大手の電力会社が次々と、春からの電気料金の値上げを発表しています。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰、原子力発電所の長引く停止などが理由に挙げられています。
生活の生命線である電気が、海外から大きな影響を受けていることを知り、エネルギー自給の大切さを身にしみた方も多いのではないでしょうか?
長野県飯田市では、保育園など公共施設の屋根を手始めに、市民の出資を活用した市民共同型の太陽光パネルが2005年から設置されていて、2009年には環境モデル都市に選ばれるなど再生可能エネルギーへの転換が進んでいます。その後、飯田市周辺の下伊那郡の町村にも広がっています。
なぜ、飯田・下伊那ではエネルギーの地産地消が進んだのでしょうか? 2004年の設立時から、飯田・下伊那の発電事業を行政と市民と連携しながら進めてきた、おひさま進歩エネルギー株式会社の蓬田裕一(よもぎた・ゆういち)取締役にお聞きしました。
おひさま進歩エネルギー株式会社の蓬田裕一 取締役
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震災をきっかけに、再生可能エネルギーの道へ
蓬田さんは、もともと大学で環境問題の勉強をしており、再生可能エネルギー(自然エネルギー)や地球温暖化防止に関心がありました。茨城県で公務員をしていましたが、「いつか自分のまちで自然エネルギーの事業を立ち上げよう」と考えていたと言います。
その「いつか」が「今」に変わったのが、福島原発の事故でした。
「原発って危ないなって思ってはいましたけど、何もアクション出来ていませんでした。大手の電力会社さんにパワーが集中していて、他の選択肢がない。原発からつくられた電気を使うしかない状況でした。でも、事故が起きてしまったときに、『地域の住民が、使う電気を選べるようにしたい。選択肢をつくりたい』って思ったんです」
想いを強くした蓬田さんが扉を叩いたのが、おひさま進歩エネルギー株式会社です。
「3.11の1年前に、おひさま進歩エネルギー株式会社が企画するセミナーに参加して勉強していたこともあり、『あそこしかない!』と思って転職したんです」
茨城県つくば市から長野県飯田市へ。移住を伴う転職でした。
市民のお金が社会を変える。全国から応援
おひさま進歩エネルギー株式会社は、長野県南部の飯田・下伊那地域を中心に、地球温暖化を防止するためのCO2削減事業をおこなっています。
地産地消の再生可能エネルギー発電所の開発、エネルギー削減のためのコンサルティング、地域の方への環境教育と、さまざまな活動に取り組んでいます。
関連会社として「飯田まちづくり電力」という地域新電力会社を立ち上げ、飯田・下伊那にて電気の小売り販売もしています。そこが供給する電力のうち、約30%が、おひさま進歩エネルギー株式会社の太陽光発電所から生まれた地域の再生可能エネルギーです。
なぜ、長野県飯田市では、再生可能エネルギーの普及が進んだのでしょうか?
はじまりは、2004年までさかのぼります。この年、環境問題に問題意識をもつ飯田市の市民が集い、「エネルギーの地産地消で循環型社会を目指す」ことを理念に掲げたNPO法人南信州おひさま進歩が誕生しました。
「当時、環境問題に関する勉強会を開いたり、寄付を集めて、保育園にソーラーパネルを設置したりしていました。そんな中で、市役所から、国の補助金を活用して本格的に事業化しないか?と声がかかったんです」(蓬田さん)
2004年に寄付型で設置した、明星保育園のおひさま発電所第1号
飯田市が、環境エネルギー政策研究所(ISEP・アイセップ)に相談し、日本初の大規模な市民出資の太陽光発電事業の仕組みがつくられます。
その仕組みの基となったのは、NPO法人北海道グリーンファンドです。2001年に、日本初の市民風車「『はまかぜ』ちゃん」が設立されましたが、必要な資金2億円のうち、1億4千万円を市民からの寄付や出資で調達しています。(※1)
再生可能エネルギーの普及を進めたい市民がお金を出し合い、発電設備をつくる。その設備から生まれた売電収益の一部が、配当金として戻ってくる。そのような仕組みで、2005年に長野県飯田市の「おひさまファンド」は立ち上げられました。何と開始から2ヶ月あまりで、2億150万円の募集額が満了になったそうです。蓬田さんは言います。
「『おひさまファンド』での長野県民からの出資は全体の15%でした。活動に共感してくれた全国の人たちが、応援の想いを込めて出資してくれたんです」
町中に広まる「おひさま発電所」
市民出資での再生可能エネルギー普及を推進するため、2004年におひさま進歩エネルギー有限会社(2007年に、おひさま進歩エネルギー株式会社に変更)が設立されました。
おひさま進歩エネルギーは、「おひさまファンド」で集められた資金をもとに「おひさま発電所」を町に創ります。
「おひさま発電所」とは、太陽光パネルのこと。公民館、保育園、小中学校などの公共施設や、地域住民の避難所になる集会施設や個人宅、工場や福祉施設の屋根が主な設置場所です。2023年2月現在、太陽光パネルは飯田市内で229ヶ所に設置されていますが、最初から簡単に賛同を得られた訳ではなかったと、蓬田さんは言います。
「やはりご心配の声は多いんです。『雨漏りしたらどうするんだ』『太陽光パネルが壊れたらどうするんだ』『将来残り続けるものに責任を取り切れない』など。最初は、なかなか理解が得られませんでした」
例えば集会所に設置する際には、自治会役員や住民の不安を解消するため、蓬田さんたちは各地域で説明会を開き、質問一つひとつに答えていったと言います。「大丈夫です。一緒にやっていきましょう」と何度も。電気を売った収益を地域活動に役立てたり、子どもたちへの環境教育も展開しながら、少しずつ理解を広げてきました。
住民の方々への説明中の様子。災害で停電した際に使える、太陽光発電からの電気を取り出すコンセント切り替え作業を実演中
中でも、一番苦労したのは、太陽光パネルの管理だったそう。
「『おひさま発電所』は、各地に分散しており、数が増えるほど、管理にかかる業務も大幅に増えます。何かトラブルが起きたら、その度に現地に行かなくてはなりません。この問題を解決するため、遠隔監視のシステムを自社で開発しました。今は、自社にいながら、すべての『おひさま発電所』のトラブルを感知できる体制になっています」
町の人と、二人三脚
「おひさま発電所」が広がった背景には、「自分たちの地域を良くしたい」という住民たちの強い想いがあると、蓬田さんは話します。
例えば、飯田・下伊那では、毎年夏になると、毎週のように地区(集落)ごとに花火があがります。地域の神社や盆行事に合わせて地域の人たちがお金を出し合い、実現している大切な花火です。中には、地元の人たちの手作りともいえる花火を楽しむために、全国各地から足を運ぶ大勢の人でにぎわうものもあります。
飯田市内の花火大会の様子
「飯田市民のみなさんは、昔から、地域の伝統行事やお祭りを協力し合って一生懸命盛り上げる熱意がありました。
『おひさま発電所』でも、自治会を中心に提案を続けていくなかで、『地域のためになるなら、みんなで協力しよう』という声が増えていきました。
『おひさま発電所』は、地域の人たちが自分の町を大切に思う気持ちと、自治体や私たちの『自分たちで使う電気を選んで温暖化解決につなげたい』という想いが合わさる形で、良い相乗効果を生んできたように感じます」(蓬田さん)
「地球温暖化のためだから」「収益につながるから」ではなく、「いかに地域のためになるか」を具体的に提案を続けてきたと、蓬田さんは力をこめて話します。蓬田さんたちが、地域の人たちの想いを大切にしていることを象徴する、こんなエピソードがあります。
「現在、川の水で水車を回して発電する、小水力発電事業も進めています。その水車をつくる場所は、秋になるとマツタケなどのキノコが毎年採れる場所でもあって。地元の人が『どうしても通行したい』と言うことで、マツタケの時期が終わるまでは林道の通行止めができないんです」
「しかも、今年は『マツタケがたくさん採れるから、もう少し通行止めの時期を後にずらしてほしい』と住民の方から要望がありました。3月中にはその場所での工事を完了させたいとは思っているのですが、4月になると、今度は山菜が豊富に採れる季節になるんです(笑)。そういった季節の楽しみ事などとのバランスをどう取るかは、地域の方と業者と相談しながら決めています」
2030年までに、町の電気の50%を、地産地消のエネルギーに変える
蓬田さんの話を聞いていると、アフリカのことわざ「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」の言葉が思い浮かびます。
おひさま進歩エネルギー株式会社は、みんなを巻き込みながら、遠くへ、遠くへと進んでいこうとしているように思えるからです。莫大な広告費を使ったり、積極的な営業活動を展開して急拡大を狙うのではなく、環境教育や啓発活動、市民の方一人ひとりとの対話や説得を通じて、裾野を広げています。
おひさま進歩エネルギー株式会社の社員のみなさん
そんな地域の活動が積み重なり、今年、こんなうれしいニュースがあったそう。
「今年度の新入社員の中に、一人、おひさま進歩エネルギーでインターンを経験した後、入社してくれた社員がいるんです。『環境の仕事で地域に貢献したい』と応募してくれました。
彼女は、『おひさま発電所』を屋根に載せた幼稚園に通っていました。そのことが、どう影響を与えたかは分からないんですが、飯田・下伊那で、地域や環境への想いをもって仕事をしたいという人材が育つのを垣間見られて、未来への希望が持てました」
蓬田さんは続けます。
「僕は、震災がきっかけでこの世界に身を投じているんですが、彼女やグレタさんのように、若い世代で、気候変動に対して危機感を持っている人って、たくさんいるんじゃないかなと思っていて。そんな若い世代の方々と一緒に、仕事できたら面白いなと思いますね」
2030年まで、あと7年。これまでもそうであったように、おひさま進歩エネルギー株式会社は、たくさんの応援を味方につけて、ゆっくりと確実に、社会を変えていくのだろうと思います。
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<参考資料>
※1「ソシオ・マネジメント 2019 vol.8 社会事業家 100人インタビュー」(発行:IIHOE 人と組織と地球のための国際研究所)
「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」について
https://www.city.iida.lg.jp/site/ecomodel/project-79.html
「なぜ、飯田市では、市民の自然エネルギーへの意識が特別高いとも思えないにもかかわらず、おひさま発電が普及したのか?」飯田自然エネルギー大学 3 期生 北見幸子
https://ohisama-energy.co.jp/wp-content/uploads/2022/12/c84b880f6330cdff39aa39c62f4c1623-1.pdf
飯田市における再生可能エネルギー開発とその役割
https://core.ac.uk/download/pdf/71793934.pdf
「持続可能な地域づくり」を目指して
https://www.env.go.jp/policy/report/h14-03/pdf/3_4.pdf
H12年度 持続可能な都市のための20%クラブ ワークショップ 「持続可能な地域づくりへのステップ」事例8 飯田市役所ISO関連の取組および地域ぐるみ環境ISO研究会
飯田市水道環境部環境保全課ISO推進係長 小林 敏昭
https://www.gef.or.jp/20club/J/meeting2000_Iida.html
経済産業省 資源エネルギー庁「FIT・FIP制度」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
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