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個の挑戦を支えることが地域の未来を拓く【居場所づくりは地域づくり(5)前編】

2025.03.11 

社会課題の一つでもある「孤立社会」が進む中、多くの団体やNPOが居場所を提供しています。居場所や地域の課題解決を担うプレーヤーには企業も含まれており、個人のニーズに訴求しながらも、多様な「居場所づくり」「地域づくり」が展開されています。

 

事業を通じた居場所づくりや地域づくりには、NPO団体が取り組む場合と、そうでない場合の違いはあるのでしょうか。また、居場所と地域づくりの関連性はどのようなものでしょうか。

 

そんな居場所づくりと地域づくりの関係性について、各地域の実践者の経験談を共有しながら考えるオンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」第5回目が開催されました(実行委員会:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ、NPO法人エティック)。

 

今回は、全7回のうち第5回目の内容を抜粋してご紹介します。

 

<パネリスト>

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん NPO法人おっちラボ 代表理事

渡邊 享子(わたなべ きょうこ)さん 株式会社巻組 代表取締役

北池 智一郎(きたいけ ともいちろう)さん 株式会社タウンキッチン 代表取締役

 

<モデレーター>

森 祐美子(もり ゆみこ)さん 認定NPO法人こまちぷらす 理事長

湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

佐藤 聖子(さとう せいこ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。

※イベントは、2023年8月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。

 

「居場所づくり」と「地域づくり」の関係性

湯浅 : 全国こども食堂支援センター・むすびえは、こども食堂を通じて「居場所」を提供しています。そして、居場所づくりは「地域づくり」に貢献するものだと思っています。

 

ある研究では、「居場所」が経済的な効果だけでなく、地域住民の健康増進にもつながっていることが明らかになりました。地域活動が活発な地域では、直接活動に参加していなくても住民の健康度が改善される、つまり参加していない人まで元気になる、という研究結果が出ています。

 

しかし、「居場所づくり」と一言でいっても実践者や捉える人によりイメージが異なり多義的であり、話がかみ合わず活動への理解が得られない場合があります。また、地域づくりも同様に多義的。さらには、居場所づくりと地域づくりを考え始めると、「多義的×多義的」となるため、人により解釈は100通り以上にもなるでしょう。居場所づくりと地域づくりを進めていくには、ある程度図式化するなど、関わる人同士でイメージを合わせる必要があるかもしれません。

 

 

今回は、居場所づくりと地域づくりの実践者同士が、それぞれ「居場所づくり」「地域づくり」の見え方や関係性を議論することで、一定の形が見えてくることを期待しています。これまでの議論では、まだはっきりとは見えていませんが、毎回見える世界が異なり興味深いです。

 

議論の前に私自身の事例を紹介します。私は30年前にホームレスの居場所づくりを始めました。当初は自治会などの地域との対立があり、「居場所」は“主流から外れた人のもの”という位置づけでした。

 

しかし、10年ほど前から、学校、家庭や地域そのものが形骸化・弱体化し始め「無縁社会」が社会課題になるほど「孤立」が深刻化しています。社会の変化にともない、「居場所をつくる」ことは、地域の強化とも深く関連し始めました。過去あった居場所と地域の緊張関係は変貌し、居場所づくりが地域づくりに貢献する時代になったのではないでしょうか。

自分たちで暮らす地域をDIY、あらゆるチャレンジをサポート──NPO法人おっちラボ 小俣健三郎さん

小俣 : NPO法人おっちラボ(以下、おっちラボ)は、「チャレンジする人が挑戦する機会を応援し合うコミュニティをつくる」をミッションに島根県雲南市(うんなんし)で、個人がやりたいことを形にして未来を創るお手伝いをしています。

 

私自身は東京都出身です。8年前に雲南市に移住したよそ者ですが、地域の「かき混ぜ役」となり、いろんな人たち同士の関係性を新しくつくっています。

 

雲南市は東京23区ぐらいの大きさですが、人口は約3万5千人と過疎が進んでいる地域です。日本平均よりも高齢化・人口減少が進んでいる一方で、この状況を逆手にとり「課題解決先進地になる」を合言葉に活動しています。

 

また、雲南市は地域合併で面積が大きく、地区が30に分けられ地域自主組織が設けられているのが特徴です。地区ごとに予算が割り当てられ、自主組織が優先順位を決めて課題解決に取り組んでいます。しかし、この地区ごとの取り組みも、担い手が60代、70代と高齢化していて継続に課題があります。

 

現状を踏まえて、雲南市は全世代での地域課題解決へのチャレンジを支援することを総合戦略に定めています。おっちラボのそのうち、20代から50代を中心としたプロジェクトや起業のチャレンジを支援するために、以下のようなプログラムを企画運営しています。

 

・幸雲南塾のサポート:先行事例の紹介、ワークショップの実施、事業プラン作成支援(※2011年から2021年まで11期)

・スぺチャレ・ホープ(事業拡大・新規事業開発)

・Seedラボ(事業創出支援)

 

全世代が社会課題にチャレンジする雲南市の生態マップ

 

幸雲南塾は、2011年から10年以上続く地域づくりの人材育成プログラムです。これまでに約200人が卒業し、カフェやシェアオフィスを開業したり、コミュニティナースとなり活躍するなど、地域に根ざした多様な事業を生み出してきました。たとえば、地元産の食材を使ったクラフトコーラを作ったり、軽トラックを改造して移動販売車にしたりするなど、ユニークなアイデアも生まれています。

 

特に、おっちラボの前代表が運営しているコミュニティナースの事業は、雲南市の未来を切り拓くような重要な役割を果たしました。この事業は、高齢者の方々が病気になってからではなく、健康なうちから看護師に相談できる体制を築くことを目指していて、たとえば、地域の集会所やカフェに看護師を配置し、健康チェックや生活相談を行うことで、病気の早期発見や予防につなげています。

 

ほかにも、訪問介護や買い物支援事業など、新たな起業が続いており、高齢者の居場所にもなりつつあります。

 

ただ、おっちラボが地域内での事業化支援を進める一方で、起業や事業化する人を応援する活動が多くなり、参加するハードルが高くなっていると感じました。そこで「うんなんコミュニティ財団」を設立し、もっと広く市民が最初の一歩を踏み出せるよう、地域密着型のクラウドファンディング「みんなでカンパ」を始めました。これは、みんなで使える市民のお財布のように、市民からの寄付で市民の活動を支援する仕組みです。

 

 

社会的認知度が低い領域の課題を、市民自身がいち早く気づき対応している場合があるので、その潜在的な課題への対応を支援していきたいと考えています。

 

他にも、同財団は休眠預金等活用事業として、4団体への活動資金提供も行いました。具体的には孤立した人たちを地域につなぐ活動を支援しました。狭い地域だからこそ、各団体や組織同士がつながっていけるよう、横のつながりを促進する取り組みも合わせて行っています。

 

私たちは「ごちゃまぜ世界」と称して、地域資源をつなぎ合わせることを実現したいと思います。そして、制度の中では分断されて、孤立している人や、やりたくてもできないことがある中で抑えられてしまってる人たちを拾い上げていく取り組みを増やし、網目を広げていきたいです。

多様なライフスタイルの提供により個人の幸せを積み重ねる──株式会社巻組 渡邊享子さん

渡邊 : 株式会社巻組(以下、巻組)は、宮城県石巻市(いしのまきし)で、資産価値が高くない空き家の価値を高め、資産運用につなげる事業をしています。賃貸運用は20件、リノベーションなどは50件を超えました。また、拠点も石巻市だけでなく6自治体に広がっています。

 

私が住まいの事業に取り組もうと思ったきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災です。石巻市は震源に近いこともあり、全壊家屋が2万2000戸あり、被害が甚大であった地域のひとつでした。

 

復興が進む中で、地域に暮らす人たちの住居支援が優先され、地域の外から社会起業家のような貴重な人材が入ってきても、定住できる仕組みはありませんでした。せっかくの人材も数年で去ってしまう。「住まい」の分野では、十分な対応がされていなかったことに問題を感じました。

 

地域の持続可能な復興のためには、多様な才能を持つ人たちが石巻市に定住することが不可欠だと考えています。そこで、クリエイティブな起業家たちが安心して暮らせるような、魅力的な住まいを提供することを目指し、空き家をリノベーションしたシェアハウス事業を始めました。

 

空き家を活用したシェアハウス

 

その後も住居不足という認識のもと、大きなマンションなど新築住宅が約7000戸建てられてたのですが、一方で、石巻市の人口は急速に減少していました(10年で約2万人減)。復興予算があったので、地主さんたちはマンション建設を進めましたが、この10年の実態には合わず、現在では空き家が約13000戸もあり、むしろ住居過剰状態になっています。

 

人口の流出を防ぐには、ハード面の整備だけでなく「ライフスタイル」の提案が重要です。たとえば、一般的にネガティブな条件と思われていた物件であっても、芸術活動には都合のよい条件になります。

 

この10年の変化を受けて、巻組では多くの地主さんたちから、ネガティブな条件の空き家活用について相談を受けてきました。そして、市外の個性的な人たちが自分たちのライフスタイルを追求できる、「住まいのための空き家」を紹介しています。

 

たとえば、アーティストが空き家をギャラリーにリノベーションし、アートを通して若者たちの創造性を育む場を提供したり、東京から移住してきたご夫婦が林業を始めたりと、地域に新たな活気が生まれています。

 

巻組が提供する個性的な暮らしによって、規格に収まらないニーズを持った人たちが独自のライフスタイルをつくり、それが結果的に地域の活性化につながると思いました。

 

 

他にも、巻組は賃貸の運用もしています。賃貸ニーズは多様化しているものの、現状のルールでは柔軟性に乏しい場合があるため、私たちは現代のライフスタイルに合わせた賃貸運用を目指しています。コミュニティ形成を促し、住人参加型の自由度が高いシェアハウスを運営することで、学生起業家など様々な属性の人たちが集まりました。

 

物件の取得には、不要な物件を相続して困っている方々から贈与を受けて費用を抑えつつ、運営面ではWEB3を活用して住民と大家の垣根を低くするなど、新しい賃貸運用を進めています。なお、賃貸運用ではインバウンド向けの民泊も提供していますが、僻地にあるにもかかわらず予約は常に埋まっている状態で、手ごたえを感じています。

 

巻組が提供する「住まい」に若いクリエイターが集まり始めたことは、周囲の住民へも影響を与え始めています。介護のために石巻市に戻ってきた60代の女性が、物件に入居したことをきっかけに水彩画を始めて、賞を取るまでになったという事例もありました。

 

私たちは、次世代型の住まいとは、ライフスタイルが多様化していく中で、それにいかに合致していくかということだと考えています。

 

また、地域の課題は複合的で複雑なループにあるため、ツボとなる点を押さえて、いかに解決を促してあげるかが重要です。一言で説明できない複合的な課題が多いので「居場所づくり = 地域づくり」は難しいかもしれませんが、一つひとつをいろんな人が解決していく先に、地域の課題解決があるのではないでしょうか。

 

私は個人が大事だと考えていて、個人の幸せが積み重なり、それが地域づくりにつながることが一番重要だと思っています。

創業支援を通じて100人100通りの居場所づくりから地域づくりへ──株式会社タウンキッチン 北池智一郎さん

北池 : 株式会社タウンキッチン(以下、タウンキッチン)は、東京都小金井市(こがねいし)を拠点に事業を展開しています。東京都の多摩地区は人口減少問題にまだ直面していませんが、多様な人々が暮らしている中で、抱える課題も多様化しています。ベッドタウンとして宅地開発されて以来、人口は増えつつあるものの、行政やその他のサービスではカバーされない課題が増えているのも実情です。

 

地域には、解決したい課題を抱え、自ら行動に移したいと考えている人がたくさんいますが、一人ではなかなか前に進めないという声もよく聞かれます。タウンキッチンでは、そんな人々のチャレンジを応援し、一人ひとりのアイデアを実現するためのサポートを行っています。

 

課題に気づいた人が、実際に活動を始めて、その活動がのちに地域の新しいインフラや土台になっていくことを期待しています。

 

具体的な事業は以下のとおりです。

・創業スクールやセミナー : 小商いのビジネス支援を10年以上継続

・創業時を支援するシェアオフィス : 創業時の初期費用を抑えるためのシェアオフィス

・シェアキッチン、シェア教室 : 複数の個人で「場」をシェア

・店舗、事務所物件の紹介 : 空き家活用のマッチング

・ウェブマガジン「リンジン」 : 創業した人のストーリーを紹介

 

タウンキッチンが運営する創業スクール「Here」は、地域住民が無理なく起業に挑戦できるよう、きめ細やかなサポートを提供しています。地元企業とも連携し、多様なセミナーや相談会を開催することで、起業に関する知識やノウハウを共有しています。

 

コロナ以降は、シェアオフィスだけでなく事業運営の「場」を共有(シェア)する事業を始めました。働き方が多様化したこともあり、お稽古教室や子どもの学習塾など「自分で何か実現したい」と考える人が増えました。

 

右下の数字は年間契約をして日々の活動拠点にしている方々の人数

 

しかし、個人で一物件を借りて始めるにはハードルが高く躊躇する場合が多いです。こうした方々の創業ニーズに合わせて、シェアキッチンやシェア教室を始めました。なお、シェアオフィスやシェアキッチンなど、タウンキッチンが提供する場所で働く人は、小金井市だけで150人程度います。現状では、大阪や川崎など他地域へも広がっています。

 

タウンキッチンは、事業のアイデアを持った人が一歩を踏み出すための支援をしたり、場を提供して実際のチャレンジの一歩目を踏み出してもらったり、一連のプロセスを重視しています。

 

地域の中の様々な場所で「個人がチャレンジしている場」が点在することで、地域で面となって広がり、地域づくりに貢献していくでしょう。そして、個人個人の自己実現が町の魅力の向上や最終的には社会課題の解決につながると考えています。

 

個人のアイデアを実現するための包括的支援

 

なお、タウンキッチンの事業は、地域づくりを意識しているものの「居場所づくり」とは少し距離があると思っていました。居場所とは世代や条件に応じて異なると感じるので、100人いれば100通りの居場所が必要になるでしょう。

 

ただ、シェアキッチンを利用し事業をしている方にインタビューした際、あくまで食べ物を作って売っていることはツールであり、「お客さんとの交流」や「お客さん同士のコミュニケーション」を深めることが本質的な目的であるとの話を聞きました。この話を受けて、事業運営がまさに居場所だったのだと気づきました。

 

居場所とは、何か一つの立派な「場所」である必要もありませんし、居場所があれば地域が満たされるわけでもありません。多様な「居場所づくり」の活動は「地域づくり」の一つの指標になると思います。

 

人々の交流を深めたいと思う方が地域に100人200人と増えてくることが、多様な居場所づくりにつながっていくのではないでしょうか。

 

>> 後編へ続きます

 

<登壇者プロフィール詳細>

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん

NPO法人おっちラボ 代表理事

1981年東京都生まれ 法科大学院卒業後、主に企業法務を扱う弁護士として約4年半経験を積む。2015年6月にNPO法人おっちラボに加入し、2018年代表理事に就任。雲南市木次町にて2014年に創設された同法人は主に若者のチャレンジ応援を担う「幸雲南塾」を運営。想いをカタチにし、地域の未来をつくるローカルチャレンジャーを生み出している。卒業生の活動は、仲間や地域を巻き込んで、地域の課題解決につながる動きや起業につながっている。

 

渡邊 享子(わたなべ きょうこ)さん

株式会社巻組 代表取締役

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。東日本大震災をきっかけに石巻へ移住。2015年に巻組を設立。資産価値の低い空き家を買い上げ、クリエイターをターゲットとした大家業をスタート。シェアやリユースを切り口に地方の不動産が流動化する仕組みづくりを模索中。2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」、2021年「グッドデザイン賞」など受賞多数。

 

北池 智一郎(きたいけ ともいちろう)さん

株式会社タウンキッチン 代表取締役

1976年大阪生まれ。大阪大学工学部を卒業後、コンサルティングファームの朝日アーサーアンダーセン(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)にて中央省庁、国立・私立大学などに対する経営戦略策定などに従事。2005年より、人材系ベンチャーにおいて、大手ファストフードチェーンやコンビニチェーンをはじめ、外食・小売業に対する教育研修・コンサルティングを実施。2008年に独立し、商店街起業研修講師やSB/CBセミナー講師、企業向けの人材育成などに従事。2009年より任意団体TOWN KITCHENを立ち上げ、2010年7月に株式会社タウンキッチンを設立。

 


 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。