7月8~9日の週末、宮城県気仙沼市で「ローカルリーダーズミーティング2023」(以下LLM2023)が開催されました。
ローカルベンチャー協議会が主催し、NPO法人ETIC.が事務局となったこのシンポジウムには、全国からローカルベンチャー(地域資源を活用した事業家)、自治体、中間支援組織、さらに首都圏の大企業などから約160名が参加。気仙沼市内でのフィールドワークや分科会、さらに若手起業家等によるピッチ(プレゼンテーション)などを通して有意義な意見交換・ネットワーキングを行いました。
本稿では、「人口減少社会を前提とした幸福な働き方、生き方、地域づくり」をテーマとした8人のピッチの内容を3本の記事でレポートします。大都市や大企業と比べると、地方や中小企業は賃金が安いことなど、女性や外国人が活躍する上でハードルが高いといった声も聞かれます。そういった地方の就労環境を巡る長年の課題に挑戦している、3名の取り組みをご紹介します。
外国人材の採用こそ、誰もが働きやすいダイバーシティー社会への近道!ローカル中小企業の労働環境に変化を
周謙(しゅうけん)さん / Glocal HR代表・ローカルベンチャーラボ6期生
台湾台中市出身。2018年転職をきっかけに来日し、仙台で暮らし始める。宮城県の中小企業で海外事業・人事・DXを担当しながら、自らの志でGlocal HR事業を発足させ、中小企業での外国人材活用定着伴走支援と東北におけるダイバーシティー&インクルージョンを推進。2022年には「東北ダイバーシティーI’m on it(多文化交流芋煮会)」を開催し、2023年は仙台青葉城ダイバーシティーツアーを主催。多文化共生について東北でより深いレイヤーでの会話やコミュニティ創成に注力している。自らの経験をもとに「仙台・日本でのキャリア創造」をテーマに大学のキャリア講座にも登壇。「誰でも働き甲斐のある社会づくり」を目指している。
私は台湾出身で、転職をきっかけに2018年に仙台にやって来ました。この5年間は宮城県の中小企業で海外事業や人事戦略等を担当している他、東北地方を中心にダイバーシティ&インクルージョンをテーマとしたイベントの開催や、起業支援にも携わっています。おそらく東北唯一の外国人人事だと思いますので、グローバルな目線から地方中小企業の競争力について、みなさんと考えていきたいと思います。
私は日本、特に私を見つけて成長の機会をくれた東北が大好きなんですが、世界から見るとどうでしょうか?
IMD(国際経営開発研究所)が発表している世界競争力ランキング2023によると、日本は35位と過去最低の順位になっています。アジア14カ国の中でも11位という結果です。
IMD世界競争力センター所長のアルトゥーロ・ブリス教授からも様々な課題が提示されていますが、地方ではこういった課題を他人事として捉えている自治体が多いのが現状です。
IIRC(国際統合報告評議会)が提唱する資本循環モデルの中で、最も大切なのは人的資本だと思います。つまり日本の競争力を高めるには、日本の全企業数のうち99.7%を占める中小企業の人的資本価値を向上させることが必要です。
そもそも中小企業は大企業と比べて大きな賃金格差があります。加えて男女格差もありますし、地域格差は年々広がる傾向にあります。こうした状況の中、地方の中小企業が人的資本の価値を向上させるために注力すべきなのは、いかに非金銭的な価値をアピールできるかだと考えています。
休暇やキャリアアップといった外発的な非金銭的報酬と、自己効力感や良好な関係性といった内発的な非金銭的報酬、双方が合わさって、財務諸表や求人票では表せない組織の魅力と財産を形作っています。ワークライフバランスや働きがいと言い換えるとわかりやすいでしょうか。
こういった視点から改めて見てみると、日本は働きやすい国だと言えるでしょうか?
世界レベルで働く環境を見てみましょう。こちらはOECDによるワークライフバランスのランキングです。イメージ通り上位はヨーロッパや北欧の国が占めています。一方の日本はワースト5位。日本全体にも言えることですが、競争力を高める上ではやはり地方の中小企業も働く環境の改善が必要です。
そこで私が進めていきたいのが外国人材の活用です。なぜならば、外国人材は最もわかりやすい「よそ者」とも言えます。外国人材と日本人の転職理由トップ5を比べてみましょう。前後しているものもありますが、どちらも報酬や休日等の労働条件や人間関係、将来への不安等似通った理由です。それなのにずっと改善できずにいるのはなぜでしょうか?
それは、現状に慣れきっていて改善が必要だということに気付いていないからです。
カマスの実験というものがあります。水槽にカマスと餌となる小魚を入れ、透明なガラス板で両者を仕切ります。カマスは餌を食べようとするとガラス板にぶつかってしまうので、何度も繰り返すうちに小魚に飛びつくのをやめてしまう。そして最終的にはガラス板を外しても小魚を食べようとしなくなるんです。この状況を打開する起死回生の一手は何だと思いますか?
それは、新しいカマスを入れることです。そうすると、新しいカマスはガラス板があったことを知らないので、小魚を捕まえて食べます。それを見て他のカマス達も再び小魚を食べられるようになるのです。
これと同じことが、今の日本には必要だと思います。新しいカマス、つまり外国人材から新たな視点を提供することで、地域の労働環境を変えていくんです。
まだまだ外国人材には、安価な労働力、コミュニケーションが難しい、定着しないといったマイナスイメージが残っていると思いますが、これから地域の企業にどんなタイプの人材を増やしていかなければいけないのか、そのためにどんな行動を取るべきか、考えるきっかけになれば幸いです。
私一人の活動では限界があります。まずはみなさんの組織や地域から、一緒にダイバーシティー&インクルージョンに関する会話とその可能性を広めていきましょう。
地方のママ達の働く環境を改善したい。テレワーク等を活用した気仙沼からの一歩
菅野奈津子(かんのなつこ) さん / 株式会社女性が働きやすい会社 代表取締役
1979年、気仙沼市生まれ。Uターン12年目。結婚→出産→離婚を経験。現在、小学3年生の女の子を育てるママ。ライフステージにより大きく職種や雇用形態を変えてきた体感から、地域で女性が働きやすい場づくりをしたいと思い、2022年9月に創業。現在、都市部企業と連携し、テレワークでIT関連の仕事を開始。子連れ出勤できる職場を準備中であり、地域で働き方の選択肢を増やすことを目指す。
私は「株式会社女性が働きやすい会社」を昨年9月に創業しました。なぜこの名前にしたかというと、あらゆる人が働きやすい会社にするために、まずは地方の女性を輝かせたいと考えたからです。私自身も含め、地方のシングルマザーの働き方には非常に疑問を感じています。周囲の声を聞いてみると、働くママ達の深刻な状況が浮かび上がってきました。
「なかなか働けないから1回仕事をやめて、どうしようか悩んでるんです」とか、「手取りが12~14万円で、借金しながら子ども3人育ててます」とか、「もっと働きたいけど副業禁止で困ってる」とか……。
気仙沼では驚いたときに「ばばばば!」って言うんですけど、まさに「ばばばば!」と言いたくなる状態です。これはおかしい、地方で世帯年収を上げるというのは本当に大事なことなんだと気付きました。
私は震災後の2012年頃から気仙沼でテレワークを始めて11年程になります。東京の企業からデザイン関連の仕事を中心に受けて、自宅の一室で働いているのですが、地方でこういった働き方を増やすことが改善につながるのではと始めたのが、「女性が働きやすい会社」です。
うちの会社で仕事を受注をし、現在は気仙沼市内在住のママ3名に仕事を割り振っています。受けた仕事は、最終的に会社として責任をもって納品するという形です。
仕事内容の一例としては、ソウルドアウト株式会社で、島根県雲南市でのWebマーケティング講座におけるメンタルサポーターとして、2ヶ月間、心を整えることや仕事と家庭の両立についてオンラインで相談を受けてきました。
「女性が働きやすい会社」の強みは、働きながらプロによるコーチングや金融トレーニングを受けられることだと思います。これまでの経験から、働く人のメンタル面を引き上げることによってスキルアップできると考えています。何にでも積極的にチャレンジできる人って、前向きなメンタルをもっているからですよね。それは地方在住の女性にも言えることなので、仕事で直接的に使うスキルに限らない分野を伸ばせることを最大の価値としています。
ただ、これをやるとなるとリソースが全く足りていません。そもそもの情報発信もできていませんし、できることよりもやるべきことを優先して始めてしまったので、いろいろなことがままならない状態が続いています。壁打ち相手等、一緒にやってくださる方がいたらありがたいなと思っています。
ママが主役で輝くと、子どもに浸透して笑顔が増えるんじゃないかと思ってやっています。先日私の娘の宝箱の中に「子どもと遊びやすい会社」と書かれたメモを見つけました。私は一切教えてないんですけど、何か肌で感じたものを残してくれてるのかな、と娘からのエールのように感じています。
輝いているママが地域に増えることが、好きと言える町につながるという思いで活動しています。「女性が働きやすい会社」を追求することは、女性が働きやすい「社会」を作ることだと思っているので、賛同してくださる方はぜひ応援よろしくお願いします。
地方で働く人の賃金を上げるには?労使の対立ではなく、「応援」が生む新しいやり方
田鹿倫基(たじかともき) さん /株式会社ことろど/九州地域間連携推進機構株式会社 代表取締役
1984年、京都生まれ滋賀育ちも宮崎県出身と言い張って早10年。大学卒業後リクルートに就職するも先輩と同期の優秀さにおののき退職を決意。その後中国の広告代理店で働くも、圧倒的グローバル競争環境に触れ退職を決意。その後紆余曲折あり2013年日南市マーケティング専門官として着任。15社のIT企業を誘致し170名の雇用を創出したり、20名以上の創業支援を行い約4億円の売上をつくったりして転出超過が続いていた日南市の人口動態を改善した。その後、色々あって現在は移住ドラフト会議という壮大なコントをやったり、ホステルをやったり、求人サイトを運営したり、派遣会社をやったり、noteを書いたりトライアスロンに出たり順調に迷走街道を突き進んでいる。
こちらは2020年の春闘の写真です。資本家・経営者側と労働者側が対立構造を作りながら、給料を上げろと主張しているのがこの春闘で、産業革命以降300年程の長きにわたって続いてきました。
我々の住む宮崎県日南市でも実に様々な仕事の方々と出会うんですが、どうしてもこの地域は賃金が低いという話が出てくるわけですね。一方である研究によれば、社会的価値の高さと給料は実は逆の相関があるんじゃないかと言われています。
たくさん社会に貢献しているからそれだけお金を稼いでいると言われることもありますが、実はそれは逆なんじゃないかということが、いくつかの研究で指摘されています。私が例に挙げた研究で言えば、例えば病院の清掃員が生み出す社会的価値は非常に高いのに、給料は低い。逆の例は挙げづらいのですが、給料は高いのに社会的価値となるとイマイチという仕事もあるということです。
この問題をどう解決するか考えているんですが、資本家と労働者とで対立するのではなく、資本主義システムの欠陥そのものと対決しなければならないと考えています。何をするかと言うと、春闘をちょっとバージョンアップさせたもので、来年の5月1日、労働者の祭典であるメーデーに、労使が協力して賃上げを行うという、300年間続いたこの対立構造を一新させるようなイベントをやりたいと考えています。
具体的には、社長が労働者の賃上げを応援するというものです。働く人が「私は今年こういう仕事をします。そのためにはこのくらいの給料が必要です」 というプレゼンを行い、それを社長が応援するという形をイメージしています。
場所は宮崎です。なぜ宮崎かというと、宮崎は最低賃金が日本で一番低いところだからです。これはいいなと、逆手に取ってやらせてもらうつもりです。
つきましては、このイベントを盛り上げてくれる仲間を募集しています。このイベントを一緒に運営したいという企業や、協賛金を出していただける企業、社長達の右腕候補としてこの春闘でやりたいことを発信してくれるプレイヤーの方々等、ご興味があるというちょっと変わった方がいらっしゃいましたら、ぜひ私までご連絡ください。
今回のピッチは、ローカルベンチャーラボの受講生やOBOG、次世代を担う若手起業家や、ローカルベンチャー協議会の自治体が、今まさに課題を感じて取り組んでいることを紹介し、関心や同じ価値観をもつ参加者と交流することを目的に開催されました。
登壇者の皆さんの熱気に、飛び入りでの登壇希望もありました。
ピッチのレポートは、次の記事に続きます。
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関連リンク
>> ローカルリーダーズミーティング2023
https://initiative.localventures.jp/event/3142/
>> ローカルベンチャー協議会
https://initiative.localventures.jp/
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