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アントレプレナーシップは必ず誰の中にもある──実践者が語るアントレプレナーシップ教育の未来【チャレンジ・コミュニティ20周年記念(5)】

2025.07.17 

1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。

このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。

チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました。

本記事では、当日(2024年11月9日)のトークセッション「アントレプレナーシップ教育の未来」から編集してお届けします。

 

「人口減少」「少子高齢化」「AIの発達」「グローバル化」「VUCA」──これからの未来を担う若者はこれまでとは違った時代を生きていくこととなります。このような時代では自ら未来を切り拓く「アントレプレナーシップ(※)」の重要性が高まり、公教育・行政・民間とさまざまな機関によるアントレプレナーシップ教育が広がっています。

 

このセッションでは、それぞれの現場での事例や設計思想を共有しながら、「これからの時代のアントレプレナーシップ教育のあり方」を考えました。

 

※アントレプレナーシップとは、一般的に起業家精神を指し、新しいビジネスやアイデアを創出して、それを実行するための考え方や行動力を意味します。

 

<登壇者>

秋元 祥治(あきもと しょうじ)さん 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授

1979年12月15日生まれ。早稲田大学 政治経済学部中退。 在学中の2001年、起業家人材育成と地方創生をテーマにG-netを創業。15年8ヶ月にわたる代表理事を2016年5月末日で退任し、 現在理事。また、2013年・33歳で「売上アップ」に焦点を当てた岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年10月からチーフコーディネーター。 開設11年で累計約2万7千件・4100社の相談対応を行い、時には予約は1か月待ちに。メディアでは「行列の絶えない中小企業相談所」として注目が集まっている。2021年には武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授。

 

鈴木 敦子(すずき あつこ) 神山まるごと高専 副校長(NPO法人ETIC.より出向) ※オンライン登壇

1993年起業家型のリーダー育成を通じて社会のイノベーションに貢献するNPO法人ETIC.を友人と共に創業。創業当時より、理事兼事務局長として、マネジメントサイクル全般、主に人事、組織作りなどに従事。また、ビジネススタートアップに限らず、学生起業家、NPO起業家、ローカルビジネスの起業家など多様な起業家の創業期を支援・伴走する。2021年の自主経営フラット組織への体制変更にともない、シニアコーディネーターとして社内外の挑戦が育まれる土壌づくりに取り組む。2024年神山まるごと高専に出向。趣味はダンスと推し活。

 

浜中 裕之(はまなか ひろゆき)さん NPO法人北海道エンブリッジ 代表理事

1985年北海道留萌市生まれ。北海学園大学在学中に、新規事業やテストマーケティングなど0⇒1に特化した実践型インターンシップの企画とマッチングをスタート。 在学中にNPOを設立し、以降17年地域と若者の挑戦機会をコーディネートしている。2018年に高校生・大学生向け創業支援プログラムmocteco(モクテコ)を開始。自身の興味や関心をプロダクトにして、3ヵ月で100円でも売り上げるサポートを行う。7年で74名が参加し、19社が法人格を取得して挑戦をスタート。誰もが志と誇りをもって楽しく挑戦できる北海道をつくるため活動している。

 

<企画・司会>

杉山 真之介(すぎやま しんのすけ)さん 一般社団法人OWN WAY代表理事

1993年生まれ。浜松市内の高校卒業後すぐにバックパッカーとして1年間の世界一周へ。帰国 後、浜松市の学生団体活動支援、NPOの中間支援に従事。仕事の傍ら、学生達が主体となって まちづくりを行う団体を立ち上げ。その後、NPO法人ETIC.にて大学生を中心とした若者の起業 家教育に従事。2021年に一般社団法人OWN WAYを立ち上げ、浜松市近郊を次世代が育つ街 にすることを目指して起業家教育プログラムを運営している。

 

※役職や肩書は登壇当時のものです。※記事中敬称略。

 

アントレプレナーシップという価値観をどう共有していくのか?

杉山 : それぞれの取り組みにおいてどうアントレプレナーシップという価値観を学生や関係者に共有しているのでしょうか?

 

秋元 : 武蔵野大学EMC(アントレプレナーシップ学部)では次の3つの価値観を大切にしています。

 

①先生がみな起業家

②人の夢を笑わないというカルチャーが全員に共有されている

③1年生だけ寮生活で同じ釜の飯を食う

 

そして、年に2回ほど教員がミッションやビジョンを共有する合宿を、大学設立前から行っています。教員が3つの価値観を共有していることと学生寮の存在は大きいです。学生寮には学部長も一緒に住むことで、繰り返し価値観を伝えるだけではなく、一緒に過ごす時間での対話を通じて、それが自然にインストールされていくという積み重ねをしていますね。

 

浜中 : 大学生のインターンシップや創業サポートプログラム「mocteco(モクテコ)」では、「いいじゃん、やってみたまえ!」みたいな文化を大事にしていて。できない理由や穴を指摘し始めると、もう無限にできちゃうんですよね。「ここ面白いよね」とか「ここを伸ばしていったら何か形になりそうだね」と、いいところをつまんでそれをディスカッションするっていうことをやっています。

 

鈴木 : 神山まるごと高専ではビジョンに「β(ベータ) メンタリティ」を掲げ、起業家講師の方が2週間に1回ぐらい来てくださって、学生たちに話をするアントレプレナー講座を行っています。βメンタリティとは、「全ては成長の途上にある」というスタンスです。全てはβ版・仮説・未完成である。だからこそアップデートを続け、完成形はなく成長し続ける、という意図です。

 

 

アントレプレナーシップは誰の中にも必ずある

杉山 : やりたいことが見えず言語化ができないなど、そういったケースの学生はどうやってテーマを見つけて、一歩目のアクションを生み出せるようにしているのでしょうか?

 

浜中 : エンブリッジでは0から0.1にするぐらいのところからやるので、「何かやりたいんす」という子たちも結構来ます。 そのときはもう、一緒に人生をさかのぼりながら、何を感じて生きてきたかをディスカッションして、自分の中で熱くなった瞬間を振り返り起業する種を探して、それを形にするサポートをしています。

 

アイデアはこちらからはあんまり出さないんですよね。 彼らが持ってるものの中で、「これは形になりそうだ」という要素をどうやって抽出するかを考えます。

 

秋元 : 武蔵野EMCも学部の名前だけ見ると、なんかすごいやつが来てそうじゃないですか。でも全然そうじゃなくて、入った段階から「起業したい」と考えてる学生は1/4もいません。逆にこの4年間で僕がEMCから教えてもらったことは、アントレプレナーシップは必ず誰の中にもあって、環境や状況を通じて育まれるものだということです。

 

明確に夢ややりたいことがある人はほとんどいませんが、好きなことや興味があることはみんな持ってるじゃないですか。それを調べたり、考えてみたり、やってみたりとか、それでいいんだと思うんですよね。

 

他にも、既に事業を始めた人や、やってみて結果を出した・出せなかったに関わらず、ゲストに来てもらったり対話を通じたりして、「自分もやってみたい」「面白そうだ」と感じてもらう機会を作るようにしています。

 

鈴木 : 高専にいるのは15歳から17歳の子です。入学時は何かやりたい!と思っても、思春期ですし、少し斜に構えたり、迷いながら、「やりたいことがない」と言うこともあります。

 

でも皆さんに注目してもらっている学校なので、毎日誰かが視察にきたり、取材も入ったりして、「何をやりたいですか?」と高専生たちは聞かれたりします。そういった環境で学生達は焦ってしまうかもしれないけど、彼らが自分から言いたくなるのを開花されるタイミングを待つことも大事な要素だと考えています。

 

かっこいい大人はたくさんいるので、チャレコミにはそこの繋ぎ役を期待したい

杉山 : チャレコミとして、今後、日本のアントレプレナーシップ教育にどのような価値を提供し、どのような役割を担っていくべきでしょうか?

 

秋元 : 最初は学内で何十社かを用意して、インターンシップのマッチングフェアをやってたんですが、学生たちが自分で探してきて、1年生からどんどんインターンに行くようになったので、去年でやめました。ただそうしたときに見つけにくいのが、地域でのインターンとグローバルのインターンです。

 

学部としても、もう少しグローバルやローカルに意図的にインターンを送り込むために、例えば、そういうインターンを選ぶ学生に対しては、奨学金のような制度を整えてどんどん推奨したいけれど、そもそもローカルやグローバルのインターンを見つけるためにはコーディネーターが存在しないと難しい。地域にかっこいい大人はたくさんいるので、チャレコミには想いを持った学生と、かっこいい大人のつなぎ役を期待したい。

 

質問者 : アントレ教育が、高校の探究学習や大学の総合設計型選抜の流れで高校生にも広がっている中で、そのプログラムを作るだけではなく、その後の工程として地域での実践型インターンシップをコーディネートができるのは、私たちチャレコミだけなのではないかと思っています。地域でのアントレ教育の価値は何だと思いますか?

 

浜中 : プレイヤーが1人いるだけで、その地域はすごく変わります。例えば、1000人ほどの規模の村で「起業します!」という子が出てきたとして、その子が1人いるだけで、その町の名前がいろんなところに売れていくので、地域でこそ、起業支援をやるのは可能性があると感じています。 その際に地域の中だけでやらないことは大事。学生を積極的に外に送り出して、視座を高めていく必要もあると思います。

 

 

自分たちも挑戦する姿を見せ、共に環境をつくっていく

杉山 : 最後に、今後やりたいことや会場へのメッセージはありますか?

 

秋元 : 私にとっては、やっぱりチャレコミは原点であり、今回の20周年イベントに来て、次の仕事は何しようかなと考えたときに、やはり「好きな街で仕事を作り、好きな街をより良くしていく」ことを今一度、次のチャレンジとして目指したいなと改めて感じました。

 

もう一つは、G-net時代からやりたいと思いながら実現できていなかった取り組みで、「挑戦に対する賞」を作りたいと思っています。成功失敗に関わらず、「挑戦そのものが素晴らしい」ということが表彰されて、尊ばれる社会になると素晴らしいと考えています。

 

鈴木 : チャレコミには立ち上がりのときからずっと関わってきましたが、すごく大事だと思うのは、人間はやっぱり環境の動物であるので、どの環境にいるかによって自分の当たり前が変わるということです。

 

ここは「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」だから、チャレンジしていくことが当たり前で尊いですし、応援したいというコミュニティです。会場の皆さんも、ぜひ現場でそういう環境を作っていくことを一緒にできたらと思います。

 

浜中 : 起業支援してて感じるのは、支援する側がとても楽しいということですね。いろんな学生たちのチャレンジの場に立ち会えるのは、ある意味すごくエンターテイメントだと思うので、それを楽しんでやれる人が世の中にもっと増えてほしいと感じています。今日お集まりいただいた皆さんの中にも、地域でそういった取り組みをやりたいという方がいれば、一緒にチャレンジが生まれる仕組みを作っていきましょう。

 


 

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岡本 竜太

岐阜県高山市生まれ。横浜国立大学経営学部卒。 大学時代に参加したETIC.の地域プログラムやスペイン留学を経て、観光まちづくりに関心を持つ。2013年に石川県能登半島へ移住し、民間まちづくり会社「株式会社御祓川」にて、中小企業の事業・人材支援を行う社外人事部「能登の人事部」を立ち上げる。2019年からは地元・飛騨へUターンし、電子地域通貨のマーケティング、クラウドファンディングによる事業支援、財団法人の立ち上げなど金融系プロジェクトを軸に、インバウンドや教育など多様な地域プロジェクトに携わる。サッカーとBUMP OF CHICKENが好き。

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