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自己実現の達成の集積が地域を変える【居場所づくりは地域づくり(5)後編】

2025.03.12 

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと、NPO法人エティックは、居場所づくりと地域づくりの関係性を実践的に議論し検討するオンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」を開催しました(全7回)。

前編では、それぞれの活動が個人の課題解決や挑戦をどのように支援しているか、事例が紹介されました。後編では、個人の課題解決への支援が、地域課題にも良い影響を与え、その結果、地域づくりにどのようにつながるのかを議論しました。

 

<パネリスト>

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん NPO法人おっちラボ 代表理事

渡邊 享子(わたなべ きょうこ)さん 株式会社巻組 代表取締役

北池 智一郎(きたいけ ともいちろう)さん 株式会社タウンキッチン 代表取締役

 

<モデレーター>

森 祐美子(もり ゆみこ)さん 認定NPO法人こまちぷらす 理事長

湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

佐藤 聖子(さとう せいこ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。

※イベントは、2023年8月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。

 

地域を超えて地球規模で課題を捉え、個人の課題解決から地域づくりを実現する

湯浅 : ここからは、それぞれの事業や活動を通じた「居場所づくり」や「地域づくり」の関係性について議論を進めます。お話を聞いていると「居場所づくり・地域づくり」という表現には、距離を感じられる場合もあるようですが、いかがでしょうか。

 

渡邊 : 巻組の事業は、個別の事案に向き合うことが多いので「地域づくり」を直接的に意識していないかもしれません。しかし、個人の課題やニーズが多様化している中、個々の課題解決が地域づくりにつながると思います。

 

また、個人の課題は枠に当てはめるのが難しいため、柔軟に対応するなど、ある程度「自由度」が高い取り組みが必要です。たとえば、大家さんなどからの個別相談に対しては、「地域・福祉」といった既存の行政制度の「地域づくり」に当てはめると、実現したいことが十分にできない場合があります。

 

小俣 : おっちラボの取り組みでは、地域という枠を超えて、課題を大きく捉えています。雲南市(うんなんし)の範囲だけではなく、地球規模の課題への対応に発展させたい思いがあります。おっちラボも、地域づくりを目指すよりは「個人個人の内発的なエネルギー」の発露に寄り添い続けた結果、「地域」への好影響や課題解決につながればよいと考えています。

 

渡邊 : 地域の課題は、個人の課題の集積であり、複合的にそれぞれの問題と密接に関連していると思います。そのため、ひとつの切り口からでは解消できない可能性があります。個人個人の課題に一つずつ対応することで、徐々に地域課題も解決されていくはずです。多様な個人の想いが達成され、それが結果として地域づくりにつながると考えます。

 

小俣 : 雲南市と同様の地域課題は、これから地球のどこでも見られる時代になると思います。将来的に、雲南市の取り組みがモデルになればよいとも思っています。

 

「地域」という表現を聞くと「自治体」を連想するかもしれませんが、おっちラボの「地域づくり」は、自治体の枠組みを超えたものであり、地球規模の課題に取り組む観点から「地域」を捉えています。

 

個人の実現の集積が地域を創る(巻組)

 

森 : 「居場所づくり」や「地域づくり」を補助金などで運営する場合、制度の目的や要件に合わせる必要が出てきます。一方で、個人の課題解決に重きを置く事業や活動をする場合には、スピーディーな決定が必要なので、制度の硬直性との間で自由度が低く感じるのかもしれません。「地域づくり」の表現が堅苦しいと感じられる原因はこうした制限のためではないでしょうか。

 

湯浅 : 居場所づくりも、人に合わせてプログラム化しており、プログラムに人を合わせるものではありません。一方、地域づくりは、縛り付けられる感じがするものでしょうか。

 

北池 : 地域づくりが自分の事業であると捉えるのには距離感がありますし、渡邊さんや小俣さんの発言に共感する部分があります。第三者に事業を説明する際は、わかりやすさから「地域づくりをしている」と表現することもありますが。

 

しかし、言葉が持っている文脈が人により異なり、定義も限定的に捉えられてしまうため、できれば使いたくないのも事実です。また「居場所」という表現も同様に、福祉的支援を受ける立場の人のための場所だと限定的な解釈をされる傾向にあると思います。

 

渡邊 : 「福祉」も、定義が限定的に使われている代表格の一つでしょう。そもそも、福祉とは、人間が幸せに生活できることを担保することであり、特別な状況に置かれた人を対象にするものではなかったはずです。本来的な意味では、30、40代の方が自立的に生活しながら、何か好きなことを実現し「幸せ」に生活することも「福祉的」であるといえます。

 

ただ、一般的な制度上の枠組みでは、経済的に自立した方の幸せを追求する事業は「福祉」とは定義されず、受け入れられないことがあります。

 

これまでの制度的な枠に当てはまらない社会課題が顕在化していますが、それはビジネスの要素でもあり、巻組が事業化した背景にもなっています。

 

湯浅 : 居場所づくりや地域づくりは、境界線や定形的なカテゴリー化によって形におさまるのではなく、それぞれ「多義性」「多様性」であると改めて見えてきました。

すべての人が参加しやすい自己実現の場のデザイン

湯浅 : 地域づくりにおいて個人が重要ではある一方で、「自己実現」に乗れない人がいる可能性がありますが、どのように届けていくとよいのでしょうか。たとえば、こども食堂を運営しながら、広くオープンにして「誰でも来てください」とするのと似ているように、課題を持つあらゆる人を包み込む方法があると思います。

 

小俣 : 自分たちの現場から感じること、考える必要があると思うことは、様々な起業家が「場」を提供し始めてはいるけれど、そういう場に出てこられない人が潜在的にいるということです。特に、雲南市のような地方では、障害のある方と出会う機会がありません。家に閉じこもっていたり、車で移動していたりと、見かけることがあまりない。居場所を作っていくなかで、もう少し市内に暮らす多様な人たちを巻き込める可能性があると思っています。

 

起業関連の事業をしていると、「キラキラ」していて、仲間内だけで楽しそうにやってると思われがちです。価値観は多様なので感じ方は自由ですが、排他的にならず参加しやすい場のデザインが必要だと考えています。

 

NPOや起業は、社会への問題提起から活動が始まることが多いので、居場所づくりや地域づくりの目指す思考と相性がいいと思いますし、NPOや起業家だからこそあらゆる人を巻き込みながら課題を解決していけるのではないでしょうか。

 

全世代が社会課題にチャレンジする雲南市の生態マップ(おっちラボ)

 

森 : 今回の登壇者のみなさんのお話の中で共通しているのは「クリエイティブ」「アイデア」だと思います。個人のクリエイティビティやアイデアを引き出しながら、たくさんの人を巻き込み情報を届けていくためには、具体的な仕掛けがあるのではないでしょうか。

 

渡邊 : 誰しもがクリエイティブであると信じて、どの間にも境界線をひかないことが重要です。提供している場にアクセスしにくいと感じていても、何かのきっかけで参加し、周囲と混ざり合うことで、自分のこれまでを越えていくことができると思います。

 

居場所も地域もあらゆる人に対して開かれているだけでなく、デザインも流動的であることが大事ですし、何かの課題に対して能動的にアクセスする個人がい続けることも必要です。

 

小俣 : 居場所づくりでは、本気でやりたいという意思を持った人の存在は重要だと思います。中心になる人がいなければ、結局うまく続きません。個人の内発的な思いを発揮していく過程で徐々にフィールドが広がっていくと、多様な人たちが巻き込まれていくと思います。

 

北池 : 事業活動を進める立場と、NPOやボランティアの立場では、目指す社会の方向性は同じであっても、お互いのアプローチが異なるため、境界線がはっきりしていると思います。事業活動では、個人や市場のニーズに基づくアプローチですが、NPOだと補助金や寄付金を得るために「意義」を訴求する機会が多いのが特徴です。どちらも限定的になっているので、双方の良いところを融合しながら歩み寄ることが必要だと感じています。

 

渡邊 : あらゆる人を受け入れる印象があるのは「地域」という表現だと思います。「居場所」という表現だと、特定の課題を抱えている層を対象にしているイメージが個人的にはありますが、「地域」という表現であれば、すべての人を対象にしている取り組みであるとのイメージになり、多くの人を巻き込めると思います。

 

森 : 個人の自己実現にフォーカスする活動の中で、互いにやりたいことを優先したことで相反したり、一方で同じ価値観だけで集まることで分断が起こることはあるように思います。

 

小俣 : 雲南市くらいの規模ですと、さまざまなテーマの集まりがあったときに、あるテーマの参加者も別のテーマの参加者とが、だいたい顔見知りだったりします。その中間くらいのテーマを置いた集まりだと、どちらの人も参加してくれたりします。都心部でも、局地的にはそういうコミュニティ内の多様なつながりはあるのではないでしょうか。

 

渡邊 : 地域には多様な個人がいて、それぞれが「対応したい課題」を持っている場合があります。今回の登壇者の活動は、個人の目指す思いに対して「舞台」を用意している点が共通していると思います。

居場所は「つくるもの」なのか「できるものなのか」

湯浅 : 登壇者のみなさんのお話から、個人にフォーカスした取り組みを進めた結果として「居場所」が生まれつつあることがわかりました。一方で、これまで自然と居場所となっていたところが弱体化してきた結果、人と人とが関わり合える場を意図的につくり出すために「目的」としての居場所づくりも進められています。

 

渡邊 : 個人的には居場所や地域は、意識的につくるものではなくて、「結果」として生まれてくるものだと感じています。地域づくりを意識しなくても、障害がある人、高齢者、子どもなどの線を引かず、誰もが幸せに生きていくためにはどうしたらよいかを追求する先に、答えが見つかると思います。結果としての居場所づくりや地域づくりも、「目的として地域づくり」するのも目指すところは同じです。

 

北池 : コロナの影響によりオンライン化が進んだ結果、「雑談」が気軽にできる場が減少しました。「雑談」ができる気軽な関係が、まさに居場所だと思います。コロナ前までは学校や職場が、最低限の居場所だったのではないでしょうか。居場所は「人と人とが関わり合える場」であり個人の幸せにも関連するので、居場所の重要性を呼びかける取り組みは大切だと感じます。

 

雑談できる場の重要性に関するインタビュー(タウンキッチン)

 

湯浅 : 「目的」としての居場所づくりとは、「結果」としての居場所になれるような地域と社会にしていくための「呼びかけ」みたいなものだと思います。

 

これまでは「人と人が関われる居場所」が自然に出てきていましたが、今は減少しているのが実情です。

 

最近の調査では、学校を居場所と感じている子どもの割合が半分、居場所と感じてない子どもが半分になっています。職場や家庭も同じ状況かもしれませんが、この数字をどうやったら7割や8割にできるかを考えることも、一つの居場所づくりだと感じました。

 

<登壇者プロフィール詳細>

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん

NPO法人おっちラボ 代表理事

1981年東京都生まれ 法科大学院卒業後、主に企業法務を扱う弁護士として約4年半経験を積む。2015年6月にNPO法人おっちラボに加入し、2018年代表理事に就任。雲南市木次町にて2014年に創設された同法人は主に若者のチャレンジ応援を担う「幸雲南塾」を運営。想いをカタチにし、地域の未来をつくるローカルチャレンジャーを生み出している。卒業生の活動は、仲間や地域を巻き込んで、地域の課題解決につながる動きや起業につながっている。

 

渡邊 享子(わたなべ きょうこ)さん

株式会社巻組 代表取締役

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。東日本大震災をきっかけに石巻へ移住。2015年に巻組を設立。資産価値の低い空き家を買い上げ、クリエイターをターゲットとした大家業をスタート。シェアやリユースを切り口に地方の不動産が流動化する仕組みづくりを模索中。2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」、2021年「グッドデザイン賞」など受賞多数。

 

北池 智一郎(きたいけ ともいちろう)さん

株式会社タウンキッチン 代表取締役

1976年大阪生まれ。大阪大学工学部を卒業後、コンサルティングファームの朝日アーサーアンダーセン(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)にて中央省庁、国立・私立大学などに対する経営戦略策定などに従事。2005年より、人材系ベンチャーにおいて、大手ファストフードチェーンやコンビニチェーンをはじめ、外食・小売業に対する教育研修・コンサルティングを実施。2008年に独立し、商店街起業研修講師やSB/CBセミナー講師、企業向けの人材育成などに従事。2009年より任意団体TOWN KITCHENを立ち上げ、2010年7月に株式会社タウンキッチンを設立。

 


 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。