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#社会・公共

どんな子どもや親でも「排除されない居場所づくり」を。小豆島子ども・若者支援機構の取り組み

2022.02.18 

瀬戸内海の温暖な環境のせいか、移住先として注目される小豆島(しょうどしま)。穏やかなところなので、子どもの課題など無縁のように見えますが、多様な課題を抱え困窮する子どもたちが少なくないのも実情です。一般社団法人 小豆島子ども・若者支援機構は、2018年からそうした子どもの課題に対応するため、居場所の提供を中心とした活動を続けています。

 

今回は、同団体の岡広美代表に小豆島の子どもの課題・活動内容に加えて、自身の変化がもたらした周囲への波及効果など、幅広くお話を聞きました。島という限られた資源の中、子どもの福祉への取り組みには伸びしろがまだまだあるといいます。

 

子どもに寄り添いながら献身的な活動を続ける一方で、地域・行政と試行錯誤してきた岡代表の話を受け、官民の垣根を越える連携の萌芽を感じました。

 

NPO法人ETIC.(エティック)は2019年度より休眠預金等活用法に基づき、資金分配団体として「子どもの未来のための協働促進助成事業」を推進しています。全国の子どもを支援する団体が、協働による地域の生態系醸成を実践することを目的に、そのモデルとなりうる実行団体に対して資金的・非資金的な支援を実施中です。

>> 助成事業について詳細はこちら

事業開始から2年目を迎え、6つの採択団体(実行団体)およびその連携団体へインタビューし、6回のシリーズで活動の状況を紹介していきます。

 

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<話を聞いた方>

岡広美(一般社団法人子ども若者支援機構 代表)

1961年生まれ ■子育てを通して、福祉の世界に入る■

2005年(44歳) 障害児の保育ボランティア

2006年(45歳) 東京福祉大学 編入学

2009年(48歳) 社会福祉法人 母子生活支援施設 ナオミホーム 支援員

2010年(49歳) 東京都調布市教育委員会スクールソーシャルワーカー

2012年(51歳) 東京都世田谷区大人の発達障害支援事業「みつけば」コーディネーター

2015年(54歳) 香川県小豆郡土庄町スクールソーシャルワーカー

2018年(57歳) 一般社団法人 小豆島子ども・若者支援機構 法人格取得

2019年(58歳) 岡山県スクールソーシャルワーカー

様々な背景を持つ子どもが心を許し安心できる居場所をつくりたい

 

――香川県小豆島の子どもの状況について現場からはどのように見えているのでしょうか。

 

岡さん(以下、敬称略) : 小豆島に限らず、全国的に子どもの課題が増えていると思います。そして、多くは「親の問題」として片づけられがちだと感じています。しかし、子どもの課題には、親だけではなく、地域でも対応することが必要なのではないでしょうか。

 

特に、社会資源が整わない地域では、課題を抱える家庭が、我慢したり頑張ったりと「自分たちでどうにかしよう」としています。小豆島でも、不登校の子どもがいるのですが、そういう子どもたちの居場所は、多くありません。家庭でも、不登校の子どもに対して、「学校のある時間は家から出てはいけない」と言われ、どのように対応したらよいかわからないままに。こうして、子どもの問題がどんどん内に向き、表に出てこないようになってしまいます。

 

しかし、子どもたちが抱える課題に対して、「地域で対応する」との認識があれば、家庭が抱え込んでしまわずに済みます。周りが注意深く見守ることで支えられます。例えば、とある子どもたちの会話の中に耳を傾けると、しりとり遊びに「借金」「シングルマザー」という語彙が出てくる。こうした発言から、その子どもの背景にある環境を想像できます。気にして子どもを見てあげれば、その問題に気づけます。

 

家庭が課題に対して内向きになっていたり、子どもの貧困など見た目ではわかりにくかったり。子どもの課題は、なかなか表に出づらいことこそが問題。どんな課題を抱えているか、もっと地域全体で子どもの課題や多様性への理解を深めて、リスクの発生を未然に防いでいく必要があります。

 

――「一般社団法人 小豆島子ども・若者支援機構 通称:ホッとスペース ショウz’」(以下、ショウズ)の取り組みを始められた経緯や活動内容をお聞かせください。

 

岡 : ショウズは、2018年にできたばかりの団体です。どんな子どもや親でも「排除されない居場所づくり」を目的に活動を続けています。ショウズをはじめようとしたきっかけには、ある一人の子どもとの出会いがありました。

 

私自身、2015年に家族の都合で小豆島に移住してきました。以前、東京でスクールソーシャルワーカーとして働いており、小豆島でも続けていたところ、活動を通じて、虐待を受けていたある子どもに出会いました。その子には、幼いころからの虐待により、心に後遺症がありました。年齢が進むにつれ、周りを困らせる行動ばかりをするように。

 

当時、島内の福祉施設は、十分な体制がなく、受け入れてもらうことが難しい状況。最終的に、島外の施設にいきました。確かに、大変な思いをした子どもの扱いは、一般人には難しいと思われるのかもしれません。しかし、どんな子どもであっても、安心できる「居場所」は必要なのではないでしょうか。

 

この子どもとの出会いをきっかけに、様々な背景を持つ子どもが、心を許し安心できる居場所の必要性を痛感しました。そして、誰もが排除されず自分らしくいられる「場」を子どもたちに提供したいと思い、ショウズの活動を始めたのです。

 

現在、ショウズでは主に、週3日の居場所提供、こども宅食(お弁当の無料の配食)、送迎サービスを行っています。“こども宅食”は、最初は週50食くらいから始めたのですが、今や週65食にものぼります。また、送迎サービスは本当に強いニーズがあります。小豆島での暮らしには自家用車が欠かせませんが、生活保護を受けていて、自家用車がない家庭も。2時間おきのバスでは生活が難しいので、買い物や役場への送迎サービスは重宝されています。

 

また、最近では「おむすびネット」という島内での連携を進める取り組みも始めました。ネットワークには、保育園の園長先生やその他のNPO法人の代表などが集まり、情報を共有し、連携のありかたを模索しているところです。なお、自治体の政策的にも、徐々に保育園や団体同士の連携を推奨する動きもあるようです。官民の組織の垣根を超えて、子どもを守るために、連携の必要性が高まっているのを感じていますね。

 

――ショウズの居場所(草壁んち、ポコアポこ)にはどのような子どもたちが集まっているのでしょうか。

 

岡 : 週3回開放している「草壁んち」と「ポコアポこ」には、0歳~80歳までの子どもから高齢者までの、幅広い人たちが来ています。中でも、10代、20代(学生)の割合が多いように思います。居場所に来てくれる子どもたちは、一見問題があるようには見えませんが、話や言動を見ていると置かれた状況が映し出されます。

 

例えば、子どもたちのおままごとで「お酒飲みに行ってくる」「早く帰ってきてね」などのやりとりがあったり、水遊びをしに行ったときに水着がなかったり。また、学生の子が恋人にDVを受けていても、本人はあまり気にしていないそぶりをする子もいます。

 

様々な状況を抱えた子どもたちが来るのですが、居場所での時間を過ごすことで少しずつですが、良い方向に変わっていく子どももいます。とある子どもは、居場所にきて本をたくさん読むようになりました。すると、始めは言葉遣いが丁寧ではなく、先生も呼び捨てだったのが、敬称をつけるようになり、さらに大人に対しては丁寧語を使うように。

 

他にも、親から虐待を受けたからか、なにかにつけ「死にたい」という子どもがいました。それまで、その子は「そんなこと言ったらいかん」と否定されていました。しかし、施設で育った方が、ショウズの居場所に来て活動を手伝ってくれた際に、その子と話す機会がありました。子どもが、いつものように「死にたい」と言ったとき、その方は「そう思うときもあるよね」と子どもの発言を肯定。その子にとっては、初めて認めてもらえた経験となったのか、以来、徐々にその子が心を開き、安定し始めたのです。

 

ショウズに来る子どもたちは、様々な課題を抱えています。しかし、大人が子どもたちに寄り添っていくことで、状況がよくなっていく場合があります。子どもたちが変わっていくのを見ると、ショウズが「子どもが自分らしくいられる場所」として子どもの成長に貢献できていると感じます。そして、こうした居場所はまだまだ島内に十分ではないので、広がっていってほしいとも思っています。

 

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「草壁んち」では子どもから大人まで、みんなで集う

 

官民の垣根を超えて広がりつつある居場所の重要性への理解

 

――子どもの支援を進める上での課題は何でしょうか。

 

岡 : 子どもの課題への支援をもっと広げていくためには、地域の理解と協力が欠かせません。しかし、課題のある家庭を支援するにはマンパワーが必要となり、受け皿のような取り組みが進みにくいのも事実。

 

また、これまでは、他の家庭が問題(ひきこもりなど)を抱えていても、積極的に介入しないという風潮も強かった。そのため、事実が明るみに出ないで課題が残ったまま、成人してしまったという場合もありました。子どもが、課題を抱えたまま大人になり、いざ社会に出るとなっても、うまくいかない場合も。フェアではないスタートとなり、また負の連鎖に陥る可能性もあります。早い段階での支援は非常に大切です。

 

ショウズのように小規模ではありますが、居場所提供の活動を続けており、徐々にではありますが地域内での居場所の重要性への理解が、官民の垣根を超えて広がりつつあると思います。以前は、自治体との話し合いでも平行線になることもありましたが、最近では、自治体からも、問い合わせを受けるようになったり、予算を検討してもらったりと、島全体の動きになりつつあります。

 

小豆島の子どもたちの受け皿になっていくためには、自治体も民間団体も、もっと力を合わせて取り組んでいく必要があると思います。他府県の地域では、組織ごとに連携を強めて、子育てしやすい町に変貌していると、見聞きするので、小豆島もそういう地域になってほしいと思います。

 

――自治体との協議など、過去と比べ理解が広がっていることに何かきっかけがあったのでしょうか。

 

岡 : エティックさんのご紹介もあって、定期的なコーチングやマインドフルネスのセッションを受け、自分の気持ちに少し向き合えた経験が、自治体を始め多くの人の心を動かすことに影響した気がします。

 

もちろん、スタッフと共に積み重ねてきた活動そのものが認められ始めているのも事実。しかし、私自身がセルフケアすることで、周りにもよい伝播ができた。実は、セッションを受けている間、「もっとこう答えたかった」とか不完全燃焼な時もありました。ただ、振り返ってみると、いかに自分へのケアをせずにいたかに気づき、もっと自分を大事にしようと思うように。

 

これまでは、子どもの課題を見ることで、自分も傷ついていた部分があり、結果として周りへ良くない影響を与えてしまっていたのかもしれません。一方、セッションを受けた後は、少しですが、マインドフルネスを取り入れて安定できるようになったような気もします。こうした、自分への余裕が周りへもプラスの影響となり、活動への理解や賛同につながっていると思います。

 

――今後、小豆島の子どもを取り囲む状況について、どんな変化を期待していますか。

 

岡 : ショウズの居場所提供を通じて、多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが徐々に地域に受け入れられつつあると感じています。しかし、もっとこうした地域の「受け皿」としての機能がもっと広がってほしいのも事実。

 

短期的にはこうした変化が、どんどん進むことを期待しています。各自治体でも設置が進みつつある「子ども・若者支援地域協議会、子ども・若者総合相談センター」のように、地域での包括的な動きにまで進展していけたら良いですね。

 

一方、長期的な願いとしては、子どもの「基金」ができたらよいなと思っています。経済的理由で進学を諦めざるを得ない子どもが多くいます。例えば、生まれたころから借金があるなど、スタートがフェアではない若者は大学進学を諦めたり、仕事もなく返済できずに家にこもるしかないなど。非常に優秀な能力や可能性があるにもかかわらず、機会を生かせずにもったいないと思うケースをよく見てきました。

 

だからこそ、費用などを心配しないで学びに専念できるよう、資金的な支援ができるようになれたら、本当に子どもにとってもよいなと思っています。基金のような大がかりな施策は、ハードルが高いかもしれませんが、挑戦したいですね。

 

究極的には、小豆島が、どんな家庭であっても子どもの成長を育む場となり、人口が増えて欲しいと思っています。他の地域でも、子どもの課題を支援する取り組みが広がっており、そこからも学ぶことは多いです。そして、私自身もセルフケアを取り入れると、周囲への良い波及効果をもたらせると感じ始めました。こうした内外の情報や変化をうまく取り入れながら、これからも小豆島の子どものために、地域の受け皿を広げていきたいと思います。

 

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ハロウィーンなど、子どもと季節の行事を楽しむ

 

エティックコメント:

ショウズさんは、休眠預金事業が開始してからの2年間で、活動の広がりや応援者の増加など、目覚ましい変化を遂げてきました。活動が始まったばかりの頃は、地域や行政の方々との理解を育むことに難しさもあった一方、最近では先方から相談が持ちかけられるようなことも増えています。子どもや地域の方々の困難に真っ直ぐに向き合い続けながら、ショウズさんの活動の輪が今後も広がっていくことを期待しています!

 

<聞き手>エティック : 川島菜穂

 

***

 

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この記事を書いたユーザー
望月愛子

望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。

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