コロナ禍を経て、企業の副業・兼業解禁の流れは加速しているようです。
経団連の調査では、2022年時点で回答企業の約7割が、社員の副業・兼業を「認めている」または「認める予定」と答えました。労働者数5000人以上の企業では、「認めている」または「認める予定」の合計は8割を超えています。(経団連タイムス)
また、社会課題解決に関わる副業・プロボノ等のマッチングサイトの登録者数は、2020年の1年間で3倍以上に増加したというデータもあります。
副業の目的は人それぞれですが、本業では挑戦できない新しい知識やスキルを得たり、実践の場として副業や副業型プログラムに参加するという選択肢があります。
今回は、会社員として働きながら、起業をめざして副業にも取り組む嘉正空知(かしょう・そらち)さんの事例をご紹介します。
嘉正さんは現在、クラウドファンディングなどを手がける企業で働きながら、副業で複数の企業にも関わっています。
嘉正 空知(かしょう・そらち)さん
筑波大学大学院スポーツ国際開発学共同専攻修士課程修了後、新卒でスポーツイベントを運営する企業に就職。国内外のイベント事業に携わる。コロナ禍でコンサル業界に転職し、コンサルティングの基礎を習得。2022年10月よりクラウドファンディングを運営する企業に転職時、新規事業でアライアンスの責任者を務める。現在は復業で5社のマーケティングを支援しながら、社会人博士課程に在学。
コロナ禍でスポーツイベントは激減。増えたプライベート時間で先輩と起業を志すが断念。
嘉正さんが起業を意識し始めたのは2020年のことでした。
その前年にスポーツイベントの企画・運営をする大手広告代理店の子会社に新卒入社した嘉正さんは、2020年春のコロナ禍の自宅待機期間中、ボランティア活動で知り合った先輩の起業に誘われ、事業を手伝いました。当時のことを嘉正さんはこう話します。
「忙しかったイベントの仕事がなくなり、とにかく物足りない時期でした。先輩に誘われて、本業以外でも何か出来るんじゃないかと思ったんです。スポーツイベントはスポンサーの影響力が大きいので、本業に生かせる営業の視点も学べると思いました」
しかし先輩の事業は、開発と軌道修正を7回ほど繰り返すもサービス開始には至らず、事業継続を断念しました。
その後、嘉正さんは、もとの会社には戻らずに転職します。最初のキャリアチェンジは、いずれ起業するために必要なスキルを得るための選択でした。
「先輩の起業に誘われて、大変だったけど面白かったんです。経営の参考にたくさんの経営者の話を聞きました。何かを決めるときに自分で判断できる方が、文句を言いながら仕事をするより良いと思いました。先輩は知らない世界を見せてくれた恩人です」
自分に足りないものを身につける。起業の修行としての転職
嘉正さんが選んだのは、社員20名以下の中小企業向けコンサルティング会社でした。転職の目的は、起業に向けた修行。その時の心境を嘉正さんはこう語ります。
「経歴に空白ができるのは中途半端なキャリアになりそうで嫌でした。そこで、転職して自分を高めたいと思いました。
会社を選ぶ決め手は、収入でも知名度や事業規模でもありませんでした。大手企業に入ると、退職後も元〇〇の人と企業名で呼ばれます。企業の名前では評価されたくなかったので、有名ではない会社でチャレンジしたいと思いました。今思えば尖ってましたね。一緒に働く仲間が面白そうだったのもありました」
人材紹介、新規事業の立ち上げ、営業、キャリアコンサル、組織・人事戦略の策定など、中小企業の経営強化コンサルティングを現場で学びました。
嘉正さんに、自身の起業の方向性が見えてきたのがこの頃です。
高齢者の健康をビジネスで支援したい
「コロナ禍で、祖父母が倒れたんです。二人とも以前していた運動ができなくなったことが発症の一因になったのではないかと思いました。
大学時代にやっていた地域の高齢者向け体操教室では、元気に体操をする高齢者の姿にやりがいを感じていました。それを思い出して、高齢者の健康支援を事業にしたいと思いました。
人生を謳歌する幸せな高齢者を増やしたい。それは世の中にもっとお金が回ることにも繋がります。高齢者による自身の生きがいのための消費により、若者にもお金が循環していく。そのような経済循環を、社会制度だけに任せず、ビジネスとしてやっていきたいと思ったんです」
その頃、嘉正さんの転職先の職場では、同期の退職も相次ぎ、嘉正さんの2度目のキャリアチェンジ、退職と独立への決意が固まりました。
意を決してフリーランスに。キャリアの空白を中途半端だと思うことはもうなかった。
独立してフリーランスとして活動を始めた嘉正さんは、茨城県内の企業で副業的に働きながら、関係人口として茨城に関わる7ヶ月間のプログラム「iBARAKICK(イバラキック)」を知ります。友人がプログラムを見つけて教えてくれたのがきっかけでした。
大学時代を過ごしたつくば市の隣の土浦市で、外国人の人材紹介や採用支援を行う株式会社ENONが受け入れ先のプロジェクト、「外国人材を採用する企業のためのマーケティングや情報発信業務」にエントリーします。
「当時は独立したばかりで、コンサルティング会社での経験を生かして新しい仕事を探していました。大学時代は学内の留学生サポートをしていたこともあり、仕事のイメージが沸きました。
担当した業務は、企業における外国人採用のメリットの可視化です。ENONを通じて企業に就職した方、インターンをした方、外国人を採用した企業経営者にインタビューをして記事を書きました。
また、クラウドファンディングも立ち上げました。台湾の大学生が、日本でのインターン期間に日本文化を体験し、日本の魅力を感じていただくプロジェクトです。
業務以外でも、土浦での花火大会に合わせて交流イベントを行いました。iBARAKICKの参加者に声をかけ土浦に遊びに来てもらいました。
ENONの落合さんや長光さん、スタッフの皆さんが家族のように接してくださって、本当に良いご縁をいただいたと思います」
嘉正さんを受け入れた企業側の視点として、ENON代表取締役CEOの落合秀樹さんはこう話します。
「地元の新聞記事で知り、受け入れ先に立候補しました。人材紹介業をしているので副業人材活用に関心がありましたし、茨城を盛り上げたいと思っていました。
嘉正さんを採用したのは、オンライン面接での対人コミュニケーションに長けていた点と、筑波大卒で茨城に愛着をもってくれている点からです。嘉正さんにはアドバイザーという肩書きの名刺と、事務所に専用机を用意しました。実際にお会いして、やはり対人コミュニケーションが強みだと思いましたので、取引先企業や外国人人材との仕事が向いていると思い、業務内容を調整しました。インタビューでは、日本語が流暢に話せない外国人の方のペースに合わせて話を聞いていたのが印象に残っています」
落合さんは、初めて人材を受け入れてみて、気づきや学びがたくさんあったと振り返ります。
「ENONを選んでくれた嘉正さんの活躍の場を用意したいと思いました。活躍していただくためには、人材の方がやりたいプロジェクトを設計する必要があります。経営者側が柔軟に対応できるかどうかが大事ですね。人材の方に愛着をもって仕事をしてもらえたら、回り回って自分のビジネスにも返ってくると思っています。花火大会に嘉正さんの呼びかけで来てくれた他の企業の副業人材の方を通じて、県内の他地域の企業との繋がりもできました。これまで出会うことがなかった異業種の経営者仲間ができたことも大きな価値です。今後も副業人材の活用は続けていきたいと思います」
さらに経験を積みたい。3回目のキャリアチェンジ
嘉正さんは、iBARAKICKに参加した当初はフリーランスとして複数の仕事をしながら、月に数回ENONのある土浦に行き、母校の筑波大の先生にも会いに行きました。先生からは、大学院で研究しながら事業開発する方法を聞き、大学院進学も視野に入ってきました。そして、ビジネスの利用者として想定する高齢者に関わる仕事で経験を積みたいと、3回目のキャリアチェンジに進みます。
それが現在勤務するクラウドファンディング会社の遺贈寄付担当の仕事でした。副業が可能で、フルリモート・フルフレックス勤務も可能なことが決め手となりました。
自分に必要な知識やスキルを得るため、躊躇なく自身のキャリアを進める秘訣を嘉正さんに聞いてみました。
「最初の転職の時は、自分が出来ることが客観的に見えていませんでした。スポーツイベントしか知らなかったので、コンサルとして働き始めた時は悩みました。社会人経験はありましたが浅かった。深掘りができない。相手のために何をすべきかという視座の高さと広さを叩き込まれました。2社目の社長から“知っていることと、やっていることと、できることは違う”と言われたんです。本を読めば知識は得られますが、やってなければできるとは言えません。できないなりに形にするには胆力が必要で、仕事としてやり遂げるしかない。場数を踏むために、いろんな経営者と関わって、伴走支援して、修行する。それは今も続いています」
取材を終えて
自分の意志で判断する働き方。嘉正さんが起業を意識した頃に理想としていた状態を、本業・副業に関わらず実践し、柔軟にキャリアを積み重ねていく姿勢が印象に残りました。大学院にも合格され、この春から茨城県民になるそうです。
ENONの落合さんは、経営者として、嘉正さんが活躍できる場をつくるために、早い判断をされていました。
お二人とも、iBARAKICKを通して、人脈を広げ、茨城により愛着をもって仕事を楽しんでいる様子も伺え、副業型のプログラムによって茨城県内の事業者や人材の生態系が豊かになっていくような感覚をもちました。
ライフスタイルや肩書き、働き方に関わらず、自分の意志を大事にすることは、心豊かに生きるためのヒントになりそうです。
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