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「障がいを持っていても“ごきげん”に地域で生きる仕組みを」 認定NPO法人つくばアグリチャレンジ副代表理事・農場長 伊藤文弥さん

2015.09.07 

障がい者を雇用して農作業に従事してもらう新しい形の農場が、茨城県つくば市にある。2011年に開設された「ごきげんファーム」だ。農場で作った新鮮な野菜はその日のうちに契約世帯に届けられる。就労先が限られる障がい者と後継者不足に悩む農業を結びつけ、二つの社会的課題を同時に解決できる新しいビジネスモデルとして注目を集めている。

今回、そんな「ごきげんファーム」の農場長、認定NPO法人つくばアグリチャレンジの伊藤文弥さんに、これまでの道のりと、これから挑戦したいことをうかがった。 NPO法人つくばアグリチャレンジ 副代表理事・農場長 伊藤文弥さん

認定NPO法人つくばアグリチャレンジ副代表理事・農場長伊藤文弥さん

地域の人に日常的に食べてもらえる野菜づくりを

― 農業と障がい者雇用を結びつけて考えるようになったきっかけを教えてください。

 

大学2年生のときに、議員インターンシップで前つくば市議の五十嵐立青さんにお世話になったんです。そのとき、たまたま五十嵐さんが「農業と障がい者の雇用の結びつけ」というテーマで考えていて、僕はそれについての下調べをしていました。そこで初めて、今の農業にどんな問題があるかを知ったんです。

またそれと並行して、障がい者への理解を深めようと「発達障害」をテーマに調べを進めていたのですが、そこで思い当たったことがあって。自分の小学生・中学生の時を思い返すと、クラスに何人か「変わった人」と言われていじめられてしまう人がいました。それと、今も生き方に困っている何人かの友人の顔も浮かびました。 伊藤さん その後も様々な障害のある人たちの問題を調べました。どうしてこんなにも辛い思いをしなければいけないのかと、すごくつらい気持ちになりました。誰も障がいを持ちたくて持っている人はいません。それなのにどうして、まるで罪を犯したかのように辛い思いをしなければならないのか、と。

 

― 実際にやってみて、最初にぶつかった壁は何でしたか?

 

まず、野菜ができませんでした。全然育たなかったり、せっかく障がい者の人たちが頑張って作業してくれたのに、僕のミスで収穫時期を逃したり。 次に、野菜ができても売り先がなかった。

最初は個人飲食店に営業に回ったんですが、そういうところでは少量しか使わない。もっと品数があれば売れると思って、チコリとかビートとか奇抜な野菜を作ってみたら、全然おいしくない。「これ食べてみて。まずいでしょ」って、自虐ネタとして味見してもらうくらいの出来で。

その後に、3か所の農園と契約して栽培しました。ベビーリーフとかミニトマトとか。これは売れたんですが、とにかく作業が難しくて、障がい者の人たちではなく、我々スタッフが早朝から夜中まで作業しました。障がい者には草取りばかりさせて、しかもそれを見てあげることもできずに……。結局納期も守れなかったんです。職場の雰囲気もすごく悪くなって、スタッフもどんどんやめていきました。この時期が一番つらかったです。

 

― その壁をどうやって乗り越えたのでしょうか。

 

もう一度初心に立ち返ってみたんです。「ここは、障がい者の働きやすい農場にするんじゃなかったのか」ってことですね。もう一つは、「地域の人に日常的に食べてもらえる野菜を作るんだ」って。 農場の様子

農場のようす

「障がい者の働きやすい農場にしていくんだ」

― 具体的にはその課題をどうしましたか?

 

前者については、久松農園という茨城県で有機農場を営んでいる久松達央さんにアクセスして契約アドバイザーになってもらいました。作付け計画をもらったり、栽培日誌を見せてもらえるようになって、各時期に一番おいしい野菜を作れるようになりました。 そうして野菜は作れるようになったんですが、もう一つの大事な問題である野菜の売り先をどう開拓したらいいのかわからなかった。

このときに、ETIC.の社会起業塾イニシアチブという社会起業家支援プログラムを知り、力をつけるために参加しました。 そこで、まず売り方については川北秀人さんというメンターについてもらって、チラシの作り方から全部教わりました。マーケティングもまったく知らなかったのですが、川北さんに教わり、ちゃんとターゲットを絞って、ポスティングもしました。障がい者の人たちと、運動代わりにポスティングして回りました。

でも、そうしていたら、もう一人のメンターである石川治江さんに、お前たちは野菜が売りたかったのか、って聞かれて。あっと気づきました。大事なところですね。「障がい者の働きやすい農場にしていくんだ」ってことです。

地域でコミュニティを作ることに農業はもってこい

― 障がい者雇用と農業は合っていると思いますか?

 

色々な模索を続けるなかで、障がい者が地域で暮らしていくには、地域の人たちとどうやってコミュニティを作っていくかなんだってことに気がつきました。

そして、それには農業はもってこいなんです。 まず、定期的に配達しなければいけない生鮮食品だということ。それと、体験農業を提供することで、そこにいらっしゃる150人くらいの方たちと接することができる。みんなとても優しく接してくれます。そんな温かい心に触れて、障がい者の人たちも本当にいい笑顔してますから。逆に、今は農業だけで新規参入していくことは難しいという側面もあります。 体験農場の入り口

体験農場の入り口

― ごきげんファームは、あえて言うなら「農業」ですか? それとも「障がい者支援」でしょうか。

 

障がい者支援団体です。障がい者の人たちのために、僕たちがある。そのために農業があるんです。

NPOの良いところは今あげたみたいにみんなが助けてくれるところだと思うんですが、例えばこれが自分の利益のためだったら絶対誰も動いてくれません。社会にとって必要な仕事であれば、社会のみんなが助けてくれるんです。これまでも、今も、たくさんの人たちに助けてもらっています。そんな人たちの期待に応えるためにも、必ず障害のある人たちでも「ごきげん」に暮らせる社会を作りたいんです。

キーワードは、「働く・暮らす・遊ぶ」

― これからの課題を教えてください。

 

「障がい者の本当に求めていることは何か」というアンケートをとってみたんです。そうしたら、意外にも「友人がほしい」とか「悩み相談がしたい」と言った声が多かったんですね。お金がほしいという声は少数派で。

障がい者家族にもアンケートを取ったところ、「暮らす場所がほしい」という声が一番でした。 実は重度障がい者はいま、隔絶されたところに住んでいるんですね。それはつらいですよ。

だから僕たちは、「働く・暮らす・遊ぶ」をいまのキーワードにしているんです。「遊ぶ」の部分では、筑波大生にインターン生として参加してもらっていたりします。重度障がい者でも、地域の中で生きていけるようにしたいんです。無茶だって言われるかもしれませんけど、だからこそ目指したい。だって「できそうだ」ってことならもう解決しているわけですから。

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服部 美咲

1983年群馬生まれ。慶應義塾大学文学部教育学専攻修了。農と教育に関心を持ち、オーガニックシンポジウムなどにも参加する。学生時代から、四国遍路や熊野古道めぐりを経て、インドネシアやブータンを訪れ、「幸せな生き方とは何か」と模索する。現在は塾講師をする傍ら、フリーライターとして活動。読書と日本酒、猫をこよなく愛する。

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