7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。気仙沼市内でのフィールドワークや分科会、さらに若手起業家等によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。
本稿では、「人口減少社会を前提とした幸福な働き方、生き方、地域づくり」をテーマとしたピッチの内容を3回に分けてレポートします。3回目の今回は、宮城県気仙沼市で小中高生の探究的な学びを支援する側と、支援される側である高校生の声をそれぞれお届け。「地域をフィールドに学ぶ」上での体制づくりや課題について考えます。
産官学が協働し、地域に開かれた学びを実践。三方よしの「いい学び」とは?
三浦亜美(みうらあみ)さん /一般社団法人まるオフィス 学び企画コーディネーター
1995年生まれ。宮城県気仙沼市出身。中学3年生の時に東日本大震災で被災し、ボランティアとの出会いをきっかけに高校生団体を立ち上げてまちづくりの活動を始める。高校卒業後は大学進学と就職のため気仙沼を離れ、2021年に気仙沼へUターン。「地域の課題を学びに変える」をミッションに、小中高生の探究的な学びを支援している。現在は気仙沼市が立ち上げた「気仙沼学びの産官学コンソーシアム」のコーディネーターとして、まち全体での学びの支援にも取り組んでいる。
私は気仙沼市の出身で、中学3年生の時に東日本大震災を経験しました。高校卒業後に地元を離れたんですが、2021年にUターンして、一般社団法人まるオフィスで教育の仕事をしています。
今日みなさんと一緒に考えてみたいテーマは、「みなさんにとって、一人一人地域に開かれた学びってどういうものだと思いますか? “いい学び”とはなんだと思いますか? 」です。
私は今、地元の課題を学びに変えるということをミッションに、小中高生の探究的な学びのサポートをしています。一人一人が答えのない問いと向き合い、アクションを起こしていくという学習スタイルです。
具体的にはコーディネーターとして学校に入り、探究学習のサポートをしています。授業に入って伴走するのはもちろん、有志の生徒達に対してクラブ活動のような形で、放課後に活動をサポートすることもあります。
円になって自分達の問いを深めるようなワークをしたり、個別で相談に乗ったり、生徒と近い距離感で探究的な学びをサポートをしています。
昨年度は高校生の学びを支えるために、気仙沼市が地元の企業や高校と連携して「気仙沼学びの産官学コンソーシアム」を立ち上げました。これを受けて、高校でも探究学習への伴走がスタート。高校生が地元の経営者やスペシャリストから学び、そこからの気付きを基に思いっきり探究できる環境を整えるべく、公営塾「探究学習塾ナミカゼ」が設立されるなど、高校生のチャレンジを応援する場が生まれています。
このような枠組みの下、気仙沼の高校生と経営者が一緒に東京の展示会に行き、未来の社会に触れて視座を高めるという取り組みや、高校生による市内企業へのインターンシップ事業等が展開されています。
インターンシップには、今年は13社が参加しており、高校生にやってほしいことをミッションとして掲げ、報酬も用意して受け入れていただいています。高校生からの参加申込も多く、人気のプログラムとなっています。
こういった取り組みを進める中で、昨年私は1人の女の子に出会いました。彼女は持病があり、学校を休みがちでした。学校を休むと授業が遅れてしまい、テストでもいい点数が取れません。そんな状況もあり、学校が苦しいという女の子がたまたま探究学習塾に参加してくれたんです。
彼女は、障害や病気がある人に対する理解がもっと広がる社会になってほしいとプロジェクトを始め、地域のプレゼンテーション大会で共感賞を受賞しました。その時、彼女は初めて自分と同じようなことで他の誰かも悩んでいることや、自分の願いを応援してくれる人がいるということに気付いたんです。
それから彼女は、東京でのスマートエネルギーの展示会に参加し、そこでも新しくいろいろなことを学びました。今年度は気仙沼で障害や病気を抱える人達も巻き込みながら、エネルギー分野で新しいチャレンジをしたいということで、テーマを変えて活動中です。今年の夏に行われるインターンシップでは、気仙沼市内のエネルギーの会社で学びを深めたいと、プログラムにも申し込んでくれています。
一人一人地域に開かれた学びというのは、まさにこういうことではないでしょうか。学校だけではなく、地域の中でも自然と学んで行動できるような環境にしていきたいと強く思っています。
とは言え、企業のみなさんにとって地域の中高生の学びを支えるメリットや、産学官それぞれの「いい学び」とは何なのか、私自身もまだまだうまく説明できないところはありますので、そういった部分に対してもぜひみなさんのお声を聞かせていただきたいなと思っています。
地方の若者が輝ける場をつくりたい! 気仙沼の高校生のまちづくりへの挑戦
遠藤光大(えんどうこうだい)さん/宮城県立気仙沼高等学校3年生・気仙沼若者団体「IAC」代表
2005年生まれ。宮城県気仙沼市出身。東日本大震災後の大規模な復興工事が毎日続くまちで育ち、小学生の頃に都市計画などといったハード面のまちづくりに興味を持つようになる。2021年に若者団体IACを設立し、現在は気仙沼、仙台で活動している。どのようにしたら中高生の思いがより地域に反映されやすくなるか、という問いを持ちながら、様々な地域を飛び回り、絶賛勉強中。
気仙沼で若者団体「IAC」をやっている遠藤光大です。活動の紹介をさせていただきたくて、飛び入りで参加しました。
僕の家は幼稚園の頃に東日本大震災で被災しました。震災前に家族が経営していた店も更地になってしまいました。震災のショックで小学校に上がるくらいまでは海にも入れなくなり、いろいろなお店があった場所が何もなくなってしまったのが辛くて、まちの景色も見たくないと思っていました。
ですがまちが復興していくにつれてまちづくりに興味をもち始め、小学校5年生頃にはまちづくり関連のワークショップ等に行くようになりました。
そして中学3年生の探究学習では、個人でPR動画制作などの地域活動を行いました。そのときに感じたのが、同世代でまちづくり活動をしている人がいないということです。
高校では一緒に活動できる仲間がほしくて、探究学習が活発だと言われる学校に進学しましたが、実際に入学してみると思っていたのと違ったんです。
僕はそんな現状を変えて、世代や地域は関係なくチャレンジできる場を作っていきたいと思っています。そこで、若者の面白いIdea、Action、Communicationが集う場所を作りたいという思いを込めて、「IAC」という若者団体を立ち上げました。気仙沼エリアでは高校生を中心に、大学生や社会人も含めて16人のメンバーがいます。
IACはメンバー同士がサポートしあって、若者の「やってみたい!」を実現する団体です。例えば、高校生だけでスケートボードの屋外イベントを企画・開催したり、普段高校生がいない南気仙沼地区で生活ガイドブックを作成したりといったプロジェクトに取り組んでいます。他にも1ヵ月に1回程度、オンラインで他の地域や市内の他世代との関わり作りを行っています。現在は東北地方を中心に、全国各地30弱の地域とつながりがあります。
こういう活動をしていると、「高校生なのにすごいね」とか、「高校生だからしょうがないよ」って言われることも多いんですが、そのどちらにも「おいおい!違うだろ!」と思ってしまう自分がいます。
僕は高校生がまちづくりに参加したり、年齢を越えて遊んだり、当たり前に大人と高校生が楽しく関われる仕組みを作りたいです。そうすることで、やりたいことに挑戦できる環境が当たり前になって、若者が新しい「当たり前」を作れるようになるし、交流人口を増やす上では、こういったことが大前提にあるんじゃないかと思っています。
挑戦しづらいまちは絶対面白くないと思うんです。今は高校生が何かやろうと思うと結構難しくて、いくつもの壁がある。 そんな「壁」をどんどん壊していけたらと思っています。
今回のピッチは、ローカルベンチャーラボの受講生やOBOG、次世代を担う若手起業家や、ローカルベンチャー協議会の自治体が、今まさに課題を感じて取り組んでいることを紹介し、関心や同じ価値観をもつ参加者と交流することを目的に開催されました。
「人口減少社会を前提とした幸福な働き方、生き方、地域づくり」をテーマとしたピッチのレポートは以上です。次の記事では、「ローカルベンチャー×グローバル」。地域資源を活用したビジネスで世界に挑戦する起業家の声をお届けします。お楽しみに。
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<関連リンク>
>> ローカルリーダーズミーティング2023
https://initiative.localventures.jp/event/3142/
>> ローカルベンチャー協議会
https://initiative.localventures.jp/
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