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目の前の人が好き。だからがんばれる。〜株式会社ピア 佐藤真琴さん

2017.03.28 1,435view 

佐藤真琴さんは、文系の大学で学んだ後、リクルートに就職、そこから看護学校に入学し、在学中に創業、看護師免許取得後に理系大学院に進学、という一風かわったキャリアを歩んできた女性起業家。静岡県浜松市を拠点に、病院も社会もリーチできていなかった患者さんの課題を解決する3つの会社をつぎつぎと起ち上げてきた佐藤さん。事業のこと、そして大きなターニングポイントになったという東海若手起業塾(*)のことについて伺いました。

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(*) 東海若手起業塾は、東海地域の若手起業家を対象にした、事業支援のプログラム。愛知県に本社を構えるブラザー工業の創業100周年記念事業として、2008年にはじまり、これまで9期41名、様々な分野とステージにまたがる起業家をサポートしてきました。(この記事はブラザー工業の提供で制作しています)

100万円のカツラから:はじまり

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——佐藤さんのいまのお仕事のはじまりは、がん患者さんの脱毛をカバーするウィッグ(かつら)の提供というものですね。まずこの事業をはじめた経緯を教えていただけますか。

佐藤真琴さん(以下敬称略):抗がん剤治療をしている女性は、副作用で脱毛があります。女性にとって脱毛というのは大きな出来事ですので、病気になる前のいつものような日常を送るために、ウィッグ(かつら)や帽子を着用することが多いんです。わたしが看護学校に通っていたときに出会った女性の患者さんは、そのウィッグをとても苦労して手に入れようとしていたんです。値段が100万円くらいしたんですね。これはなんだろう、おかしいな、と思ったのがそもそものきっかけです。

ほんとうはふつうに暮らせるのに、そうできない患者さんを支えたいと思いました。そういう人たちが困らなければいいなって。

看護の教科書にも、“抗がん剤の治療で患者さんの髪が抜ける”ということは書いてある。その対応として“ウィッグ(かつら)がある”ということも書いてある。でもその情報を提供しただけでは、動けない、探せない、買えない患者さんがいるんですね。看護師として、そこで患者さんから相談を受けても、解決はできない。通院中や退院した後の生活を支えることはできなかった。で、自分で調べてみたら、中国でかつらを作っていることや、値段ももっと安くできそうなことがわかってきて、なんだかやれそうだなと。で、やってみたらできた、という成り行きですね(笑)。

——そこからはじまった事業はいまどんな展開になっていますか?

佐藤:2004年にヘアサプライ ピアを設立してネット販売をはじめました。2006年に専門の美容室をオープンし、2009年に(株)PEER(以下ピア)として法人化しました。それを2016年に分社化して、(株)PEER(以下ピア)、(株)PROD(以下プロッド)、株式会社P-NEX(以下ピーネックス)の3社をやっています。

患者さんの日常生活を支える:ピア

——まずピアの事業内容を教えてください。

佐藤:ピアは、がんなどの病気を治療中の患者さんが、安心して日常生活を続けられるよう支える、商品やサービスを提供しています。ウィッグ(かつら)、つけ毛のついた帽子、そしてその手入れのための美容室などをやっています。

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患者さん向け(BtoC)のサービスのほかに、医療機関や自治体向け(BtoB)のサービスとして、接遇セミナーなどもやっています。接遇セミナーでは、医療関係者が、患者さんの気持ちやニーズをもっと理解してもらうようなセミナーをしています。病院の世界も競争が激しくなっていて、命を助けることだけではなく、患者さんたちがより良く生きていくためにはどうしたらよいか? そのための信頼関係をどうつくるか、ということを考えなくてはいけなくなってきています。

がん治療には正解が無いですから、患者さんは不安にもなり、医療以外の解決にすがろうということも起こってくる。でも医療との間に信頼関係があれば、患者さんはもっと楽になると思うんですよね。それを医療側も意識してやりましょうよ、というのが接遇セミナーでやっていることですね。

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店内で販売されている患者さんのための帽子やヘアキャップ

—医療と患者の間にたって、お互いによい関係をつくれるようにしていらっしゃるんですね。

チャレンジの敷居を下げる:ピーネックス

——ピーネックスはどういう事業をしていますか?

佐藤:主に病院の売店の運営をやっています。私たちが目指しているのは、日本一楽しい病院の売店です。

院内の病院にとってまずいちばん大事な機能は、病院に来る人たち、居る人たちが必要なものを揃えて販売することです。毎日の食事から医療雑貨まで、絶対に必要なものがあります。それを満たしたら、次はよりよくする工夫です。

たとえば本のセレクト。古物商を取って中古本の販売をやっています。古本のレンタルは法的にできないので、2週間以内に返品で半額キャッシュバックをすることにして、貸本屋さんに近い。マンガから硬い本まで、意外な本が人気になったり、ドクターが患者さんに読んで欲しい本なんかを置きに来てくれたりもしますね。

病院という箱の中で医療保険外のものを扱えるのは売店と食堂だけなんです。患者さんに関係するもので、保険外の自費のものはここで売ればいいということで、ピアの商品も売っているし、洋服も売っています。ワゴンで院内を周って、入院患者さん向けの販売もやったり、院外のグループホームに出張売店をしにいったりもしています。通院ヘルパーさんといっしょに病院に来る患者さんにとっても、たとえば2週間に1回病院に来る人が病院の売店で定期的に買い物ができたりもする。ヘルパーさんがいっしょにいるので、一人ではできない大きな物も買える。

「2週間後に外来で病院行くので、きんつば入れておいて!」

「了解です!」

みたいな感じです(笑)。

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——これも患者さんがいかに楽しく、いつものように生活できるか、生活の質(QOL)をいかにあげるかという事業なんですね。

佐藤:はい。患者さんにとって、自分で選んでモノを買うというのは、自立にもなるし、いいレクリエーションにもなるんです。おかげさまで2017年5月には、2店舗目の公立病院の院内売店がスタートします。

やってみればいいじゃん:プロッド

——もう一つのプロッドの事業内容を教えてください。

佐藤:プロッドは、ソーシャルビジネスに特化した小ロット多品種のものづくりとコンサルティングをしています。小ロットのモノづくり、つまりニッチなニーズのあるプロダクトを作る、あるいは作りたい人を支援するのがプロッドの事業なんです。

患者さんがなにかチャレンジをするときというのがあるんですね。自分が患者のとき、生活の上で不便を感じて、「こういうモノがあったらいいなあ」、と思う人たちがいる。たとえば、帽子につけるつけ毛でこういう形のものがあればいいのに、みたいなニッチなものを思いつくとき、それは最初のニーズはたとえば5枚とか、とても小ロットなんですね。

——どうしてこれははじめたんですか?

佐藤:ものづくりという分野のチャレンジはハードルが高いんですよね。社会的な事業を每日やっていると、日々ニーズに出会うんです。それをプロダクト化していくのは難易度が高いんですが、「でも思ったらやってみればいいじゃん」という環境をつくりたいなと思ってやっている会社です。ここから出てきた商品がけっこう育ってある程度のボリュームになっていったりもしていて、ピアのほうに定期的に発注をくれたりもしていますよ。

女性の創業やマイノリティのチャレンジといったところで、既存の流れとは違うところで新しい流れができている気がします。そういうチャレンジを応援したいなと。

事業はなくなってもいい:ゴール

——話をお聞きしていると、佐藤さんたちが現場で日々やっていることを通して新たなニーズが見えてきて、それをひとつずつ事業化していく、というプロセスで事業を拡張しているんですね。

佐藤:こういう人たちが増えていって、いろんな人が自分なりのチャレンジをして、少しずつ変えていけば、弱い立場に置かれやすい患者さんを取り巻く環境はガラッと変わるかなと。患者さん向けの商品も、困った時に必要なものがパッと簡単に手に入るような、ユニクロさんのような存在になっていったらいいなと思っています。

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ウィッグをカットする美容師さん

でもほんとうに先のゴールの設定とかはないんです。日々来た球をいかに美しく打ち返すことをやっているだけ。もともと創業の意志とかもまったくなくって、外来の看護師になりたかったんです。糖尿病の患者さんで長期で通院している方とか、ふつうに暮らせるんだけどちょっと困っている人を支える専門職になりたかった。人が生きていくことを支えられる看護というのがいいなと。でも気づいたらなぜか起業していた(笑)。

ゴールはみえてない。5年後はどうなっているかわからないですね。医療保険制度が変わっていきますし、10年後はもっとわからない。あるとするなら目標は、患者さんが困らない状態で居られるようになること。そうなったら事業は無くなってもいいんです。

——ちなみにいま、ここはピアの事務所で、17時過ぎたところですが、スタッフさんは女性が多かったですね。でももう皆さん帰られています。

佐藤:お客さんも圧倒的に女性が多いですし、この仕事は女性が向いているなと感じます。女性は子育てや家事、介護なんかもあって、自分がいなくては死んでしまう人が周りにいる。だから時間が大事。彼女たちに働き続けてもらうために10-17時きっちりで仕事の時間は終わってもらうようにしています。お給料もこの地域の平均よりは少し多くだす。出せない時は自腹でも借りてでも出す。そうして安心して働いてもらうようにする。

こういうソーシャルな事業は、スタッフが楽しくなければダメと思っていて。ブラックではだめ(笑)。月2回以上残業しなくちゃいけなかったりしたら、それはやりかたが悪いから変える。

——事業全体に佐藤さんの看護の視点というものが通底しているように感じます。

佐藤:どんな人でも、できることなら他人の世話にはなりたくないと思うんです。隠れたくもないし、「すみません」もなるべく言いたくないし、「大丈夫?」とも言われたくないと思うんですよね。治療期間中をできるだけ普段と変わらない状態ですごしたいし、病気の後も、その人らしく生きていきたい、生活していかなくちゃいけないですよね。

でもいまの医療の制度内では、患者さんの生活にまでは踏み込めない。そして医療制度が今後そこに踏み込むことも考えづらい。だとしたら、その部分をマネタイズできる仕組みをつくるということでやっています。看護師が現場でやれたらいいこと、でもできていないことを、事業化してたんたんとやっています。看護師は、相談は受けられるけれど、解決はできないんです。それが悔しかった。解決というのは、モノとかコトですよね。100万円ではなく5万円で解決するモノをやろうと、そういうふうにやってきましたね。

人生のターニングポイント:東海若手起業塾

——東海若手起業塾は佐藤さんにとってどんな意味がありましたか?

佐藤:きっかけは、この塾に関わりのあったF-bizの小出宗昭さんからお誘いの電話があったことですね。二つ返事で、

「はい! わたしは何をすればいいですか」という感じで(笑)。そのへんは体育会系のノリです(笑)。その時は事業をはじめて5年めくらいで、とっても忙しい時で。でも行ってよかった。とにかく、メンタルを鍛えられましたね。川北秀人さんをはじめとした講師の方々から、厳しく(笑)。

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——(笑)

佐藤:あとは自分の視座が高くなったと思います。

東京と違って地方で事業をやっていると、プレイヤーも少ないですし、なんだかんだとけっこうやれちゃうというのがある。ただ患者さんがたくさんくる美容室をやっているというだけで、そこそこやれちゃってましたから。でも講師の川北秀人さんにある時、

「佐藤さんが今のように一生懸命やって、月に100人の患者さんを助けている。でもたとえば乳がんだったら、全国に4万人、毎年いらっしゃるんですよね。解決されずに困っている人たちが。それを佐藤さんは見捨てるんですか?」

と言われたんです。この後一生懸命同じようにがんばっても120人にしかならない。100点で100人やるよりも、80点でコンスタントにできるようになって、それを横に展開していくほうがいいなと、その時気付かされた。

ふつうに社長をやって事業をやるだけなら必要ないかもしれません。川北さんからすごい勢いで怒られたりするし(笑)。隣の人が怒られたりしているのを横で見て胃が痛くなったり…。いまはすこし優しいみたいですけどね(笑)。間違いなく人生のターニングポイントでしたね。

——最後に佐藤さんのような事業や社会的な事業をやってみたいと思っている人になにかメッセージをいただけますか。

佐藤:なせばなる、と思っていて。でも思わないとならない。だから思うことは大事。

あとは人が好き、目の前の人が好き、というのも大事。地域をどうするとか、社会や仕組みをどう変えていくか、とかって考えるのではなくて、どこかの具体的な誰かをイメージしたほうがいい。そうすると目の前にいる人に愛着が湧いてきて、頑張れる。顧客が100人いるとするなら、その100人全員にピンポーンと会いにいくみたいな、そういう泥臭さは大事かなと思います。100人分ピンポーンとしたら、次のステージが見えてくるんです。


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