TOP > ワークスタイル > マーケティングの専門性を武器に、企業とNPOの境界をまたぐ

#ワークスタイル

マーケティングの専門性を武器に、企業とNPOの境界をまたぐ

2015.11.05 642view 

フリーランスとしてマーケティングのお仕事をされている、山内悠太さんにお話をうかがいました。

山内さんは、大手電機メーカー・広告代理店を経て、2011年8月、認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)に参画。広報・ファンドレイジング部の責任者として、Webサイトの運営や広告展開、マスコミ向け広報、寄付や助成金による資金調達などを担い、就任当初は約2千万円だった寄付収入が約8倍に成長するのを牽引されました。2014年9月に独立し、「ダイレクトマーケティング」を通じて企業やNPOを支援されています。

山内悠太さん

山内悠太さん

セクターにとらわれずダイレクトマーケティングを軸に支援

小川: 山内さんはカタリバで3年勤務された後に独立され、現在は個人として、企業やNPOのマーケティング支援をされているということですが、具体的な仕事内容について教えていただけますでしょうか? まずは企業向けからお願いします。

山内: 通信販売、ネットサービス、広告代理店など、いくつかの企業のお手伝いをしています。たとえば新規顧客獲得のためのランディングページの制作、既存顧客への発送物の企画、それらのコンサルティングなどなどです。

なかなか特定の業界や専門分野に特化できていないのが悩みどころですが、「ダイレクトマーケティング」を軸にお仕事をしています。

インタビュー1

小川: NPO向けはいかがでしょうか。

山内: カタリバは、退職後もお手伝いしています。新規寄付者獲得のためのWeb マーケティングや既存寄付者フォローのためのCRM戦略など、専門的な側面が中心です。 また、ファンドレイジング計画の策定や広報戦略の立案などにも、アドバイスをしています。

カタリバ以外では、ファンドレイジングをこれから本格的に行おうとしているNPOなどに、コンサルティングをしています。

新卒入社した企業で痛感した「個として強くなる」必要性

小川: カタリバさんとは、正職員としてではなく、外部からのサポートという形で現在も関わっていらっしゃるのですね。企業からNPOまで幅広く支援をされているわけですが、その専門性やスキルはどこで培われたものなのでしょうか。

山内: 自分で言うのも照れますが、大学を卒業して10年間で、大企業やベンチャー、NPOとまったく異なる組織で働いた経験が、役立っているのかもしれません。

新卒で入った三洋電機という会社では、広報・CSR部門に配属され、仕事の基礎をたたき込んでもらいました。私が入社したのは、ちょうど経営危機に陥った時期でした。「せっかく良い商品を出しているのに、売れない」「会社は儲からない……」という現状を目の当たりにして「もっと個として強くならなければ」と痛切に感じました。

その後ベンチャー企業の広告代理店に転職して、化粧品や健康食品など通信販売企業の広告制作やCRM設計に携わらせてもらいました。そのとき、「ダイレクトマーケティング」という分野で素晴らしい知見を持った方々と、一緒にお仕事する機会に恵まれました。そこで得たスキルを「NPOの資金調達に活かしたい」と考えるようになりました。

カタリバのマンスリー・サポーターは170名から1100名までに

小川: カタリバでの経験も他のNPOを支援する際に役立っているわけですね。

山内: はい。カタリバの広報・ファンドレイジングの責任者に就任した当初、寄付収入は年間約2千万円だったのですが、被災地支援事業のスタートなど環境変化もあって、寄付収入を約8倍に増やすことができました。約170名だったマンスリー・サポーターを約1100名まで増やした経験(注:現在は約1600名)にも関心をもっていただき、他のNPOさんからも「アドバイスしてほしい」というご相談をよくいただきます。

またマーケティング以外でも、当初は1名(自身のみ)だった広報・ファンドレイジング部門の人員を3年後に8名のチームまで採用・育成したり、認定NPO法人格の申請実務やデータベース・決済システム等の基盤整備など、泥臭い地道な仕事も内部でやりました。NPOの実情をある程度分かったうえで、お手伝いできている要因かもしれません。

カタリバ勤務時

カタリバ勤務時の山内さん

ライフステージの変化に合わせた働き方を

小川: そもそも独立しようと思った経緯を教えていただけますか?

山内: 企業に勤めている頃から「組織にしばられずに、個として専門性を高めて仕事をしたい!」という願いを持っていました。 カタリバでは、前任者の病気に伴う突然の休職もあり、急なタイミングで責任者に就きましたが、「ファンドレイジングが軌道に乗った段階で、独立させてください」と経営陣にはあらかじめ相談していました。本当は1年半で軌道に乗せる予定だったのですが、結局3年間かかってしまいました(苦笑)。

小川: ずいぶん以前から、「組織にしばられずに、個として専門性を高めて仕事をしたい」と考えていらっしゃったということですね。

山内: はい。また、結婚して子どもが生まれるなどライフステージが変化するなかで、「120%の力で全力疾走する」というような働き方は、いつまでも続けられないということも薄々感じていて、時間や場所などの融通が効きやすい、個人事業主としての働き方を選んだという背景もあります。

小川: わたしも似た考えなので良く理解できます。

カタリバ勤務時(送別会)

カタリバでの送別会

時間や場所にとらわれないけれど、チームとしてインパクトを出す働き方

小川: 山内さんの理想的な働き方というのは、どのようなイメージなのでしょうか?

山内: 2つあります。1つ目は時間や場所にとらわれないということです。 たとえば、企画を練ったり文章を書いたりする仕事は、私の場合、オフィスよりカフェや自宅の方が良いアウトプットが出せるようです。そのため、今は週に2・3日は東京にあるクライアントを訪問して打合せをして、残りは湘南にある自宅で仕事をさせてもらっています。

娘が産まれたばかりなのですが、平日もお風呂に入れたりおむつを替えたりと、おかげさまで家庭とも両立できています。

小川: 素晴らしい。

山内: 2つ目は各個人の強みがかみ合って、チームとしてインパクトが出せているということです。

雇用契約といった観点では、組織を離れても完全に切り取られた仕事をアウトソーシングされるといった形では、なんだか面白くないなと。スキルや関わり方など多様な個人が集まって、お互いに触発しあいながら、チームとして大きな成果を出していきたいといければよいなと考えています。

小川: なるほど、理想的ですね。

専門性×経験=「コモディティにならない付加価値」

小川: 山内さんがフリーランスとして働くうえで意識されていることはありますか?

山内: 抽象的ですが、「コモディティにならないこと」を意識しています。 「毎月に決まった給料が振り込まれるわけではない」というなかで、生き残っていくのは大変です。ダイレクトマーケティングでは、僕よりスキルが優れた人はたくさんいるし、付加価値の低い仕事だと、いずれ途上国やロボットなどとの果てしない価格競争にさらされてしまいます。

それでも、たとえば「ダイレクトマーケティング」と「NPO」を掛け合わせたら、その分野では、他の人では取り替えの効かない価値を出せるかもしれない。自身の専門性や経験を掛け合わせ、「指名」してもらえる仕事をするように意識しています。

小川: 専門性や経験を掛け合わせることで、付加価値を生むんですね。

社会貢献と企業利益が両立する仕組みを生み出す

小川: 山内さんが今後取り組んでみたいことをお聞きしたいです。

山内: 2つあります。1つ目は、「社会貢献」と「企業利益」が両立するような、新しい仕掛けを生み出せないかなと考えています。3年間ファンドレイジングという世界に浸ってみて感じたのは、「寄付」はまだまだ特殊な、一部の限られた人々による行為ということです。クリック募金やコーズマーケティングなど、社会貢献のハードルを下げるいくつかの取り組みが出ていますが、まだ決まった正解は出ていないのかもしれません。

ちょうど今、ある企業さんのCSRのお手伝いをするなかで、次のような仕組みにチャレンジさせてもらっています。

  • 通信販売企業の定期コースを選択している顧客の売上の一部をNPOに寄付する。
  • 定期顧客に毎月商品が届く際、支援先の子どもたちから感謝の手紙が同梱されている。
  • 定期顧客がそのNPOに共感して、リピート率が上がり売上も増える。

社会貢献がビジネス上の採算にも乗ること可視化できれば、ビジネスから非営利へのお金の流れが加速していくのでは、と感じています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

小川: とても興味深いし、素晴らしい取り組みですね。

山内: 2つ目は、将来的にはまたどこかの組織にコミットして、支援側ではなく「中の人」として、商品のマーケティングに取り組みたいと思っています。「組織にとらわれず働きたい」と独立したはずなのに、一方で「サポートやアドバイスばかりではなく、また責任を背負って事業を推進していきたい」という物足りなさもどこかで感じていました。

今のように、仕事を任せてもらった会社やNPOの役に立てることは、とてもやり甲斐がありますし、もちろん今すぐにではありません。特に子どもが小さいうちは家族との時間を大事したいという理由もあり、個人として働いていきたいです。

数年後には、働き方についての考え方や制度も、変わっていると思います。フルタイムの正社員ではなくても、組織で責任のある立場に就くというのが普通になっているかもしれません。また、ビジネスか非営利かも、こだわっていません。かつてカタリバやその前の仕事で遭遇したように、「これを広めたい!」と思える商品やサービスといつか出会うのを楽しみに、今は必要としてもらえる人や組織のために、その時々で全力を尽くしていきたいです。

異なるセクターをまたいで柔軟に働くことの価値

小川: では、最後にDRIVEの読者の方にメッセージをお願いします。

山内: DRIVEを読んでいる方には、「社会的に意義のある仕事にチャレンジしたい」「NPOに転職したいけど、収入面が不安だ」と感じている方がいらっしゃると思いますが、「社会貢献か、ビジネスか」や「今の組織に留まるか、勇気を持って飛び出すか」を、1か0か、白か黒かで考えなくてもよいのかもしれません。

私自身も、4年前に転職した当時は、カタリバも10人前後の小さな組織だったので、雇用や収入の安定性の面で不安がありました。そこで、当時在籍していた広告代理店と話し合って、それまで担当していた仕事の一部を業務委託で続けさせてもらったのです。週4日はカタリバで働いて、残り1日は企業の仕事をする、という割合でした。

独立してからも、カタリバと完全に離れるのではなく、今も「中の人」と「外部の人」の中間のような位置づけで、仕事を続けさせてもらっています。ビジネスの世界で知った最新のマーケティング手法をNPOに応用したり、逆にNPOとビジネスをつないだりなど、2つの異なる世界をまたぐことによって、相乗効果も生まれていると感じています。

周りにも、普段は企業で働きながらプロボノとして貢献する方、有志でCSRプロジェクトを立ち上げた方、NPOに所属しながら行政や企業で影響力のある発信をする方など、セクターをまたいで、また柔軟な働き方で活躍する素敵な方がたくさんいらっしゃいます。

もちろん、カタリバでの兼業は2つの組織の多大なる理解があったからこそ実現しましたし、一般化はできないと思います。またプロボノなど外部からの支援も、NPOの専従職員の献身的なコミットがあってからこそ成り立つ、というケースも多いのが実情です。

ただそれでも、多様なスキルや経験をもつ人材が、もっとたくさん非営利のフィールドに飛び込めば、大きなインパクトが生まれると考えています。

小川: 非常に共感できるメッセージです。山内さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連記事

この記事を書いたユーザー

小川 宏

小川 宏

小川宏事務所 代表。1963年山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東芝入社。オフィス機器の法人営業部長時代にカンパニー社長表彰。2008年1月より法人営業のスキルを活かし、ルーム・トゥ・リード東京チャプターのファンドレイザーとして活動を開始。2011年8月より共同リーダー。2014年5月よりフリーランスのファンドレイザーとして、NPO向けにファンドレイジングに関する支援を行っている。立教大学社会デザイン研究所 研究員。 ブログ:http://probono-ogawa.com/

Events!DRIVEオススメのイベント情報

セミナー・講演会その他

東京都/Yahoo! JAPAN コワーキングスペース「LODGE」

2017/01/29(日)

セミナー・講演会

東京都/文京区民センター3階 3-A会議室

2016/12/11(日)

グルメセミナー・講演会

東京都/池袋 Bathroom (東京都豊島区池袋2-64-11 平和ビル3F)

2016/12/02(金)

HOT POSTS!
アクセスが多い人気記事をピックアップ!