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社会起業の組織タイプを測るフレームワーク:「不幸な協働」を防ぐために 【連載:「ビジネス×ソーシャル」の協働 第3回】

2019.06.10 

ここ数年、「ソーシャル×ビジネス」の協働は、ますます身近なものになってきています。しかしその反面、企業と社会起業家の接点が増えることで、お互いの相性が合わないにもかかわらず協働に着手してしまい、大きな成果も出ずに貴重な時間を浪費してしまうケースが少なくありません。

なぜ、このような「不幸なマッチング」が起こってしまうのか?その理由の1つに、ソーシャルセクターの多様性が、企業にも、そして社会起業家自身にも理解されていないことがあります。本稿では、ソーシャル×企業の協働にありがちな「不幸なマッチング」のパターンを考え、それを乗り越えるために、社会起業の組織タイプを見極める方法をご紹介します。

>>連載第1回:ビジネスセクターからの「越境人材」が、社会起業を盛り上げる

>>連載第2回: 大切なのは、「自分らしくあること」。社会課題を解決するためになぜ「オーセンティック・リーダーシップ」が重要なのか?

1.ソーシャル×ビジネスの協働によくある“失敗”パターン

そもそも、ソーシャル×ビジネスの協働の”失敗”とは何でしょうか?協働が始まる時、その取り組みの新しさから、メディアやSNS等で取り上げられることは少なくありません。ただ、取り組みが始まるものの、最終的にそこから何が生まれたのか報告されない、ということはよくあります。その場合、本人たちからは”失敗”というコトバは出ず、むしろ「協働の実績」として語られることもあります。このようなケースは「外部からの注目を得る」という意味では一部価値はあるかもしれませんが、当初目指していた成果は生まれておらず、改善の余地があるといえます。本稿では、このようなケースを指して“失敗”というコトバを用いています。

そして、筆者の知る限りでは、そのような”失敗”パターンは、3つがあります。

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“失敗”パターン①:社会起業家が企業の「下請け」になってしまう

1つめは、社会起業家が企業の要求に応え過ぎるというパターンです。社会起業家にとって、潤沢なリソースを持つ企業との協働は魅力に映るもの。ただし、あくまでもソーシャル×ビジネスの協働は両者が対等な立場であることが重要です。社会起業家が「企業と関係を持つことが優先」というスタンスでいると、企業からの要求に何でも答える「下請け」状態となり、結果、目指す成果が出ないまま疲弊してしまう、ということがよくあります。

 

“失敗”パターン②:企業のニーズに社会起業家が向き合えない

逆に、社会起業家が全く企業のニーズに向き合えないというパターンもあります。この場合、社会起業家が自身の方針を頑なに優先させようとするあまり、企業とのコミュニケーションが上手くいかず、協働をしようとした企業と活動を進めることができなくなってしまう、ということがよく発生しています。

 

“失敗”パターン③:取り組みの「スピード感」に齟齬がある

3つめは、スピード感の違いです。一般的に社会起業家は、成果に向かって柔軟に素早く行動するスタイルが多いといえます。一方、企業の中には、慎重に検討した上できちんと意思決定するというスタイルも珍しくありません。この時、素早く成果を出したい社会起業家と、リスクを検討したい企業との間に齟齬が生じ、お互いにストレスになる、というケースが見受けられます。

このような失敗を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。本稿では、その方法の1つとして、社会起業家の組織タイプを診断する方法を紹介します。

企業側から見て、協働先である社会起業家はどんな組織なのか。また、社会起業家自身、自分たちの組織はどんなタイプと理解しているのか。この点をクリアにすることで、社会起業家と企業の相性を見極めることができるようになります。

2.社会起業の組織タイプを測るフレームワーク

一口にソーシャルセクターといっても、その中で活動する組織は法人格や事業規模、活動形態など様々にあります。ソーシャル×企業の協働を考えた時、どのような視点でソーシャルセクターの組織タイプを分けることが有益でしょうか?

この点について、ベルギー リエージュ大学のジャック・ドゥフルニ教授とルーヴァン・カトリック大学のマルセー・ニッセン教授は、ソーシャルセクターの組織タイプを4つのポイントから診断するフレームワークを提唱しています。(Defourny, Nyssens (2017))

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このフレームワークの概要は以下の通りです(詳細は末尾の【付録】に記載)

①社会的な革新性(Social innovativeness)は、社会的にインパクトを出すために新しい方法やアイディアを考える度合を測る視点です。

②社会的なリスクテイキング(Social risk-taking)は、社会的な目的を達成するために、リスクを取ったり、大胆なアクションを取ったりする度合を測る視点です。

③社会的な積極性(Social proactiveness)は、他者よりも先んじて社会課題に取り組み、主導的な存在でいようとする度合を測る視点です。

④社会性(Socialness)は、社会的なミッションについて高い目標を掲げ、その目標の実現を利益よりも優先する度合を測る視点です。

 

この4つポイントについて、それぞれの質問項目(巻末に記載)に対して、4段階でスコアをつけてみてください。このスコアが高い組織ほど、積極的に活動を拡大していく志向が強いといえます。逆に、スコアが低い組織は、広く社会にインパクトを出すことよりも草の根の活動を続ける志向であるといえます。このフレームワークを通じて、自分たちの組織が、社会に広く大きなインパクトを起こすことを目指すタイプなのか、それとも、地域に根差しながら草の根型に活動を継続するタイプなのか、を測ることができます。

ちなみに、筆者の知る限りでは、このスコアが高く、積極的に活動を拡大していく志向の組織は、先に紹介した「“失敗”パターン②:企業のニーズに社会起業家が向き合えない」や、「”失敗”パターン③:取り組みの「スピード感」に齟齬がある」に当てはまりやすいと感じます。スピード感を持って、組織の成長を目指すあまり、企業との足並みが揃わずなかなか協働が上手くいかないという例が見られます。

一方、このスコアが低く、地域に根差した活動を志向する組織は、「”失敗”パターン①:企業の『下請け』になってしまう」になりやすいと感じます。協働先の企業を「スポンサー」として見てしまい、対等な関係性を作ることが難しくなっているというパターンがよく見られます。

留意が必要なのは、このスコアの高低は、組織の活動の良し悪しを測るものでないということです。このスコアから分かるのは、あくまでも「組織のタイプの違い」です。大切なのは、自分たちがどのようなタイプの組織なのかを知り、協働先としてどんな企業が合うのか、それを見極める検討材料とすることです。それこそが、企業との「不幸なマッチング」を防ぐのに重要といえます。

3.ソーシャル×企業の相性を考えるのは誰か?:これからの「中間支援組織」の役割

ここに紹介したような、ソーシャルベンチャーのタイプ診断は、もちろん社会起業家自身が自組織のタイプを理解するのにも有用です。ただ、筆者は、社会起業家に組織外部から関わる存在、いわゆる中間支援組織こそ、社会起業家を客観的な目で診断することが重要と考えます。

もともと中間支援組織とは、社会起業家やNPO等の組織を特定の分野(ITシステム、Webサイト、広報発信、財務、等)で支援することが活動の中心でした。しかし、ソーシャル×企業の協働が増え、ビジネスパーソンがソーシャルセクターに参画することが増えていく中では、新しい中間支援組織が求められていると考えられます。

具体的には、企業のニーズと社会起業家の双方の状況を把握し、お互いのニーズにあったマッチングをコーディネートする、まさにクロスセクターな役割を担う存在です。

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「ソーシャル×ビジネスの協働」と言っても、その形は多種多様です。だからこそ、ソーシャル・ビジネス両方の事情を理解した上で、双方にとって良い形をコーディネートできる存在が必要になってきます。筆者自身、このような立場で、ソーシャルと企業の両方の成長に取り組んできた中で、この役割がますます求められていることを肌で感じます。

企業×ソーシャルの「不幸な協働」が減り、お互いにとって価値のある協働を実現する。今回ご紹介したフレームワークは、そのための1つのツールでした。これをきっかけに、「企業×ソーシャルの良い形は何か」というポイントについて、社会起業家・企業・中間支援組織のそれぞれが考えるきっかけになればと思います。

 

次回は「コレクティブインパクト」を軸に、社会課題を解決するためのイノベーションが起きるプロセスについて考えていく予定です。

 

【付録:ソーシャルセクターの組織タイプ診断方法】

以下の項目について、1(全く当てはまらない)、2(当てはまらない)、3(当てはまる)、4(とても当てはまる)の4段階で回答したスコアを合計する。

(組織のメンバーの回答と、外部からの回答を比較する方法も良い)

① 社会的な革新性

(1)ソーシャルイノベーションは、自組織において重要である

(2)社会的なインパクトを増やすこと、また受益者により役立つための新しい方法を発展させることに大きく投資している

(3)自組織では、社会課題を解決するための新しいアイディアがとても頻繁に生まれている

 

②社会的なリスクテイキング

(1)社会的な目的を果たそうとする際、相当なリスクをとることもいとわない

(2)自組織の社会的なミッションを実現するためには、大胆なアクションが必要である

(3)もし社会的な機会が失われてしまうなら、慎重な行動の仕方を避ける

 

③社会的な積極性

(1)我々は、世界をより良い場にする最前線にいることを目指す

(2)自組織は、社会的なミッションに取り組むことにおいて、他よりも先んじている傾向が強くある

(3)自組織は、他の社会起業家がまねるような行動をよく始める

 

④社会性

(1)我々の社会的なミッションを達成するための目標は、利益を生み出す目標よりも先んじる

(2)自組織は、社会的なミッションをより大きく、加速的に実現するために、他組織や政府とのパートナーシップをとても重視している

(3)我々は持続可能性の観点で野心的な目標を自分たちに課し、それを全ての戦略的な意思決定に組み込んでいる

 

【参考文献】

・Jacques Defourny, Marthe Nyssens (2017) Fundamentals for an International Typology of Social Enterprise Models. International Society for Third Sector Reserch,28:2469-2497

・Sascha Kraus, Thomas Niemand, Jantje Halberstadt, Pasi Syrjä (2017) Social entrepreneurship orientation: development of a measurement scale.

 

【連載「ビジネス×ソーシャル」の協働】

 >>連載第1回:ビジネスセクターからの「越境人材」が、社会起業を盛り上げる

>>連載第2回: 大切なのは、「自分らしくあること」。社会課題を解決するためになぜ「オーセンティック・リーダーシップ」が重要なのか?

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松井孝憲

一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了。株式会社シグマクシスにて、新規事業立案、人事・人材開発プロジェクト等に従事。並行して2011年にNPO法人二枚目の名刺に参画、2015-16年常務理事として活動。社会人とNPOが協働し、社会課題解決に取り組む「NPOサポートプロジェクト」を運営。本取り組みを企業向けの人材開発プログラムとして立ち上げる。大学との共同研究を通じた副(複)業・パラレルキャリア・越境学習の実証研究も実施。現在、グロービス ファカルティ本部 研究員/(財)KIBOW インベストメント・プロフェッショナルとして、研究・コンテンツ開発に取り組むのと合わせて、社会インパクト投資にも従事する。

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