカレンダー、相当喜ばれていたよ!”と連絡をいただきました。本当に、とても喜んでいただけたようなのです。そうか、こういうものが必要だったんだな、と感じました。

 

きっと"ここまでにはこれをやるぞ!"とか、"これを目標にするぞ!"とか、自身の手で一つ一つそのカレンダーに書き込んでいったのではないか、と想像しています。震災後の混乱や絶望の中で"これから何をするか?"という、明日からの、これからの行動を考えることは、すなわち”希望”につながるんだと。希望とは、意志を持った自分たちの手で1つ1つ生み出していくものなんだなと、あらためて実感しました。」

 

 

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ー”ずっと続いてほしい” 継続や持続を思う「幸福」

玄田「希望学といっても、国内はもちろん外国の研究を見てみても、10年前に希望について研究している事例はほとんどなかったんです。そこで、いくつかの類似概念と希望との関係を考えました。まずは”幸福”という言葉。希望と幸福の関係や違いってなんでしょう?おいしいものを食べてるときなんかは幸せを感じます。"こういうのがずっと続いて欲しいなあ"と。また、結婚式の披露宴なんかに行っても"ずっとこの二人で仲睦まじくいたい"なんて思う。幸福とは”継続”や”持続”という概念と相性がいい気がしています。その一方で、希望は、”変化”と相性がいいのだと思っています。”変えていくんだ”、”変わっていくんだ”、という思いとの相性がいいようです。」

 

 

困難な状況だから生まれる、未来への意志

 

ー”こうなったらいいな” 変化を起点にする「希望」

玄田「希望が変化と相性がいいことの、具体例を挙げてみましょう。私はたまに、まちづくりの取り組みに呼ばれ、住民の皆さんと地域のこれからについて一緒に考えたりします。まず"この地域で変わらずずっと守り続けていきたいものはなんでしょう?"と住民の皆さんに問います。すると、自然や伝統、人柄、文化・・なんて意見がたくさん出てきて、結構盛り上がります。次に"地域で変わっていったほうがいいものや変えたいものはなんでしょうか?"と聞いてみると、あまり盛り上がりません。今のままで満足という人もいれば、もう無理だよと諦めている人もいます。

 

"じゃあ、今、暮らしていて困っていることはないですか?"と聞くと、ポツポツと意見が出てくることがあります。さらに「困っていることに対して、ちょっとでも変わるといいなってことはありませんか?」と促すと、もっと意見が出てきたり。「その困っている状態から、ほんのちょっと困らなくなる状況をつくるために、みんなで何かやりましょう」と考えていくことができます。つまり、なにか困っている状態から希望が生まれるのではないかなと私は思っているんです。

 

もう一つ、”夢”と希望の関係も考えてみましょう。この2つはな何がちがうのでしょう?まず夜に見る夢は、潜在的な無意識なものが出てくると言われます。また、会社の社長さんやアスリートの皆さんは、メッセージとして”夢を持つ”ことの大切さについてよく発信をしています。夢は、ある意味では理由なく湯水のように湧き上がってくる、エネルギーのような特徴も持つのだと思います。希望はちょっと違うんです。」

 

ー「希望」と「水俣」の関係

玄田「さらに希望について考えを深めていくために、以前、明治から大正以降、新聞記事などでの”希望”という言葉の使われ方を調べてもらったことがあります。そのとき、希望と一緒に一番使われていた言葉で多かった一つが“水俣”だったことを知りました。水俣は、公害被害で絶望的な状況を経験してきた地域です。そこでこそ”希望”という言葉がよく使われていたようなんです。

 

どうやら希望の背景にあるのは、多くの場合、試練とか困難、挫折といった状況のようなのです。言い換えれば、苦しみを乗り越えようとすることが、希望なんじゃないでしょうか?私は、希望とは夢のように無意識に持つものではなく、意識的に持つものだと思っています。今が苦しいからこそ未来を見出したい。今日の苦しさを明日はほんの少しでも和らげたい。そんな未来への意志をあらわす言葉が、希望なのだと考えています。なので私は、東北だからこそ、福島だからこそ、見出せる希望が必ずあると思っています。」

 

ー多くの困難を乗り越えてきた釜石という場所

玄田「釜石は、明治の津波でも、昭和の大津波でも大変な被害を受けましたし、終戦の直前に艦砲射撃を受けたことで、多くの人が亡くなられています。2006年から釜石に関わった理由は、困難や試練を受けてきてもなお希望を紡いできた釜石から、希望をつくることについて学びたいと思ったからです。ですが、はじめから地域の方々に受け入れられてきたわけではありません。”東大さん”と呼ばれたりして距離もありましたし、”俺たちの街に希望がないとでもいうのか?”と言われたり。結構風当たりは強かったんですね。ですが、いろいろとじっくり地域の方々と話しているうち、ある方からこんなことを言われました。

 

“希望なんてものは考えたこともないし、わからん。だが自分の経験から一つだけ言えることがある。「希望に棚からぼたもちはない」ということだ。今、希望が与えられないとか、誰も希望を与えてくれないとかいう人がいると聞くが自分には信じられない。希望なんて、あるとすれば、動いて、もがいて、ぶち当たるものだ。それが希望じゃないか?”

 

私は、非常に非常に、この言葉に胸を打たれたことを覚えています。それから、未来の意志や希望とは、心持ちだけじゃなく行動や試行錯誤が伴わないといけないのではないかと、考えるようになりました。意志と同時に行動すること、試行錯誤をすること。これがとても大切なのではないかということです。」

 

「行動」がカギとなる、希望の4つの柱とは?

 

 

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ー動いて、もがいて、ぶち当たる。

玄田「たまに中高生のみなさんにも希望学についての講座を持ちます。その時はよく、希望の四つの柱について話します。柱の一つは”wish”。まず強い気持ちを持つこと。だけどそれだけじゃなく、”something”も大事。つまり具体的な「何か」に思いを込めること。いろんなやりたいことはあるけれど、これだけはなんとかしたい!ということに思いを込めることが大事なのだと。さらに、”come true“という実現の可能性を諦めないことも重要です。まずはこれら3つの柱、つまり”Hope is a Wish for  Something to Come ture”が大切だという話をします。

 

でも3つだけでは何かが足りない。四つの柱のうち、最後の一つは、by action!希望には、必ず行動が伴うものなんだということ。だから”Hope is a Wish for Something to Come ture by Action!”なんだと。希望をつくるには、動いて、もがいて、ぶち当たることが必要なのだということを伝えています。」

 

ーどうしたら希望を持ち続けられるか?

玄田「”絆”という言葉が震災後よく使われるようになりましたね。英語に訳すと、bondがまずでてきますが、tieを絆と訳すこともあるそうです。このtieには、社会学では、2つの意味があるらしいんです。

 

1つは”ストロングタイズ”です。直訳で、強い絆です。この言葉のイメージは、いつも一緒にいて結束してスクラムを組んで、日々頻繁に話し合って、ずっと一緒に頑張る・・というようなもの。例えば幼馴染で地域のために頑張ってるとか、机並べて一緒に頑張っている、とか。

 

もう1つは、”ウィークタイズ”です。弱い絆、ゆるやかな絆と訳されています。この関係の場合は、会う頻度も必ずも多いわけではなく、そんなにいつも一緒にはいられません。比較的遠い世界にいる同士ですので、それぞれの失敗・成功などの体験も違うし、そもそもやってることも違っていたりします。お互いに一定の距離があるけれど、それでも信頼でつながっている関係のことが、緩やかな絆です。たまにしか会わない関係だけど、だからこそ信頼しいろんなことを率直に話し合えるという関係ともいえます。背景も共有体験も違うので、たまには話が合わないこともあるでしょう。でも、諦めないでゆるやかな関係を続けていくと、ふとした時に”なるほど!”という新しいひらめきの生まれる瞬間があるものです。ゆるい関係性だからこそ、まったく新しい気づきが訪れるときがあるんです。

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そこから"よしやるぞ"という希望を見出せる。日本は地縁や血縁、会社の縁といった文化が強いので、”ストロングタイズ”の絆のイメージが先行しますが、希望をつくるためには、同時にゆるやかな絆であり、新しい発見を得られるウィークタイズも持つことも大事なのです。実際に、震災の後の釜石の人からも、やっぱりこの2つが大事だね、と言われました。絆という何気なく使っている言葉の中にもヒントがあるのかもしれません。」

 

 

“人口減少”という課題をどう捉えるか?

 

ー地域全体に希望が生まれる、「希望活動人口」の可能性

玄田「地域にとって、人口減少が一つの大きな課題と言われています。でも単に課題なのか?とも思うんです。住民の人口数も大事ですが、"希望活動人口"という捉え方もあるんじゃないかと考えています。地域には、これだけはやろう!と思い行動をしている人がいます。これからは、なにかしら地域に希望を持ち、かつそのために行動している人たちの希望活動人口も大事なんじゃないかと思います。

 

5万人の街で、希望を持って活動している人が1000人だけだったとします。仮に、のちにその地域の人口が減少して2万人の街になってしまったとしても、反対に希望活動人口の5000人に増えたとすれば、地域としては案外生き残っていけるんじゃないかと思うんです。全体の住民の数も大事ですが、地域でどれだけの人が希望を持って活動しているのか?という視点も同時に持ってほしいと思います。直観ですが、福島では、震災後に希望活動人口は増えているような気がします。」

 

 

ユーモアの力

 

 

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ー希望を持ち続けるために

玄田「とはいえ、世の中には様々な困難なことが待ち受けていますね。そんな中、ずっと希望を持ち続けるためには、ユーモアってものすごく重要なのではないかと思います。以前ある歌手も「どうしようもない絶望的な状況でできることの唯一のことがユーモア」と言っていました。

 

『新明解国語辞典』(三省堂書店)では、ユーモアを"社会生活(人間関係)における不要な緊迫を和らげるのに役に立つ、婉曲表現によるおかしみ"と書いてあります。日々の暮らしで不要な緊迫が高まることはあっても、和らげることってなかなかないですよね。だから婉曲して回り道したっていいじゃないか、おかしみがあってもいいじゃないかという姿勢、すごく好きです。希望を維持していくためには、ユーモアを忘れずにやっていこうよ、という姿勢も大事じゃないかなと思います。」

玄田先生の力強い希望学についてのお話のあとは、未来意志を持って地域社会を変えていくパネルディスカッションが始まります。こちらの模様も後編のレポートでお伝えする予定。お楽しみに!

 

社会課題解決中マップ」で紹介している、未来意志を持つ国内外の様々なアクションもぜひご覧ください。

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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