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大企業で新規事業を生み出すには?大切なのは「現場」と「鈍感力」

2020.12.15 

SDGsへの取り組みが企業にとっても必須となっている最近。

 

当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)も企業の皆様から「社会課題や社会起業家と出会うことで、社会をよくすると同時に、自社の事業にもなる取り組みを考えていきたい」というようなご相談をよくいただきます。ですが新しい事業を考えるというのは簡単なことではなく、その種をどうやって見つけるのか、何もない状態から誰がエネルギーをもって動かしていくのか、担当の方は悩みながら動かれているのではないでしょうか。

 

ETIC.が事務局を勤める“and Beyond カンパニー”(以下aBC)は、「意志ある挑戦が溢れる社会を創る」をミッションに、企業・次世代リーダー・社会起業家・行政・個人がつながる“バーチャルカンパニー”。パートナー企業として、ロート製薬、セイノーホールディングス、グリコなど、累計14社が参画しています。参画の目的は様々ですが、「社会課題に取り組む事業の種を探したい」という意図をもってaBCを活用している企業・個人も少なくありません。

 

そこで、パートナー企業メンバーの中でも、主に事業創出を担当する竹中工務店の岡さん、YAMAHA発動機の川島さんにご協力いただき、事業を考えていく上でのポイントや苦労してきたことなどのお話を伺う勉強会を開催することにしました。

 

この記事では、そのダイジェストをお届けします。

 

クロストーク

 

岡 晴信氏/株式会社竹中工務店

まちづくり戦略室 兼 経営企画室 新規事業推進グループ

(出向中)島根県 雲南市 政策企画部

1994年大学卒業後、ゼネコンに事務系社員として入社し、経理・総務・海外経理を担当し退職。海外遊学ののち理系大学に入り直し建築学を学ぶ。卒業後、アトリエ系設計事務所で住宅設計を担当。2005年竹中工務店に入社。入社後は、ワークプレイスプロデュース本部に所属し大手企業のグローバル本社の構築をはじめ、メーカーや商社の本社や研究所など、数多く企業のオフィスづくりのコンサルティングに従事。

2016年、経営企画室へ異動、新規事業開発を担当し、2017年にまちづくり戦略室を立ち上げる。2019年に島根県雲南市と地域連携協定を担当し、地域おこし企業人として雲南市へ在籍出向し、企業と自治体の新しい共創できる仕組みづくりに従事。

川島 雅也氏/ヤマハ発動機株式会社

先進技術本部 NV事業統括部 事業開発部 事業開発支援グループ

2004年頃よりコンサルタントとして、ヤマハ発動機のモーターサイクル開発に関わる業務プロセス改革やモデル開発のプロジェクトマネジメントに携わる。2013年にヤマハ発動機に入社。現:先進技術本部の技術企画部にて技術イノベーションを主軸とした企画業務に従事する。新価値提案とするコンセプトモデル”MOTOROiD"の企画開発を主導し、2017年東京モーターショーでワールドプレミアを行う。2019年よりNV事業統括部に異動し新規事業開発業務に従事し、新規事業の企画立案および社内公募型のビジネスコンテスト「YSAP」の運営や社外とのオープンイノベーション活動を推進し現在に至る。

多様な人とのつながりから、新しい発想が生まれる

 

――最初に、おふたりが今されていることを教えて下さい。

 

岡さん(以下:岡):私は今、竹中工務店の経営企画部門で働いています。竹中工務店は自分にとって5社目という、転職者の少ない社内では珍しい経歴です。今は総務省の制度を使って、島根県雲南市(うんなんし)に出向もしていて、雲南市と東京を行き来しています。

 

雲南市は出雲の南にある、人口が3万7,000人の過疎地域とされている街ですが、「雲南ソーシャルチャレンジバレー」というコンセプトを掲げ、チャレンジを推進するまちづくりをしているところです。私はそのチャレンジの中でも、2019年から始まった「企業チャレンジ」の事務局を担当しています。企業が「チャレンジ」として、事業の実証だけではなく、実装まで地域で行っていこう、というものです。ヤマハ発動機さんが主導しているグリーンスローモビリティの事業などが一例として挙げられます。竹中工務店は市内で「笑顔の測定」をしていて、これはスローモビリティの中でも笑顔が生まれるシーンを調査しようというものです。

 

川島さん(以下:川島):私はヤマハ発動機で新規事業開発部に所属しており、社内のビジネスコンテストの事務局などを担当しています。また、新規事業の開発支援ということで、他部門の新事業開発部に入り、一緒に企画を考えることなどもしています。

 

また自社内だけではできないこともあるので、オープンイノベーションとして、社外と社内をつなげる活動も行っています。and Beyond カンパニーさんとの連携もその一環でやっていて、社内外の多様な人とつながっていくことが、自社の新規事業の開発の助けとなると考えています。

 

――さんは今「地域おこし企業人」という総務省の仕組みを使って雲南市に出向されている立場でもあるわけですが、ここに至るまでの経緯ももう少し教えていただけますか。

 

岡:私の会社はゼネコンですが、「今までの事業だけやっていてもだめだ」と、より広く「まちづくり」を事業領域として取り組もうとしてきました。ただ、これまでお付き合いしてきた自治体のみなさんに相談をしても、建物の建設の話に終始してしまうなど、ゼネコンとしてしか見てもらえないという難しさを感じていました。そんな時にETIC.さんと出会い、ETIC.さんが事務局をしているローカルベンチャーのネットワークでいくつかの自治体に訪れ、雲南市ともそこで出会いました。事業領域の相性が良かったこともありましたが、何か「妄想案」を投げ込むと、雲南市の担当者からも更に妄想案が返ってきてキャッチボールが始まるという状況で、社内でも雲南市に誰か行った方がいいねということになり、ETIC.さんに教えていただいた「地域おこし企業人(注1)」の制度を使って自分が行くことになりました。

注1:地方の自治体が民間企業などに勤める社員を、半年以上3年以内の期間、継続して受け入れる総務省のプログラム。企業にとっては、普段の活動領域とは異なるところで新しい事業を考えることができる、行政とパートナーシップを組むきっかけになる、などのメリットがある。

 

雲南市の「企業チャレンジ」というプロジェクトは、雲南市と協力する各企業パートナーが共同で進めています。自分はいま、雲南市に出向し、企業チャレンジの事務局の一員として働いています。企業がパートナーとして行政に関わるというのはよくある形だと思いますが、行政の中の事務局チームにまで入るような関わり方は珍しいですよね。そこまですると行政のロジックというものがよくわかるんですよ。例えば、利益よりも、3万7,000人の市民全体を幸せにすることが大事とか。企業だったらそのうち富裕層300人をターゲットにして利益が出ればいいわけですが、行政は違います。今まではゼネコンとしての行政との関わりしかなかったですが、今は全く違う関わり方ができていて、勉強になっているし、面白いです。

 

また、行政の中に入って働くことで、市民のため、社会のためといった自分自身の想いも更に強くなりました。そのマインドは、会社員として事業を考える上でも、事業のサスティナビリティ・存続性といったものに繋がっていくと感じています。

SDGsを会議室で考えてもいい案は出ない

 

――SDGsや社会課題に対してどうアプローチしていくのか、悩んでいる企業の方も多いと思います。お二人は今まで動かれてきた中で、何が大事だと考えられていますか?

 

岡:私も色々悩んだのですけれど、まずは会議室の中だけで考えずに、外に出てみることだと思います。特に思ったのは、SDGsを会議室で考えても何もいい案は出ないということです。少子化、高齢化を自分ごとにするためには、地域に飛び込む、NPOに飛び込むことをしないとわからない。感じることから入ることが、その問題を真摯に考えるきっかけとなると思います。

 

雲南にも内閣府や文科省の人たちが時々やって来るのですが、何をしに来ているかというと、いいアイディアを求めているとのこと。やはり霞が関の会議室で考えるよりも、地域に、現場に行くことで得られるアイディアってすごくたくさんあるんです。最先端は実は地域にあるのだと思います。

 

また、雲南市ではよく、テーブルを様々な所属の人が囲んで、その地域の問題について一緒に話すということをしています。市民、議員、市役所、関わっている企業の社員など、多様な方で議論をするのですが、あるテーブルでは意外にも制服の警察官が一番多く意見を出すなど、様々な盛り上がりを見せました。会議をする場合も、オープンな場でテーブルを囲んだ方が絶対にいい案が出るというのは、雲南市に行って痛感したことです。

 

会議の様子

雲南市での会議の様子

 

川島:SDGsなどについて考えている時、みなさん、このような課題があるんじゃないかと頭の中で考えて企画を出していらっしゃると思うのですが、実際にやってみたり、現場に行ってみると、そのような課題は全くないなんてこともあるかもしれないんですよね(笑)。紙に書く前に、現場に聞きに行く、その地域に行って調査をするなど、フットワークを軽くすることが大事だと思います。現場に行かずに何か問題に対する解決案をたてても、もしかしたら現場では全く的外れな意見かもしれないのです。

 

加えて、実際に地域に行って様々な人とつながると、自分たちの本気度が伝わると思います。実際に困っている人と会って、話して、そこでの問題を解決しようとする。そこでつながりを続けていくと、「この人は本気で自分たちのことを考えているんだな」と人として信頼してもらえる。すると地域の人たちも、本当の思いや他の困りごとを話してくれたりするんですよね。結果、そういう会話から新規事業にもつながっていくのではないかと感じています。

 

また、雲南市のグリーンスローモビリティのプロジェクトに携わる中で感じたことは、地域の活動や企業チャレンジを通して生まれる、地域の人の間のつながりの大切さです。乗客の方の中に、運転手の人と話したいからという理由で、毎日グリーンモビリティを使っているという方がいまして。もしかしたらその方は、このようなつながりがなかったら、家に引きこもっていたかもしれない。人と話すために外に出てきて、コミュニティに入ってきてくれていたんです。そのような地域とのつながりや、人と人のつながりということが、その地域社会の活性化につながるのではないか思いました。自分たちの活動を通して実際にそのようなことが生まれていることは、とても嬉しかったです。

 

個人の情熱と鈍感力が新しい事業を生み出す

 

――社員にもっと勢いがほしい、社内から新しい声があがってこないという悩みもよく耳にします。個人の想い・情熱はand Beyond カンパニーでも大切にしていますね。

 

川島:社内のビジコンで感じたことは、新規事業を一人で考えることはとても難しい、ということです。途中で心が折れてしまったり、アイディアをほかの人に相談してもなかなか理解してもらえなかったり、けちょんけちょんにダメ出しされてしまうこともあります。

 

初めてaBCのBeyondミーティング(注2)に参加したとき、ピッチのみのイベントというものは様々開催されているし参加したこともあったのですが、後に行うブレストがとても新鮮で、ピッチ者とその場で直後に話し合えるということがとても良いと感じました。応援という文化を大切にしているのでネガティブな発言がなく、参加者からもアイディアや意見がたくさん出ていて、これは自社でもやってみたいと取り入れることにしました。

注2:aBCの主たる取組として月に1度行っているイベント。毎回5名程度の「アジェンダオーナー(登壇者)」が社会課題解決や、新しい価値創造に関するアイディア事業のピッチを実施。参加者は組織・肩書・世代・ジャンルを越え、上下なく誰もが平等にブレストに参加し、アジェンダオーナーを全力で「応援」。立場の垣根を超えた化学反応を楽しみながら「意志ある挑戦」を応援し合う場。

 

社内のビジコン応募者から5名程度の社員に登壇してもらって、参加者も社員で実施しました。社内でも、全く関係のない部門で話したことのない人って割と多くいるじゃないですか。Beyond ミーティングを開催すると、新規事業に興味のある、企画から製造まで多様な部門の人が男女問わず多く来てくれました。Beyond ミーティング の後も、参加者同士でのコミュニティが出来ていて、ブレストした人と話し合う機会が生まれているんです。大切なのは個人が関心でつながっていくことだと思っていたので、とても良かったと思います。

 

今月からaBCの中で合同ハッカソンという新しい取り組みも始めます。複数のパートナー企業が社を超えてチームを組んで新規事業を生み出そうという取り組みなのですが、普段だと知り合えない様々な企業の人がいて、それぞれの発想や知見を合わせたらとても面白くなりそうだと感じています。新しいアイディアは多様な人が集まると生まれてくるといいますし、aBCという場はそのような意図で使っていますね。

 

また、業務の中の新規事業だと失敗できず、気を楽にして考えにくいところはやっぱりあります。特に若い子には、その枠組みから外れて全く違う文化・考え方の人と交わることで、今までの自分が気付かなかった、新しいことをやってみてほしいと思います。多くの失敗をして、その失敗から多くのことを学んでほしいです。

 

岡:もう一つ自分が大切だと思うことは、熱意ある人を巻き込むことだと思います。新規事業は結局、人なんですよね。どれだけ熱い思いを持った人を連れてきて、焚きつけられるかがその事業の出来にかかってくると思います。例えば、会社の中で、やりたいことがありそうな、感性がありそうな人をaBCのBeyond ミーティングに参加させてみると、面白い化学反応が起こります。意欲が出てきたら新規事業に引っ張ってきて、短期的に利益を上げることを求めず、その人の想いに沿って長期スパンでやらせてみる。すると、とても面白いものが生まれたりするんです。

 

ですが会社組織の通常の意思決定プロセスでそのような動きを通そうとするのは、なかなか難しいと思います。日々の業務や通常の売り上げも考えなければいけない立場にいる人達は、なかなか新しいアイディアに対して首を縦に振れないところがあります。一方で経営層の人たちは、若いイノベーション人材を期待しているので、場合によっては経営層と直接繋げる場を作ってあげるなどのサポートをすることも大事だと思います。

 

あとは、基本的に周りの人が理解できないことをやることがいいんだと思います。多くの人が良いというものは、新しいものとして始める段階としてはもう遅いという感じがします。自分が妄想してて面白いなって気づいたものが、ほかの会社がプレスリリースをしていたりする時もありました。だからといって、しばしば新しいものに飛びついていたら上司から怒られることもありますが(笑)、最近はやらないで怒られないより、やって怒られる方がいいとも思うようになりました。

 

川島:自分もそう思います。新規事業開発って、鈍感力が大事だと思うんです。やりたかったら周りが怒ってくることは気にしないでやってしまって良い。下手に最初からやることを言ってしまうと、賛同が得られずその案自体なくなってしまうこともありますが、形になってから会議に持ってくると、意外と賛同してくれる人がいるんです。

 

新しい事業テーマを見つけるために社内にどのような仕組みがあればいいかと訊かれることもありますが、仕組みで考えるというよりは、個人の思い、熱量に掛かっているところも大いにあります。うちのビジネスコンテストでは、書類の項目はできる限り少なくシンプルにし、なぜその人がそれをやりたいのか、どれくらい真剣に考えているかなど、熱量を判断するようにしています。それがないと、心が折れてしまったりして結局続かないんですよね。

 

また、新しい事業テーマは、会議の時に考えようとしても、多分なかなか考えつかないと思います。仕事以外の時にどれくらい社会課題について考えられるかどうかにとても関わってくるのではないでしょうか。生活の中で買い物したり通勤したりする中でも、実は社会課題はたくさん存在していて、私たちがそれに気づいていないだけなんですよね。自分の周りを注意深く見てみたり、自分が日ごろ当たり前にやっていることなどを疑って考え続けることが大事だと思います。

 

――岡さん、川島さん、ありがとうございました!

 

 

岡さん、川島さんが参加する、企業・次世代リーダー・社会起業家・行政・個人がつながるバーチャルカンパニー「and Beyond カンパニー」の詳細はこちら

>> and Beyond カンパニー

 

 

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SDG官民連携
この記事を書いたユーザー
今井 杏奈

今井 杏奈

1999年愛知県生まれ。同志社大学法学部在学中。カリフォルニア大学アーバイン校に留学し、ヘイトクライムやジェンダー平等など、アメリカの社会問題とそれに関する法について学ぶ。社会問題に対して、企業やNPO、NGOの活動について知見を得るためにNPO法人ETIC.に参画。社会課題解決中MAPの記事作成などに携わる。

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