SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では、年齢・居住地・性別等に関係なく、あらゆる人が健康で豊かな暮らしを送ることを目的に、妊婦の死亡率の削減、エイズなどの伝染病の根絶、保健サービスの普及や人材育成等、様々なターゲットが設定されています。
NPO法人ETIC.(エティック)が運営する「Vision Hacker Awards 2021 for SDG 3」は、そんな国際保健・グローバルヘルス分野へ挑む、次世代リーダーを発掘・育成するアワードです。この特集では、ファイナリスト8名の方々にインタビューを行いました。
今回ご紹介するのは、アフリカ・マラウイで医療環境の改善を目指すNPO法人Colorbath(カラーバス)による取り組みです。太陽光でお湯を沸かすことができる、一見とてもシンプルな装置「ソーラーボイラー」の普及を通じて、医療の基本とも言える衛生環境の改善に現地の方々と一緒に挑戦しています。これまで途上国の教育・雇用の改善を目指して地域の伴走支援を続けてきたColorbathが大切にしている「地域で持続可能なモデルづくり」について、代表の吉川雄介さん、椎木睦美さんにお話を伺いました。
CEO / Social Artist 吉川 雄介
1985年生。早稲田大学国際教養学部、米国Portland State Universityにて文化人類学専攻。 新卒でベネッセに入社。学校教育コンサルティングに関わり、教員向け研修や生徒・保護者向け講演に従事。新しい働き方・学び方創りに関わり、社外の活動としてスポーツ、キャリア教育、地方創生、途上国支援など複数のNPO、NGOの立ち上げに関わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Shapers Communityメンバー。関西学院大学非常勤講師。
Chief Communication Officer 椎木 睦美
1992年生。京都外国語大学にて国際教養学/外国語・日本語教育を専攻。JICA青年海外協力隊員としてアフリカ(マラウイ)へ赴任。情操教育の推進、初等算数や基礎教育に関する教員研修の実施、日本との国際交流活動など幅広く実践。帰国後、NPO法人e-Educationにて、プロジェクトマネージャーとして途上国の教育課題の解決に向けた事業推進を担う。現在は、「途上国と日本の共成長」をテーマに、国際的なWeb交流事業や、大学と連携した途上国フィールドワークプログラムの開発、及びソーシャルビジネスを展開するアジア・アフリカの連携機関へのインターンシップマネジメントのディレクター。
持続可能な途上国支援の形を求めて
――まずはこれまでのColorbathの活動について伺えますか?
吉川 : もともと途上国支援に関心があり、2010年頃からネパールに毎年通い、ストリートチルドレンや孤児院の支援をしたり、言葉を教えたり、募金活動などをしていました。ですが活動を進めるうちに、教育機会の不平等や労働・雇用問題など、社会の根本的な課題を解決する必要性に気づいたのです。
そこから2016年にNPO法人を設立し、ネパールやマラウイと日本の小中学生がオンラインで交流する教育プログラム「DOTS 」や、ネパール農村部に雇用を生み出すプロジェクト「ネパールのつぼみコーヒー 」など、様々なプロジェクトを立ち上げてきました。
マラウイのこどもたちと椎木さん(提供:Colorbath)
――アフリカやアジアとの関わり方を徐々に変えていったのですね。
吉川 : そうですね。ネパールの現場で支援活動を進めるうちに、ある時「日本にも外国人はたくさんいる」ことに気づいた瞬間がありました。そこの問題にあまり関心を持てていなかったことを自覚し、途上国で支援をする意味ってなんだろうと考えるようになったのです。
「途上国支援」というと一見分かりやすいし、「支援」した気持ちにもなりやすいのですが、日本にだって途上国の問題はもちろん潜んでいて、世界も問題もつながってるんですよね。本当は、自分たちが一方的に「支援」した気になっているだけかもしれない。それだけだと世界は何も変わらないし負の循環が断ち切れないことに気づいてから、僕らの活動も変わりました。
ネパールだけではなくアフリカ・アジア全体、社会のあり方自体に目を向け、持続可能なソーシャルビジネスに取り組むようになりました。途上国への支援を行いたくてもうまく活動に結び付けられない人や団体にとって参考になるモデルをつくりたいという想いもあります。
太陽光で熱を生み出す「ソーラーボイラー」で、命の問題を解決する
――現在進行中のソーラーボイラー事業について伺います。そもそもソーラーボイラーとはどんな技術なのでしょうか?
椎木 : 太陽光で電力を生み出すソーラーパネルに対して、ソーラーボイラーは太陽光で熱を生み出すことができる装置です。仕組みはシンプルで、パラボラ状のアルミに太陽光を集め、熱を生じさせます。そこに鍋を置いておくとお湯を沸かすことができます。真夏に自動車のボンネットが熱くなる原理と似ていて、ある意味とてもアナログな装置です。
アルミなので原価も抑えることができますし、組み立てもメンテナンスも現地の人たちでできます。僕らが大切にしたいのは一方的に「支援」するのではなく、地域で自立的に経済や社会が回っていく仕組みづくりです。そのために「一緒にやる」という姿勢を大切にしたいのです。
マラウイの病院でソーラーボイラーでお湯を沸かしている様子(提供:Colorbath)
――ソーラーボイラーによって、マラウイのどんな課題にアプローチできると考えますか?
椎木 : マラウイで実際に暮らしてみると、教育や雇用の問題以前に、生死に関わる課題が深刻なことがわかります。エイズやマラリアなどの病気もありますが、それよりもっと日常的に、下痢や栄養失調、出産などを理由に亡くなる方々がとても多いのです。僕らに病気を治す力はありませんが、ソーラーボイラーを普及させることで、衛生環境を少しでも改善し、いのちを守る取り組みができるのではないかと考えています。
現在のマラウイの医療現場の衛生環境は非常に悪く、医療器具もただ拭くだけだったり、手術や出産後のケアも不充分です。その理由の一つには慢性的な電力不足が挙げられます。国⺠の 90%以上が薪を燃やして生活しているような状況のため、ただ当たり前にお湯が沸くだけでも衛生環境の改善に役立つ部分がたくさんあるのです。
ソーラーボイラーが普及すれば、薪をつくるために毎日大量に伐採されている木も減らすことができます。いくら世界中で二酸化炭素の削減が叫ばれ、森を守ろうと謳われても、電力のない国では木を切らなければ生活をすることができないのが現実なのです。
病院から地域コミュニティへ広げる衛生意識
――「お湯が沸く」という一見シンプルなソリューションでも、改善できることは確かにたくさんありそうですね!これからマラウイでどのようにソーラーボイラーを普及させていく計画がありますか?
吉川 : コロナウイルスの影響でなかなか思うように現地への渡航はできないのですが、これからマラウイのムジンバ県にある公立病院と実証実験を進めていく予定です。滅菌消毒、入浴、調理、飲料用など、ソーラーボイラーで病院の機能をどこまでカバーできるのか、現地の方々と一緒に試していきます。いつでもお湯が出る、いつでもあたたかいシャワーが浴びられる。そんなことが当たり前になるようなモデルづくりをしていきたいです。
ゆくゆくは、ソーラーボイラーが病気の予防意識や日々の健康意識や免疫を高めるための準医療器具のような位置付けになるといいなと考えています。マラウイの人々が日常的に利用する場所って、主に学校と病院なんです。そこが拠点となって、様々な情報やネットワークが広がっているので、病院の衛生意識が高まることで、周辺の村やコミュニティに伝播していくことも狙いの一つです。
ソーラーボイラーを組み立てている様子(提供:Colorbath)
――病院が地域コミュニティの拠点のようになっているのですね。
椎木 : 各地域にヘルスセンターという医療機関があります。県の公立病院に行く時はかなり重症な場合で、それ以外の場合はヘルスセンターに行きます。なにかあった時はまずそこにいくのが一般的ですが、お医者さんが常にいるわけでもないのです。ただ、海外のNGOがヘルスセンターや公立病院の支援をしている場合も多く、症状や地域によっては無料で診療を受けることができます。
新しい産業としてのソーラーボイラーの普及を目指す
――新型コロナウイルスの影響で思うように計画が進んでないとのことでしたが、現在マラウイのみなさんとの連携はどのように行なっていますか?
吉川 : 連絡は日々取り合っていますが、やはり渡航ができないので詳細な技術指導は難しいですが、タイミングもあるので焦らずにじっくり進めています。以前ソーラーボイラーを使ってもらったときにはとても好評でした。今もマラウイに装置はあるので、現地のみなさんに使ってもらおうと思えば使っていただけるのですが、「こんな貴重なもの、大事に使わないと!」と現地の方々が慎重になりすぎている部分もあります。そこは直接指導しに行って、徐々にハードルを下げていければと思っています。
マラウイの人々と吉川さん、椎木さん(提供:Colorbath)
――最後に、ソーラーボイラー事業を通じて実現したい社会像について伺えますか?
吉川 : ひとつは、アフリカの新しい産業としてソーラーボイラー事業が根付くことを目指しています。アルミはアフリカでも手に入りますし、加工会社もあるので、現地で生産体制をつくることができます。製造原価も低いので、病院や政府に販売するモデルをまずはマラウイで成功させ、他地域にも広げていきたいと思っています。僕らがすべて伴走するのではなく、関心のある方々が自由に取り組めるように、ライセンスやフランチャイズの仕組みも整えることができれば、より多くのいのちが救えるのではないかと考えています。
また、SDGsや環境問題への関心の高まりから、ソーラーボイラーによる二酸化炭素削減などの価値は様々な企業にも興味を持ってもらえるのではないかとも考えています。ソーラーボイラー技術を使った簡易的な調理器具「ソーラークッカー」の開発も検討中で、これは様々な国の人々がキャンプやベランダなどで日常的に楽しみながら自然環境への意識を高めるきっかけを提供できるものです。そういった意味では環境ファイナンスの分野で資金調達をしたり、太陽光利用という文脈でパートナーを増やしたり、様々なプレイヤーの皆さんと手を組んでインパクトを拡げていければと考えています。
――ありがとうございました!自分たちだけで推進するのではなく、あくまで地域で持続可能なモデル自体を普及させていきたいという想いがとても伝わってきました。ぜひまたお話を聞かせてください。
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