
特定非営利活動法人 Chance For All
・特定非営利活動法人 Chance For Allは、「生まれ育った家庭や環境に関わらず、だれもがしあわせに生きていける社会の実現」をビジョンに、学童保育や駄菓子屋など子どもの居場所の運営、子どもの自由なあそび場運営、公園におけるパークリーダー事業など、さまざまな活動を行っている。
・令和6年能登半島地震をきっかけに、移動式あそび場の一つの形としてプレーカー事業を本格化。平時は全国各地で子どものあそび場づくりを行い、災害時は被災地の子ども支援を行うための全国展開プログラム「J-CST(ジェイ・キャスト)」に取り組んでいる。
・2025年より新たに能登半島地震の被災地である輪島市に活動拠点をつくり、災害時のみならず過疎化が進む地域において深刻化する子どもにまつわる潜在的な課題解決にも取り組みはじめた。
「みてね基金」は、2020年4月から「すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して」子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。
「特定非営利活動法人 Chance For All(以下、Chance For All)」は、「みてね基金」第二期ステップアップ助成(2021年4月〜2023年3月)及び、第四期イノベーション助成(2024年4月〜2027年3月)の採択団体です。第二期ステップアップ助成事業や団体の想いに関しては、以前こちらの記事で紹介しました。
今回は第四期イノベーション助成事業である、災害時緊急こども支援チームJ-CSTの取り組みを中心に、代表の中山勇魚(なかやま いさな)さんにお話を伺いました。
※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

中山勇魚(なかやま いさな)さん (提供:Chance For All)
どんな場所でもあそび場に変える「プレーカー」

(提供:Chance For All)
「プレーカーの可能性は無限大です」
あそび道具をぎっしり詰め込んで、どんな空間でも子どもの自由なあそび場に変えてしまうプレーカー。プレーカーに乗ってあそび場をつくりながら日本一周をした経験を持つ中山さんは、実に楽しそうにこう語ります。
「公園や駐車場、空き地や駅前広場など、どんな場所でもあそび場になります。あそびを引き出す道具とともにあそびを支援するプレーリーダーが行くので無限のあそびが創出できますし、友達との関係をうまく築けない子もサポートしてもらえる。常連になる子も多いですし、あそびがあること自体が子どもたちにとってそもそもハッピーなことなんだろうなと思います」
そんな無限の可能性を持つプレーカーの全国展開プログラムに取り組む中山さんに、その構想を聞きました。
「居場所」の次の段階として必要な「あそび」
以前こちらの記事でご紹介した通り、Chance For Allは2014年より「あそびこそ最高の学び」を掲げて学童保育を立ち上げ、困難な家庭環境の子も通えるように奨学制度も導入しながら、多様な子どもたちの居場所づくりを行ってきました。現在は、東京23区内に7箇所(2025年10月現在)の学童保育を運営すると共に、2021年には「みてね基金」第二期ステップアップ助成事業として、子どもの意志で足を運べる駄菓子屋「irodori」の立ち上げを行い、大学生ボランティアによる運営を続けています。
「irodoriは子どもにとって行きやすい場所になっています。幼児から中学生まで、通ってくる子どもたちを通して、家や学校が居場所になっていない子どもたちがたくさんいるという現状をヒシヒシと感じる中で、まずは『何をしてもいいし何もしなくてもいい』という安心な場所がこの世にあるのは本当に大事なことだなと実感しています」

駄菓子屋「irodori」の様子(提供:Chance For All)
取り組みの中で「居場所」の大切さを再認識したという中山さんですが、居場所があることを前提とした次の段階として子どもにとって大切なものに気づきます。それは「あそび」でした。
「子どもたちにとっての幸せな状態を思い描いたとき、僕らは『自立』と『共生』が大事だと思っています。一人ひとりがちゃんと大切にされてやりたいことに向かって生きていくということ、気の合わない人も含めて周りの人と共に生きていくということ、その両方が大事だなと。これまでやってきた『居場所』は『自立』の部分に関わっていますが、『共生』の部分に必要なのは『あそび』だと気づきました」
この気づきからChance For Allは、さまざまな素材を使って自由に遊ぶ「あそび大学」や、公園で学生ボランティアが子どもたちを見守りながら一緒に遊ぶパークリーダー事業など、「あそび」を軸にした活動を立ち上げ、取り組んできました。

地域の町工場から提供を受けた端材を使ったあそび場「あそび大学」(提供:Chance For All)
「生まれて初めて放課後に友達と遊んだ」過疎地域の子どもたちの現状に触れて
「あそび」に関する事業を展開するようになったChance For Allが、冒頭で触れたプレーカーの全国展開構想に至るまでは、2つのきっかけがあったと言います。
その1つが、日本一周の旅でした。中山さんは、「あそび大学」を共に運営している一般社団法人SSKの須藤昌俊さんと一緒に、あそび道具をぎっしり詰め込んだプレーカー「からふる号」で日本一周の旅に出ました。北海道から鹿児島まで、何十箇所も無料であそび場を開いていく中で、中山さんはあることに気づいたと言います。
「ある過疎地域で出会った小学校高学年くらいの子が『生まれて初めて放課後に友だちと遊んだ』と言ったんです。学校から帰ってネット動画を見るだけの生活を繰り返していたのですが、『友だちと遊ぶのって楽しいね』と。この子に限らず、過疎化・少子化が進んだ地域では小中学校が統廃合されてスクールバスで通学しているため、友だちと遊ぶ時間も機会もないんですね。こういった地域の子どもたちは本当に大変な状況にあると知りました」

日本一周の様子。公園、空き地、公民館、学校、保育園などさまざまな場所をあそび場にして回りました。(提供:Chance For All)
首都圏の都市部に住む私のような人間から見ると、農村や山村には豊かな人や自然との関係性があるように想像します。そのような豊かさを求めて移住する人々も多い中で、実際に目にした子どもたちの状況には中山さんも驚かされたそう。
「自然の豊かな地域は過疎化や少子化の影響もあり、むしろ子どもの環境としては全然豊かじゃないと知り、びっくりしました。車がないとどこにも行けないですし、子ども自身にはどうにもならない問題がすごく根深い。僕たちが子どもの頃に当然のように持っていた、友だちと遊んだり放課後の時間を自由に過ごしたりする権利が、今の子どもたちから奪われているなと感じました」
それまでChance For Allは主に東京23区内で活動してきましたが、これを機に、「日本全国どこに住んでいても、子どものあそびを保障したい」と考えるようになりました。
災害時、後回しにされてしまう子どもたち
もう一つのきっかけは、令和6年能登半島地震です。中山さんは知人を通して、地震から1ヶ月後の2月に災害支援のために現地に入りました。被災した子どもたちの居場所やあそび場づくりを行う中で感じたのは、「災害時は子どもたちが後回しになっている」ということ。インフラや医療を届ける団体には真っ先に国から費用が給付されている一方で、子どもの支援には「1円も出ない」状況だと知りました。
「支援活動終了後に助成金が出ることもあるようですが、そんな保障もない中で、まずはみんな自分たちのお金を使ってボランティアで駆けつけている状態でした。団体同士の連携も自治体との連携もなく、みんながバラバラに入ってバラバラに支援していて。子どもの支援に関しては残念ながら行政も力が入っておらず、子どもたちがどこにいるのかすらわからないような状況が続いていました」

能登の地震被害の様子(提供:Chance For All)
多くの人が集まっている避難所では騒ぐこともできず、公園や校庭は仮設住宅や駐車場として使われているため自由に遊べず、行き場のない子どもたちの姿を見て「なんとかならないか」と考えた中山さん。思い浮かべたのは、日本一周で大活躍したプレーカーでした。
「日本にプレーカーが500台でもあれば、どこで災害が起きてもすぐに駆けつけて子どもを支援できますよね。ネットワーク化しておけば距離の近いところにあるプレーカーが行けますし、協力し合えば各団体や個人の負担も軽くなります。平時にはそれぞれの地方で子どものいるところを回ってあそび場をつくり、非常時にはすぐに駆けつけて子どもたちの支援をする。一挙両得だと思いました」
こうして生まれたのがプレーカーの全国展開プログラム「J-CST」構想。一般社団法人移動式あそび場全国ネットワーク、認定特定非営利活動法人かものはしプロジェクト、特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえと協力し、日常でも非常事でも、都市部でも過疎地域でも、子どもたちにとって欠かせない「あそび」を保障するための仕組みづくりが始まりました。
プレーカーを日本全国へ!
J-CST構想は、2024年4月に「みてね基金」第四期イノベーション助成事業として採択され、7,000万円の助成を受けてスタート。すぐにChance For Allのスタッフが輪島市に常駐し、プレーカーで子どものいる場所を回り、あそび場づくりを行うようになりました。2024年度は能登半島全域と避難先を含む20か所以上で約140回のあそび場を開催し、延べ3,400人以上の子どもたちが参加したと言います。

能登でのあそび場づくりの様子(提供:Chance For All)
この実績と手応えを糧に、2025年3月にはパートナー団体の公募をスタート。5月には沖縄、福岡、岐阜、東京等全国各地で活動する7団体を採択し、それぞれの団体の経験値やニーズに合わせて、車購入費用の助成やプレーキットの製作サポート、あそび場づくりの研修等、サポートプログラムを展開中です。
10月現在、すでにプレーカーでのあそび場づくりをスタートしている団体もあるほか、今年9月、竜巻被害のあった静岡県において、J-CSTのネットワークを活用したあそび場運営を実施しました。さらに、来年度は大規模な「あそび・防災サミット」の開催、全国キャラバンの実施など、プレーカーをめぐる中山さんの構想はどんどん広がっています。
「プレーカーは、実は日本ではまだ十数台しかないんです。でも今年は7団体に助成したことに加え、全国を回りながらいろいろな方とつながっていく予定なので、今年中に30台くらいまでは増える見込みです。これからどんどん増やしていき、10年以内に少なくとも500台くらいにはしたい。500台あれば各都道府県に10台ずつ配備できるので、どの地域でもある程度の頻度でプレーカーによるあそび場をつくることができるようになりますし、何かあった時に近隣から駆けつけることができるようになります」
中山さんによると、ドイツでは昔遊び専門のものからキッチンカータイプまで、さまざまな種類のプレーカーが400台もあり、地域を巡っているそう。日本ではまだまだ認知されていない状況の中、普及のための鍵となるのは、企業や自治体との連携です。あそび場を無料で開き続けるためには、どうしても人件費や経費がかかりますが、企業のイベント向け出店やプレーカーにロゴを入れるような協賛で収益が得られれば、運営が継続できます。一方で、自治体からの委託事業としてプレーカーでのあそび場づくりに取り組んでいる団体もあり、そのまちでは子育て世代の人口が増加傾向にあるのだとか。中山さんはそういった事例を研究して行政や企業とコミュニケーションを取り、持続可能な仕組みづくりを目指しています。
「企業や自治体主催のイベントに呼ばれることも多いのですが、子どもが集まると大人も集まりますし、あそび場があると全体的に楽しい雰囲気になります。公園にあそび場をつくったことで子どもたちが地域を自分のものとして感じるようになり、ゴミを捨てる人も減り、まち自体が明るくなったこともありました。そういった価値を共有しながら企業や自治体と手を取り、持続可能な形でプレーカーを日本中に走らせることができたらいいですね」

能登でのあそび場づくりの様子(提供:Chance For All)
日本中で起きている問題に向き合うために
J-CST構想のスタートと並行して、Chance For Allは能登に拠点を持つ決断をしました。古民家を購入し、これから修繕しながら場を整えていくとのこと。
「これまでは被災地のいろいろな場所であそび場をつくってきましたが、能登も状況が落ち着いてきたので、これからは拠点を持って居場所やあそび場をつくっていけたらと思っています。能登は、震災によって小学校が統合されるなど、まさにいま全国の過疎化が進む地域で起こっている課題に直面しています。『都会ではない場所で、どうやって豊かに生きていくか』という問いに向き合っていきたいです」
過疎地域の子どもをめぐる環境について、あそび場のほかにも中山さんはさまざまな視点から課題感を抱いています。
「例えば能登には高校はありますが大学はなく、働く場所も少ないので、みんなまちから出ていっちゃうんですよね。身近に20代がいないので、ロールモデルや相談相手がいません。親と学校の先生だけの世界になっているのですが、これが子どもにとってはすごく良くない。『地震が起きて良かった。だっていろいろなお兄さんお姉さんが来てくれるんだもん』と言っていた子がいましたが、そういう状況をつくってしまっているのは社会の責任だと感じています。災害がなくても、日本中でいま起きている問題なんじゃないかと思います」
これらの状況を解消していくためには、学校の先生以外の子どもたちに近い存在の人や専門性を持った人の関わりが必要だと中山さんは指摘します。具体的には、拠点を持って子どもの居場所とすることに加え、プレーカーで移動式あそび場をつくること、また、長期休みには都市部の子どもたちを能登に呼んで一緒に過ごすプログラムの実施や、長期的な山村留学のような仕組みづくりも思い描いていると言います。
「都市部の子どもたちも、疲れていたり人が多すぎて公園で遊べないような状況があるので、都市部と過疎地域をお互いに行き来できるようにもできたら良いですね」

2025年9月、自動車総連より寄贈を受けてChance For Allが所有することになったフラグシップカー『あそびまる』。(提供:Chance For All)
求めず、子どもの人生を応援してあげて。
不登校や自殺者数の増加など、子どもにまつわる社会の状況は決して良いとは言えません。そんな中でも都市部から過疎地域、日常から非常時まであらゆる環境下にある子どもたちに心を寄せ向き合い続ける中山さんに、お父さん・お母さんへ向けたメッセージをいただきました。
「『求めないでください』とお伝えしたいです。今、子どもが減っているのにこんなに苦しんでいる一番の原因は『求められる』ということなのかなと思っています。最近は『あそび』が習い事化してしまって非認知能力の向上を求める親もいますが、そうなると本末転倒です。
お父さんもお母さんも、みなさんすでに子どものために真剣に考えていたり、十分頑張っている人が多いと思います。それは素晴らしいことですが、頑張りすぎることで、逆に子どもに期待しすぎたり求めすぎたりしてしまうこともあると思います。そうすると、今の子どもたちはすごく真面目なので、お父さんお母さんたちの期待に応えたいと思ってしまって、うまくいかなかったときに深く傷ついてしまうこともある。
だから子どもに求めるのではなく、幼い頃から何がしたいか、どう生きていきたいかということを子ども自身に考えさせてあげてほしい。それができていれば、何かうまくいかないことがあっても、自分で選んだ人生だから幸せだと思います。そんな子ども自身の人生を応援してあげてほしいなと思います」

Chance For Allのホームページに掲載されているメッセージは、お母さんお父さんにも向けられています。(提供:Chance For All)
取材後記
「求めないで」。2児の母である私にとって、ずしりと重い言葉を受け取りました。子どもと私の人生は違う。そうわかっているのに、つい子どもにはあれこれ口を出してしまう。そんな我が身を振り返り、思わず苦笑いしてしまいました。でも中山さんとの対話を思い返しながら記事を書き進めるうちに、そんな自分を認め、私は私の人生を生きていけばいいのだと思うようになりました。私が自分の人生を生きていく背中を見せること、それが子どもへの一番の影響力なのだと。
一方で、被災地や過疎地域の子どもをめぐる現状を目の当たりにした中山さんの、「そういう状況をつくってしまっているのは社会の責任だと感じています。災害がなくても、日本中でいま起きている問題なんじゃないかと思います」という言葉を、私たちは社会の一員として真摯に受け止めなければならないと思います。プレーカーは、そんな課題に対して楽しみながらアクションできるご機嫌な手段! 「私もやってみたい」「応援したい!」と思った方、ぜひChance For All、そして中山さんに連絡を取ってみてくださいね。そんな背中を、子どもたちもきっと見ていますよ。
団体名
助成事業名
災害時緊急こども支援チームJ-CSTの創設
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