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「それいいね!やっちゃいなよ!一緒にやろう!」宮崎県日南市で移住者が「わたしも仕事つくれるかも」と思える理由

2018.04.06 

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地方には仕事がない。そんなイメージを持っていませんか?

 

実際に、都内に住む人の4割が移住に関心がある一方で、移住する上での不安・懸念点として、「働き口が見つからないこと」があるという回答が41.6%にのぼるという調査もあります。

(参考:「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」)

 

もしみなさんが、「地方に興味がある。でも仕事がない」と思っているとしたら、発想の転換をしてみるといいかもしれません。「仕事はどこかにある」ものである、という発想ではなく、「仕事はつくる」ものである、という発想に。

 

「そんなスキルも経験もないよ!」という声も聞こえてきそうです。偉そうに書いているわたしも実際、「仕事をつくるなんて、自分には難しいよな…」とちょっと思っていました。でも、宮崎県日南市で働く人を取材していると、「ここでなら、仕事がつくれるかもしれないな」と思えるようになったのです。

 

それは、どうしてなのか。今日はその理由をご紹介するので、すこしだけお付き合いください。

 

人との関係のなかで仕事が生まれていく

まずは実際に、日南市で自ら仕事をつくり出している2人をご紹介しましょう。

 

まず1人目は、2017年7月の結婚を機に日南市に移住してきた、渡邊茜さん。「atelier TOBILA」の屋号で、チョークアート、グラフィックデザイン、コピーライティングなど、さながら“地域のクリエイティブエージェンシー”のように、地域内のクリエイティブワークを担っています。ちなみに、旦那さんの渡邉 泰典さん(通称たいぴー)も日南市へのIターン者。茜さんも、午前は農業を手伝いながら、午後に自分の仕事をする…というライフスタイルを実践しているそうです。

 

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宮崎県内のカフェやオフィスでは、茜さんの可愛らしいチョークアートを目にすることができます。

宮崎県内のカフェやオフィスでは、茜さんの可愛らしいチョークアートを目にすることができます。

 

しかし、そんな茜さんも、日南市に移住した際は「ほぼ何をやるのかは決めずに来た」というから意外!

 

「もともと東京の広告代理店で、コピーライターやデザイナーとして働いていたのですが、突然いまの夫であるたいぴーから『結婚して日南に住もう!』とプロポーズされたんです。当時、お付き合いをしていた訳でもないのでびっくりして、どうしようか悩みました。でも、たいぴーの生き方を見ていて、『自分もお金や出世よりも、“生きること=働くこと”のような暮らしをしたいな』って思うようになったんです。そして、『自分にとって“つくること”が“生きること”につながるな』と。だから、それが実現できそうな日南市に移住することを決めました。なにをつくろうかは、それほど考えてませんでしたが(笑)」

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“つくる存在”になる。東京でコピーライターやデザイナーとして働いていた茜さんにとって、それはすでにできていたことなのでは? と思ってしまいます。でも茜さんは、日南でこそ“つくれている”実感があるのだとか。

 

「例えばチョークアートも、東京では描ける人はたくさんいるじゃないですか。カフェでチョークアートを描いたからといって、日常の風景の一部になってしまい、気に留めてもらえません。でも、日南で描くとこちらが驚くほどありがたがってもらえるんですよ。わざわざチョークアートを見るためにお店を訪れてくださる方もいて。だから、すごくやりがいを感じますね。」

 

チョークアートなどで茜さんのセンスやクリエイティブのスキルの評判が広まると、「この仕事もできない?」と相談が来るように。現在では、名刺やお店のチラシのデザイン、記事のライティングなど、さまざまな“つくる”仕事を担うようになったそうです。

 

茜さんの話を聞いていると、「自ら仕事をつくり出す」という言葉より、「人との関係の中で、仕事が生まれていく」という言葉の方が近いような印象を受けます。だから、初めは「これをやるんだ!」と決めていなくてもいい。地域という湖に、自分という石を「えいや」と投げ込んでみて、そこで生まれた波紋が仕事になる…。そんな、ある種の気軽さを持って飛び込んでみると、地域で生まれるご縁が自然と仕事になる可能性は広がりそうです。

 

求人広告を制作や、名刺のデザインなど、渡邊さんの仕事は多岐にわたります。

求人広告を制作や、名刺のデザインなど、渡邊さんの仕事は多岐にわたります。

 

東京で働くより、自分のブランディングにつながる

さて、2人目に紹介するのは、パーク・デザイン株式会社で代表取締役兼デザイナーを務める鬼束準三さんです。

 

鬼束さんは、大学院卒業後、東京のアトリエ系設計事務所で4年間勤務した後、日南市にUターン。油津商店街を活性化する「株式会社会社油津応援団」で商店街の設計・デザインスタッフとして多くの新規店舗やIT企業の内装デザインを担当してきました。そうした経験を経て、2017年に「パーク・デザイン株式会社」を起業。歴史的建造物を数多くのこす飫肥地域を始め、地域内外の設計・デザインに関わっています。

 

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鬼束さんが油津応援団に所属していた際に手がけた空間。上から上から、「fan! -ABURATSU- Sports Bar & HOSTEL 」、「in SEASON DESIGN&FOOD」「九州電力宮崎支社」。

鬼束さんが油津応援団に所属していた際に手がけた空間。上から上から、「fan! -ABURATSU- Sports Bar & HOSTEL 」、「in SEASON DESIGN&FOOD」「九州電力宮崎支社」。

茜さんの話を「うんうん」と頷きながら聞いていた鬼束さん。聞けば、Uターンを決めた理由の一つは、やはり仕事のやりがいだったそう。

 

東京での仕事って、“誰でもいいじゃん感”があるんですよね。僕が一生懸命店舗のデザインをして、自信を持ってオープンしたのに、思ったほど反響がなくて『あれっ?』って拍子抜けしてしまうことがあって。『これって、僕がやらなくてもいいよな』って思ってしまったんです。でももし、僕が生まれ育った日南で空間デザインができたら、手応えを得られるんじゃないか。そんな思いがあって、当時ちょうど日南市で油津商店街の活性化に乗り出していた木藤亮太さんに連絡をして、『一緒にやろう!』ということでUターンすることになったんです。」

 

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実際、日南での仕事のやりがいはどうなのか尋ねると、「茜さんも言っていましたが、作ったものに対して、愛着を持ってもらえる。すごくやりがいはありますよ。」と鬼束さんは即答。さらに日南市は、今まちづくりの先進地として全国から注目されているので、日南市で空間デザインを担っていることと、多くの方に自分の実績を知ってもらえるのだとか。

 

都市で大きい仕事をしたほうが、その領域のプロフェッショナルとして認知してもらえるようになる、と思いがちですが、地方への注目が高まっている現代では、日南のような地域で働くことこそ自分のブランディングにつながる。そのことを鬼束さんのキャリアは教えてくれます。

 

仕事をつくりたい人が東京にいるのは、現代の“都落ち”?

高度経済成長期には、農村から仕事を求めて都市に移住することが一般的でした。しかし現代では、茜さんや鬼束さんのように、都市で経験を積んだ人が日南市のような地方で働き始める例が増えています。

 

いったいそれは何故なのか。日南市で若者の雇用創出をはじめ、市全体のPR、マーケティング業務を担っている田鹿倫基さんに話を聞いてみました。

 

田鹿さんは、世の中には「東京でしか働けない人」と「日本中どこでも働ける人」がいるといいます。

 

「自分を評価して、“仕事をくれる”組織を探し回る人は、東京の企業で転職し続けるでしょう。しかし、自分のスキル・能力を活かして“仕事をつくる”チャンスを探す人は、日本中どこでも働くことができます。」

 

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どちらの働き方の方がいい、ということではないでしょう。重要なのは、自分がどちらのタイプなのかを見極め、そのタイプにあった場所で働けるかどうか。田鹿さんは、「仕事はつくるもの」と考えている人が都市に居続けるとしたら、それは「現代の“都落ち”」ではないか、と語ります。

 

「東京の方がヒト・モノ・カネ・情報が集まるから、仕事をつくりやすいと言われます。これって、もはやそんなことないんですよね。日南市を見てください。ITベンチャーのサテライトオフィスが次々に生まれ、油津商店街は全国から視察が訪れている。東京よりもヒト・モノ・カネ・情報は集まりますよ。それに、東京に住むより可処分所得は高くなるし、豊かな自然はある。新しい商品やサービスや価値観をつくることに刺激を感じる人は、こうした場所で働いた方がいいと思います。言い方は悪いですが、もし『自分は仕事をつくりたい』 人間だと知りながら、なんとなく東京に住み続けている方がいたとしたら、それは都の価値観に落ちてしまった、現代の“都落ち”ではないでしょうか。

 

たしかに、今イノベーティブな地方都市として注目されている日南市には、ヒト・モノ・カネ・情報が集まっています。さらに、東京のような都市ではそうしたリソースを巡って多くの競合と競わなければいけませんが、日南のような地域では東京ほどプレイヤーが多いわけではないので、個人が注目を集めやすく、ヒト・モノ・カネ・情報を得やすいはず。そのメリットに気づいた人から、次々に東京から地方へと人が動いているのです。

 

「それいいね!」「やっちゃいなよ!」「一緒にやろう!」

最後に、取材を通してわたしが感じたことを少し。

 

「仕事をつくる」というと、相当の覚悟を持って取り組まなければならず、眉間にシワを寄せて事業計画書とにらめっこしているイメージを持つかもしれません。でも、茜さんや鬼束さんの話を聞いていると、どこか軽やかで、楽しみながら取り組んでいる印象を受けます。いや、2人だけでなく、田鹿さんをはじめ日南で活動するみなさんは、本当にフットワークが軽く、楽しそうなんです。

 

それはどうしてなのだろう…と考えてみると、「それいいね!」「やっちゃいなよ!」「一緒にやろう!」という、日南市の特徴が浮かんできました。

 

まず、地域にまだない仕事に対して、「それいいね!」と賞賛してもらえること。茜さんがチョークアートの仕事などに取り組む中で、そのセンスの評判(「それいいね!」)が広まり、「このデザインもお願い!」とあちこちで仕事をもらえるようになったのは、まだない仕事に対する懐の深さがあるからでしょう。だからこそ、なにかしらの特技--例えばデザインができるとか、編集ができるとか、あるいは占いができるとか--を持って日南にくると、人々との関係性のなかで自然と仕事が生まれてくる。それは茜さんにも鬼束さんにも共通していることでした。

 

そして、「やっちゃいなよ!」。地方には新しいことを始めることに対する「しがらみ」があると言われます。「日南にも、地域によってはあるけれど」と市役所の担当者の方は言いますが、ほとんどの方が「やっちゃいなよ!」スタンスだそう。実際、日南を訪れた名古屋の大学生が、周囲の後押しもあってあれよあれよと言う間にゲストハウスを立ち上げてしまった事例も。新しいチャレンジをするときの周囲の後押しと、始まった後のスピード感がすごいんです。

 

「一緒にやろう!」も大事なポイント。取材をしていて、茜さんや鬼束さん、田鹿さん、そして行政の担当者の方の距離感がとても近いことに驚きました。「おー、昨日はどうも!あのあとさ…」みたいなノリです。鬼束さんは、「何か用事があったら、車ですぐ会いに行ける距離にみんないるので、相談しやすいんですよね」といいます。だから、プロジェクトが気持ちよく進むし、異なる分野で取り組む人同士でもコラボレーションが生まれやすいのです。

 

日南市がイノベーティブな地域になった背景には、IT企業誘致や商店街活性化の取り組みなど、さまざまな施策があります。一方で、それらが言葉で把握しやすい要因だとしたら、なかなか言葉では把握しきれない、文化や風土の要因の存在も間違いなくあるのだと思います。田鹿さんも、移住を検討している方の後押しをするのに大事にしているのは「一緒に飲むこと」だそう。パンフレットやサイトではわからない、ノリのようなものをお互い見極める機会になるからでしょう。

 

ここまで書いてきて、ちゃぶ台をひっくり返すようで心苦しいのですが…そのノリのようなものは、記事で100%伝えることは非常にむずかしいこと。日南市に興味がある方は、ぜひ実際に日南の方に会ったり、足を運んだりしてみて、そのノリや雰囲気を肌で感じてみてください。もしかしたら、「あ、わたしにも仕事をつくれるかもしれない」という思いが湧いてくるかもしれませんよ。

 

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お知らせ

記事にも登場した田鹿倫基さんが宮崎リーグ(Mi League)のコミッショナーを務める「2018年 南九州移住ドラフト会議」で、参加球団(地域)を募集しています。

 

「移住ドラフト会議」は、プロ野球のドラフト会議を見立てて、球団役として移住者を受け入れたい地域、選手役として移住志望者それぞれがプレゼンテーションを行い、指名会議で地域側が移住志望者を指名する催し。2015年に鹿児島移住計画が主催で開催し、昨年には全国版が行われるなど着実に拡がりを見せ、2018年現在で11名の移住が実現しています。

 

2018年 南九州移住ドラフト会議」の参加球団(地域)募集は4月15日(日)まで。詳細は南九州移住ドラフト会議のページをご覧ください。

この記事を書いたユーザー
山中 康司

山中 康司

働きかた編集者。「キャリアの物語をつむぐ」をテーマに、編集・ライティング、イベント企画運営、ファシリテーション、カウンセリングなどを行う。ITベンチャーにて人材系Webメディアのコンテンツディレクション、NPO法人ETIC.で地方の人材採用に関わるプロモーション業務を担当。東京大学大学院情報学環学際情報学府修士課程修了。国家資格キャリアコンサルタント。

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