「みてね基金」では、国内だけではなく海外の子どもたち、家族への支援を行う団体も応援しています。第一期助成先団体として採択した「特定非営利法人ACE(エース)」と、「認定NPO法人かものはしプロジェクト」は、途上国を拠点に子どもの教育格差や不当な児童労働の解消、子ども・女性の性的人身取引問題の解決のために活動する団体です。現地に根付いた活動実績で、国内外から信頼を集めています。新型コロナウイルスの影響を受けて、一層深刻な状況を強いられた現地の子ども・家族に対して確実に支援を届けられる団体として、助成の採択を決めました。
実際にどのような支援に活かされたのか、両団体の代表と現地担当者に聞きました。対談の後編では、「日本から海外へ支援を届ける意味」についても議論を深めます。
日本で生活する日常の中ではなかなか見えにくい世界の子どもたちの問題。最も弱い立場である子どもたちの人権を守り、希望を持てる未来をつくるために現地で活動を続けてきた団体があります。
今回紹介するのは、その代表的団体である「特定非営利法人ACE」と、「認定NPO法人かものはしプロジェクト」。日頃から情報交換をしながら問題意識を共有しているという両団体の対談が実現しました。まずは、活動内容について、それぞれの代表からお話を聞いてみましょう。
※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。
「ACE」代表理事の岩附由香さんのお話
「ACE」は、児童労働の撤廃と予防を目標に、1997年に立ち上げた団体です。子どもや若者が自分の意思で人生や社会を築くことができる世界を目指して、主にインドのコットン生産地、ガーナのカカオ生産地を拠点に活動してきました。
これまで児童労働から解放した子どもの数は、2カ国合わせて28村2,360人、教育支援を行なってきた子どもは1万3,500人になります。実際のアプローチとしては、現地のパートナー団体と協力しながら活動しており、村の子どもたちの3分の1程度が農業などでの危険を伴う肉体労働に従事している状態から、2〜3年かけて、全員が危険な労働から身を守り、学校に行ける状態になるように働きかけました。特に、子どもたち自身、そしてその親、家族に向けて、教育を受ける価値や児童労働の危険性を知ってもらうコミュニケーションに力を入れてきました。
世界全体で児童労働に従事している子どもの数は1億5,200万人にも上ると言われていますので、まだまだ道半ばです。SDGs(持続可能な開発目標)の目標では、2025年までの全廃が掲げられていますが、その達成は非常に厳しい状況です(グラフ1)。 それでも、地道に支援を続けることで、児童労働の問題は必ずなくしていけるという実感があります。
また、児童労働は権利の問題であると同時に“経済の問題”です。現地で生産されたコットンやカカオを使った製品を消費するという観点から、児童労働という問題について日本の皆さんに発信する活動も続けています。企業に対しても、児童労働を発生させないサプライチェーンをつくるお手伝いもしてきました。
ここ数年はSDGsやサステナビリティが急速に注目されている背景から、企業側の意識もかなり変わってきています。国際協力NGO以外の口から「児童労働」という言葉が聞かれるようになるとは、23年前の団体設立時とは隔世の感があります。
「かものはしプロジェクト」代表理事の本木恵介さんのお話
僕たちは「子どもが売られない世界をつくる」というミッションを掲げて2002年に活動を始めました。はじめはカンボジアを拠点に、2012年からはインドで活動しています。インドの地方の村に暮らす子どもたちが、ムンバイやデリーなどの大都市に売られるという人身売買の被害に遭う現状がどうしても許せず、現地のパートナーと連携しながら活動を広げてきました。
アプローチとしてこだわっているのは2点。一つは、子どもたちが持続的に守られるエコシステム(生態系)をつくること。この問題を僕たちの力だけで解決することは不可能という前提に立って、現地の企業・NGO・警察・コミュニティも巻き込んで、協力し合って問題に立ち向かえる体制をつくることを目指しています。例えば、汚職によって機能不全になりがちな警察に「あなたたちの力が必要です」と働きかけていく。また、同じ問題意識を持つステークホルダーを増やすことも、持続的な支援や問題の根絶につながると思っています。
もう一つは、当事者たちを主役にすること。人身売買の被害にあった当事者たちは、適切なリハビリテーションや職業訓練を受け、村に帰って家族にお金を少し渡せるようになるくらいから、だんだんと自信を取り戻していきます。
「かものはしプロジェクト」では、人身売買の被害に遭いながらもそれを生き抜いてきた女性たちの“生きる力”を尊重して「サバイバー」と呼んでいます。実際、彼女たちが“生きる力”を取り戻していくと、「自分たちのような被害者を出したくない」「自分たちの力で明るい社会をつくりたい」というものすごいパワーを発するんです。弱者を弱者のままにせず、眠れる力を発揮してもらう。サバイバーを対象としたリーダーシップ育成プログラムに力を入れています。
「ForからWithへ」、相手のためにではなく、相手と一緒になって支援する。これはインドで活動しながら学んだ考え方です。
2020年春、全世界を襲った新型コロナウイルスは、厳しい困難に直面する子どもたちや家族の暮らしを直撃しました。
現地に拠点を置き、当事者たちの間近で支援を続けてきた両団体は、コロナ禍によって深刻化する窮状をいち早くキャッチし、緊急支援のために動き出しました。そして、その緊急支援を確実に届ける機動力を支えたのが、「みてね基金」の助成だったのだと話します。
具体的にどんな問題が生じ、どんな活動に「みてね基金」が役立ったのか、順に聞いてみましょう。最初に話してくださったのは、「ACE」のインドでの活動を現地で担当する田柳優子さんです。
「ACE」子ども・若者支援事業チーフ/インドプロジェクトマネジャーの田柳優子さんのお話
「ACE」の海外での活動の柱は主に三つ。児童労働の防止や教育支援といった子どもたちへの直接的支援、経済的に苦しい家庭の親が収入を上げるための支援、そして、私たちの活動期間を終えた後でも村の中で子どもたちが守られる環境を維持するための、住民主体の活動を促進する支援です。
これらの支援には、支援者や住民が“集まる”ことを前提としたグループ活動も多く含まれていたのですが、コロナ感染防止の観点から、集まること自体が難しくなってしまいました。感染防止のための休校によって自宅で過ごす子どもが増えることは、新たな児童労働を増やすリスクにもなり得ます。定期的に子どもたちの状況を把握する必要性を、私たちは強く感じていました。
そこで、この1年で力を入れてきたのが、個別の家庭訪問です。保健局の職員の方々に同席する形で衛生教育の名目で家庭を訪ねたり、休校で時間ができた18歳以上の現地の若者層に協力してもらって村内でのコミュニケーションをとってもらったりと、子どもが家庭の中で孤立化しない環境づくりを急ぎました。子どもが学校に通わずに働きに出なければならなくなる理由・背景は、家庭によって異なります。事情に合った対策を考える上でも、家庭訪問の重要性を再認識できました。
家庭訪問をする中で見えてきたのは、「ロックダウンによって教育格差がさらに拡大している」という問題でした。貧富の差が激しいインドにおいて、裕福な家庭の子どもが通う私立校では、休校中でもいち早くオンライン授業が始まった一方で、貧しい地域の学校では、オンライン授業を受ける機器に触れたことさえない生徒が多数派です。コロナ禍で教育格差が広がることを少しでも食い止めるため、「ACE」では新たに「家庭学習の支援」というプロジェクトを始めました。インターネット環境がなくても学べるテキスト教材や筆記用具を持って家庭を訪問し、子どもたちの学習サポートに取り組みました。
コロナ禍で重要かつ緊急のニーズとして着目した家庭訪問と学習サポートという支援活動は、「みてね基金」の助成によって実現・継続することができました。
先日、約1年ぶりに一部の地域で学校が再開し、私たちが運営するブリッジスクールに久しぶりに子どもたちが集まる場面がありました(ブリッジスクールとは、児童労働に従事していた子どもたちが、学校に編入する前に基本的な読み書きなどを教える“橋渡し”となる学校のことです)。その時の子どもたちの弾けるような笑顔を見た瞬間、感動で胸がいっぱいになりました。
子どもたちが当たり前のように学校に通い、友達や先生と一緒に学べること。その権利を守る活動を続けていく価値を、あらためて感じています。
後編では、「かものはしプロジェクト」が「みてね基金」の助成を活用してインドで取り組んだ緊急支援活動について詳しく伺い、「日本から海外の子どもたちを支援する意味」をテーマに両団体が交わした対談を公開します。
- 団体名
- 申請事業名
ガーナ・インドで教育格差や貧困に立ち向かう親子の支援事業
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- 団体名
- 申請事業名
インド全土封鎖により困窮した人身売買サバイバーへの緊急支援
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